『モンスト』インド進出成功の背景とは?ソーシャルメディア時代を見越したMIXIの事業戦略も披露された講演をレポート【GAME FUTURE SUMMIT 2026】

『モンスト』インド進出成功の背景とは?ソーシャルメディア時代を見越したMIXIの事業戦略も披露された講演をレポート【GAME FUTURE SUMMIT 2026】

2026.07.03
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2026年6月3日(水)、ゲーム業界向けビジネスイベント「GAME FUTURE SUMMIT 2026」が東京・ベルサール渋谷ガーデンで開催されました。

本稿では、MIXIの木村 弘毅氏および「エンタメ社会学者」として活動する中山 淳雄氏が登壇した講演「ゲームビジネスの未来展望 ~モンスト海外展開史とスポーツ配信の可能性~」をレポートします。

モバイルゲーム『モンスターストライク』の誕生経緯や国内での大ヒット、同作の海外展開に向けた戦略などを振り返った本講演。今や中国の総人口を上回るインドのモバイルゲーム市場に関する動向や、同作のインド進出が成功した背景などについても語られました。

TEXT / 小川 翔太
EDIT / 浜井 智史

目次

ソーシャルメディア時代の到来を読んでMIXIに入った木村氏

登壇したのは、MIXI(旧:ミクシィ)のゲーム事業部でソーシャルゲームの運営コンサルティングを担当し、のちに『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)を立ち上げた木村 弘毅氏と、エンターテインメント事業の経営コンサルティングを手がける「Re entertainment」創業者の中山 淳雄氏。

左から、Re entertainmentのCEOである中山 淳雄氏、MIXIの代表取締役社長 上級執行役員 CEOを務める木村 弘毅氏

講演冒頭では、木村氏がMIXIに入社してゲーム事業に携わることになった経緯から紹介されました。

かつては家業に従事していたという木村氏ですが、iモードなどが登場したことをきっかけにインターネットやモバイルサービスの潮流を感じ取り、ソーシャルメディアの時代が到来すると予見したそうです。

木村氏は大学時代に『ゲーム甲子園』(エンターブレイン)へ企画書を応募していたこともあるそう。当時はゲーム業界を目指すことも考えていたというが、一度は家業を継ぐ道を選んだ

そうして2005年にインデックス(のちのインデックス・ホールディングス)に就職した後、2008年にMIXIに移ったとのこと。

三度の選考を経てMIXIへの入社を果たした木村氏。当初はSNSの企画職に就いたものの、入社3か月でゲーム事業部へ移動。「つまり本流から外されたんです!」と冗談交じりに語りました。

その後、木村氏はソーシャルゲームのプラットフォームの立ち上げに携わり、やがては『モンスト』を始動することになります。

講演中は『STRIKE WORLD』紹介映像も披露された

『ストⅡ』岡本氏と出会い『モンスト』を立ち上げる

『モンスト』の開発を主導した岡本 吉起氏にまつわるエピソードも披露されました。岡本氏はカプコン在籍時、『ストリートファイターⅡ』などのタイトルを手がけたことでも知られています。

岡本氏と木村氏の出会いのきっかけは「MIXIでソーシャルゲームを作ることを聞きつけた岡本氏が突然やってきた」という経緯だそう。

もともと岡本氏の大ファンだったという木村氏。高校1年生の頃に稼働していたアーケードゲーム『ストリートファイターⅡ』に熱中し、多くの100円玉を費やしたという思い出を振り返りながら「その投資は『モンスト』で回収できた」と冗談交じりに語りました。

岡本氏が外部アドバイザーを務めていた「394」(※)の社名は「ミクシィ」を由来としているが、事前にMIXIへ話を通してはいなかったそう。このエピソードには中山氏も「そうだったの!?」と驚きの表情を見せた。

※「394」は、かつて岡本氏が設立したゲーム開発会社「ゲームリパブリック」が閉鎖された後、同社の元メンバーによって立ち上げられたモバイルゲーム開発会社。のちに『モンスト』の開発・運営を手がける「でらゲー」に吸収合併された

当時の岡本氏は、食費に1日300円しか充てられない極度の極貧生活を送っていたといいます。そんな岡本氏に対して木村氏は「ゲームデザイン論に加え、ビジネスモデルの変革を読み切る感性を宿していた」と絶大な信頼を寄せていたそう。

実際、岡本氏は『ストリートファイターⅡ』において、2人のプレイヤーが対戦して敗者側が100円を支払ってコンティニューできる仕組みを導入し、アーケードゲームにおける課金システムの大きな転換を巻き起こしたほか、コンシューマーゲームにおいても、現在のDLC(ダウンロードコンテンツ)の先駆けとなるような、追加シナリオを定期的に低価格で販売するビジネスモデルをいち早く考案。常に一歩先のマネタイズを仕掛け続けてきた経験を持ちます。

こうした経歴や実績があればこそ、木村氏は岡本氏に『モンスト』開発の中枢を任せるに至ったのだと感じられました。

『MHP2G』を着想に4人同時プレイを導入。連鎖的なユーザー数増加を狙う

2012年は『パズル&ドラゴンズ』(以下、『パズドラ』)が急成長を遂げたほか、「弾く」操作を取り入れた『バウンドモンスターズ』がリリースされるなど、『モンスト』に近いコンセプトを持つモバイルゲームが多数登場していました。

当時は『モンスト』でもすでに「弾く」ゲームデザインが固まっており、開発も進行中だったとのこと。

類似作品の出現に木村氏も焦りはあったものの、『モンスト』のゲーム性はブロック崩しや『アルカノイド』の系譜を継ぐものだと認識しており、独自路線で戦っていけると確信していたそうです。

実は『モンスト』が強く意識していたのは『モンスターハンター』だったそう。

プレイステーション・ポータブル(PSP)向けに発売された『モンスターハンターポータブル 2nd G』が約350万本を売り上げ、爆発的にユーザー数を伸ばしていった要因について、木村氏は「1人が2人を誘い、2人が4人を誘う」という友人同士の繫がりによるものと推察し、『モンスト』でも4人同時プレイを導入したとのこと。

中国に並ぶ市場規模のインドで大成功。『モンスト』海外進出の軌跡

ここ10年で多くのゲーム会社が厳しい状況に置かれている一方、国内ゲーム市場全体は大きく落ち込んではおらず、長期間にわたり一定規模を維持してきたと中山氏は主張。

そうした状況下で中国系企業の存在感が増してきたことで、国内企業同士によるパイの奪い合いが激化しているとの見解を示しました。

『モンスト』は国内で大きな成功を収めた後、英語版や中国語版をリリースするなど、海外展開にも精力的に挑戦が重ねられました。

木村氏も直接その施策に関与していたとのこと。国内事業は信頼できる部下に一任し、自身は海外展開に振り切ったそうです。

海外市場は木村氏にとって強い関心のある領域でした。当時、モバイルゲームの大きな市場といえば日本・中国・アメリカが中心であり、日本で大きく伸びた『モンスト』をアメリカや中国でも展開できれば、さらなる事業規模の拡大も期待できました。

一方で海外拠点を構える規模感には至れていなかったそうで、事業戦略の方向性に苦心する期間が続いたことがうかがえました。

『モンスト』中国展開への挑戦

中国本土で『モンスト』中国語版を普及するにあたり、まずはTencent社との提携のもと、同社が提供するメッセンジャーアプリ「WeChat」と「QQ」で配信が開始。

ところが、MIXIとTencent社はマーケティングにおいて異なる戦略を立てており、両者の意向を調整するべく協議が重ねられました。

MIXI側は「大きな広告を打てば一時的に大量のソロプレイヤーを獲得できるが、遊び仲間がいなければ離脱率も高い」という判断のもと、「ユーザーに知人を誘ってもらう」形で徐々に拡散させる流れを理想としていました。

一方でTencent側には、自社プラットフォームを活用して一気に大量のユーザーに訴求したい思惑があったと木村氏は語ります。最終的には「Tencentのプラットフォームで展開する以上、Tencentの方針を採用する」ことで合意しました。

そうしてスタートした中国語版『モンスト』は、同社が2026年4月より開始したインド展開の状況と比較しても、一定のユーザー継続率を達成できたといいます。

ただ当時の海外市場では1ユーザーあたりの獲得単価が上昇しており、マーケティング投資のリスクを慎重に受け止めざるを得なかったそうです。

木村氏によると、高い定着率に対してバイラル率(※)が低かったことが、中国語版『モンスト』の撤退判断につながったとのことでした。
※ 既存ユーザー1人が平均して何人の新規ユーザーを招待・獲得するかを測る指標

その後、MIXI自身でも中国展開に再挑戦。英語版の配信を通して培った資産や、中国語翻訳のノウハウが蓄積されたことが背景にあったといいますが、2020年には一度事業を整理する決断に至ったと語られました。

インドは日本コンテンツと親和性が高い、世界有数のモバイルゲーム市場

話題は先ほど言及された『モンスト』のインド展開へ。同社は2026年4月より『モンスト』のグローバル版『STRIKE WORLDストライクワールド)』をインドでも運用を開始しました。

中山氏は『モンスト』のインド展開について「ゲーム内容も大きく変えた本腰のローカライズに見えた」と評価しました。

木村氏によると、インド展開の構想は約2年前に立ち上がったそう。背景にあるのは、まず市場規模の大きさです。インドの総人口は中国に並び立つ約14億人で、モバイルデバイスの普及率も約7割を占めており、ゲームユーザーの数も多く、モバイルゲーム市場として非常に大きな可能性を秘めているといいます。

加えて、インドでは情勢的に中国製タイトルが普及していないという点も加味すれば、インド進出は十分に成功の余地があると木村氏は考えたそうです。

また、動画・音声配信サービスの普及によりインド国内で日本アニメが広く浸透したことも追い風となりました

『モンスト』では日本のアニメIPと累計約120件ものコラボを実施しており、国内最多の規模を誇るのだとか。この施策が日本国内だけでなく、インドへの訴求にもつながったと木村氏は捉えています。

『モンスト』は初期からアニメコラボに力を入れており、『鬼滅の刃』に関しては社会的ブームを巻き起こす前から交渉を進めていたのだとか。現場の担当者が早い段階で有力IPを見つけ、コラボを持ち掛けていたことに木村氏は驚愕したそうです。

さらなるインド展開の促進に向けて、すでに講談社のIPとコラボが進行中とのこと。現時点ではまずアプリ本体の改修に取り組んでいる段階で、その後コラボ施策に力を入れていく意向が示されました。

MIXIがスポーツ事業を目指した背景

『モンスト』がリリース2・3年目を迎えた頃、MIXIはスポーツ領域への事業展開を検討し始めました。

背景にあったのは、モバイルゲーム市場の競争激化に対する危機感でした。Free-to-playはユーザーの可処分時間を奪い合うモデルであり、『モンスト』や『パズドラ』のような巨大タイトルが席巻する中で新作を当てるには開発コストも軽視できず、仮に当たったとしても頭打ちになる可能性が高いとのこと。

もともとMIXIはSNSプラットフォーム上でさまざまなジャンルのアプリを配信していた背景があり、木村氏自身もゲームに固執することなく、幅広いエンタメ領域に事業を拡大していくビジョンを持っていたそうです。

スポーツ事業の中でもとりわけ木村氏が関心を寄せていたのが、公営競技などで見られる「複数人で盛り上がっていると出費に対する自制心が緩みやすい」という消費者心理。

MIXIでは、こうした消費行動を促すコンテンツを「共感型商品」や「投機型商品」と呼んでいるとのこと。

日本の公営競技では客層の高齢化が進み、独りで楽しむユーザーが増加しているといいます。木村氏は「みんなで楽しむプラットフォーム」を作ることで若い層にもリーチできるのではないかと考えているそう。MIXIのゲーム事業で「ユーザーの熱狂」を生み出してきた経験を、スポーツ事業においても発揮していく姿勢を見せていました。

中山氏から「赤字の不安はなかったのか」と問われた木村氏は「別に不安はなかった」と回答。

スポーツ事業の成長は当初の計画より遅れてこそいたものの、M&Aを行った企業や関連事業においては着実に成果が出ていたため、いずれ黒字化できるという手応えがあったようだ

講演の最後、木村氏は会場に集まったモバイルゲーム・コンソールゲーム・広告関係者に向けてメッセージを送りました。

「ゲームの開発費が高騰し、リリースまでの期間も長期化している中、新企画を打ち出すハードルは高くなり、若手クリエイターが頭角を現しにくい状況が続いていました。しかしゲーム業界は今、そうした新たな挑戦の数が増え始めるタイミングを迎えています」

また、AIの活用によって開発工程を効率化できれば、従来より開発コストを抑えつつ短期間でゲームを形にできる可能性があると木村氏は語りました。

近年はゲーム業界以外にも若い才能が活躍できるフィールドが広がっている中、AIの発展を機にゲーム業界においても若手のホープと呼べるクリエイターが台頭してほしいと期待を述べながら、同氏は講演を締め括りました。

「GAME FUTURE SUMMIT 2026」公式サイト
小川翔太

1987年生まれ。会社経営者。大学時代はFPSにハマって留年。
「キャリアコンサルタント」から「飲食メディア編集長」を経て、eスポーツ業界へ。
7年間のeスポーツ取材の経験をもとに、eスポーツ専門の編集プロダクション兼、取材代行会社を設立。

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