ミドルウェア開発、サウンド開発者、内製エンジン担当――異なる立場の4名が議論
【登壇者紹介】
ゲームメーカーズ編集長
神山 大輝氏
楽曲や効果音制作、実装や調整などゲームサウンド業務を経て、現在はゲーム開発全般の情報発信を行う。本セッションではモデレーターを務める。
バンダイナムコスタジオ
久保田 裕章氏
2010年にバンダイナムコゲームス(当時)へ入社し、主にプログラム実装を担当。2013年からは内製サウンドライブラリの開発やプロジェクト支援に携わり、現在は内製サウンドミドルウェア Sygnus と内製ゲームエンジン SOL-AVES の開発に従事。
プラスシグナル代表取締役
大久保 悟氏
コナミ、カプコンで約20年間ゲームサウンド制作に携わった後、ゲームオーディオ実装をアウトソーシングできる会社を目指してプラスシグナルを設立。現在はサウンド制作からゲームエンジンへの実装、技術支援まで幅広く手がける。
CRI・ミドルウェア代表取締役専務
櫻井 敦史氏
2000年にCRI・ミドルウェアへエンジニアとして入社。汎用ゲームエンジンが普及する以前から、ゲーム向けミドルウェアの開発や国内外のゲーム会社への技術支援に携わってきた。
巨大化するゲームエンジンと、サウンドミドルウェアの現在地
2026年は、5月にEpic Gamesの次世代ゲームエンジン UE6の正式発表が行われ、さらにCEDEC講演日の2日前である7月21日はUnite SeoulでUnity 7が発表されるなど、汎用ゲームエンジン側の進化が加速した1年でした。
こうした進化の流れにおいて、従来はミドルウェアや各種サービスが担っていた専門的な機能に近い機能がゲームエンジン側のエコシステムに取り入れられ、ユーザーが選択できる技術が広がっていると神山氏は指摘します。
例えばUE5で搭載された動的グローバルイルミネーション「Lumen」は、従来は専用技術や外部ソリューション、タイトル固有の実装などが必要だった高度な表現を、ゲームエンジンの標準機能として提供した一例です。UE6の周辺では、Epic Gamesが新たにオープンソースのバージョン管理システム「Lore」を発表するなど、開発ワークフロー全体をエンジンのエコシステムへ取り込む動きも見られます。
エンジン統合の波が広がる一方で、「オーディオ分野は専門性が高く、依然としてミドルウェア利用者が多い」と神山氏は指摘。汎用ゲームエンジンが巨大化し、ワークフローもある程度エンジン依存で固定化されていく見込みがあるなか、ゲームオーディオ領域の今後について今が話し合うべきタイミングであると企画背景を語りました。
会場に来ていた方で、ゲームサウンド開発を業務で行っている方は3割ほど。半数近くがプログラマーだった
大規模化が続くゲーム開発と品質管理の難しさ。カギとなるのはAI活用
最初のテーマは、「ここ1年でゲームオーディオ実装の現場に起きた最も大きな変化」。冒頭で久保田氏が挙げたのは、ゲーム開発全体の大規模化と、それに伴うサウンドアセット数の増加でした。
ナンバリングタイトルなどでは、前作と比較してアセット数が1.5倍から2倍程度まで増加するケースもあり、この総数が増えれば、アセット制作工数だけでなくインゲームでの音量バランスやQAの負担と難易度も大きくなります。
近年は制作サポートやチェック工程においてAIの活用が進行(※)していますが、ゲームサウンドは実際のプレイを通して“耳でチェックする”必要があるため、アセット数の増加とミックスの複雑化はそのまま品質管理の難しさにつながります。
※ バンダイナムコスタジオ サウンドチームでは、効果音検索やボイス音量自動調整ツール、エラーチェックなど、一部にAIを活用した自動化ツールやサウンドプラグインが数多く開発されており、アセット制作やミックスに関するサポートを行う研究が進んでいる
AI活用について、大久保氏はクリエイティブには使用しないと前置きしつつ、周辺領域については「ChatGPTやGeminiがミドルウェアの細かい質問にも答えてくれるようになった。また、(プラスシグナルでは)社内の情報共有はConfluenceのAtlassian Intelligenceを活用して、過去の事例や困りごとも含めて資料化を行っている」と便利さを強調。
これに対し、櫻井氏も「(商用ミドルウェアの仕様や利用方法は)本来クローズドな情報になりがちですが、CRI・ミドルウェアでは各プラットフォーム固有の機密情報を除き、汎用的な利用方法をオンラインマニュアルとして公開してきました」と語り、公式マニュアルに加えてQiitaや個人ブログ、ゲームメーカーズを含む技術情報がオープンな情報として蓄積された結果、AIを介した調査の確度が高まっていることを背景情報として指摘しました。
サウンドプログラマーは、サウンド以外のプログラムを担当することが多い!
「ここ1年でゲームオーディオ実装の現場に起きた最も大きな変化」というテーマに対して大久保氏が挙げたのは、実装(サウンドプログラマー)に対する理解促進と、求められる人材の変化です。
大久保氏によれば、近年はサウンド制作を請け負うアウトソーシング会社でも、サウンドプログラマーを採用するケースが増えているとのこと。ゲームエンジンやサウンドミドルウェアへの実装、最適化、周辺ツールの開発まで担当するように業務内容も変化し、発注側から寄せられる相談内容も「効果音を何点作るといくらになるか?」ではなく実装や最適化まで含めて依頼可能かどうか問われるケースが増加しているといいます。
プラスシグナルでは新卒入社時点で実装経験がないスタッフでも、OJTや先輩社員の支援、AIを用いた調査などを通して、半年ほどでゲームエンジンやミドルウェアを使った実装を担当できるような教育を行っているとのこと
また、実装の話題のなかで「サウンドプログラマー、サウンドプログラム以外も担当しがち説」も浮上。
久保田氏は「サウンド実装が本格化するのは、ゲーム開発工程の比較的後半になる傾向があります。そのため、開発前半ではUIをはじめ、その時点でプロジェクトに必要な仕組みの実装を担当する場合があります」と説明し、会場からも同意の声が上がっていました。
まだ人間がやることは多い。プレイ体験を踏まえた調整や、他部署とのコミュニケーションは必須
続いてのテーマは、ゲームサウンド制作において現在も人間が手作業で担っている領域と、その理由について。
大久保氏が「みんなも思っていることだと思いますが」として真っ先に挙げたのは、スケジュール変更や前工程の遅延によって発生するトラブル(しわ寄せ)と、それに対するアラートを行う調整・コミュニケーションでした。
サウンド制作は、「アニメーションが変わったら効果音も作り直す、レベルデザインやエンバイロメントが変わったら音響的な響きが正しいかをチェックする」など、前工程の仕様変更をダイレクトに受ける領域です。
しかし、単に前工程の遅れを指摘するだけでは問題は解決せず、各セクションの事情を把握したうえで担当者同士が調整し、必要なタスクと工数を洗い出す必要があります。こうした業務では、ツールだけでなく対人スキルが重要になるため、自動化でどうにかなる問題ではないと大久保氏は指摘します。
久保田氏はこれを受けて、「サウンド開発者は前工程の影響を受けやすい一方で、すべてのセクションとつながることのできる職種でもある」と説明しました。
ゲーム内のほぼあらゆる場面に音が存在するため、サウンド担当者は企画、プログラム、アニメーション、UI、カットシーンなど、多数のセクションとやり取りします。その立場を生かせば、受け身で進捗を待つだけでなく、各工程の状況を確認し、開発全体の問題を早期に発見できます。
大久保氏もこの意見に同意し、プラスシグナルの新人育成マニュアルには「影のプロマネになれ!」と記していることを紹介しました。
実装面ではBGMマネージャーやボイスマネージャーの汎用化が課題に
実装面で毎回発生する作業として、「BGMマネージャー」と「ボイスマネージャー」の開発が挙げられました。タイトルによって求められる再生制御や遷移、優先順位などが異なるため、汎用化が難しく、大久保氏もプロジェクトごとに設計し直しているとのこと。
これについては久保田氏も「バンダイナムコスタジオ内でも、各プロジェクトのサウンドプログラマーを集め、BGM管理機能を汎用化できないか検討したことがある。しかし、細かな要件がプロジェクトごとに異なるため、最終的には完全な汎用化が難しいという結論に至った」と補足。
さらに、プロジェクトの途中で使用するサウンドミドルウェアが変更される可能性を考慮し、サウンドプログラマーが処理を差し替えられるラッパークラスを用意するケースもあります。こうした事情からも、タイトル固有の管理層がなくなる可能性は低いと久保田氏は分析しました。
これを受け、櫻井氏も「Unity黎明期にデモプロジェクトを作成し、サウンドマネージャーを公開したことがありました。みんなの参考になればと思ったのですが、自分たちもデモを新しく作るたびに設計が変わっていくので、汎用化を頑張りたい気持ちはありつつ結局はサンプル止まりになってしまう」と述べ、この作業はしばらく無くならないだろうと指摘しました。
なお、ミドルウェア開発の立場にも泥臭い作業は残っている。櫻井氏は、多数のプラットフォームと多数のゲームエンジンの組み合わせをテストする際、一部分は自動化できても、実機検証ではマンパワーが多く割かれていると語り、年々増加する各環境ごとの組み合わせ爆発に対応するための人的リソースについても言及した
「演出」は手作業でしかできない
「リバーブや環境音の配置は、近年ある程度自動化されている傾向がある」と大久保氏はいいます。ただし、空間の形状に基づいてリバーブ領域を自動配置できても、演出上「あえて響かせたい場所」や「響きを抑えたい場所」は必ず発生するため、最終的には開発者自身がゲームをプレイし、体験として適切かを確認しながら手作業で調整する必要があります。
これに対し、久保田氏も大いに同意。自動化はあくまで人間にしかできない調整へ時間を割くためのツールであることを強調し、これを踏まえた自社エンジンの開発を進めていると説明しました。
「自動化できる部分と、手を入れて調整してクオリティを上げる部分の切り分けが必要です。リバーブ用のボックス設置などの自動化アルゴリズムは研究開発しつつ自社エンジンに落とし込んでいます。しかし、デバッグや調整など、ユーザー体験を実際にプレイして感じる部分は自動化できず、手作業が残ります。そこに時間を費やすために自動化を進めています」(久保田氏)。
ゲームエンジン標準機能とサウンドミドルウェアは共存するのか?
続いてのテーマは「ゲームエンジン標準のオーディオ機能との役割分担」。すでにゲームエンジン標準のオーディオ機能は一定成熟しており、大型タイトルもミドルウェアを使わずに開発される事例も見られるようになっています。
大久保氏はゲームエンジン標準機能を普段から使いこなしており、このメリットについて「エンジン機能のひとつとしてコンテンツブラウザ内で作業が完結するため、外部ツールを起動しなくて良いのが効率的」と語ります。さらに、櫻井氏に「ADXをゲームエンジン内で起動することに現実味はあるか」と質問も。
これに対し櫻井氏は「ハードルが高い要望ですが、サウンドミドルウェアが独立している理由はもともと“ゲームエンジン側を気にせずサウンド担当者が調整できる”という経緯がありました」と説明。ただし、エンジン側が複雑化すると、むしろ「別々でやることの方が大変」というケースも出てくることに対しては理解を示しました。
内製サウンドミドルウェアを手掛ける久保田氏の立場からは、「ほぼすべてのタイトルにミドルウェアを活用している」としつつも、種類についてはプロジェクトに応じて適したものを選択しているとの回答がありました。
判断基準はスタッフの習熟度、ナンバリングの場合はアセット流用やデータ移行性。自社ミドルウェアに固執することなく、ADXなどサードパーティー製のミドルウェアも活用し続ける方針であることを明らかにしました。
サウンド開発者の目線から「ゲームエンジンにはどう進化してほしいか?」を語る
ここまではミドルウェアの利用や課題などが挙げられてきましたが、次のテーマではゲームエンジン側に対する意見が多く述べられました。
櫻井氏が真っ先に挙げたのは「軽量化」。ゲームエンジンの起動やビルドに時間がかかれば、確認と修正を繰り返すイテレーションの速度が低下します。そのため、機能面の進化だけでなく、起動やビルドを高速化してほしいと話しました。
また、ゲームエンジン側から計算結果や描画情報などを取得しやすくなれば、ミドルウェア側で自動化できる範囲や実装の選択肢も広がると説明しました。
自然言語によるアシスト機能に期待感も
久保田氏は、サウンド制作者がプログラマーに依頼しなくても、自然言語による指示でデータを調整したり、必要なアセットを抽出したりできる仕組みに期待を寄せました。
「自然言語でのやり取り」に対しては、大久保氏も強く求めているとし、例えば「ファイルが更新されて、前回からラウドネスが10dB上がってるけど大丈夫?」「前回ループポイントが入ってたのに今回抜けてるよ?」「アセット名の接頭辞が1つだけ違うけど、スペルミス?」「振動と効果音のタイミングがズレてるけど大丈夫?」など、あたかも自分の隣にスペシャリストが座って指摘してくれるような優しい世界を将来像として示しました。
こうした背景には、「正常に再生されていても、体験を阻害するサウンドがあり、これを人間がすべてチェックしていくのは大変である」という、最初のテーマでも示された理由があります。
例えば、同じボイスが短時間に何度も再生される状況や、一部の音だけLFE成分や音量が突出している状態などは、再生自体は誤りではないもののユーザー体験を損なう可能性があるため、可能な限り自動検知が好ましいと大久保氏は指摘しました。
久保田氏は、情報の可視化も重要だと補足しました。ゲームエンジンのシーン上で、どの場所でどの音が再生され、何が問題になっているのかを視覚的に確認できれば、原因の特定と修正を高速化できます。
また、カットシーンなどの仕様がサウンド担当者へ連絡されないまま変更され、後から影響が判明するケースもあります。これについては更新履歴から変更を検知し、「この部分が変わったが、サウンドへの影響はないか」と通知する機能があれば、セクション間の連絡漏れも補えるとしました。
自然言語による制作サポートについては、果たしてゲームエンジン側なのか、ミドルウェア側なのか、という議論も。いずれにせよ「だんだん進化して(ゲームエンジンと)仲良くなれるのでは」という雰囲気ではあった
ミキシング解析、プロシージャルオーディオ、仮ボイス管理――ゲームオーディオ実装の将来像
最後のテーマは、今後のゲームオーディオ実装で実現してほしい機能や将来像です。それぞれ、大久保氏は現場目線による直近の課題、久保田氏は中長期的な機能面の話題、櫻井氏は将来的なビジョンを語りました。
大久保氏が期待するのは、ゲーム全体のミキシングを解析する機能です。「みんな、自分が作った音を大きくしたがる」として、LFE成分が最も大きいアセット、ランダムパターンを多く持つアセット、低周波数帯に偏った音などを検索できれば、大量のアセットから問題の可能性がある音を効率的に絞り込めます。
また、ミドルウェアに対しては、BGMのアップミックスができると良いとのこと。普段はNUGEN Audio / Halo Upmixなどを用いているそうですが、できれば外部プラグインを経由せずミドルウェアで位相上の問題が発生しないかたちで対応できると助かる、と直近の課題も含めて語りました。
久保田氏は、「中長期的には波形ファイルを基盤としないサウンドアセット制作」が増えると予想しました。
冒頭で同氏が述べた通り、開発規模の拡大は止まらず、必要なバリエーションをすべて音声ファイルとして用意することは難しくなっています。そのため、実行時に音を生成するプロシージャルオーディオやランタイムシンセサイズの重要性が高まり、ゲーム向けシンセサイザープラグインも充実していく可能性があります。
また、仮ボイス制作の効率化も重要なテーマです。開発中のゲームでは、正式な音声収録前に動作や演出を確認するため、仮ボイスを用意することがあります。生成AIを使えば制作自体は効率化できますが、仮データを製品版に残してしまう事故を防止するワークフローが必要です。
櫻井氏はこの2点について、従来は計算量やメモリの制約からランタイム生成が難しかったものの、現在は保存するデータ量を減らす手段としてシンセサイズが活用できる時代になってきたと補足を行いました。また、仮ボイス生成機能をミドルウェアに統合する利点として、リリースビルド時に仮ボイスを一括削除したり、残存している仮データに警告を出したりできる点を挙げました。
ミドルウェアの本質は「新機能」ではなく、開発者同士をつなぐこと
セッションの結びとして、櫻井氏がサウンドミドルウェアの長期的な展望を語りました。
近年、ゲーム会社から寄せられる要望は、「新しい演出機能が欲しい」というものから、すでに存在する機能をより簡単かつ効率的に使いたいというものへ変化しているといいます。
ゲームエンジンとサウンドミドルウェアの機能が充実し、また技術的な情報発信も増加したことで、多くのサウンド表現は技術的に実現可能になりました。その一方で、アセット数と開発規模が増えた結果、実装やチェック、調整をいかに効率化するかが新たな課題になっています。
櫻井氏は、これらをまとめて「現在の現場は、“楽に、効率よく作業したい”」というフェーズに入っていると表現しました。
サウンドミドルウェアの原点は、サウンド担当者とプログラマー、プランナーなどをつなぎ、異なる職種が連携できる環境を提供することにあると櫻井氏は語ります。AIやゲームエンジンの進化によって開発環境が変化しても、「誰と誰をつなぎ、どのような価値を提供するか」という本質は変わらないとし、ミドルウェアを使用する多くの方からの意見をもとに一緒に成長したいと述べ、講演を締めくくりました。
講演の様子はYouTubeでもアーカイブされている。詳細が気になる方は、ぜひご覧ください!
ゲームオーディオ実装の現在と未来は?サウンドミドルウェアは何を支え、どこへ向かうのか - CEDEC2026CRI・ミドルウェア 公式サイト
ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。