アークライト 野澤 邦仁のボードゲームを作るには Vol.01「企画編」

2023.04.17
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本連載は、『ito』『ボルカルス』などを手がけた株式会社アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏に、ボードゲーム(※)の企画から制作・出展方法まで指南していただきます。

※ ドイツ・ユーロ流の近代ボードゲーム・カードゲーム

具体的には、「予算50,000円で、創作ボードゲームを20〜50個制作&ゲームマーケットに出展し、販売することを目標に据え、その条件をクリアする手法を解説していきます。

連載1回目の本記事では野澤氏の自己紹介とともに、ボードゲームを制作・販売するうえでの流れや目標の詳細、企画の立て方などを解説していただきます。

TEXT / 野澤 邦仁
EDIT /  藤縄 優佑

目次

はじめまして!株式会社アークライトでボードゲーム編集者を務める、野澤 邦仁と申します。

携わったボードゲームの代表作は、『ito』シリーズ、「Kaiju on the Earth」シリーズ(『ボルカルス』『ゴジラ』など)、『タイガー&ドラゴン』、『タイムボム』、『未来逆算思考』などです。

部分的に担当した作品も含めると、70作以上に携わっています

この度はゲームメーカーズさんとご縁があり、「ボードゲームを作ってみたい人の背中を押せる連載を」とのことで、僭越ながら筆を執らせていただきました。

ゲームメーカーズさんはデジタルゲームのメディアだと思っていましたが、「デジタル・アナログ問わず、ゲームづくりの楽しさを伝えるメディア」とのことで、微力ながら協力させていただく次第です。

本連載はボードゲームを作ってみたい方だけでなく、デジタルゲーム制作者(主に企画職)がゲームづくりを学ぶのにも有益だと思うので、興味を持っていただけたら幸いです!

自己紹介

私は大学卒業後、デジタルゲーム業界のプランナーを経て、2015年から株式会社アークライトにてボードゲーム編集者として従事しております。

「ボードゲーム編集者」とは、制作メンバー全員に楽しんで制作してもらい、なおかつその熱量を商品の社会的な価値や売上に上手くつなげて、会社や関係者に利益をもたらす職種です。

デジタルゲーム業界の言葉でいうと、「プロデューサー兼、ディレクター兼、アートディレクター兼、プランナー兼、ルールライター兼、雑用」といったポジションです。また、私の場合はゲームデザインまで深く関与することも多いです。

デジタルゲーム業界の経験を経てアナログゲーム業界にいる者として、本連載でお伝えすることが少しでもお役に立てれば幸甚です。ぜひ、お付き合いください!

本連載について

本連載はあくまで「野澤流」で、即効性を重視しています。そのため、「そうとは言い切れないこと」であっても、語弊を恐れず断定することがあります。

また、制作スタイルは人によって異なると思うので、自身が必要に感じる部分をピックアップしてご利用ください。スタイルが固まっていない方は、いったん本連載のとおりに試してみてください。

そして、本連載では「とにかくいったん完成させて、販売してみよう!」を合言葉に、「好きなゲーム、作ってみたいゲーム」を考えていきます。

制作のハードルを上げすぎないため、「より多く売れるためのノウハウ」については本連載ではバッサリと端折ります。

本連載のゴール

本連載では以下の5つを達成すべく、解説していきます。

創作ゲームを完成させる!

アイデアを思いついたら、気軽に試作できるのがボードゲームの良いところです。試作版でもかまいませんので、1回でもゲームを作りきれば、作り方の流れが身に付きます。

2回目以降は作るのがラクになり、生まれた余力はコストや販売数に向けられるようになります。

ゲームマーケットに出展して、売ってみる!

ゲームマーケットの出展料は時期やプランにもよりますが、今回は1日の一般出展・半卓・試遊ありのプラン(16,500〜24,200円)を想定します。

製造数は20〜50個!

有志のアンケート結果や私の耳に入っている情報を総合すると、ゲームマーケットに初出展した方のうち、約65%は販売数が50個以下です(101個以上は約20%)。ですので、まずは20〜50個程度で始めることをオススメします。

「試作版」として20〜50個売ってみて、評判が良かったら、お金をかけた「新版」を作れば良いのです。試作版の反応から新版の製造数は決めやすいですし、試作版でファンになってくれた方々が応援・宣伝をしてくれるといったメリットもあります。

後悔した話として、「相場を知らずに100個単位で作りすぎ、大量の在庫が家に残って次のゲームが作れない……」というものがあります。そういった事態を避けるためにも、制作に慣れるまでは製造数は50個以下にしておきたいところです。

販売価格は、1個1,000円以内!

販売価格は、製造原価(※)の2〜3倍(以上)が目安です。

後述するオススメ仕様(「チャック付き袋」のゲーム)なら、売価の相場は500〜1,000円です。つまり、これから作るゲーム1個あたりにかけられる製造原価は500円以内です。また、理想は160〜330円です。

※ 「製造原価」に、「あなた自身の人件費」「テストプレイにかかる移動費など」は含んでいません(人によるため)

予算は50,000円以内!

製造原価(50個で25,000円以内)、ブース出展料(16,500〜24,200円)のほか、ブースの装飾といった雑費なども加えると、50,000円ほどの予算を見積もることになります。

自信がある方は予算や製造数を増やしても良いですが、創作ボードゲームの相場を知らない方は、まずは上記の範囲で始めてみましょう。

ボードゲームの企画をまとめるには

前段が長くなりましたが、本題に入ります。ボードゲーム制作の企画をまとめる際は、以下の手順を踏みます。

  1. 作りたいゲームを書き出す
  2. ターゲットを決める
  3. (現実的な)仕様を書き出す
  4. 締切、制作スケジュールを書き出す
  5. 企画メモにまとめる

1.作りたいゲームを書き出す

作りたいゲームをイメージできているなら、それを紙などに書き出す、つまり「言語化」します。この「言語化」を、野澤流では重視しています。

わざわざ書き出す理由は、それらがキャッチコピーなどに活用できますし、ゲームの説明書に載り得るからです。人にゲームを紹介するときにも、ここで生み出した言葉が使われることが多いです。

また、ルールが複雑なゲームは制作難易度が上がるため、最初はプレイ時間が30分以内のものを目指すと良いと思います。

なお、「アイデアが思いつかない、考え方がわからない!」という方のため、次回Vol.02のテーマは「ゲームの着想7つ道具」を予定しています。

2.ターゲットを決める

どういった人にウケたいか、買われたいかを決めます。本連載は主に初めて作品を作る方に向けて書いているので、本格的なマーケティング手法を実践するのではなく「ターゲットは自分」「自分が好きな、遊びたいものを作る」くらいで良いと思います。

欲をいうなら、自分と感性が似た友人・知人をターゲットに設定できればなお良いです。自分と友人がどちらも良いと思うゲームなら、より多くの人にも評価されやすいはずです。A案かB案かで悩んでしまったときも、「その友人が良いと言った方を採用する」といった手法が使えます。

3.(現実的な)仕様を書き出す

ここは経験がないと決めるのは難しいので、野澤流のオススメを4パターン紹介します。

【パターンA:カードのみ、36枚以内】

例:『タルカ

例:『めいしでQ

白紙の名刺用紙を用意し、家庭用プリンターで図案を印刷したものをカードとして使います。

36枚は厳しめの制限ですが、自然とゲームの核をしっかり練ることになり、発明的な優れた作品が生まれるきっかけとなることも多いです。

また、ボードゲーム制作者に人気の印刷所・プランが36枚以下であることが多く、36枚以下で作っておくことで、後で「新版を印刷所に頼んで作ろう!」と決意したときに依頼しやすくなるでしょう。

カードに描く図案の種類が少ないなら、リーズナブルな名刺印刷サービスを使い、数千円で印刷しきってしまうのも手です。

【パターンB:ポストカードのみ】

ポストカードの片面をボードにし、もう片面にルール説明を書けば、それ1枚でゲームとして販売できます。コマやダイス(サイコロ)など、100円ショップで手に入るものなら購入者に各自用意してもらっても良いでしょう。

他にも、ポストカードにキリトリ線を印字しておき、購入者に切り取ってもらってカードゲームにすることもできます。同じ方法で、コマやダイスも用意できます。

【パターンC:プリント&プレイ(通称PnP)】

例:『レースメイカー』(後にリメイク版が『クイックショット!』としてアークライトから発売)

カード図案を印刷したA4用紙を、クリアファイルに入れるなどして販売します。購入者が紙を切って自分でカードにする方式です。この方式のメリットは、特に安価なことです。デメリットは、購入者に手間が発生するため、作者自身にファンがついていなければ遊ばれづらいことです。

いっそのこと、カードをPDF化して販売することも可能ですが、さらに遊ばれづらくなります。データ販売だと、購入したことを忘れてしまうお客さんも。 

【パターンD:複合的な仕様】

●カード60枚以内
制作難度の観点からトランプの総数である54枚程度、多くても60枚以内のゲームをオススメします。

●コマ数個
得点チップ、プレイヤーのコマとして使います。100円ショップで買えるビーズ類やガラスタイルなどを想定しています。

●ダイス(サイコロ)
ダイスは高価なので、大量に使うゲームは原価がかさんでしまいます。ゲームの内容にもよりますが、「カード1〜6の中から1枚引く」など、カードで代替するのも手です。

●ポストカード
100円ショップで買えます。ポストカードを複数枚つなげれば、ボードの代わりにもできます。こちらも家庭用プリンターや、ネット印刷サービスなどを利用します。

【パターンA〜Dに共通して必要なもの】

●説明書

例:『クイックショット!』の説明書。B5サイズ1枚

B5やA4サイズの紙1枚に説明を記載します。8.5ptのフォントサイズで両面を使っても説明が書ききれないようなら、B4やA3サイズを検討しますが、「そもそもゲームが複雑すぎないか」も疑いましょう。

語弊を恐れずに言えば、ボードゲームはルールのテキスト量や例外処理が少なく、直感的でシンプルなものの方が、売れます(より多く遊ばれます)。

●(箱の代わりの)チャック付き袋

チャック付き袋の上部に紙でタグを付けた『どっと・ゾンビ』。ちょっとした工夫で見栄えが良くなります

ボードゲームのパッケージとしてよく見かけるのは箱ですが、箱にするだけで原価が100〜500円ほど上がってしまいます。また、箱のデザインは奥が深く、考えることが一気に増えてしまい、肝心のゲーム内容を考える時間が取られてしまいます。

そこで、パッケージは思いきって箱ではなくチャック付き袋を利用しましょう!ゲームに応じてチャックなしのOPP袋や封筒、クリアファイルなどを使ってもOKです。

見栄えが気になるかもしれませんが、制作経験を積むまでは、遊びやすくする工夫やゲーム内容のブラッシュアップに時間を割きましょう。

制作経験の少ない方は、ひとまず上記のパターンA〜Dの範囲で考えてみることをオススメします。制作中にどうしても仕様を変えたくなったなら、変えてもかまいません。

4.締切、制作スケジュールを書き出す

野澤流のオススメは、販売タイミングを「次々回(2回先)のゲームマーケット」に設定することです。次回のゲームマーケットには一般来場者、もしくは知人のブースの手伝いなどとして参加してみて、次回に自分が出展するイメージができるように視察しましょう。そのときゲームが作りかけの状態でもあれば、より細かな点にも気が向くようになります。

本記事の執筆時点で、ゲームマーケットは春(4〜5月ごろ)と、秋(10〜11月ごろ)の年2回開催。場所は東京ビッグサイトです。

ということは、出展・販売までの期間は、この記事を読んだ今から約半年〜1年。制作期間が長期化すると挫折してしまうので、企画〜販売までの期間は、3か月〜1年程度がオススメです。

5.企画メモにまとめる

ここまでで、以下のことを行いました。

  1. 作りたいゲームを書き出す
  2. ターゲットを決める
  3. (現実的な)仕様を書き出す
  4. 締切、制作スケジュールを書き出す

これらを1枚の紙にまとめましょう。

その際、どんなシチュエーションで、どんなゲーム体験ができるのか、紹介文を書いておくことをオススメします。たとえば、「毎晩寝る前にスマホを消して、1人で30分のダンジョン攻略ができるゲーム、『寝るまえダンジョン』」とか。

このときのコツは、ゲームのルールそのものよりも、ゲームでできる「体験」や、遊んだときに得られる「感情」を言語化して宣言しておくことです。 

企画メモができたら、ゲームが完成するまで目に見えるところに貼っておくのがオススメです。そうして企画メモを日ごろから目に入れることで、そのゲームについて考える時間が増え、制作が進みます。また、制作が暗礁に乗り上げてしまったとき、初心に返る道しるべにもなります。

データで作るならGoogleドキュメントなどの無料サービスで十分ですが、私のオススメは手書きです。制作が進むなかで、思いついたことを紙にどんどん追記していきます。

とにかくいったん完成させて、販売してみよう!

大事なことなので、繰り返します!

  • とにかくいったん完成させて、販売してみよう!
  • 評判が良かったら、「新版」を作ればいいのです!
  • 仕様や期間に縛りを設けた方が考えやすく、完成に近づきます!
  • そのうえで、制作中にどうしても変えたくなったなら、変えてもOKです!

友達やSNSなどに、「ボードゲームを作ってゲームマーケットに出展するぞ!」と宣言するのもオススメです。これにより、周囲の目が気になって緊張感が生まれ、達成率が上がるはずです(ちなみに、ボードゲーマーはTwitterに多いので、SNSはTwitterを使うと良いかもしれません)。

宣言した後、どうしても期間を延ばしたくなったなら、延ばしてもかまいません。あの手この手で自分を動かし、とにかく1回完成させてみましょう!

制作中は思いどおりにならない苦しい時間がやってくるかもしれませんが、完成品が手元にできて、ゲームマーケット会場でお客さんの反応を間近で見られたときは、格別の喜びが味わえます。

制作者同士、これから一緒に頑張りましょう!

本連載のVol.01はこれで終了です。なお、本連載は今回を含めて全7回を予定しています(予定は変更される可能性があります)。

Vol.01:企画編(この記事)
Vol.02:ゲームの着想7つ道具
Vol.03:モックアップ制作、クローズテスト編
番外編:ゲームマーケット出展申し込み編
Vol.04:ルール調整編
Vol.05:イラスト&グラフィック、印刷編

Vol.06:説明書、オープンテスト、宣伝編

引き続き、本連載をよろしくお願いいたします。

アークライトゲームズ 公式サイト株式会社アークライト 公式サイトゲームマーケット 公式サイト
野澤 邦仁(のざわ くにひと)

1987年生まれ。デジタルゲームのプランナーやボードゲームショップの店員を経て、2015年に株式会社アークライトに入社。ボードゲーム編集者として70作以上に携わる傍ら、ゲームマーケットの企画も一部担当。2022年より制作責任者(編集長)に就任。

ボードゲームの代表作は、『ito』シリーズ、「Kaiju on the Earth」シリーズ(『ボルカルス』『ゴジラ』など)、『タイガー&ドラゴン』、『タイムボム』、『未来逆算思考』など。

【主な受賞歴】

  • 日本ゲーム大賞2010 アマチュア部門 大賞『SAND CRUSH』(レベルデザイン)
  • 第15回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞『アナグラのうた~消えた博士と残された装置~』(プロジェクトマネジメント)
  • Makuake Of The Year 2020 受賞『ボルカルス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • Makuake Of The Year 2021 受賞『ユグドラサス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • ゴールデンボックス ボードゲームアワード2022 ゲームデザイン部門 ノミネート&ルールブック部門賞 受賞『ゴジラ』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)

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