2026年6月7日(日)、北海道札幌市の「チ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)北3条交差点広場(西)」にて、インディーゲームの展示・試遊イベント「SAPPORO GAME ODYSSEY(サッポロ・ゲーム・オデッセイ)」を、筆者が主催しました。
本記事では、イベントに出展した30組のなかから3作品を紹介しつつ、各開発者さんへインタビューした内容をお届けします。
2026年6月7日(日)、北海道札幌市の「チ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)北3条交差点広場(西)」にて、インディーゲームの展示・試遊イベント「SAPPORO GAME ODYSSEY(サッポロ・ゲーム・オデッセイ)」を、筆者が主催しました。
本記事では、イベントに出展した30組のなかから3作品を紹介しつつ、各開発者さんへインタビューした内容をお届けします。
TEXT / べる
EDIT / 藤縄 優佑
まろぴよ氏が手がける『ヨミトリ』は、5×5の盤上でどんぐりを奪い合う、ターン制の対戦ゲームです。本イベント展示の際のキャッチコピーは、「可愛い顔して、本気の心理戦」。
Android/iOS版、基本機能を体感できるWeb版が提供されており、いずれも無料でプレイできます(アプリ版はアプリ内購入あり)。
『ヨミトリ PV』
ターンごとにできることはシンプルで、上下左右方向いずれかの移動、およびターンごとにたまるコストを消費してのスキル使用です。 スキルは相手の移動方向を反転させる「あべこべ」、相手と位置を入れ替える「いれかえ」の2種と覚えやすく、ルールはすぐに理解できました。
プレイヤーは先手・後手のような交互に行動するのではなく、ターンごとに設定した行動を相手と同時に実行しながら進みます。
相手の動きを見てから行動を決めるといったことができないので、先を見越したスキルの発動や、相手の裏をかくアクションが必要になる、心理戦に重きを置いたシステムが魅力の作品です。
企画・開発・デザインはすべてまろぴよ氏が担当しています。ただ、本作では、これまでの作品と違って、サウンドだけは外部に依頼しました。
SNSで知り合ったフォロワーが、過去作『スライドリ』を遊んだうえで「音楽で手伝えることがあれば」とリプライが届いたのが、依頼のきっかけでした。
『スライドリPV』
リリースまでの開発期間は約4か月。最初の2か月でコア部分を作り、以降はデザイン制作と並行して、リリース直前までひたすらバグ修正とゲーム体験の改善を繰り返しました。
サウンド担当者には、音声ファイルをドラッグ&ドロップするだけでゲームに反映される開発版を共有し、作りたい雰囲気とイメージだけ伝えて1か月ほどまかせる形を採りました。
本作を含め、まろぴよ氏はスマートフォン向けにゲームをリリースし続けています。その一番の理由は、「誰でも遊びやすい環境であること」。
PCやコンシューマー向けにリリースすると作品に興味を持ってくれても環境がなくて遊べないことがありますが、所持率の高いスマートフォンなら手に取ってもらいやすい、という意図があるとしています。
一方で難しいのは、iOSでは動くのにAndroidでは動かないといった、OS差異に起因するバグです。OSだけでなく、機種ごとに画面サイズやアスペクト比も異なるため、どの端末でも崩れないレイアウト配置に苦労したと振り返ります。
1人用ゲームをリリースしてきたまろぴよ氏。『ヨミトリ』も、最初は対戦ゲームを作ろうと考えていたわけではありませんでした。
しかしあるとき、「じゃんけんのような同時公開の駆け引きを盤上でやったら面白いのでは」というアイデアが思い浮かび、必然的に対戦ゲームの形になったと言います。また、作ったゲームを見せるとき、その場で一緒に対戦できたほうが楽しそうという思いもありました。
徹底したのは、3戦ほど遊べば理解できるシンプルなルールと、直感的な操作です。
初心者も上級者も楽しめるよう、とくに意識したのが「理不尽な負けをなくす」こと。「逆方向に動いていれば」「スキルを使っていれば」「1手前でこうしていれば」と、負けた原因が自分ですぐわかるゲームにしたかったからこその設計です。
対戦ゲームでは必ず勝敗がつく以上、負けるのは悔しいもの。それでも原因が腑に落ちれば、負けたときのストレスはだいぶ軽減できるはず。実際にそうなっているかは分からないとしつつも、ここはこだわったと話します。
もう一つ意識したのは、初心者が上級者に勝てる余地があることでした。腕前が勝敗に直結する対戦ゲームでは初心者は基本的に負け続け、モチベーションは持続しづらいものです。
『ヨミトリ』で勝敗を分けるのはゲームの上手さではなく「相手がどう動くか」の読みであり、考え得る選択肢も膨大とは言いづらく、読みさえ当たれば初心者でも勝てます。
誘われた側が手加減されていると感じずに済み、誘った側も本気で対戦できる。それが気軽に友だちを誘える環境につながるのではないか、とまろぴよ氏は述べました。
技術面については、Unityやアンリアルエンジンといったゲームエンジンを使っておらず、Web技術で完結。
そうしているのは、本作は物理演算などを用いないシンプルな見た目の2D対戦ゲームで、エンジン利用には過剰と判断したため。
また、開発前からWeb版のリリースを見据えていたことも理由です。Web上での展開が前提にある以上、ゲームエンジンを介してWebGL向けに書き出すよりも、Webネイティブな技術を最初から選ぶほうが自然、と同氏は話します。
開発の構成は、盤面の描画とアニメーションには2D描画ライブラリの「PixiJS」、メニューやHUDにはReactを採用しました。また、ストア配信にWebアプリをネイティブアプリ化するフレームワーク「Capacitor」も使用しています。
言語はTypeScriptで、Web版とアプリ版はほぼ同じコードで動いています。バックエンドには、認証・データベース・リアルタイム通信などをまとめて提供する「Supabase」を採用し、オンライン対戦までまかなっています。
開発において「あってよかった」機能を伺うと、オンライン対戦の入力同期が実現できたSupabaseの「Realtime broadcast」を挙げていただきました。
Web版を無料で公開しているのは、遊んでもらうハードルと、友だちを誘うハードルをできる限り低くすることを意識した結果です。インストールやダウンロードをせずともURLにアクセスすればすぐ試遊できますし、友だちから共有されたリンクからスムーズにフレンド対戦も実現できています。
本作ならではの工夫も聞いてみると、オンラインマッチの待機通知機能を挙げてもらいました。対戦待機中のプレイヤーがいるとき、プッシュ通知をオンにしているユーザーのもとへ通知が送られる仕組みです。
オンライン対戦ゲームを開発するうえでマッチングのしやすさは課題の一つで、同氏も少しでも対戦しやすい環境を構築しようと模索していました。本機能は、スマートフォンゲームだからこそ実現でき、「思いついたときは感動しました」と話します。まろぴよ氏自身も本機能を有効化しており、通知が届くと積極的に対戦するようにしています。
なお、取材時には次回作の構想は「浮かんでいない」としていたものの、本記事公開前には新作『バウンドリ』と、さらなる新作『コネクトリ』がリリースされていました。
開発スピードの早さをうかがい知ることができました。
【お知らせ】
鳥ピンボールブロック崩し!#バウンドリ リリースしました!シンプルなのに奥深い‼️
ぜひ遊んでみてください🥳https://t.co/P53c1tGjHe pic.twitter.com/MRCkQnME4a— まろぴよ (@maropiyooo) August 7, 2026
ゲーム展示イベントのオフライン出展は、「SAPPORO GAME ODYSSEY」が初めて。「想像の50倍忙しく、あっという間に時間が過ぎました」としつつも、友人同士や家族連れで来場した人たちが実際に対戦して盛り上がっている様子を見られたことが、とてもうれしかったと話します。
「インストール数や対戦数といったデータは確認できても、プレイした人が楽しんでくれているのかどうかまではわかりません。対戦している様子を肌で感じ取れたことが大きな自信になりました」と、まろぴよ氏は語りました。
なお、同氏は10月3日(土)、4日(日)に大阪で開催される「OSAKA INDIE GAMES SUMMIT 2026」にて、『バウンドリ』を出展します。
まろぴよ氏 Xアカウントまろぴよ氏 Webサイトおづみかん氏が開発する『インダーク リコール(IN:DARK RECALL)』は、スマートフォン向けにリリースした『in:dark』をベースにフルリメイクした、ステージクリア型のアクションゲーム。
『インダークリコール トレーラー』。PC(Steam)向けにリリース予定
舞台は「Qワールド」と呼ばれる深い海の底。主人公である凄腕の暗殺者「リン」は標的の体の中で目覚め、魂と肉体が分離していることに気づきます。
状況に戸惑うなか崩壊しつつある施設から脱出すると、謎の存在「ガラム」に施設破壊の補填を求められ、敵がうごめく危険なQワールドでの掃除業務に就くことになります。
敵を倒す主な方法は、かみつきによる近接攻撃と、敵をほお張って吐き出す遠距離攻撃の二つ。かみつきは近づけば自動で発動するうえ、チャージダッシュとしても機能する「かみつきアタック」、かみつきアタック中にもう一度ボタンを押せば急停止しながら攻撃する「クランチ」にも派生します。
一方の遠距離攻撃は、壁で跳ね返る性質を備えた弾を放つことができ、弾をストックしておくことも可能。遠近どちらの攻撃方法を活用しながら敵と戦います。
なお、プレイヤーが操作するのは魂で、攻撃も魂が担います。肉体は魂の動きに応じて自動で追従するので、肉体がダメージを受けないように立ち回りつつ、魂で敵を攻撃する必要があります。
『インダーク リコール ゲーム映像』
業務にあたっては複数のステージをクリアしていきますが、要所要所でステージは分岐。 つねに減る「空気」残量にも気を付けながら、クリアを目指します。
開発メンバーはおづみかん氏1人で、アートワーク、プログラミング、ゲームデザイン、シナリオ、効果音の制作まで自身が担当。音楽については、はるまきごはん氏に依頼しています。
取材時点での制作期間はおよそ1年半。とくに時間がかかったのはシナリオ、次いでゲームデザインとのこと。本作はシナリオの筋が通らないとゲーム体験やステージの総数を逆算できない構造で、ゲームデザインについても検証と機能の実装が続いていました。どちらの要素も揃い、目指す体験の水準を決めたことで、人が遊べるタイミングが訪れたのが今回のイベントでした。
そもそもの開発の発端は、別の作品『果てのマキナ』の制作に行き詰まっていたことでした。長くゲームをリリースできていなかったため、制作の楽しさを思い出そうと、物は試しで一から取り組んでみたのがはじまりです。
『果てのマキナ – ゲーム映像』
当初は、スマホ版『in:dark』を作り直して完成させる想定でした。ところが手を動かすうち、「このままでは売れないだろう」という確信が湧いてきます。開発開始からひと月ほどで、ゲーム性のほとんどを作り替えることになりました。
スマホ版『in:dark』トレーラー
リメイクのコンセプトは、ゲームのコアとなる部分は変えずに、現代のゲームの楽しみ方に即したものにすること。また、プレイヤーに対して徹底的にフェアであることを重視し、プレイヤーがやりたくなることにどんどん挑戦しやすい設計を目指しています。
おづみかん氏は、「旧作では自身のゲームデザイン力が拙く、多くの人をクリアに導けなかった。その反省を踏まえ、ゲーム部分を一から刷新しつつ、旧作をクリアした人もきちんと楽しめる作品を目指している」とも話します。
旧作から引き継いだ大きな要素は、ストーリーの核と、「魂が移動・攻撃を担い、被ダメージ判定は肉体側にある」システムだけ。イカの敵キャラクターや小魚のグラフィックも引き継ぎましたがそのほかは一新され、おおむね新作と言える内容と話します。
また、旧作では下方向に強制スクロールする進行なのに対し、本作では強制スクロールはせず、ステージの上方向を目指すように変更されています。 狙いは、プレイヤーのペースで楽しめる遊びにすることと、ミスの原因を明瞭にすること。
旧作にあった下方向への強制スクロールは、「本来であれば後半のステージに出てくる類のギミックであり、基本操作を習熟していない段階から挑むものではなく、学習の障壁として大きすぎた」とおづみかん氏は話します。
強制スクロールを廃したことでミスをしたときの原因も明瞭になり、トライ&エラーのサイクルが健全になるだろうと、同氏は見込んでいます。
特徴的な工夫として挙げられた仕様が、かみ砕き攻撃の「クランチ」。ダッシュを兼ねたかみつきアタックの後、もう一度ボタンを押すとその場で急停止しながら攻撃するアクションです。
開発当初の主な攻撃手段は、かみつきアタックだけでした。しかし敵との距離を見誤るなどして、突進後に被弾するケースが多発。小さなストレスの積み重ねはゲーム体験を損なうと考え、「ブレーキを単に追加するのではなく、攻撃も兼ねたい」という発想で、クランチを実装しました。
クランチのダメージ処理も特殊です。目の前の敵を順に攻撃していき、真正面は大ダメージ、それ以外は小ダメージという2つの判定を持たせています。「実装自体は単純ですが、ゲームを楽しくするデザインとして優秀だと思います」と語ります。
開発に使っているゲームエンジンはUnity。Unity 4(※)から慣れ親しんでいるのが採用理由です。当時と比べて機能が大幅に増えたうえ、Tilemap、Shader Graph、VFX Graph、Nested Prefab、Localizationなど、便利に感じる機能ばかりだと話します。
※ 2012年11月にリリースされ、2016年5月リリースのUnity 4.7.2まで更新された
そのうえで強いて気に入っている機能を挙げてもらうと、「Timeline」とのこと。セリフ付きのカットシーンやボス登場シーンをTimelineで制作しており、同氏は一連の決められたシーケンスをリッチに作れる点に大変助けられているといいます。
また、操作の気持ち良さのために、先行入力、ヒット時のグラフィックシェイクによる敵のダメージリアクション、TimeScaleの影響を受けないヒットエフェクト、サウンドのアタック感などは定石と呼ばれるものを、泥臭く設定していると話します。
あわせて、ゲームの都合による違和感を消すべく、ゲームデザイン側からの解決も図っています。敵を複数食べたときには弾を複数撃てるようにする、突進しすぎたときはクランチで急停止できるようにする、ダッシュ直後にスティックを逆へ倒せばしっかり反転する、といった具合です。
プレイヤーの操作傾向や思考をできる限り拾い上げ、意図した通りに動きやすくすることが、操作の気持ち良さにつながる、と同氏は考えています。
制作環境の面では、ステージ制作用のエディタ拡張も自作。ステージ内容や報酬がランダムに変わるローグライト要素も備えるため、部屋のオブジェクトの中身をランダムで切り替える仕組みを用意しており、エディタ上で素早く編集できるようアセットの保存と読み込みにも対応しています。
一方で、質の高いレベルデザインができるよう、地形はある程度手作業で作られています。
今回の札幌での展示について、おづみかん氏は自身の居住地的にも都合が良く、遠征はできれば避けたかったため、札幌での出展は本当にうれしかったとのこと。
地下歩行空間での展示は、ほかのゲームイベントに比べて幅広い層の来場者が試遊してくれたように思う、と述べています。「おかげさまで大変すばらしい糧を得られた」とのことで、フィードバックをゲームへ還元し、より良い作品を作っていきたいと語りました。
おづみかん氏は「今後はゲームを構成するリソースをどんどん増やし、体験部分を作っていきます。道のりは明確で、しかし険しい作業ですね」といいます。
『インダーク リコール』のリリース時期は2026年の末あたりを予定しており、まずはSteamでの展開を目指す方針です。Steamでのリリース後は、Nintendo Switchなどの他プラットフォームへ移植していきたいと語りました。
なお、本作のパブリッシュはroom6が担当している
「pixelepus」の ぜのぺ氏が開発する『魔導のブローシュア』は、PC(Steam)向けのターン制アドベンチャーRPG。
ゲームボーイアドバンス(GBA)特有の解像度である240×160をリスペクトしたグラフィックと、反射神経ではなく思考が大切なバトルシステムが魅力の作品です。
『【魔導のブローシュア】SAPPORO GAME ODYSSEY バージョン 30秒PV』
物語の舞台は、大気に「エーテル」と呼ばれる不思議な物質が満ちた世界。人々はエーテルを力に変える「魔導」を生み出し、エーテルを喰らって暴走する「マモノ」と戦い続けています。
主人公である少女の「アニー」は、生まれ育った里で起こる出来事や人々との関わりを通して、自らのルーツと里に隠された秘密に迫っていきます。
ターン制バトルでは、QTEなどアクションを求められる操作は発生しません。
画面上に表示される行動順をチェックしながら攻撃する点もRPGではおなじみと言えますが、本作における行動順の重要性は際立っています。
というのも、範囲攻撃の対象は行動順の並びによって変化するからです。順番を変える技を使って敵の攻撃範囲から逃れたり、逆に敵を範囲へ巻き込んだりして、戦況を有利に運びましょう。
試遊時の段階では、回復アイテムも存在しません。ゲージが溜まる技を使い、溜まりきったときに発生するクリティカルヒットとともに回復が行われる仕組みです。
使用タイミングが限られるので、いつ回復するかを調整しながらシビアな戦闘を戦い抜きます。
本作は、サウンドとフォント以外、つまりはシステムや企画、プログラム、シナリオ、グラフィックなどを、ぜのぺ氏が1人で開発しています。
サウンドとフォントまわりは、ごく一部の自作部分を除いて、素材とオープンソースソフトウェア(OSS)を活用しています。
本作は2021〜2022年ごろから企画をスタートし、イメージを描いたり、各エンジンでの環境構築を検証したりしていました。
シナリオの骨子とキャラクター構成を仕事の合間に少しずつ進め、メインストーリー部分のキャラクターがおおむね定まったのが2024〜2025年。ゲームとして本格的に遊べるところまでシステムの作成が進んだのは、2026年3月ごろからです。
GBA特有の解像度をリスペクトした理由は、幼少期の経験にさかのぼります。『RPGツクール2000』(解像度:320×240)などツクール製のゲームをたくさん遊び、自分でも制作にチャレンジしたものの、当時は絵が描けなかったこともあって完成には至りませんでした。
検討を重ねるうちに思い出したのが、青春時代に遊び込んでいた『MOTHER』シリーズ、『バトルネットワーク ロックマンエグゼ』シリーズ、『サモンナイト クラフトソード物語』、『サムライエボリューション 桜国ガイスト』といったGBAタイトル群。
改めて調べてみると、GBAのタイトルはツクール未満の解像度だったことに驚いたといいます。
『ロックマン エグゼ プレイ映像』
240×160という小さな解像度でもやりたいことは演出できそうだし、自分で描けるかもしれない。そう考えて練習するうち、GBA解像度をベースに作ることが増え、本作もその流れで開発されています。
表現上の制約は、読みやすいサイズの文字を表示しようとすると狭くて配置に困る、という一点に尽きます。読み仮名を同時に描画することもできないため、漢字にカーソルを合わせると読み仮名が表示される「KANA MODE」というモードを作るほどです。
本モードは、会話中でも戦闘中でも、漢字が見えているところならどこでも使えます。あまり例のないモードであり、他言語ローカライズがどこまでできるかは不安だとしつつも、「なるようになれ〜の気持ちで作っています」とぜのぺ氏は話します。
GBA解像度ならではのメリットもあります。全体が小さいおかげで描くハードルが低く、疲れているから1コマだけ描く、といった作業が可能なのです。
仕事の合間を縫いつつ大量のドット絵を用意するとなると、少ない労力で仮絵をすぐ描けるのは思った以上にモチベーションにつながる、とも振り返ります。
本作で味方のHPを回復する手段が、原則としてクリティカルヒット時のみなのは、ぜのぺ氏の個人的な思想と実験が混ざった結果です。ターン制RPGにおいて、特定ターンごとに強力な攻撃を放たれると立て直しのための回復を余儀なくされ、自然と行動が固定化されてしまいます。同氏はこうした展開が好みではなく、自分の作品ではシステムから踏み込んで作りたいと考えていました。
さまざまなゲームシステムを観察しているうち、「立て直しは回復技ではなく、攻め方の変化によって実現すれば、回復を導入しつつもテンポを削ぐことなくバトルを展開できるのでは」という考えから、イベント出展時の形になりました。
同氏は出展時点では選択できる行動が少なく、回復タイミングがシビアすぎた、とコメント。ゲームが進行すれば行動順の調整や回復・防御手段の組み合わせも豊富になり、最終的には高い自由度で敵の攻撃を捌けるようになる、とも話していました。
システムが独特な分、プレイヤーに理解してもらう工夫も必要になります。
今回の出展バージョンは、本イベント用に切り出したストーリー進行と、チュートリアル付きのバトル、最後の小さなボス戦を収めた10〜15分ほどの構成。
いきなりすべてを説明するのではなく、必要なタイミングでチュートリアルを実施する形を試験的に導入しています。試遊の様子を後ろから見ていた感触では、一定の効果はあるように見えたといいます。
ただ、チュートリアル1回では内容を把握できない、メッセージをつい反射的に飛ばしてしまう点もことも確認できたため、対策を検討しています。
具体的には、用語やUIにカーソルを合わせると説明ウィンドウを表示できる「HELP MODE」や、説明書のようななものをその場で読める実装予定機能で補おうと、ぜのぺ氏は考えています。
自信のある実装を聞いてみると、ぜのぺ氏が挙げたのは「事前に内部でコマンド実行結果を計算できるタイプのターン制バトルである」という特性を、最大限に生かす演出や待ち時間の工夫でした。
敵味方の行動演出を可能な限り同時に実行したり、連続行動の際もキャラクターが元の位置へ戻るのを極力待たずに、アクションゲームのコンボのように次の演出へつなげたり。
ただ順番に動くだけではなく、状況によって立ち位置が変化し、攻撃のつながり方も変わる、見ていて楽しい演出を目指した工夫が重ねられています。
採用したゲームエンジンはGodot Engineで、UIやアニメーションの作成・編集にはドット絵制作ツールの「Aseprite」を使用しています。
エンジン選定は一本道ではなく、Unity → Godot → Unity → エンジン自作チャレンジ → Godot、という変遷をたどりました。
仕事で使っているのがUnityなので、当初は知見を持ち込める優位性からUnityを採用。しかし本作の規模で使うと、機能過剰だったりほしい機能がなかったりと、噛み合わなさを感じていたといいます。
Godot Engineには本作の企画前から注目しており、2Dとフォントまわりの機能セットが低解像度作品にも向いていること、そして何よりイテレーションが早いことが、無視できないメリットでした。
しかし、仕事と並行してエンジンを学習しつつグラフィックの練習もするのは時間・体力ともに厳しく感じられ、一度は諦めてUnityに戻っています。
2025年の年末になってくると、Claude CodeやCodexといったAIへ機能実装を依頼するのがかなり実用的に。Unityや自作エンジン試作など検証を行い、Godot Engineで試したところ、AIがGDScriptも問題なく書けており、UI配置の情報が揃っていればシーン編集もこなせるとわかりました。
仕様や素材類は自身で用意し、実装の多くをAIにまかせる形であれば、仕事と本作とで使うエンジンが異なることによる認知負荷を大きく減らせるだろうと考えて、改めてGodot Engineに乗り換えた、と同氏は話します。
Godot Engineについては、「起動やエクスポートの足回りが早い点がとにかくありがたいです。これがなかったら今回の展示もうちょっとバグ多い状態だったと思います」とぜのぺ氏。
AIのサポート前提で見ると、Unityと比べてAIが処理するトークンの消費が控えめになることが多いのか、重めのタスクを投げても利用上限まで余裕ができる点に、意外なメリットを感じているともコメントしていました。
今回のオフライン展示は、想定以上に手応えを感じられる結果となったといいます。
2台体制で臨んだため、空く時間もあるだろうと思っていたところ、イベント自体の来場者数の多さもあって、開始から終了まで試遊が途切れることはありませんでした。ほかのブースに寄る時間もほぼ取れなかったのはうれしい誤算、とのこと。
小学生ほどの子どもが何人か試遊してくれたことも、かなり大きな経験だったと振り返ります。そういった年代の子が遊んでいる様子をうかがえる機会が大変貴重だからです。
また、「住んでいる地域での開催なら、荷物移動の事前準備がそこまで要らない。この点はやはり非常に助かりました。また札幌でゲーム展示イベントがあれば、可能な限り参加したい」と語りました。
今回展示したデモ版は「それっぽく見えてはいますがバトルシステムだけギリギリ成立させたような代物で、ゲームとしてまだ成立していない」と、ぜのぺ氏は評価。
今後はしばらく、バトルシステムの調整、キャラクターの能力カスタマイズシステムの作成、ストーリーのための新たなロケーション制作などを進め、ゲームとしての全体的な体裁を整えていくことになりそうだといいます。また、今回の試遊版より、触れるシステムが増えた体験版のようなものを一般公開したいとのこと。
最終リリース時期は現時点では未定で、目標として「2〜3年以内には出したい」としています。想定しているのはPC向け。個人で出せる何らかの目処がついたり、パブリッシャーがついたりすれば、コンシューマー機向けにも展開したいと、ぜのぺ氏は話します。
なお、同氏は10月11日(日)にパシフィコ横浜で開催される「Pixel Art Park 9」にて、『魔導のブローシュア』を出展します。
ぜのぺ氏 Xアカウント『魔導のブローシュア』Steamストアページエンジンを使わずWeb技術で組んだ『ヨミトリ』、Unity 4のころからの蓄積を生かした『インダーク リコール』、AIへの実装依頼を前提にGodot Engineへ移行した『魔導のブローシュア』。
3作品の技術選定はまったく異なりますが、いずれも「作りたいもの」と「自分が置かれた制作環境」の両方から選び取られたものでした。
一方で共通していたのが、オフライン展示で得た手応えです。三者とも、その場でしか得られない来場者の反応やフィードバックを収穫として挙げていました。データでは分からない部分を肌で感じ取れる場として、展示イベントが機能していたことがうかがえます。
そうした場を提供できたSAPPORO GAME ODYSSEYでは、今回紹介した3作品を含めて計30組が出展しました。ほかの出展作品は、イベント公式サイトの出展作品ページから確認できます。
「SAPPORO GAME ODYSSEY」公式サイトどさんこ。KAWAII絵が描ける。冷やし中華とグミが好き。
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