2023年3月23日に、『フォートナイト』のクリエイティブモードを拡張するかたちで登場した完全無料のPC向けゲーム制作ツール「Unreal Editor For Fortnite(以下、UEFN)」。
これって実際どうなの? ゲーム開発ビギナーでも楽しめる? どんなものが作れるの? こうした率直な疑問を解決するため、ゲームメーカーズ編集部4名が実際にUEFNを触って遊んでみました。
2023年3月23日に、『フォートナイト』のクリエイティブモードを拡張するかたちで登場した完全無料のPC向けゲーム制作ツール「Unreal Editor For Fortnite(以下、UEFN)」。
これって実際どうなの? ゲーム開発ビギナーでも楽しめる? どんなものが作れるの? こうした率直な疑問を解決するため、ゲームメーカーズ編集部4名が実際にUEFNを触って遊んでみました。
TEXT / 酒井理恵
EDIT / 神山 大輝
神山
ゲームメーカーズ編集長。ゲーム開発経験はあるが、UEFNはリリース時に触ったきり。フォートナイトも初心者。
神谷
編集部の最年少メンバーにしてエース。UEFNに詳しく、唯一Verseが書ける。
藤縄
編集部で一番インディーゲームに詳しい。「良薬口に苦し」の精神でたまに毒を吐く。
酒井
アクションゲーム全般が苦手。大体のボス戦の勝敗は装備できる回復アイテムの数で決まる。
神谷
そもそも、皆さんは『フォートナイト』ってやったことありますか?
藤縄
職場の人と何回かバトルロイヤルをやったことがあるぐらいかなあ。建築が絡んでくると難しい……
神山
俺も最初は仕事関連で触った記憶があるな。ゲームを仕事にしている以上、主要なタイトルは遊ぶようにしているから
酒井
この流れでとても言いにくいんですけど、私はアクションゲームが苦手で実はやったことがないんです。マリオも序盤で死ぬタイプなんで、参加しても即死なんだろうなって……
神谷
酒井さんみたいな人には今日これからやるUEFNのほうが向いてるかもしれないですね。自分で島を作るモードなので
酒井
前から疑問だったんですけど『フォートナイト』って「クリエイティブ」モードでも島は作れましたよね? UEFNと何が違うんですか?
神谷
UEFNはアンリアルエンジンの機能が使えるようになって、もっと自由度の高い島が作れるようになったんです
神山
クリエイティブモードはリリース当時に触ったけど、その時は「板で作ったコースを走って、ゴールするとタイムが出る」というシンプルなゲームも半日くらい掛かった記憶。Ctrl+Zも使えなくて、最後は間違えてデカい船を真ん中に配置しちゃって全てが終わった……
神谷
つらい……。ちなみに、UEFNならCtrl+Zも使えますよ
神山
それだけでもう十分くらいの進化に感じる。ちなみに、UEFNだと自分の操作するキャラも変えられたりする?
神谷
それは……変えられないんですよ~
藤縄
UEFNが『フォートナイト』の島としてプレイするから? 『フォートナイト』だとスキンは課金要素だよね
神谷
かもしれませんね。最初からきちんと動く3Dキャラクターがあるのは、ゲームを作るうえで助かります
ここから実際に編集部員がUEFNに触ってみることに。編集部内でUEFNの先生的立場である神谷さんがあらかじめ作っておいた島のテストコースをプレイしてみます。
酒井
神谷さんの作った島をプレイするために私たちが準備しておくことはありますか?
神谷
まず、前提としてEpic Gamesアカウントの作成、Epic Game Launcherのインストール、『フォートナイト』と『UEFN』のインストールが必要ですね。それから今回のパーティーでホストになる僕と『フォートナイト』上でフレンドになっておいてください
神谷
次はチームへの参加ですね。公開されていないUEFNの島をプレイするにはチームに参加する必要があります。これがちょっと大変で、チームに参加できるのは18歳以上なので年齢確認がいるんです
酒井
年齢確認ってどうやってやるんですか?
神谷
「顔のスキャン」か「本人確認書類のスキャン」か「クレジットカードまたはデビットカード」の3種類から選べます。年齢確認ができたら、チームに招待しますね
酒井
招待リンクをクリックしました。クリエイターポータルの画面になりましたよ
神谷
そうしたら、次は「チームへの参加」をクリックしてください!
神谷
チームに参加できましたね。それじゃあ、自分からセッションに招待しますね
神谷
皆さんはセッションに参加する側なので『フォートナイト』を起動してください。起動したら、フレンド一覧から僕のアカウントを選択して「ゲームに参加する」をクリックです。準備ができたら、テストコースを遊んでみてください!
神山
あれ? 変なところでリスポーンしちゃった
神谷
あ、茂みの間に引っかかるとこですね
藤縄
……これ、そういうギミックなの? 初見殺しだ
神谷
いや、普通にミスです。
スタートはもうちょっとスムーズにできるようにしたほうが良いですね
神山
このくらいシンプルでも、マルチプレイならワイワイ盛り上がるね。普通のゲーム開発だとマルチプレイ設計って大変だけど、UEFNはフォートナイトがベースだから特になにも考えなくてもできちゃうかも。
……ところで、途中からギミックがないのは制作中に力尽きたの?
神谷
そこは……要改善ポイントですね。これから作りましょう
藤縄
ゴールしました~
神谷
えっ、藤縄さんもうゴールしたんですか? 全然わからなかった……
酒井
みんな早いな~
神山
そういう酒井さんは……あれか
オリジナルの島を手軽に複数人で遊べるのがフォートナイトの良いところ。ここからは、テストコースをより良くするためのブレストを行います。
藤縄
達成感があまり感じられないのが気になったかな。ゴールしたら花火とか上げられない?
神山
たしかに、藤縄さんが最初にゴールしてたのが、他の人からよくわからなかったよね。そういう意味でもなにか演出があったほうがいいかも
神谷
花火を打ち上げるのは結構簡単にできると思いますよ!
藤縄
じゃあお願い~。あと、これって、中間ポイントも作れたりします?
神谷
チェックポイントパッドを置けば作れます
藤縄
あ~、それならそういうポイントが欲しいかも。途中で間違えて落下したら、スタートからやり直しはちょっと嫌だから、コースの山場ごとに配置してみますわ
酒井
私はアクションがやっぱり苦手で、ボールが転がってくるところでかなり時間を取られました。
避けるだけじゃなくて、プレイヤー側にもなにか攻略手段作れませんか? 大きな盾やバリアを出して、ボールを防ぎながら進む……とか
神谷
うわ~、その仕組みをUEFNで作るのは結構難しいかも
酒井
じゃあ、プレイヤーがボールを壊せるようにする、だとどうですか?
神谷
ツルハシをうまく振ったらボールを弾き返せるとかはできるかもしれないです。あとは建築で壁を作るとか、乗り物ですかね?
酒井
絶対うまく乗りこなせない自信があるので、乗り物は却下でお願いします
神谷
え、え~と……それじゃあツルハシですね
神山
あとは、どうしてもクリアできない人用に「時間はかかるけど楽に行ける横道」があるといいかもね。最短ルートは険しい道で、どうしても無理な人には救済ルートがあるよ、みたいな
酒井
道といえば、プレイ中にボールが転がってくる坂の後が、ただの道になってるという話もありましたよね?
神山
じゃあ、そこは酒井さんが昔マリオでクリアできなかったギミックを置こう。過去を乗り越えよう
酒井
(……余計なこと言ったな……)
神山
俺は、初回プレイの割にするっとクリアできちゃった感があったんだよね。序盤のボールの落ちてくる間隔が思ったより空いてるからかも? ただ走っているだけで抜けられちゃった
神谷
確かに、ボールが落ちる間隔は短くしてもいいかもしれませんね
神山
あと、せっかく『フォートナイト』なんで、NPCを置いて撃ち合いやってみたいんだよね。NPCを倒したら鍵が手に入る、とかシューターゲームっぽいところを1つ作りたい。
今のままだと、先にボールのギミックを越えた人には絶対追いつけないから、もう1つ山場を作る意味でも
藤縄
その場合、最初のプレイヤーが鍵を手に入れて扉を開けた後って、他のプレイヤーどうなんの?
神谷
ずっと扉は開いたままになっちゃいますね。それでもいい気もしますが
藤縄
1番最初に着いた人に時間をかけさせるってことね。でも扉のすぐ手前で待ち伏せされたら……
神山
誰かが鍵を開けた瞬間に、開けたプレイヤーを狙い撃ち……となるか。あんまり良くないかも
神谷
ステージを分けておいて、5体NPCを倒したらテレポーターで先のステージにテレポートする……とかはどうでしょうか? 条件を満たすとテレポーターが出現するのも、倒した瞬間にテレポートするのも、どっちもできるので
神山
じゃあ、NPCを5体倒したら、次のところに進めるようにしよう
編集部によるステージのアレンジ案が固まってきました。これを数時間でどこまで実装できるかを試してみることにします。
UEFNの特徴(※)の1つに、編集モードに入れば複数人でゲームの編集ができることが挙げられます。今回は、UEFNのこの機能を使ってみんなでゲームの改修をしていきます。
※ 共同編集の機能は『フォートナイト』のクリエイティブモードでも可能
神谷
みんなで作業を行うには、各々が個別にUEFNで編集し、UEFNの機能「Unreal Revision Control」で編集内容をチームの皆に共有する流れで行います
神山
勝手に作業していいんだ、じゃあ俺はホワイトボックス(グレーボックス)でNPCとのバトルエリアを作ってみるか
神谷
ホワイトボックスから作らなくても、既存のアセットがたくさんありますよ。
コンテンツドロワーを開いて「All > Fortnite」を開いてください。そこの「Prefab」フォルダか「Props」フォルダに、建築物のアセットがたくさんあります
酒井
じゃあこの「ピラミッド」っていうの置いてみますよ
神山
いま置いたお豆腐はどうしたらいい?
神谷
お豆腐はスペース的に邪魔なので削除しましょう
このように『フォートナイト』の既存のアセットを使えることはUEFNの恩恵の1つ。さらに、UEFNでは3Dモデルや音声素材などを集めたマーケットプレイス「Fab」の数千に及ぶアセットが使用できます。
神山
このピラミッド、コースの真ん中辺りでバランスもいいし、高台にしよう。ここ陣取ったら、追ってきたみんなを倒せる……!
酒井
なんかゲーム性変わってません?
でもピラミッドは移動してもう少し大きくしときましょうか……。あれ? 神谷さん、このピラミッドを動かすにはどうしたらいいですか? パーツで動いちゃいます
神谷
「Prefab」フォルダから設置したアセットはグループ化されてるはずです。アウトライナーの上のほうまでいって、統括しているアクターを選択してください。ちなみに、このアクターを削除すると、子アクター(子prop)も全部削除されます
藤縄
これ、もしかしてピラミッドの中も作られてる?
このクオリティで無料で使えるのすごいな
神谷
この辺で、1回変更を「チェックイン」してみましょうか
酒井
チェックイン?
神谷
いわゆる同期作業ですね。ピラミッドを作成した酒井さんのデスクトップで保存してから「チェックイン」してください。みなさんのデスクトップにもピラミッドが現れるはずです
GitHubなどの操作に慣れている人には、個々が行っていた変更を元のプロジェクトに反映するときのコマンドとしておなじみの「コミット」の操作です。UEFNでも同じような操作感で個々が行っていた変更をプロジェクトに反映できます。
神谷
変更を反映する酒井さんは、右下の「変更をチェックイン」を押してください。「ファイルをサブミット」という画面が開くので、今回の変更点について何かコメントを入力して「サブミット」を押してください
神谷
酒井さんのチェックインが完了したら、他の皆さんは画面右下の「最新を同期」をクリックしてください。チェックインした変更が反映されるはずです
チェックインがうまくできることもわかり、各自改修作業を進めます。
神谷
藤縄さんの花火エフェクトはビジュアルエフェクトスポナーでいいかな。こんなイメージで合ってますか?
藤縄
あー、そうそう。そういうの。色って変えられる?
神谷
この辺の設定で変えられるっぽいですよ!
酒井
神山さん、めっちゃ仕事してる感ありますね。いま、何してるんです?
神山
これはクリーチャーを配置してるところ。エディタもUEっぽいし、なんとなくで触れる気がするね
神谷
藤縄さん、動く床にしたいアセットありますか?
藤縄
なんで? UEFNの動く床のアセットはないの?
神谷
ないんですよ。アセットを動かす仕組みはあるので、それで対応しようかと……。
動物がいいですかね? でも無料で使えるものがない……
藤縄
動物……つまり、床っぽい見た目である必要はないってこと……?
神谷
はい、そうですね。……ハンバーガーとかにします?
あ、いい! いい感じになりましたよ! かわいいぞ、これは!
神山エリアを実装するため、「Verse」というUEFNで使えるプログラミング言語で「敵を5体倒したら次のエリアに進む」という処理を書き進めます。しかし……。
酒井
神谷さんが……泣いてる……
神谷
僕の想定していた方法で、クリーチャーを倒したプレイヤーの情報が取れません……。どうしよう。終わりです。
全員が5体倒したら次のエリアとかではダメでしょうか?
神山
終わっちゃった。じゃあ、協力プレイに変更して、全員で10体ぐらい倒す仕組みにします?
神谷
そうします!
UEFNやその中で動くプログラムVerseはまだできたばかりであるため、こうした「取りたいイベントが取得できない」ということもあり得ます。現段階では、できる方法を無理に探すよりは別の手段に臨機応変に切り替えていくのがUEFNでゲーム制作する際のコツだそうです。
他にも、プレイヤーが上に乗ると落下するちくわブロックの実装で、こんな場面もありました。
藤縄
ちくわブロックの横のパイプみたいなのは何?
神谷
これは僕の作り方の問題もあるかもしれないんですが、プレイヤーが上に乗った判定が作れるのがこの矢印の床の仕掛けしかないんですよ。ただ、この仕掛けは単体で位置を動かすことができないんです(※)。それで、床の仕掛けを、移動させられるパイプのアセットにアタッチし、連動して落下するように実装しています
※ 収録時点のバージョンにおいて
「実装できないかも……」と思っても、使える機能を組み合わせれば力技で実装することもできそうです!
そうこうしているうちに、アレンジ案が完成! 再プレイしてみます。
神山
それっぽくなった気がする! というか難易度が劇的に上がった気がするけど、クリアできるかな?
藤縄
ハンバーガーのオブジェクト、ちょっと斜めになってるから滑る……目も痛い
酒井
クリーチャーのところ「敵を10体倒せ!」ってメッセージ出ますね! 早速殴られて死んじゃいましたが、ちゃんとリスポーンもします
神谷
酒井さんが置いてた植物もいい仕事してるんですよね……。クリーチャーと戦っている時も結構ジャマで、進行方向が遮られます
神山
あれ? これピラミッドを銃で壊しちゃったら壊れたまま?
神谷
そうです、あんまり撃たないでください! あ、あと床も!
神山
やばい、詰んだかも。階段壊しちゃった
神谷
そうなると、壁をよじ登るしかないですね……
神山
……やっぱりこれ難しくなりすぎてない? 酒井さん絶対クリアできないよ
その頃、アクションゲームが苦手な酒井は自分でこっそり設置した通風口の仕掛けを踏み、高く飛び上がって一気にゴールまで辿り着きました。
簡単に行ける回り道ルートを作る時間がなかったのですが、チートアイテムのおかげで助かりました! めでたし、めでたし。
神谷
皆さん、お疲れ様でした! 再プレイしてみていかがでしたか?
神山
アレンジも完成とは言えないけど、難易度曲線というか、ギミックを出す順番が大事だなとは感じた。序盤のハンバーガーが明らかに難しすぎる
藤縄
難易度の合わせ方は結構難しい……
神山
あと、みんなでゲームをリアルタイムにプレビューしながら編集するのって意外と面白いかも。NVIDIAのOmniverseみたいな、そういうモダンな思想を感じる
神谷
作る側としては、テレポーターやチェックポイント、それに敵のようなプレイヤーの動きに連動する仕掛けが最初から用意されているっていうのは大きいです。初心者でも調べるのをすっ飛ばして、ポンって置くだけで作れますから
酒井
神谷さんは今回、コードはどれぐらい書いたんですか?
神谷
ゴールの仕組みは数行書いたぐらいですね。仕掛けを登録して、仕掛けがプレイヤーを検知したら、今何人ゴールしたかカウントを増加させました。
今回Verseで書いたのは仕掛けとの連動を強化するところだけです
藤縄
ちなみに今回のゲームをUEで作ると、時間どのくらいかかる?
神谷
モデルは既存のものを使ったとしても1か月はかかっちゃうかもしれないですね。武器や装備、叩けば物が壊れる仕組みが初めからあるのはかなり嬉しいです
神山
結局今回のアレンジ分も使ったの3時間ぐらいだもんな……
神谷
UEFNは『フォートナイト』の枠組みから外れなければすごく速く作れる優秀なツールになると思います。
プロトタイピングにも使えるかもしれません
神山
あとは、中学や高校の創作教育でUEFNを使った「ゲームづくり」をしてみる、みたいな使い方も面白そう。生徒30人いたら個性でそうだよね。これならゲームづくりの楽しさを感じ取るまでのハードルが相当低くなるはず!
結論:3時間で、みんなでゲーム作って遊べました!
神山
ゲームメーカーズでUEFNの書籍も出しているので、よろしくお願いします!
ゲームメーカーズ編集。その他、ソーシャルゲーム、ボイスドラマ等のフリーのシナリオライターとしても活動中。突き抜けた世界観のゲームが好き。
『サガ・フロンティア』のアセルス編などのゲームを心のバイブルにして生きてます。
西川善司が語る“ゲームの仕組み”の記事をまとめました。
Blenderを初めて使う人に向けたチュートリアル記事。モデル制作からUE5へのインポートまで幅広く解説。
アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏が、ボードゲームの企画から制作・出展方法まで解説。
ゲーム制作の定番ツールやイベント情報をまとめました。
CEDEC2024で行われた講演レポートをまとめました。
BitSummitで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
ゲームメーカーズ スクランブル2024で行われた講演のアーカイブ動画・スライドをまとめました。
CEDEC2023で行われた講演レポートをまとめました。
東京ゲームショウ2023で展示された作品のプレイレポートやインタビューをまとめました。
UNREAL FEST 2023で行われた講演レポートをまとめました。
BitSummitで展示された作品のプレイレポートをまとめました。
ゲームメーカーズ スクランブルで行われた講演のアーカイブ動画・スライドをまとめました。
UNREAL FEST 2022で行われた講演レポートやインタビューをまとめました。
CEDEC2022で行われた講演レポートをまとめました。