年に1回のリリースで生まれる“無限超パワー”が生き残りの秘訣。個人開発者じぃーま氏が語るゲーム開発戦略【IDC2024】

2025.01.10
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2024年11月30日、インディーゲーム開発者向けカンファレンス「Indie Developers Conference 2024」が実施されました。

その中から、本稿では個人ゲーム開発者としての開発の工夫や取り組む姿勢などさまざまなポイントが紹介されたセッション「ひとりで7年ゲームを作ってきた開発者の生存術」の模様をレポートします。

TEXT / ハル飯田
EDIT / 酒井 理恵

目次

広告費ゼロ、イベント出展ゼロでも生き残れる秘訣は「年に1本リリースすること」

本講演のスピーカーは個人ゲーム開発者の「じぃーま」氏。冒頭では自己紹介としてサラリーマンや雑貨店経営を経験したのち、趣味で作っていたゲーム『TimeMachine – タイムトラベル系仕送りゲーム』がヒットしたことをきっかけにゲーム開発者となったことが明かされました。

スピーカーを務めたじぃーま氏

じぃーま氏の手がけるタイトルは「広告費ゼロ」「イベント出展ゼロ」であり、一部作品の中国語版以外は「パブリッシャーなし」。そしてスマホゲームとしてリリースを続けており「SteamやSwitchでのリリースなし」と、さまざまなコストが省かれているのが特徴とのこと。

そうした環境で個人ゲーム開発者として7年間続けてこられたのは何故なのか。じぃーま氏はその要因を「年に1回リリースすると生き残れる」と表現し、これこそが本セッションの内容を集約したポイントであると明かしました。

新作のリリース時はメディア掲載やストアのランキングに入ることも多く、個人開発のゲームとしては大型アップデートより遥かに話題性もあることから「新作のリリース自体が一番の宣伝である」という考えを示したじぃーま氏。新作から過去作への流入へも期待できるため、じぃーま氏の作品には必ず「過去作へのリンク」が実装されています。

新作をリリースすることで過去作もプレイされるようになり、過去作をプレイした人には新作も遊んでもらえる。この作品同士でのユーザー流入をじぃーま氏は“無限超パワー”と命名。そして、この力を生み出すためには少なくとも年に1本のリリースが必要であるとし、じぃーま氏自身も「年に3本出したいといつも思っていますが、なぜか1本しか出せていない」状況であると語りました。

ファン獲得、コンテストへの継続参加――「年1回リリース」のメリット

世界観を統一すれば、ブランディングと開発効率化が同時に叶う

じぃーま氏の作品はすべて「優しい終末世界」というテーマで統一されています。文明が滅びた世界の中からあらゆる場面を切り取って、さまざまなジャンルのゲームを作っていく手法を採用しています。この方法は、設定を作品ごとに新しく考える必要がなくなるため、コンスタントなリリースが可能に。また、過去作を好きになってくれた人であれば、苦手なジャンルのゲームであってもプレイしてくれるそうで、そうしたブランディング効果も世界観を統一することで期待できるとのこと。

キャラクターが増えていくとユーザーのお気に入りとなる存在も増えます。過去作のキャラクターを新作に登場させるのは開発の視点では容易なことですが、ユーザーには僅かな登場でも喜ばれるようになることも世界観統一のメリットであると紹介しました。

2023年にリリースされた終末門番アドベンチャー『フラットマシン』

タイトルが伸びなくても、継続的なリリースによって得られるものがある

年1本のリリースを続けていくと、すべての作品がすぐにヒットするわけではありませんが「初速がダメでも気にしなくていい」と、じぃーま氏。何かのきっかけでヒットしたり、ロングテールでDLされて結果的に良い売り上げとなったりするケースもあるとのこと。さらに、前述の「無限超パワー」のおかげで次回作以降の流入も期待できます

また、じぃーま氏の経験則ではDL数が伸びなかったゲームは往々にして「ガリガリに尖っている」ため、ヒットした作品よりもコアなファンを獲得できる傾向にありました。長期的に見れば決して悲観することはないとの見方を示しています。

「DropPoint」はロボットに弁当を持たせて戦闘に送り出すゲーム。「自分でもよくわからない」と振り返りつつも、熱狂的なファンを獲得したとのこと

継続的なリリースはストアでの評価にもつながる

定期的なリリースのメリットに「応援してもらいやすくなる」ことも挙げました。じぃーま氏の作品はAppStoreの「今日のゲーム」にもよく掲載されており、同じ世界観でゲームを届け続けることで信頼を獲得できているのではないかと分析。

また、毎年新作をリリースしているためコンテストにも継続参加が可能で、2023年まで開催されていた「Google Indie Game Festival」には3年連続でTOP20入り。順位も年々向上していたことから、クオリティアップだけではなく繰り返しの出場によって信頼や評価を獲得できていた可能性にも言及しました。

「手数を増やす」ための工夫と心構え

このように数多くのメリットがある「年に1本リリース」する手法ですが、手数を増やすのは容易ではありません。そこでここからは開発における工夫を紹介します。

いつでも、どこでも、すぐに始められる環境を整える

じぃーま氏はリモートデスクトップアプリ「Parsec」と、遠隔で機器の電源をオン・オフできる「SwitchBot」を組み合わせて活用することで外出先からでも自宅のデスクトップPCを操作して開発できる環境を構築しているとのこと。

また、作業に取り組むにあたってはプログラムを最後まで書き切らないなど「作業をキリの良いところまで進めない」手法を取り入れています。もう少し進めると区切りが良いというタイミングであえて中断することで、再開した際にやることが明確になりスタートしやすくなるという手法を推奨しました。

コンスタントにリリースを続けるには作業効率だけでなくアイデアも求められます。じぃーま氏は2018年頃から現在に至るまで1冊365ページのノートを活用し、ゲームに関わるアイデアでない内容も含めてとにかく書き記して発想をまとめています。過去にはノートアプリを使用したこともあるとのことでしたが、ネットワークを必要とせず何気なく読み返せる強さもあり、紙媒体に利便性を感じているそうです。

イベント出展、バズ狙い、海外市場――議論になりがちなトピックをどう考える?

近年ゲーム開発者の中で話題となるイベント出展についても「吟味して出展すべし」と紹介。イベントの出展自体は効果的で素晴らしいと思うものの、じぃーま氏は「出展そのものにエネルギーを割くことによって自分が燃え尽きる」ことが分かっているので出展はしていないとのこと。出展する時間を使って開発することも重要だと考えているそうです。

人前で話すだけで疲れてしまうので、イベントに出展すると数日は動けなくなると話したじぃーま氏

数多くのゲームをリリースするにあたっては「バズ狙い」が話題となることも多い昨今。ゲームのインパクトと中身どちらを優先すべきかという議論も行われるポイントです。これについても「正直どちらでもいい」との見解を示しました。バズるか否かは予測できないものであり、今すぐ作りたいと思うなら取り組むべきで、バズりそうなアイデアでもモチベーションが上がらないのであれば開発しなくても良いと語りました。

バズ、つまり反響についてはじぃーま氏の作品も有名ゲーム実況者に取り上げられたことも数多くあるとのこと。しかし、売上については「ガッと伸びてグッと下がる」ため、実は大きな変化はないとのこと。大きな反響はモチベーションの向上にはつながるものの、頑張って狙う必要はないと結論付けられました。

時には「テキスト主体のゲームは欧米で受け入れられない」というイメージが語られることもありますが、じぃーま氏の『パラサイトデイズ』は日本とアメリカの売り上げは同等であったことから必ずしもその通りではないとも主張。

テキスト主体の作品はリッチな演出をする必要もなく便利であるとも語り、全体を通して反響やイメージに固執せず、作りたいと感じたものを開発していくことが手数を増やすために必要な意識として紹介しました。

リリース後の落とし穴「アップデート対応」も見越した開発を

これまで10作品をリリースしてきたじぃーま氏ですが、過去には開発に使用していたエンジンのサポートが終了してしまったこともあったとのこと。長くサポートが続きそうなゲームエンジンを選ぶべきであると紹介。
セーブデータの管理などシステム面のアセットは、リリース後のアップデートを実施する段階で、アセット側がゲームエンジンのバージョンアップ対応が進んでおらずビルドに失敗してしまうこともあるとじぃーま氏。定期的にメンテナンスされているアセットを選ぶことを推奨しました。

Google Playでは2年間アップデートがなければストアから消えてしまうため、定期的なアップデートが必要となりますが、数多くの作品をリリースしているとアップデートの大変さも増していきます。そこでじぃーま氏は過去作のゲームエンジンとプラグインをすべて同じバージョンに揃え、アップデートのエラーも「1つ解決できれば他の9作品も対応できる」状態にすることで対応しています。たくさんの作品をリリースする際には「簡単にアップデートできる」ことは見逃されがちな強さであると強調しました。

今こそ注目すべき「2Dスマホゲームづくり」の魅力

近年はスマートフォンの性能が上がっているため最適化の手間が少なく、開発しやすい環境になっていることを紹介。また、日本ではあまり意識されないものの、国によってネットワークインフラの整備状況は異なるため、サイズが大きなゲームはダウンロード段階で断念されてしまうこともあると言及。海外展開を考えるとダウンロードサイズが小さな2Dゲームに大きなメリットがあるとも語りました。

Android向けアプリでは個人用デベロッパーであっても「20人以上のテスターを集め、14日以上連続でオプトインしてクローズドテストを実施すること」が課せられるなど、プラットフォームの参入障壁が高まっているとの声も聞かれます。

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しかし、じぃーま氏は「手順を踏めば解決できる問題で敬遠されているなら逆にチャンスでは」と指摘。

過去に「これまでで一番楽しかった」との反響も寄せられたことにも触れ「コンパクトな作品でも工夫次第で人を楽しませるコンテンツを作れる」ことをアピールし”2Dスマホゲーム開発の同志”を募りました。

じぃーま氏が個人で運営する「合同会社ズィーマ」のリリース済み作品一覧(画像はApp Storeより引用)

Discordでは別のゲームの話題ばかり。それでもコミュニティが大事な理由

チャットツール「Discord」上でじぃーま氏が運営するサーバーでは、朝になると「ウデムシ!」と挨拶するなど過去作品の世界観を引用した文化が形成されており、これも積み重ねた世界観によるブランディングの一種であると紹介。

ちなみに、サーバー内で一番盛り上がっているのは「おすすめゲーム紹介」チャンネルであり、他のゲームばかりが紹介されている状況とのこと。しかし、軽微な問い合わせにサーバー参加者が対応してくれることも多く、サーバーを自由に運営していることで結果的に個人開発で負担となりがちな問い合わせ対応のコストを軽減できていると明かしました。

長く開発を続けていくために

健康あってこその開発

「本講演の2つ目に重要なポイント」として紹介されたのは“健康”について。セッションでは肝機能が「E」判定となったじぃーま氏の人間ドックの結果も紹介され、健康のために「太陽の下を散歩しましょう」と強調。じぃーま氏が15分程度のプレイで吐き気を催すほど疲労したVRボクシングゲームも紹介しながら、心と体を健康に保つことの重要性が語られました。

特に目の健康については、夕方になると視界が霞むような症状を感じていることから、「Meta Quest 3」を活用してAR画面での開発にもチャレンジしているとのこと。医学的なエビデンスはなくゴーグルの重たさや充電の問題もありながらの取り組みではあるものの、強く疲労を感じていたドット絵作業などで効果を実感しているそうです。

バグ修正、広告出稿など7年間の個人開発における失敗談

趣味もバグ修正も、やりこみすぎには注意

過去にはごく一部の旧型端末でのみ発生するバグに遭遇し、再現のために中古端末を購入して2週間ほど調査。結果としてGoogle Play側のとある設定でクラッシュしていると判明し解決に至りました。
しかし、世界レベルで数名しか影響がなかったため知人からは「その端末を動作保証外にする」ことが最適だったと指摘されたことを明かしました。当時のじぃーま氏はバグ解決時の爽快感を求めて取り組んでいて、時間を顧みず対処にハマってしまったと振り返っています。

また、入力速度の向上を求めてさまざまなキーボードを試してきたというじぃーま氏。いろいろなタイプのキーボードや「かな入力」を試すなど夢中になって「自作する一歩手前」までハマっていたそうです。しかし、これも趣味としては最高に楽しいものの処理速度の向上のために時間をかける部分ではないと気づいたと苦笑しながら明かしました。

終始ユーモアを交えながら楽しくセッションを進行したじぃーま氏

広告出稿は慎重に

スマホゲームには付き物の広告。動画広告データがエラーを起こし、広告が流れていないにもかかわらず音声が再生されてしまうバグなどに遭遇したことや、広告出稿の設定に失敗して多額の損失を出してしまったこともあったとのこと。

広告サービスによっては、サービスのバグが多いものもあるとじぃーま氏。リリースしても広告による利益があがらなかったにもかかわらず執拗な営業を受けることがあったと大変な経験を振り返りました。

ローカライズは結局プロがお互いにとって良いことが多い

安価なローカライズを依頼して機械翻訳の文章が戻ってきた失敗経験などから、現在は「お金はかかってもプロに任せた方が良い」という結論に至っているとのこと。
海外ファンからローカライズをさせてほしいとの連絡が来ることも多いそうで、実際に『パラサイトデイズ』のトルコ語とスペイン語は有志の方の翻訳で実現していますが、このように成果につながるのは送られてくる連絡のうち「1%以下」とのこと。

じぃーま氏の作品は基本的に日本語と英語対応ながら『パラサイトデイズ』では有志の力でスペイン語とトルコ語にも対応(画像はApp Storeより引用)

急に連絡が取れなくなってしまうケースがほとんどだとじぃーま氏。そのことについて結果的に、自身のゲームが好きで翻訳しようと思ってくれた人に良くない体験をさせてしまったという反省から、現在はファンからの申し出もすべて断るようにしていると述べました。

作りたい衝動に従って培った経験が自分を助ける

ここまで「年に1本リリースする」という大きなポイントに向けて開発の工夫や取り組む姿勢などさまざまな要点が紹介された本セッション。最後にじぃーま氏はまとめとして「ひとりイズ最強」であると語ります。個人開発にはスキルを磨いていくことが求められるものの、やっているうちに向上してくるもので、足りないスキルを身に着けて出来るようになることが「ものづくりの楽しさ」であると結論付けました。

じぃーま氏は他の開発者との交流も少なく、基本的にはオンラインだけのつながりで、実際に会うことはほとんどないとのこと。毎日開発に関するポストや売上げの投稿が目につき、仲良く交流を深めている姿も見られるSNSを「毒」と表現しながらも、やはり完全に見ないのは不可能で辛い思いをしていると語りました。
交流などをせずとも「このように7年もやっている人間もいるんだというのを知って欲しかった」というのも本セッションで伝えたいことのひとつであると述べました。

最後にじぃーま氏は開発で一番大事にしていることは「作りたい衝動を大事にする」ことだと述べました。過去にはゲーム作りより絵を描くことに夢中になっていた時期もあったものの結果的に役に立っており、無駄な経験はないと強調。最近はプラモデルを作りながら開発しており、「なんでプラモデル作っているんですか」と聞かれると苦しいものの、モチベーションには素直に従うようにしていると笑いを交えて語りました。

「ひとりでやる」ためには「年1でリリースする」ことで“無限超パワー”を生み出すことが重要であり、そのためのポイントや秘訣が独自の視点から数多く紹介された本セッション。じぃーま氏は改めて「2Dスマホゲーを一緒に作りましょう」とアピールし、参加者に向けて「スマホゲーを作るか、そうでなければ健康のために太陽の下を歩いてほしい」と呼びかけ、講演の結びとしました。

じぃーま氏 Xアカウント「Indie Developers Conference 2024」公式サイト
ハル飯田

大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。

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