2026年4月8日(水)、IGDA日本 SIG-Growthによるセミナー「日本のインディーゲームに対する投資・資金提供機会を創出するには」が開催されました。
個人ゲーム開発者に対する出資の現状や、ゲーム分野ならではの投資の難しさ、出資を受けるにあたってスタジオ側が準備しておくべきこと、日本の強みを活かすゲームプロジェクト・スタジオ投資に関する情報など、パネルディスカッションで交わされた議論を中心にお伝えします。
2026年4月8日(水)、IGDA日本 SIG-Growthによるセミナー「日本のインディーゲームに対する投資・資金提供機会を創出するには」が開催されました。
個人ゲーム開発者に対する出資の現状や、ゲーム分野ならではの投資の難しさ、出資を受けるにあたってスタジオ側が準備しておくべきこと、日本の強みを活かすゲームプロジェクト・スタジオ投資に関する情報など、パネルディスカッションで交わされた議論を中心にお伝えします。
TEXT / じく
EDIT / 浜井 智史
「SIG-Growth」は、IGDA日本(国際ゲーム開発者協会日本)に置かれた専門部会のひとつ。小規模ゲーム開発者と出資を行うパブリッシャーや投資家などの間をつなぎ、事業拡大や海外展開などを支援することを目的としています。
本セミナーは、『gogh』などのプロダクトで知られる開発会社「ambr」による会場提供のもと実施されました。
第一部ではヘッドハイ代表取締役の一條 貴彰氏が登壇し、日本のインディーゲームを取り巻く投資や資金提供の状況について、インディーゲーム開発者の視点で捉えた全体像が語られました。
まず、一條氏は「すべてのインディーゲームが事業的な成功を目指すべきだ」とは考えておらず、アート志向の作品や趣味的なゲーム制作を否定する意図はないと説明。今回は、あくまでゲーム開発を事業として成功させたい人がチャンスをつかむための選択肢を広げることを趣旨としていると語りました。
日本のインディーゲームがこの数年で急成長を遂げてきた一方で、「ゲームプロジェクト」や「ゲームスタジオ」そのものへ投資が行われた事例は依然として少ないと同氏は見解を述べました。
海外においては、ファンドやVC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けた新興スタジオが立ち上がり、投じられた資金を活用しながらゲームを開発するケースも見られるといいます。
海外ゲームタイトルにおけるインキュベーション施策・助成金活用の事例として、フランスの開発チームによるターン制RPG『Clair Obscur: Expedition 33』が紹介された
そうした背景を踏まえ、同氏は「日本でも投資関係者にインディーゲームの実態や期待感を知ってもらい、開発者との接点を増やす必要がある」と主張。本イベントは、それを実現するための場としても企画されているそうです。
近年、日本国内では「BitSummit」や「デジゲー博」、「東京ゲームショウ」など数々のゲーム展示イベントが盛況を呈しているほか、「Tokyo Indies」などの開発者コミュニティや、インディーゲーム開発者向けカンファレンス「Indie Developers Conference(IDC)」などのイベントも開催されています。
また、一條氏がアドバイザーをつとめる日本のインディーゲームインキュベーションプログラム「indie Game incubator(iGi)」や「創風」といった開発者支援・育成の仕組みなど、インディーゲームを取り巻く環境は次第に発展しつつあります。
(画像は「indie Game incubator(iGi)」公式サイトより引用)
(画像は「創風」公式サイトより引用)
しかしながら、その広がりがまだ民間出資の厚みと直結していないと同氏は指摘。展示、インキュベーションプログラム、行政による支援といったパスは築かれているものの、スタジオやプロジェクトに対して資金が投入される事例が少ないと問題提起を行いました。
ゲーム事業への投資を促進するための一手として、同氏はまず、開発者と投資家のあいだで共通の評価軸を生み出すことを提案しました。作品が市場の中でどこに位置するのか、どの程度の資金が必要でどう回収を見込むのか、作品完成までの見通しをどのように説明するのかといった経営課題・戦略について、投資家が用いる用語をゲーム事業に当てはめて解釈することで両者の思考をすり合わせるという試みです。
また出資側にとって、開発チームが確かな技量を備えているかや、開発中のゲームが無事に完成するか否かを評価することが非常に難しい点も大きな課題だといいます。仮にトレーラーの完成度が高そうに見えたとしても、買ってきたアセットの見映えが良いだけで、技術力の証左にはならない可能性もあります。
インディーゲーム向けインキュベーションプログラムやアクセラレータにおいて多数のゲームプロジェクトの技術評価を担当してきた同氏の見解によると、ゲームの完成確率や開発技能を測るには、専門家がプロジェクトデータの中身やコードをしっかり分析する必要性があるとのこと。投資判断にはそうした専門家のアドバイスと嗅覚が大切だと述べました。
第二部では、ゲーム開発者、投資家、行政の立場からそれぞれ招待された登壇者によるパネルディスカッションが実施。国内インディーゲームの投資に関する現状や問題点、今後への展望などについて議論が交わされました。
登壇したパネリストとモデレーターは以下の通り。
【パネリスト】
【モデレーター】
最初の議題は「ここ数年でのゲームスタジオやゲームプロジェクトへの出資の現状について(日本&海外)」。
まず若山氏より、VCが担うコーポレートファイナンスと、ゲームパブリッシャーや制作委員会的な枠組みで行われるプロジェクト単位の資金供給は異なる形態であることが示されました。
VCは基本的に会社本体へ投資するものですが、ゲーム開発支援は主としてプロジェクトそのものを対象に展開されます。この性質の違いが、ゲーム事業に出資する上である種の「相性の悪さ」となっていると指摘しました。
岸上氏は、ゲームが国策としてようやく明確に扱われるようになってきたことや、日本のエンタメの中でもゲームはグローバルでヒットしやすい分野であることについて言及。ゲーム開発者が資金調達を行うにあたり良い兆しを見せているのではと語りました。
放生會氏は、かつてソーシャルゲーム分野が盛り上がった時期にVCが出資する動きがあったと振り返りました。その後は過当競争による停滞がありつつも、最近まではコンシューマーゲームの分野で中国系の投資家が日本国内のゲーム制作チームに投資する時期があったそうです。
一方、国内の大手ゲーム会社は外部スタジオに投資するという文化自体が主流ではなく、「中途半端に投資するぐらいだったら内製で済ませた方がいい」「自分たちが進出できない海外マーケットに対しては海外スタジオに投資する」という流れがあったのではと語りました。
経済産業研究所の堀氏は10年ほど前のクールジャパン施策について振り返り、当時は流通やプロモーション支援を中心に展開されていたと述べました。
そして近年になり、制作コストの上昇や競争力確保の必要性を背景に、ようやく開発や制作そのものへ資金を投じる方向に変わってきたのだとか。2023年頃に制作費の支援などを開始し、2024年にクリエイターへの直接支援を打ち出した『創風』を立ち上げたというバックグラウンドも明かされました。
岸上氏は放生會氏の発言に対する関連事項として、国内ゲーム会社が出資よりも自社への投資を求められやすい一方、映画会社などゲーム以外のエンタメ業界がパブリッシャー出資やプロジェクト出資を行っていると補足。
ゲーム業界の好況を横目で見ていた各エンタメ業界が、ゲーム業界の才能に投資していこうという流れができていることが追い風になっているそうです。
これには放生會氏も投資家の立場から同意し、IPの原石をゲーム業界に求める機運が高まっていると述べました。そして堀氏も、経済産業省の施策として「IPから広がる経済圏」をどう捉えていくべきか議論が持ち上がっていると語りました。
若山氏いわく、VCによるゲーム分野へのコーポレートファイナンスは常に起こるものではなく、業界全体に大きな革新が起きたときに活発化しやすいとのこと。
過去の事例としては、モバイルインターネットの普及や課金モデルの変化、スマートフォンやVRの登場といった転換点でゲーム市場に追い風が生まれ、VCからの資金も流入しやすくなったそうです。
VCはゲームそのものを見極める力ではパブリッシャーやゲームスタジオに及ばず、その強みを発揮できるのは、先に上げられたような時代の節目に生じる革新時に限られます。平時からコーポレートファイナンスの資金が自然に流れ込むわけではなく、その潮流は過去の歴史を学ぶことで見定めることができると語りました。
続いての議題は「ゲームスタジオとして出資を受けた・ゲームスタジオに出資した経験から感じ取った、ゲーム分野投資ならではの難しさ」です。
若山氏は、ゲーム分野への投資の難しさは「取るべきリスク」「期待するリターン」「それらを定量的にルールへ落とし込む」の3つを整備することが必須なことにあると語りました。
この点はVCやプロジェクトファイナンスにおいても同様であり、投資側と資金を受ける側のとらえ方や経済的なデューデリジェンス(※)の文脈に混乱があると指摘しました。
※ 投資判断の前に行う実態確認とリスク調査
また岸上氏によると、ゲームスタジオとして投資を受ける場合、資金が入るのはゲームそのものではなく会社に対してであるという点に難しさが宿っているといいます。
代表者は開発者であるだけでなく経営者として振る舞う必要があり、1つの作品が失敗しても次回作以降を含めて会社をどう伸ばすかが問われ続けます。ゲーム作りとは別に「経営者というゲーム」が始まることが、出資を受ける側にとっての大きな難しさであると同時に面白さでもあると語りました。
そのうえで岸上氏は、VCが投資するのは実績よりも「これから跳ねそうだ」という期待値であると強調。すでに数字が固まった後よりも、革新性や成長の可能性が強く感じられる段階のほうが資金を集めやすく、その期待値をどう作り、どう見せるかが重要とのことでした。
放生會氏によると、VCとしてゲームスタジオに投資する場合、着目するのは作品単体ではなく会社そのものが継続的に成長できるか否かであるそうです。「面白いゲームを出したい」だけでは議論として不十分で、ゲームスタジオ側はその次に何を作り、どう事業を広げていくのかまで含めて説明できるようにする必要があります。
一般的なVCは、投資した株式を将来的に上場時などで現金化することを前提にしています。しかしインディーゲームスタジオなどは制作ラインが少なく数年に1本のペースで作品を出すケースも珍しくないため、会社を評価できず市場に値がつかない状態になってしまいます。そのため、放生會氏は「一定の利益水準を上げていった時に、持株比率に応じて純資産ベースで買い戻す」など、いわゆる“出口”を設定しているそうです。
そのうえで放生會氏は、こうしたファイナンス設計の話をスタジオ側と共有し納得してもらうことで投資がかなう一方、そこまで手間をかけるのは突出した才能や実績を持つ会社に限られるとも語りました。
ここまでの話を受けて堀氏は、ゲーム分野への投資を促すうえでスタジオやプロジェクトの価値をどう評価するかが大きな課題になると語りました。ゲームが最終的にどれほど売れるのかを事前に見極めるのは難しく、評価軸が定まりにくい点が投資や支援のハードルを高めています。
補助金など公的支援の場面でも、開発途中の成果物やマイルストーンの評価方法を設計するのが難しいと説明。一定の段階ごとに完成度を見ながら判断できる仕組みが整えば、資金を段階的に投じていく選択肢も広がる可能性があるとのことです。
一連の議論を受けて一條氏は、「2年に1本しかゲームが出ないようなビジネスモデルは投資側の視点では厳しい現状にある」ことに衝撃を受けつつも、インディーゲーム開発の実態に沿った仕組みの構築に未来を探りたいと語りました。
出資を希望するゲームスタジオが備えておくべきこととして、まず若山氏より「自分たちに合った資金繰りを設計できるように、資金調達の種類や特徴を整理しておくこと」が挙げられました。
ひと言で資金調達といっても、社債や借入などの返済義務を伴う「デットファイナンス」や、株式などを通じて出資を受ける「エクイティファイナンス」、公的な補助金制度など形態は多種多様で、それぞれ出資側が取るリスクや期待するリターンも異なります。
また、スタジオ側が「株とは何か」を理解しておくことも有用であるとして、書籍などの学習コンテンツを参照したり、自身で株式投資に触れてみたりすることを推奨していました。
岸上氏からは、VC側にゲームへ理解のある担当者がいたとしても、最終的には社内のパートナーや投資判断者を説得しなければならないと指摘。類似タイトルとの比較や市場規模の見立てといった説得材料を用意しておくことが重要だといい、とりわけ特定のベンチマークタイトルをもとに共通項および新規性を整理して伝えることが、投資の提案を通す決め手になり得るとのこと。
また投資を受ける以上、会社の展望をある程度示す必要があると説明。上場だけでなくM&Aのような出口も含めて事業の将来像を語れると、投資家にとっては判断しやすくなります。とくにゲーム分野では海外でインディーゲーム会社の買収事例もあり、日本でも今後そうした選択肢が広がる可能性があると見解を述べました。
放生會氏は、制作予定のゲームが商業的に成立しうる理由を自らの言葉で落とし込むことが重要だと語りました。類似タイトルの売れ方やジャンルごとの傾向を単にデータとして示すのではなく、「なぜそのジャンルでその数字が出るのか」や「どのようなプレイヤー層が支えているのか」まで言語化できると、投資家にも納得感を与えやすくなります。
一條氏によると、そうした言語化の方法は「iGi」や「創風」におけるピッチ資料作りで伝授しているとのことです。
そのうえで放生會氏は、資金提供を受ける段階で上場・売却・配当重視といった会社の目指す方向性をおおむね固めておくことが重要だと提言。あわせて、安定的な事業計画やIP展開の可能性も含め、会社を伸ばしていく中核となる要素を説明できることが求められると述べました。
堀氏は、投資家とクリエイターがそれぞれ重視するものをすり合わせ、共通言語を作り積み上げていくことの重要性を指摘しました。そうした対話の土台を築くことで投資や支援をすみやかに設計できるようになるといいます。
また、補助金などの公的支援においては、単純な事業利益だけでなく、その成果がどれだけ日本に還元され、次の挑戦につながるかも重視されると説明。投資においても補助金においても、いかにして双方が共有できる考え方を作るかが大切だと語りました。
若山氏はVC的な観点からの補足として、VCの投資判断は組織の構造によって大きく異なると語りました。独立系ファンドでは比較的少人数で判断が下される一方、大規模な会社では案件を上層部に持ち上げ、投資委員会から承諾を得なければなりません。「これは何に投資する案件なのか」「どこに期待できる要素があるのか」という投資仮説を、過去の成功例や既存市場とのつながりを整理しつつ分かりやすく示すことが重要になります。
VCがもっとも強く警戒する点は「プロジェクトが完成しないこと」と「開発が遅れて予算を超過すること」。予算管理や進行管理、モニタリングの仕組みをどれだけ積み上げられるかが、投資家の不安を和らげる材料になるそうです。
最後の議題は「日本の強みを活かすゲームプロジェクト・スタジオ投資とは?」でした。
若山氏は、海外ではビジネスやファイナンスに強い人材がゲームスタジオの中やすぐそばにいることが多い一方、日本ではクリエイティブに重心があるケースが多いと感じるそう。
そのうえで、日本では社内にすべての機能を抱えるよりもVC・パブリッシャー・出版・小売などさまざまな立場の人たちが関わりながら、皆が納得できるフェアな枠組みを作っていくやり方が適しているのではないかと語りました。
岸上氏は、アメリカなどの大規模開発では合理性や効率を重視しやすいのに対し、日本のゲーム作りは良い意味で合理化しきれない緩さや遊びが残っていると持論を述べ、それゆえ未知なる路線が開拓されやすいことが、世界が期待する日本らしさなのだろうと語りました。
また岸上氏は、何より重要なのはとにかく作品を完成させて出すことだと強調。リリース後にプレイヤーから寄せられる反応を検証して積み重ねていくことの有用性を改めて提言しました。
放生會氏は岸上氏の考えに同意し、出資者が投資を検討する上でも、一度でも作品を世に出していることで初めてチームを評価できると述べました。どれだけ経歴のあるメンバーが集まっていても、実際にチームとしてリリースまでやり切った経験がなければ、遅延や進行上の不安は拭えないそうです。
堀氏は、日本の強みは「多様性の蓄積」にあるとして、ビジネスの視点に横着してその土壌が失われてはいけないと語りました。そのうえで、国がゲーム開発事業を支援するにあたっては、ビジネスとしての成否にかかわらず、多様な作品や試みが出続ける環境を支える整備を進めていく必要があると述べました。
今回のイベントは、日本のインディーゲームが存在感を増している昨今、各種支援制度なども整いつつある中で、民間出資や新たな資金提供を開発現場にどうつなげていくのかが深く論じられ、投資家とゲームスタジオが双方の立場で対話を交わす有意義な機会となっていました
「日本のインディーゲームに対する投資・資金提供機会を創出するには」イベント情報|IGDA日本公式サイトゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。
西川善司が語る“ゲームの仕組み”の記事をまとめました。
Blenderを初めて使う人に向けたチュートリアル記事。モデル制作からUE5へのインポートまで幅広く解説。
アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏が、ボードゲームの企画から制作・出展方法まで解説。
ゲーム制作の定番ツールやイベント情報をまとめました。
CEDECで行われた講演のレポートをまとめました。
UNREAL FESTで行われた講演のレポートやインタビューをまとめました。
GDCで行われた講演などのレポートをまとめました。
CEDEC+KYUSHUで行われた講演のレポートやイベントレポートをまとめました。
GAME CREATORS CONFERENCEで行われた講演のレポートをまとめました。
Indie Developers Conferenceで行われた講演のレポートやインタビューをまとめました。
ゲームメーカーズ スクランブルで行われた講演のアーカイブ動画・スライドやレポートなどをまとめました。
東京ゲームショウで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
BitSummitで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
ゲームダンジョンで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
日本と文化が近い中国でゲームを展開するための知見を、LeonaSoftware・グラティークの高橋 玲央奈氏が解説。
インディーゲームパブリッシャーの役割や活動内容などを直接インタビューします。