ゲーム業界で必要なスキルは職域を問わず定義が難しく、会社規模やゲームジャンルによっても仕事内容は大きく変化します。今回は「エンジニアとして活躍できるプログラミングスキル」にフォーカス。ゲーム業界で活躍する人材育成を行う『C&R Creative Academy』が定めるカリキュラムと学習ロードマップから、ゲームクリエイターにとって大切な技術力を紐解きます。
INTERVIEW & TEXT / 神山 大輝
INTERVIEW / 佐々木 瞬
目次
佐藤 浩平
C&R Creative Academyの責任者。2018年より同アカデミーを立ち上げ、2021年にGame Engineer Academyを新設、運営を行っている。同アカデミーから業界就業する人材は年間100名を超える。
今後は日本No1の就業数を誇るスクールを目指している。
亀井
北海道の機械メーカーでシステムエンジニアとして勤務した後、ゲーム業界への興味からアカデミーを受講。Unreal Engine経験歴は1年程度。現在、C&R社のOX ENGINEER STUDIOで就業中。仕事の休み時間もゲームをプレイし、日々研鑽を積んでいる。釣りと温泉が好き。UE5の機能ではChaos Destruction が気になっている。
中村
大学、大学院時代は建築を専攻。プロシージャルデザインを用いて建築形態をデザインする研究をしていたが、その中でゲームエンジンに興味を持ち、ゲーム業界に入りたいと決意。プログラミング、ゲーム業界未経験からどうやったら業界に入れるかを考え、アカデミーを受講。現在はC&R社のOX ENGINEER STUDIOにて就業中。
――自己紹介をお願いします。
佐藤:C&R Creative Academy(以下、アカデミー)責任者の佐藤です。今から4年前にアカデミーを立ち上げ、今も運営責任者として従事しています。今日はよろしくお願いします。
亀井:アカデミー卒業生の亀井です。今はUIプログラマーとしてゲームに関わっています。私自身は水産加工機械のメーカーにシステムエンジニアとして入社し、研究職として働いていました。その後、ヒストリア監修の「プランナーブートキャンプ」で初めてアンリアルエンジン(以下、UE)を触り、その流れでアカデミーに入りました。ゲーム好きだったことと、無料で挑戦できることが入学の理由になります。
中村:同じく卒業生の中村です。大学院では建築学を専攻しており、プロシージャルデザインというプラグラミングで形態を作るような研究を行っていました。研究ではGlasshopper、趣味でHoudiniを使っており、次第に「建築だけでなく、ゲーム業界でもプロシージャル技術が活かせるのでは」と考えるようになりました。
ただ、Houdiniはエンジニアとデザイナーの中間に位置するようなツールなので、就職活動においてもどちらで応募するか迷っていました。そんな中でアカデミーを知り、まずはエンジニアとして技術を高めようと思い、入学を決意しました。入った時点ではプログラミングは未経験でした。
佐藤:アカデミーは、3DCGやプログラミングの技術を無料で学ぶことのできる教育機関です。今日ご紹介するエンジニアクラスや、3DCG、エフェクトなど、さまざまなコースを用意しています。
コンセプトは「どんな環境、どんな職業に就いている方でも、本気であればプロを目指せる」というものです。現場経験が豊富な講師とコミュニケーションを取りながら、約4ヶ月から1年という期間で専門知識を学び、業界で活躍できる人材の輩出を行っています。
"プロ"として通用するエンジニアスキルの定義
――業界で活躍できる人材の輩出、これはつまりプロとして通用するスキルを定義しているように思います。アカデミーが考える「ゲーム業界に入れるだけのエンジニアスキル」という部分について詳しく教えてください。
佐藤:ゲームエンジンが台頭している時代ではありますが、それ以前の基礎としてC++のスキルは必須であると考えています。また、ゲームエンジンを用いて「簡単なものでも良いので、一人でゲームを作りきる」という経験も必須だと考えています。
お二人が参加していたときとカリキュラムは少し変わっていますが、大枠として「C++を学習する」「C++でゲームを1本作る」「ゲームエンジンを用いて作品を2本以上作る」という根本の部分は変わっていません。
――短期間で3つ以上のゲームを作るというのはかなり無茶な感覚もありますが、お二人はそれを終えて卒業しているわけですよね。その部分はあとで紹介していただくとして、まずC++について、どういった手順で学習していくのでしょうか。
亀井:最初は制御文、ゲームのメインループなどの基本的な部分を学習し、キー入力やswitch文、タスクマネージャーのシステムを最初の2週間ほどで学びます。
その後、ドットイートゲームを作成しながらオブジェクト指向やクラスの概念を学び、インターフェース、純粋仮想関数が使える辺りまでで2ヶ月ほどの学習期間になります。
――制御文からいきなりドットイートはかなり厳しい気がするのですが、プログラミング未経験だった中村さんも問題なく作れていたのでしょうか。
中村:私は本当に経験がなかったので、1日16時間くらい勉強しましたね。大まかなクラス図が示されるので、それを見ながらドットイートをどう実装していくかを考える必要がありました。その後、講師の方のコードレビューを経て、間違っているところを指摘していただくという流れです。大変ではありましたが、講師の方が常駐してくれているので、丁寧に教えていただけました。
佐藤:講師は業界歴の長いプロフェッショナルの方が多いです。積極的に質問をすれば必ず返ってくる環境を作っています。とはいえ、運営側としては難易度的にギリギリを攻めてしまった感覚もありましたので、現在はもう少し段階を追って学習ができるようにフェーズ制度を設けています。今はC++基礎①、C++基礎②と段階を経てドットイートに入りますので、その点は安心していただきたいです。
――カリキュラムも結果に応じて柔軟に変更しているということですね。「C++基礎」で学んだスキルは、現場でもしっかり活きていますか?
亀井:アカデミーでやったことは基礎中の基礎ですが、逆に言えば基礎が分からないとコードがどういう構造かすら見えてこないんです。継承やインターフェース、基本的なオブジェクト指向が身に付いていたので、コードを分解して読む能力は養えていたかなと思います。
中村:まさに仕事の基礎となる部分を学んだという感覚ですね。
――ちなみに、アカデミー卒業生であり、現在はプロとして活動するおふたりの考える「現場に出るにあたって必要最低限なプログラミングスキル」はどの程度と認識していますか?主観で良いのでお答えください。
亀井:開発に使用する言語の中級くらいの本に書いてある内容が一通り頭に入っていて、知らないことは適宜自分で調べることができる知識と、ミニアプリを自作できる程度のスキル感があること。設計思想の説明ができて、コメントをきちんと残せる能力や経験、ツール類に関しても適宜調べながら使用することができる、この辺りのスキルが必要だと考えています。
中村:業務を進めていくうえでは、他の人が読んでも理解できるコードを実装することが必要最低限のプログラミングスキルだと思います。現場のプログラミングは当然ながら一人で仕事をすることはなく、他の方が書いたソースコードを使うこともあれば、自分が実装したコードが使われることもあります。
他の人が理解できるソースコードを実装する技術、それに加えて人のコードを理解する力は最低限、現場で求められることだと思います。
開発体験を経て「クリエイターとしての自覚」を養っていく
――C++を学んだ後はUEでのゲーム制作に進むわけですが、どういった作品を作るのでしょうか?
亀井:最初はシューターゲームを作って、その後にインベントリシステム(所持アイテムの管理システム)の作成課題がありました。2つ目は見下ろし型のダンジョン探索ゲーム、3つ目は完全に自由な創作課題となります。シューターゲームの際はアカデミーからキャラクターアセットが配布されて、ダンジョン探索ゲームの際はタイルマップや宝箱、鍵などのモデルが配布されるという形で、これを用いて実際に開発を行うという流れでしたね。
中村:テーマこそ決まっていますが、その中で別の遊びの要素を入れるなどでオリジナリティを出していきました。私はシューターゲームにおいてはマップの自動生成をやってみたくて、迷路自動生成のアルゴリズムをUEで作ってみたのですが……講師の方からは「自動生成だと敵と遭遇できないのでは?」というフィードバックもあって。最終的に自動生成の迷路風フィールドで敵を見つけて殲滅するゲームに落とし込みました。
亀井:受講生全員、作りたいと思ったゲームを企画として講師に見せ、承認を得てから作るという流れになっています。スケジュール管理も含めて、まずは資料を作ることから始まります。「この期間だと難しいからこの機能は削ろう」、「このタスクはこの工数では難しいけど、見通しは立っている?」などを1対1でフィードバックしていただきながら、企画を叩き上げて行きます。3作品全てでその工程を行います。
ちなみに、私は拠点型防衛ゲームを最初に作りました。限られた工数で作るには良い題材だと思い、自陣の旗を目指して歩いてくるエイリアンを撃つというタワーディフェンス的なシューターゲームを作りました。
他の2つはアクションRPGのような感じで、シンボルエンカウントとバトルのシステムを1から作ってみるなど、それぞれ新しい挑戦をしています。
佐藤:それぞれ作る作品を区切っているのは、迷わせないためです。「幅広く何でも作って良い」だと企画の段階で時間が掛かりますので、あえて選択肢を狭める意図でやっています。現在はお二人が受講していた時よりは作品点数を絞り、いくつかのジャンルから選んでもらうシステムに変更しています。
1作品目は基礎、2、3作品目は就職活動のポートフォリオに使えるものにしています。みんなが同じ作品では見る側も困りますし、一点勝負では判断が難しいケースもあります。基礎を学んだうえで、ある程度オリジナリティが出せる課題にしています。
――C++の基礎がある状態でUE開発を行うので、理解も早そうですね。
亀井:C++をやっていなかったら、アクターの配置などオブジェクト指向としての考え方を自分の中に落とし込めなかったと思うので、その意味ではスムーズに進んだと思います。
中村:タスクの概念もありましたし、実装面では大いに助けられましたね。やはりオブジェクト指向をしっかり理解したうえで臨んだのが良かったと思います。
エンジニアに企画能力やプレゼン能力は必要なのか?
――エンジニアコース、つまりプログラマーとして就職することを目的としながら、ゲーム開発のフェーズでは企画まで教えています。この理由を教えてください。
佐藤:エンジニアはコードだけ書けば良いわけではなくゲームを作る経験も必要だと考えています。どの職域であれ、ゲーム制作者であるという意識は持っておくべきで、ゲーム制作の工程は一通り経験できるようなカリキュラムを組んでいます。
――ゲームプレイプログラマーだけでなくローレベルが強い人やネットワーク関係に強い人など、エンジニアと言っても多様だと思います。「技術が強いプログラマーはゲームの面白さを気にしなくても良い」という考え方もあるかと思いますが、その点はいかがですか。
佐藤:どんなエンジニアであったとしても、ゲームを作るチームの一員であればゲーム制作者としての意識を持っておくべきという考えがあります。ツールが変わっても、環境が変わっても対応できるような、どんなことにでもチャレンジできるような人材であるべきだと考えています。すぐに就職できる人材を育てることも可能だと思いますが、それであればアカデミーでなくともできると思います。私たちは将来を見据えて、ゲーム業界でしっかり活躍できる方を育成したいと思っています。
最初にも話しましたが、まずはゲームを1人で作り上げることが最低限必要な能力だと認識しています。アカデミーでは毎回作品ができあがるごとに発表会を行いますが、発表資料もディレクター経験のある講師が「伝わる資料かどうか」という点で添削を行います。ゲーム業界で働くプロである講師と、採用に関わるエージェントの両方がOKを出さなければ卒業ができません。
――講師のOKが必要な部分は分かりますが、エージェントというのは?
佐藤:「どんな環境、どんな職業に就いている方でも、本気であればプロを目指せる」ということは、卒業後は業界に入ってプロになるということです。そのための就職支援を行うエージェントの目線も必要です。講師とエージェントの意見が分かれることは基本的にはないのですが、エージェント視点の評価も重視しています。
――なるほど。プロを目指すということはゲーム業界に就職することとイコールなんですね。この場合、エージェントの目線は重要だと感じます。実際、作品のどういった部分を見ているのでしょうか。
佐藤:講師、エージェントともにソースコードと作品の中身を見ます。講師はコードレビューに際してバグがないか、ゲームとして成り立っているかをチェックします。さらに発表に対する姿勢、発言、コミュニケーション能力も確認しています。
業界の人材不足、ゲーム業界を目指す方のスキルアップ、双方を課題を解決する
――アカデミーで学んだ方の実際の声と、カリキュラム設計思想などをお伺いしました。講師が専任でいるという点も含め、「完全無料」というのは思い切った事業だと思いますが、改めて立ち上げの経緯を教えてください。
佐藤:いま、ゲーム業界は人手不足が続いています。ゲーム業界を目指す方は数多くいるのですが、比較的多くの方が業界に就職できていないといった現状があるのではないでしょうか。これは、企業側が未経験者の育成にコストをかけることができず、結果的に即戦力の採用を重視するケースが多いためです。こうした現状を打開するために、私たちが『業界で活躍できる人材を輩出』することで、互いを繋ぐ役割を果たせると考えています。簡単に言えば、「即戦力として足りないことは分かっているので、自分たちが育てる」ということです。
もうひとつの個人的な理由としては、実は私自身も「映画監督になりたい」という夢を持っていたんですね。でも、当時は親からの反対もあって一般大学に通うことになり、その後も専門学校に通うお金を捻出できず、身体の不調が契機となって活動を辞めてしまったんです。それまではカンボジアなどで撮影を続けていたのですが……。
このような経験もあり、クリエイターへの道を諦めざるを得なかった方をサポートしたいという気持ちも強く、クリエイティブとは関係ない金銭面については「完全無料」とすることで、本気であれば誰にでも平等に門戸を開くことにしました。
――ゲーム業界を目指すとなれば、当然ゲーム系の専門学校も候補に上がると思います。専門学校とは違う点やアカデミーの特徴を教えてください。
佐藤:私たちは受講生から一切お金をいただきません。また、アカデミーを運営するC&R社がネットワークするゲーム会社への就職支援など、企業として手厚いサポートがあります。卒業生はゲーム会社へ就職する方もいれば、C&R社が運営する「C&Rクリエイティブスタジオ」でゲーム開発を手掛ける方もいます。
完全無料ということで不安に思われてしまうかも知れませんが、アカデミーはゲーム会社から「紹介料」という形で報酬を頂いています。だからこそ、私たちは受講者全員をプロとして活躍する人材に育てる必要があります。本気の方以外はお断りすることもありますし、プロになる気がない方は受講中であっても退学していただく可能性もあります。
中村:私はそれこそほぼ毎日アカデミーに通い詰めていたくらい、すごくお世話になりました。プログラミング未経験の私にも「エンジニアになるならコミュニケーションが取れないといけないし、ソースコードの説明責任もあるから、そういうことを訓練しながらやっていきましょう」と方針を示してくれたり、通っていた時期が学生の頃でしたので、社会人になるという漠然とした不安もありまして、そういったメンタル面についても相談に乗っていただいたりと、あらゆる面でサポートをしていただきました。
亀井:講師だけでなく、時には業界の先輩としてゲーム業界の雰囲気などをお伺いしたこともありました。最後の作品の発表後に、先輩から助言をしていただいたことは今でもすごく役に立っていますね。
――アカデミーでは社会人経験のある方が中心だと聞いておりますが、仕事をしながらでも通えるのでしょうか。
佐藤:今は13時~19時のコースと、19時~22時の夜間コースを用意しています。19時以降に参加する社会人の方もいます。フルタイム全てを勉強にあてる方よりは卒業まで日数がかかってしまいますが、勤務しながらでも学ぶことはできます。
亀井:私は他業種から転職しましたが、アカデミーに通っていた頃は無職でしたので「アカデミーでしっかり学ぶしかない」という覚悟はありましたね。先ほどから話に挙がる「本気であれば」の部分にも繋がると思いますが、アカデミーでは自分の周りに多くのプロを目指す生徒が在籍していましたので、彼らとのコミュニケーションがすごく励みになっていました。
佐藤:自ら学習しないと退学になるという仕組みの上で勉強していく。数ヶ月後にはプロになっているという意識の上で勉強をしてもらうというのが大事で、その環境、空気感づくりも私たちの役目だと考えています。最近はフェーズが先に進んだ生徒が1つ手前のフェーズの生徒に教えるというメンター制度も採用しました。教えることで自分自身も学ぶことができますし、生徒同士でコミュニケーションを取る良い機会にもなります。
――最後に、ここまで読んでくれた読者の方へメッセージをお願いします。
中村:本気であればプロになれるというのは、私自身がそうでしたので間違いありません。未経験でアカデミーに入り、プロになりたい一心で厳しく勉強した結果、今では無事にエンジニアとしてゲーム開発の現場で仕事をすることができています。やる気さえあれば未経験でも問題ないと思います。
亀井:他業種からの転職を考えたとき、正直言って「未経験で中途採用、ゲーム会社へ就職できるロードマップが全く見えていない」という状況でした。そんな中、偶然知ったアカデミーがちょうどエンジニアコース1期生の募集を始めるということで、そこで光明が差した気がして。今では中村と同じく、プロとして現場で働いています。「どういう道筋で入ったらいいか分からない」という方がいたら、まずは応募をしてみて欲しいと思います。必ず道が拓けるはずです。
佐藤:完全無料でエンジニアに、という謳い文句は外から見ると「なぜ?」「怪しいのでは?」と思われてしまうかも知れませんが、私たちのコンセプトや想いはインタビューを通じて語ってきた通りです。人生を変えたい方、ターニングポイントを探している方は、ぜひ一緒にチャレンジしましょう。ご応募を心よりお待ちしています。
クリエイティブアカデミー 公式サイトゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。
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