『デススト2』精巧なフォトリアル世界をいかに実現したか。コジプロのアート・技術チーム責任者が明かす、理想の絵作りを達成したアプローチ【GCC 2026】

『デススト2』精巧なフォトリアル世界をいかに実現したか。コジプロのアート・技術チーム責任者が明かす、理想の絵作りを達成したアプローチ【GCC 2026】

2026.06.05
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2026年3月28日(土)、大阪にてゲーム開発者向けカンファレンス「GAME CREATORS CONFERENCE ’26」(GCC 2026)が開催されました。

本稿ではコジマプロダクションから2025年に発売されたタイトル『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』(以下、DS2)をテーマとする講演「パネルディスカッション:アートとテクノロジーの融合:『DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH』の表現を支えた現場の工夫」の内容をレポートします。

TEXT / ハル飯田
EDIT / 浜井 智史

目次

アートが追求する理想の絵作りを技術班が全力サポート

登壇したのは、コジマプロダクション CTO(最高技術責任者)の酒本 海旗男氏と、同社のテクニカルアートディレクター 内田 貴之氏、そして講演のモデレーターを務めたヘキサドライブ代表取締役/GCC実行委員長の松下 正和氏。

『DS2』における「フォトリアルな世界観」と「ゲーム体験」を両立させる工夫や課題解決のアプローチについて、アート/テクノロジー両部門の責任者よりパネルディスカッション形式で語られました。

(画像は「GCC 2026」公式サイトより引用)

最初のトークテーマは「チームで最高の絵を作るため」のアプローチについて。

酒本氏はこれについて「最初は何も考えず、マックスで目指した絵を作る」と回答。すると内田氏も「例えば『パーティクルはここまで』と言われると手が止まってしまうので、初回はとにかくやりたいように作ってみる」と、構想段階において技術的な制限を設けないことによるメリットを挙げました。

「アート側から『これがやりたい』という指針が出ないと、そもそも前に進めないし、それを探すのも時間がかかる(酒本)」ため、このスタイルでアート側のやりたい“絵作り”が進められているとのこと。

酒本氏は、アート方針に関する舵取りの難しさについても言及。前作『DEATH STRANDING(以下、DS1)』では「中止を申し出た演出がプリビジュアライゼーション後に置かれていたことがあった」といい、技術面での事情や要望を周知・共有することの苦労を語っていました。

コジマプロダクションCTOの酒本氏

アートサイドが追求したい絵作りの指針が決まれば、それらを表現できる手段に落とし込んでいくステップに移ります。

当初の形では実現が困難なアイデアも、「この絵を実現するためにはどういう構造にすれば良いか」を技術とアートで密に話し合い、代替案や解決策を講じていきます

内田氏いわく「これはフォトリアルに限らず、どんな絵でも当てはまること」

最終的にはマンパワーに委ねるケースもあるとしつつも、アートのチャレンジを実現できるよう可能な限り技術側が対応するという形で取り組んでいるということでした。

モデレーターの松下氏は「技術チームがアートを制限するのではなく、最高の絵を仕上げるためにブーストをかけている」という関係性に驚きの声を上げていた

酒本氏は、開発過程における自身の役割について「大体のタイトルで『無理だ』となったタイミングで自分が呼ばれる」と冗談を交えて振り返りました。

『DS2』では、小島秀夫監督より「花火のシーンではパーティクルを倍に増やそう」というオーダーが内田氏に届き、そこから技術とアートでの「折り合い」を求めた話し合いを行ったとのこと。

当初の想定より倍のパーティクルを使用することになった花火の演出はトレーラーでも確認できる

酒本氏も加わったアーティスト&プログラマーの綿密な議論と努力により、最終的に本作では約200万パーティクルまで表現可能に。

実際に使用されたのは約40万パーティクル程度でしたが、監督のオーダーを受けてアーティストが考えた「やりたいこと」を、技術側との協力によって実現させた過程が詳細に語られたディスカッションでした。

フォトリアルな地形描写は「リモート取材」で得たリファレンスをフル活用

続いてのテーマは、フォトリアルなグラフィックを追求してきた『DS』シリーズにおいて「現実をいかにしてゲームに取り込むか」という観点でした。

『DS1』ではアイスランドで2週間にも及ぶロケハンを行い、現地で目にした印象的な地形などをゲームへ落とし込んでいったそう。ところが『DS2』の開発期間はコロナ禍の影響が大きく、取材先に直接足を運ぶことは叶いませんでした。

その打開策として「リモート取材」を敢行。まずGoogleマップで移動して取材したい地域の“アタリ”をつけて、現地の人に代行で映像を撮影してもらい、より詳しく見たい場所があれば再び撮影してもらうという形式を取ることで、直接現地に赴かず取材が可能となりました。

この方法でオーストラリアやメキシコなどさまざまな地域を1年半もの長期にわたって取材してきたそうです。

撮影映像はフォトグラメトリの素材に用いるだけでなく、ライティングなど環境再現のためのリファレンスとしても活用されました。内田氏によると「フォトリアルな映像を作る際はリファレンスの充実度が極めて重要」だといい、リモート取材によって潤沢なデータを採取できたとのことでした。

撮影者の足が震えるほどの高所での取材も行われたそう。このように、現地でしか体感できないリアリティも重視された(画像はコジマプロダクション公式サイトより引用)

『DS2』は酒本氏が「地形が敵」とも表現したシリーズ特有のゲーム性ゆえに、地形の表現には「信じられない密度のジオメトリとコリジョン(酒本氏)」が詰め込まれたこだわりっぷり。

これは『DS1』の取材で内田氏がアイスランドを歩いた際に感じた「足元がボコボコで、歩くだけでも大変」だった経験をゲームに取り入れたことで生まれた要素であり、グラフィックだけでなくゲーム性にまでも丁寧な取材が大きく影響していることが分かるエピソードでした。

「歩くだけでも難しい」体験の実現までにはプログラマから「とても怒られた」こともあったのだとか

フォトグラメトリデータを元にジオメトリを作成した事例も紹介されました。砂岩が果てしなく広がる地形は情報量が少なく、リアルな描写にはジオメトリでの表現が必要となったとのこと。

ここでも冒頭で述べた“技術的な制限を設けない”スタイルに則り「最初は何も考えずに全部置いた(内田氏)」ところから作業スタート。テクスチャー適用前の段階で容量3.5GB・約4,000万ポリゴンと非常に巨大なデータとなり、そこから最終的に2,500万ポリゴンまで削減したそうです。

内田氏は「アーティスト側で引き締めて『これはクオリティが高いですよね』と提案して、それを動くようにする方向に持ち込んだ」と、アート側からのアプローチとなった当時の話し合いを回顧しました。

砂岩が地平線まで広がるロケーションは、基本的に手前をリッチに仕上げつつ、遠方は間接光も含めてLODを施していますが、この地形は奥に向けてスケールがあるため「遠くもある程度の間接光が入らないと、良い見た目にならない」と酒本氏。後付けで間接光を追加できるようにするなど、細かな工夫によってクオリティが維持されているとのことでした。

砂岩が広がる印象的なロケーション(画像はコジマプロダクション公式サイトより引用)

クオリティアップを図るため、ライティングと背景、描画プログラマーが集まるミーティングが週1回・30分で組まれました。

実写映像と比較しながら互いに課題を指摘し合い、翌週のミーティングまでに成果を持ち寄る方式で実施。雲やフォグなどさまざまな条件についても試行錯誤を繰り返し、風景だけで4カ月に渡りブラッシュアップが続けられました。

期間中には「パストレーシングでレンダリングする機能を追加で作成して既存の画面と比較する」ことで足りない情報量を探るというアプローチも行われ、その不足分を極力低負荷で実現する手段を模索するなど、徹底してフォトリアルを追求してきたという『DS2』。

「どうしてもフェイクを入れざるを得ない場合も、直前まではシステムのロジカルな部分で実写を目指し、実現しきれないものを最後の最後にフェイクで補った(内田氏)」「結局入れられなかった表現も多い(酒本氏)」と、アート・技術の両面で妥協しない方針がフォトリアルの極致とも言うべきグラフィックの実現に繋がっています。

広大な世界を動かすために多段LODを導入

先に紹介された砂岩のフィールドでは、30㎝を最小単位に細かく当たり判定が作り込まれています。当初はワイヤーフレームを張り巡らしすぎてフィールド全体が真っ白に染まるほどでしたが、のちに最適化を施したとのこと。

最適化に際して、近景での通常のLODに加え、一段階パッキングされたHLOD、そして非アクティブ領域用のスーパーローモデルと、3段階にわたるLODグラデーションを採用。LODの調整にあたっては、メッシュが過剰に密集している箇所を表示する機能も活用しています。

広範囲かつ複雑な地形では描画や当たり判定の負荷も当然高くなりますが、作業に挑んだ開発チームの様子について内田氏は「見た時に『いい絵だな』というものをアーティストが出せると、プログラマーも全面協力してくれる」関係性にあったとも振り返りました。

コジプロ流にカスタマイズされた「DECIMAエンジン」

『DS2』は、Guerrilla Games内製のゲームエンジン「DECIMA」を用いて開発されています。

コジマプロダクションはGuerrilla Gamesとパートナーシップ関係にあり、同社とDECIMAを共同開発しています。ベースとなる機能はそのまま活用しつつも、間接光など一部表現についてはGuerrilla Gamesが求める水準より密度高くコントロールできるように全てカスタマイズしているとのこと。

酒本氏も「うち(コジマプロダクション)がエンジンを使って色々なフィードバックをすることで、Guerrilla Gamesが作るコンテンツもより洗練されていくというスタンスなので、ニーズがこちらにしかないものに関しては作って共有したい」と、DECIMAエンジンにまつわる共創関係についても考えを述べました。

(画像はGuerrilla Games公式サイトの「GECIMA」紹介ページより引用)

4Dスキャンでさらにリアルなキャラモデルへ

続いて「キャラクターを生きた存在にするために」というテーマで、キャラクターモデリングに関する制作背景が語られました。

『DS』シリーズは実在の俳優がキャラクターのフェイスモデルになっていることでも知られていますが、内田氏は「一般的に『本人から撮ったテクスチャーを貼ればそっくりなモデルを作れるじゃん』と思われているかも知れませんが、不思議なことに初めは似ていないんです」と意外な事実に言及。

俳優の外見のイメージは、メイクやライティング、表情の違いなどの外的要因によって大きく変化します。本作では「顔を4Dスキャンしたモデルをエンジン上に出力し、撮影時の環境と3D空間を同じ条件に揃え、スキンの透過やスペキュラーが実写と同様の変化をするか検証する」という工程が、プログラマーも交えたチームによって数ヶ月にわたり行われていたとのこと。

モデルをモノクロ化するなどあらゆる手段やアプローチで実写映像と比較し、「なぜ似ていないのか」の要素を分解して突き詰めた微調整によって『DS2』のキャラクターは「生きた存在」へと磨き上げられていきました。

パフォーマンスキャプチャーの模様も動画で公開されている

『DS1』で同じフローを経て生み出されたキャラクターも『DS2』で再調整を実施。完成後に『DS1』当時のものと比較したところ、ルックデブチームから「これ(『DS1』のモデル)でよくOK出していたね」との感想があがったというほど、クオリティの進化が見て取れたといいます。

『DS2』では対応ハードウェアも前作のPS4ベースからPS5へと変わり、開発チームとして「今やれることを」と最新のクオリティへと磨き上げられた部分となっています。

内田氏は「『DS1』も当時の持てる技術の全力ではあったんですが、僕らは毎回プロジェクトが変わるたびにワークフローを刷新しており、今回もチャレンジした価値は返ってきたと感じました」と振り返っていました。

キャラクターを「生きた存在」にするためのこだわりはモデルだけでなく表情の表現にも。通常の3Dスキャンとブレンドシェイプによる表現では「無表情から笑顔になる時の中間」がリニアに変化するところを、4Dスキャンによる動的なキャプチャーによって中間の表情も自然な表情筋を描けるようになっています。

この表現を含む「より本人らしい」表情は自然であるからこそ気づきづらいものの、内田氏が「今回1番重視していた」と語るほどのポイント

スタートから最終的な落とし込みまで10ヶ月ほど要する大変な作業となりつつも、生き生きとしたキャラクター表現が初報公開時などにも反響が大きかったことからチャレンジに至り、最終的に内田氏も「上手くいった」と言える仕上がりとなりました。

開発を支えた「見えない技術」。内製ツール群の紹介

アセットを属性ごとに分類・管理

ビルドにおけるバグの発生などをデータの段階で防ぐべく、プログラマーと協力のもとアセットマネジメントシステムが構築されました。

モデルを作成する際に、ファイル名をつける代わりに「マンメイドかネイチャーか」「崖か、岩か、小石か」「どの地域の物か」と順番に選択していくことで、それまでの登録情報から「n個目のメキシコの岩」など自動的に割り振ることができます。

「0」と「o」の間違いなどのタイプミスを防止すると同時に、Mayaへのシーンファイル作成やテクスチャ名の作成、スケジュール管理ツールへのモデルの登録まで自動で行ってくれる機能も備えた優れもので、内田氏にとってもお気に入りの仕組みだそうです。

ほかにも『DS1』で使用したテクスチャのうち『DS2』で使用不可になったものにフラグをつけておくことで、最終的にパッケージが作られる際に使用不可テクスチャが入っていると警告を表示するなど、モデルをすべて登録して管理・監視してくれるシステムとして開発現場で活躍していました。

内田氏によれば、このシステムは「リードアーティストやシニアアーティストなどのリーダーがバグの原因調査や対応に追われて高いアウトプット能力を発揮する時間が削られてしまう」現象を防ぎたいとの想いから作られたとのこと。

酒本氏も「コジマプロダクションでは昔からやっている(データを扱う)手段のひとつで、その適用範囲が拡大されている」と、チーム全体での思想でもあると補足。過去には不要なデータをまとめたエクセルを見ながら1個1個対処することもあったそうで、「次の開発ではこんなことはしたくないと思って」と、機能の必要性が高まっていたことも明かしました

LOD調整の自動化システム

『DS2』の開発を支えたもうひとつの「見えない技術」が、LODの自動生成です。

LODの特徴として、自然物であれば大胆にディテールを削ってもアウトラインを保持しやすい一方、人工物にかけすぎると壊れやすいという性質があります。

そこで、先ほどのアセットマネジメントシステムに登録する際のカテゴライズを活用。ファイル名のフラグから予測して自動的にLODが作られる仕組みとなっており、パラメータを調整しての再出力も容易で、自動化によって担当者ごとの個人差がなく最適な状態で反映されるという長所も存在します。

膨大なアセットによるビルドは「CIビルドパイプライン」機能によって常に設定情報が表示・管理されるようになっており、ビルドエラーが発生した際は履歴から不具合の発生した変更を辿れることで原因を突き止めやすくなっています。

酒本氏は「人の手を介さないようにしておくと、コストをかけずにやり直しがしやすい」と更なるメリットにも触れつつ、「絵や動きを改善する方法を考えることに時間を使えるようになる」と、効率化もひいてはクリエイティブを支えるためにあることを強調しました。

モデレーターの松下氏から「アーティストの感性とエンジニアの執念がツールや自動化という共通の言語で結ばれ、最終的に良いアウトプットに繋がっている」と印象が語られました。

内田氏も「僕らが手前まで作ったものを、最終的にツールプログラマーが理想の品質に仕上がるまで何度もトライしてくれた結果できあがった遠景がある。それは『ツールプログラマが作った遠景』であると言え、彼らも絵作りに関わっている」と述懐。講演名の通り「アートとテクノロジーの融合」で生まれた作品であるという実感のこもったエピソードを語っていました。

最後は質疑応答の時間が設けられ、「CIビルドパイプライン」で導入されているAddressSanitizer(アドレスサニタイザー)についてなど、講演内容に関する質問が寄せられました。中でも2026年3月にリリースされたばかりのPC版『DS2』の開発で苦労したことについて質問されると、酒本氏・内田氏ともに「いっぱいある」と苦笑。

『DS1』では他機種をサポートできなかったことを踏まえ、『DS2』では「遊べる人を広いレンジで増やそう」とNixxes Softwareとの協力によってPC移植が実現したとのこと。酒本氏は「コジマプロダクションのArtistはデモを1フレーム単位でチェックするようなクリエイターばかり」で、こだわりの詰まった移植になったと回顧しました。

ひとつの機能をオフにするべきか否かについて数ヶ月議論することもあれば、スペックをサポートするにあたってLODを一段階下げるという決断を下すためにも数ヶ月かかり、アーティストがひたすら変更後のモデルをチェックしては手直しする作業を繰り返していたことも明かされました。

PC版『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』ローンチトレーラー

また、PC版ではウルトラワイドモニターを意識した「21:9」表示、そしてカットシーン以外では「32:9」のアスペクト比にも対応しています。これについて「画面に映る範囲が変わるので、その分で負荷が変わる可能性もあるため何度もチェック・修正を重ねていた」と、PC版ならではの描画環境の苦労も語られました。

そうした貴重な裏話も交えながら、アートと技術というゲーム開発の両輪が一体となって『DS2』のフォトリアルなビジュアル、そしてゲーム体験が作られていたことが紹介された本講演。最後には「先日リリースされたPC版で追加された機能もあるので、まだプレイしていない方もぜひ遊んでください」と呼びかけられ、盛況のうちに講演は終了となりました。

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』特設ページ|コジマプロダクション公式サイト「GAME CREATORS CONFERENCE」公式サイト
ハル飯田

大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。

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