アークライト 野澤 邦仁のボードゲームを作るには Vol.02「ゲームの着想7つ道具」

2023.05.12
注目記事ゲームづくりの知識チュートリアルアークライト野澤流ボードゲームを作るにはアナログゲーム
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本連載は、『ito』『ボルカルス』などを手がけた株式会社アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏に、ボードゲーム(※)の企画から制作・出展方法まで指南していただきます。

※ ドイツ・ユーロ流の近代ボードゲーム・カードゲーム

具体的には、「予算50,000円で、創作ボードゲームを20〜50個制作&ゲームマーケットに出展し、販売すること」を目標に据え、その条件をクリアする手法を解説していきます。

連載2回目の本記事では、「どんなゲームを作るか」という部分にフォーカスし、具体的な7つの着想法を紹介していただきます(連載1回目の記事はこちら)。

TEXT / 野澤 邦仁
EDIT /  藤縄 優佑

目次

創作ゲームはアレンジから

創作ゲームをとっかかりもない状態から作る難度は、私から見てもとても高いと感じています。

「アイデアが思いつかない、考え方がわからない!」と思う方には、「自分の好きな作品にアレンジを加えて、オリジナル作品として作りこむ」という手法をオススメします。この手法は初心者向けでもありますし、私がプロの現場で実際に活用している手法でもあります。

参考にしやすいよう、私が制作に携わったゲームを中心に例を挙げながら、私もよく使うアレンジの手法をこの記事で7つ説明します。お付き合いいただけますと幸いです!

好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする

ゲームで遊んでいるとき、「ここをこう変えたら、もっと面白くなりそう。もっと自分好みになりそう」と思えたらチャンスです!

『ito(イト)』(2019)

『ザ・マインド』(左)を参考にして、『ito』(右)が作られました

ナカムラミツルさんが原作者の『ito』が生まれたきっかけは、ミツルさんが友人たちと『ザ・マインド』(会話禁止の協力ゲーム)を遊んだときに出た、「会話禁止じゃなくて、逆にたくさんしゃべるルールにしても面白いのでは?」というアイデアでした。

早速その場で試したところ手ごたえが感じられたことで、『ito』の原型ができました。『ito』はその後アークライトに持ち込まれ、独創性を伸ばす(=『ザ・マインド』から離れる)調整を経て、商品化されました。

『ito』は、『ザ・マインド』の「コミュニケーションが制限されたなかで協力して、1〜100の数字が書かれたカードを小さい順に出しきれたらクリア」というルールを使っています。

ですが、『ザ・マインド』最大の特徴である「話せない状況下で、どうやって意思疎通するか」という体験が、『ito』では「お題をどう例え、会話でどうすり合わせるか」という別の体験(面白さ)に変わっています。これにより、『ito』は『ザ・マインド』とは異なる商品として成立しています。

シリーズ累計20万本を超えるヒット作の『ito』も、誕生のきっかけは、ふとした思いつきでした。そうしたヒラメキや思いつきに敏感になり、その場ですぐにテストプレイをしてみたり、メモを取って言語化してみたりと、即座に反応することをオススメします。

『クイックショット!』(2022)

『レースメイカー』(左)を基に商業リメイクした作品が、『クイックショット!』(右)です

クイックショット!』は、『レースメイカー』の商業リメイク版です。『レースメイカー』のモチーフは「競馬」でしたが、リメイクするにあたり、モチーフをデジタルゲームの人気ジャンルである「シューティングゲーム」に変更しました。その経緯と思考の流れを紹介します。

私が初めて『レースメイカー』をプレイしたとき、その面白さに感心するとともに、このゲームの特徴は「シンプル」「奥深さ」「脱落式とテンポ」だと分析しました。それぞれがゲーム内で見事に噛み合っています。

[シンプル]ラウンドごとにカードを1枚出すだけで脱落者が決まり、カード以外は使わないシンプルさが特徴です。そのため手順や処理が少なく、ボードゲーム初心者でも楽しみやすくなっています。

[奥深さ]カードによって効果が異なり、プレイヤー同士でカードの読み合い・心理戦が発生します。カードの効果そのものはシンプルなので、「間口は広いのに奥深い」という状態が生み出されています。

[脱落式とテンポ]ラウンドごとにプレイヤーが脱落していく形式は、体験が刺激的になるメリットがあるものの、序盤から暇になる人が生まれてしまうというデメリットもあります。ですが、本作は1ゲームが5分程度の短時間設計なので、デメリットをほとんど感じさせません。

同作をリメイクするにあたって、「競馬がモチーフのままだと売れづらいのでは?」という議論になりました。また、本作は脱落式なので、仲が良い間柄で騙し合いながら遊ぶのに向いていると感じていました。

内容物もシンプルで、製造原価を抑えて販売価格を安価にまとめることもできそうでした。そういったことから、本作のターゲットを小学生〜高校生くらいの若い層に広げることを考えました。

近い年齢層に人気で、プレイヤーを倒す、脱落させるといった要素を楽しめるモチーフとして、『Splatoon』『Apex Legends』『フォートナイト』『VALORANT』などに代表されるシューティングゲームにアレンジしました。

この例のように、「好きなゲームの特徴をよく分析する」「アレンジによって何を達成したいかというゴールを明文化する」を意識するのが、この手法のコツです。

【注意】
同じ作者が原作から新版を作る場合を除き、基となるゲームの見た目「だけ」を変えて販売することは推奨しません。見た目を変えたなら、「変えたそのモチーフならではの要素がないか」と深掘りすると、自ずとルールの変更案も出てくると思います。最終的にはルールにもアレンジを加え、独創的な体験になるようにしましょう。

「ゲームルールに著作権はない」と言われますが、ボードゲーム業界は世界的に、「ゲームデザイナーの発明・創作を尊重して、著作権があるかのように扱う」文化があります。完成したものが基のゲームのアレンジの粋を出ない場合は、基のゲームの作者に一言連絡しましょう。場合によっては使用料を相談し、必要に応じて支払います。

オマケでもう一つ、オススメの考え方を。ここでは便宜上「“好きなゲーム”をアレンジする」と書いていますが、「期待が外れたゲームを、自分が気に入る内容にアレンジする」というアプローチもオススメです(あまり大きな声では言いづらいですが)。

面白そうだと思って遊んでみたゲームが期待外れだった場合、その「期待していた内容のゲーム」が作れれば、独創的な新作となるわけです。「自分の期待」が何だったのか、目の前の(期待外れだった)ゲームをどうアレンジすれば、期待していたゲームになるのか、分析してみましょう。

好きな伝統ゲームを現代風にする(モダンクラシック化)

この手法は「1.好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする」のサブジャンルと言ったほうが正確かもしれませんが、あえて分けています。地味に見えるものの、実はかなりオススメの手法です。

まず、伝統的なトランプゲームやダイスゲームなどがたくさん載った本を買い、掲載されているゲームで遊んでみます。そして面白いと感じたゲームを基にアレンジしましょう。

伝統ゲームは長年受け継がれてきただけあって、人間の直感や本能に根ざした良さがあることが多い、つまり参考になる作品だらけなのです。

そのうえ、原作者が不明なものが多いため、作者に気を遣うことなくルールをアレンジできることもメリットです。例えば、有名な『UNO』も、トランプゲームの『クレイジーエイト』『アメリカンページワン』などを基にしています。

とくにオススメの本は『大人が楽しい トランプゲーム30選』『大人が楽しい 紙ペンゲーム30選』です(画像はともにすごろくやより引用)

そうした伝統ゲームのなかでも、トランプや紙ペン系のゲームは、製造原価が比較的安価で済むことが多いため、オススメです。

アレンジする際は、以下のポイントを意識すると現代風にアレンジできるでしょう。

  • 伝統ゲームは「30〜60分以上かけて何回もゲームを遊ぶなかで、最終的な勝者が決まる」という形式が多い。
    →現代に合わせて、「10〜30分で終わる」「1回遊べばルールを習得できる」ように調整できないか?と考えてみる。
  • トランプゲームは(当たり前ですが)トランプのカードセット(1〜13×4種類)で作られている。
    →より面白く、より遊びやすく、独創性を出すために、そのゲーム専用のカードセットにアレンジできないか?と考えてみる。
  • 伝統ゲームはモチーフがないものも多い。
    →何らかのモチーフと、そのモチーフならではの特徴的なルールを加え、独創性を出せないか?と考えてみる。

このように、伝統ゲームを現代風にアレンジすることを、私は「モダンクラシック化」と呼んでいます。

例:『タイムボム』(原版は2014)

タイムボム』は、作者の佐藤 雄介さんが伝統ゲーム『人狼』を基に、遊びやすさと独創的な面白さを発明・ゲームデザインし、世界で評価されました。日本でも大人気の一作です。

例:『宝石がいっぱい!』(原版は2019)

宝石がいっぱい!』は、作者の松元 泰右さんがトランプの『神経衰弱』を基に、遊びやすさと独創的な面白さを発明・ゲームデザインしました。今では4歳児から大人にまで人気の商品です。

『神経衰弱』からアレンジしたなかで特筆すべき要素は、「表裏が同じ絵柄のカード」の存在と、「手番は1枚だけめくって終了」というルールです。これにより1人の手番が1秒で終わるという脅威のテンポ感を生み出し、驚きとおかしさが生まれています。

また、カード配置を覚えておけないほどのテンポの良さから、大の大人が何度も同じカードをめくってしまう、という思わず笑ってしまう光景を作ることに寄与しています。点数獲得の仕組みも、最後まで逆転できる可能性が残された(ように思える)調整がされていて見事です。

例:『タイガー&ドラゴン』(2021)

タイガー&ドラゴン』は、オインクゲームズさんの魅力的なアートの力もあって数万本のヒット作となっています。これは、中箱と呼ばれているパッケージサイズの同価格帯では異例の人気といえます

私は2014年に初めて伝統ゲームの『ごいた』で遊び、その面白さに衝撃を受けて徹夜で遊びまくりました。そのとき生まれたアレンジ欲求は、以下の3つ。

(1)4人専用ゲームである『ごいた』を、2人や3人でも遊べるものにできないか?

(2)『ごいた』の読み合いや面白さを、ゲームに慣れていない人たちにも分かりやすい形で表現できないか?

(3)「初手が特定の形だと○○の処理を行う」といった、「覚えていないといけないルール」をなくせないか?

このうち(1)には挑戦し、2015年に『ふたりでもさんにんでもごいた』として制作・販売をしたものの、(1)~(3)の全てを満たすアイデアはまとまらないまま5年の時が経ち、2020年。

アークライト所属のゲームデザイナー&編集者の橋本 淳志さんと雑談しているなかでこの話題を出したところ、「『ペアーズ』のカード構成で実現できるのでは?」というアイデアが出たことが、『タイガー&ドラゴン』誕生のきっかけでした。

『ペアーズ』は、1が1枚、2が2枚、3が3枚……10が10枚の、計55枚のカードを使ったトランプのようなゲームです。私はこのカードの内訳に興味があり、過去に『ペアーズ』を基にしたゲーム『ペアーズバック』『トライアングル』『太陽と月の王国』を制作していました。

これら3作品の制作には橋本 淳志さんにも付き合ってもらっていたので、お互いに『ペアーズ』のカード構成が持つ特性に詳しくなっていたことが、『タイガー&ドラゴン』のアイデアにつながったのだと思います。

[使った手法]

1.好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする
→『ごいた』をアレンジ

2.好きな伝統ゲームを現代風にする(モダンクラシック化)
→『ごいた』をモダンクラシック化

3.好きなゲームの内容物を限定する(後述)
→『ペアーズ』に限定

4.好きなゲームのプレイ人数を1人か2人に限定する(後述)
→『ふたりでもさんにんでもごいた』の知見を活用

こうした「モダンクラシック化」の手法で、普遍性と時流を捉えたバランスが上手く取れれば、国民的な新定番ゲームが生み出せるのではと思っていて、今後も挑戦していきたいと思っています。すでにこの手法で数タイトルを制作中です(ぜひ、ご期待ください!)。

オマケとして、最近のホットゲームインマイヘッドな伝統ゲームをコッソリ紹介しますと……『ゴルフ(トランプ)』『スコパ(ラテントランプ)』『カンビオ(ククゲーム)』『かりうち(盤すごろく系)』「ドミノ牌を使ったオリジナルゲーム」……などに着目しています。

私は数年〜10年以上をかけて、上記ゲームのモダンクラシック化に順次挑んでみたいと思っています(それらもここの参考例になっていきますね)。ですが私だけでは手と時間が足りないので、読者の皆さんに共有しました。

もし上記を基にした良いゲームができたら、ぜひTwitterなどで私に教えてください!

好きなゲームの内容物を限定する

「好きなゲームを、カードのみ36枚以内で再現する」「100円ショップで買える範囲で再現する」、または「好きなゲームの内容物を使って別のゲームを考える」といった手法です。

内容物にあえて制限をかけることで、考えるべきポイントが絞られてアイデアが生まれやすくなります。そこで生まれた工夫が独創性に昇華するケースもままあります。

また、ゲームマーケット(ゲムマ)では「ゲームマーケット・チャレンジ(ゲムチャレ)」という企画が実施されています。これは「提示されたお題に沿ってゲームを作ると、ゲムマ会場の専用コーナーに展示される」という企画です。お題は1年ごとに変わり、2022年と2023年のお題はともに、ゲームの内容物を限定したものです。

ゲムマ2023春に来場される方は、ぜひ特設ブースのゲムチャレ展示コーナーにお立ち寄りください。きっと参考になりますし、何より創作意欲が刺激されると思います。

例:『太陽と月の王国』(2019)

トライアングル』(左)と『太陽と月の王国』(右)は、『ペアーズ』のカードセットを活用して制作しました

「2.好きな伝統ゲームを現代風にする(モダンクラシック化)」手法と、この「3.好きなゲームの内容物を限定する」をかけ合わせて制作しました。

私の好きなトランプゲーム『大富豪』を基に、『タイガー&ドラゴン』の例でも登場した『ペアーズ』のカードセットという縛りのなかで成立させました。そのうえでテストプレイを繰り返した結果、「革命が起こりまくると楽しい」と感じたので、そうなるようにゲームルールを構築していきました。

加えて、手元にカードを並べる仕組みを入れることで、「2人で遊べる大富豪」という側面も持たせました。

好きなゲームのプレイ人数を1人か2人に限定する

「3.好きなゲームの内容物を限定する」と同じく、条件を縛ることでアイデアを生み出しやすくする手法です。この手法は制作者の金銭的負担が軽くなるというメリットもあるので、ぜひ活用していただきたいです。

ボードゲームは3人以上で遊べるものがメジャーであり、つい挑戦したくなるものですが、テストプレイの環境を用意する(人を集める)のがそもそも大変です。また、プレイ人数が増えるほど想定外の状況が起こりやすくなるため、ゲームバランスの調整が難しくなります。

一方、1人用や2人用のゲームはテストプレイもしやすく、バランス調整も比較的しやすいので、完成を目指しやすいでしょう。

なお、私はボードゲーム人口の拡大のためには、「カップルで遊びやすい手軽な2人用協力ゲーム」が必要なのではないかという仮説を立てています。現状ではあまりヒット作が出ていない切り口ですが、そんな状況を変える1作を手がけてみたいという想いは2014年以前からずっと持っています。

昨年やっと『カルタマリナ』で挑戦できましたが、もっと挑戦したいと思っています。この記事を読んで「我こそは!」と思われた方がいたら、ぜひ挑戦してみてもらえるとうれしいです。

また、2022年ごろからは、「1人用ゲームの市場」が拡大できないか、も探っています。

例:『INKLUDE(インクルード)』(2011)

INKLUDE』は、私が大学の卒業制作として4人チームで制作した「直接攻撃ありの2人対戦用デッキ構築型カードゲーム」です。

2009〜2010年当時、『マジック:ザ・ギャザリング』『ディメンション・ゼロ』などのトレーディングカードゲーム(TCG)で遊んでいた私は、「デッキ構築型カードゲーム」の『ドミニオン』にハマったことから、当時発売されていた同ジャンルのボードゲームを片っ端から買って遊び、比較分析もするようになりました。

そうしたなか、『ドミニオン』のようなゲームで「TCGのように直接攻撃してプレイヤーのライフを削り合う」仕組みにしたいというアレンジ欲求が生まれました。しかし、多人数対応のゲームで直接攻撃を可能とすると、1対多の状況が生まれやすくなってしまいます。

そこで、最大4人用が多かった「デッキ構築型カードゲーム」を2人用に特化させることで、その問題を考えなくて良くし、直接攻撃要素を組み込みました。さらに、さまざまなTCGのメカニクスをも混ぜ込んでアレンジすることで、『INKLUDE』が誕生しました。

[使った手法]

1.好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする
→TCGを基にした『ドミニオン』に、「各種TCG」のメカニクスをアレンジして組み込む

4.好きなゲームのプレイ人数を1人か2人に限定する
→2人専用にすることで、直接攻撃要素入りのバランス調整を可能にした

好きなゲームのプレイ時間を短縮する

※ この手法を実践するには、ユーロ系ボードゲームの知見が必要かもしれません

1ゲーム遊ぶのに60分以上かかる複雑なゲームを、45分や30分以下に「圧縮」「再構成」する手法です。

複雑に絡み合ったゲームのメカニクスのなかから、要素を削ぎ落としてプレイ時間を短くし、内容物を個人の予算内で作れる範囲に簡素化します。その際、単に要素を削除するだけでは面白さや味わいも減じてしまうため、独創的な工夫や発明も必要です。

例:『リトルタウンビルダーズ』(原版は2017)

リトルタウンビルダーズ』では、通常60〜180分ほどかかる「ワーカープレイスメント」という人気のゲームメカニクスを、30〜60分くらいで味わえます。

本作は、作者のShunさんとAYAさんが「ワーカープレイスメント」ゲームを基に、遊びやすさと独創的な面白さを発明・ゲームデザインしました。海外メーカーからも出版されている人気作です。

盤面に配置する建物タイルの「位置関係」をゲームデザインに組み込むことで、シンプルなルールと考えどころの両立がなされています。また、相手にお金を渡してその人のタイル効果も使える点など、サブメカニクスの取捨選択や組み合わせ方にも匠の技が光ります。

例:『カルタマリナ』(原版は2021)

カルタマリナ』は、作者の秋山 昂亮さんと高津 勇星さんが、世界的に人気の協力型ボードゲーム『パンデミック』を基に2人用ゲームにすることで、短時間化に成功しています。

単に要素を削除するだけではない『カルタマリナ』ならではの主な特徴は、以下の通り。

  • 「浸水しつつある船」という舞台設定を生かした仕組み

 →ゲーム中に船が傾き、その方向に水が集まってピンチになってしまう

  • ストーリー展開とキャラの成長

 →2人用だからこそ、じっくり味わいやすくなっている

アークライト版では、それらの独創性を伸ばすように制作させていただきました。

また、これもオマケですが、私が「短時間化して、独創的な面白さを持たせられそうと思っている」ゲームは、『クルセイダーズ』(特殊能力つき『マンカラ』)、『ロールプレイヤー』(キャラ作成ダイスRPG)などです。いつかこれらを30〜45分のゲームに圧縮・再構築してみたい、と考えています。

こちらも、もし上記を基にした良いゲームができたら、ぜひTwitterなどで私に教えてください!

好きなデジタルゲームを、ボードゲーム化する

※ この手法は難易度が高いので、サラッと紹介するに留めます

デジタルゲームをボードゲーム化する場合は、注意が必要です。デジタルゲームは「デジタルならではの特性を生かして」ゲームが組み立てられているので、上手くやらないと「単に面倒な処理が多いだけのボードゲーム」ができてしまいます。

ポイントは、デジタルの処理をそのままボードゲーム化するのではなく、デジタルゲームの「体験」を抽象化し、「ボードゲームのメカニクスで翻訳」して実装することです。

考え方の一例としては、例えば「とあるRPG」が好きで、そのボードゲーム版(のようなゲーム)を作りたい場合、すでに市場に存在している「RPG風ボードゲーム」をいくつも調べて遊び比べてみて、それらのなかで気に入った作品を基に、アレンジしていくと着地させやすいです。「1.好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする」と近い手法になるので、同じような点に注意しながらアイデアを練ってみましょう。

好きな現実世界の事柄を、ボードゲーム化する

※ この手法も難易度が高いので、サラッと紹介するに留めます

現実の何かから「ゲームを見出す」手法です。

例えば、
「回転寿司の営業システムってボードゲームにならないかな」
「エレベーターの乗り降りで起こる人間の動きってボードゲームにならないかな」
「お化け屋敷の怖さとゴールしたときの安堵感ってボードゲームにならないかな」
といった具合です。

大切なのは、「ゲーム内のアクション(ゲームの手続き)」と「プレイ中に沸き起こる感情」、それぞれを意識することです。

前者に傾倒しすぎると、「(勝敗決定装置としての)ゲームにはなっているけれど、処理が面倒」「新しくて独創的だけど、楽しくはない」となってしまう危険があります。

後者に傾倒すると、「その感情をどういったゲームメカニクスで実装・再現するのか」というところにノウハウが必要になります。

また、ボードゲームというメディア自体にも特性はあるので、扱いやすい感情や体験と、そうではないものが存在します。

絶対万能!という訳ではありませんが、そこそこ使える手法を紹介します。

❶ゲームにしたい事柄をよく観察・分析・考察し、「どこに『ジレンマ』があるか」を見つけ出す。

❷見つけたジレンマを意識し、「××しないように、工夫して○○を目指すゲーム」という形式で言語化する。

❸上記の「××」「工夫」「○○」の中に入るルールを当てはめる。

例えば、回転寿司からゲームを見出そうと、観察・分析・考察してみると、以下のように言語化していけるかと思います(考えれば、もっと案は出せるでしょう)。

  • お腹いっぱいになりたい、○皿食べたい(目的)
  • 好きなネタを食べて幸せになりたい(目的)
  • 予算と時間が限られている(制限)
  • 良いネタは前の席の人に取られやすい(他者の妨害)
  • お店のネタが在庫切れになる(制限)
  • 仲間と1皿(2貫)を1貫ずつシェアして、沢山の種類を食べられるようにする(工夫)

あとは、あなたが「プレイヤーにさせたい体験」から逆算し、組み立てていくと良いでしょう。

既存作品も参考になります。「回転寿司 ボードゲーム」などとネットで検索し、気になったものは実際に入手して遊んでみると良いでしょう。そうして調べているなかで気になるゲームルールを見つけたら、今度はそのゲームとゲームルールが近い別の(回転寿司でない)ゲームも調べてみるとか。

そういったことを繰り返し、面白さの「言語化」も意識しながら、考えを進めると良いでしょう。

現実世界はとても複雑で、パラメーターが多いので、

  • 要素を厳選して、シンプルに構成する。
  • 「人間が生理的・本能的にやりたくなってしまうこと」と、「ゲームの目的(ゲーム内ですると褒められること)」を一致させる。

といったポイントを意識して進めるのがオススメです。

本連載のVol.02はこれで終了です。少しでもお役に立てば、と願っています。なお、本連載は全6回を予定しています(予定は変更される可能性があります)。

Vol.01:企画編
Vol.02:ゲームの着想7つ道具(この記事)
Vol.03:ルール調整、クローズテスト編
番外編:ゲームマーケット出展申し込み編
Vol.04:イラスト&グラフィック、印刷編
Vol.05:説明書、オープンテスト、宣伝編

引き続き、本連載をよろしくお願いいたします!

アークライトゲームズ 公式サイト株式会社アークライト 公式サイトゲームマーケット 公式サイト
野澤 邦仁(のざわ くにひと)

1987年生まれ。デジタルゲームのプランナーやボードゲームショップの店員を経て、2015年に株式会社アークライトに入社。ボードゲーム編集者として70作以上に携わる傍ら、ゲームマーケットの企画も一部担当。2022年より制作責任者(編集長)に就任。

ボードゲームの代表作は、『ito』シリーズ、「Kaiju on the Earth」シリーズ(『ボルカルス』『ゴジラ』など)、『タイガー&ドラゴン』、『タイムボム』、『未来逆算思考』など。

【主な受賞歴】

  • 日本ゲーム大賞2010 アマチュア部門 大賞『SAND CRUSH』(レベルデザイン)
  • 第15回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞『アナグラのうた~消えた博士と残された装置~』(プロジェクトマネジメント)
  • Makuake Of The Year 2020 受賞『ボルカルス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • Makuake Of The Year 2021 受賞『ユグドラサス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • ゴールデンボックス ボードゲームアワード2022 ゲームデザイン部門 ノミネート&ルールブック部門賞 受賞『ゴジラ』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)

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