富士山をバーチャル上にそっくり再現!デジタルツインの活用アイデア満載の「Unreal Engine Meetup in Shizuoka Vol.1」参加レポート

2025.02.10
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2025年2月1日(土)、静岡市にある静岡新聞社にて「Unreal Engine Meetup in Shizuoka Vol.1」が開催されました。アンリアルエンジン(以下、UE)はゲーム・ノンゲームを問わず多くの産業で活用されるようになってきており、こちらの記事でも紹介しているようにコミュニティによる活動は年々盛んになっています。今回の開催地となった静岡県はデジタルツイン(※)利用が進んでいる県のひとつ。本イベントでも、さまざまな業種で利用されている事例やTipsが共有されました。現地会場にて参加した筆者の視点でレポートします。
※ 現実世界の都市構造や経済活動などの要素を仮想空間上に再現する技術

TEXT / HiMiKo
EDIT / 酒井 理恵

目次

静岡県の「VIRTUAL SHIZUOKA構想」とは?

VIRTUAL SHIZUOKA構想とは?」に登壇したのは、静岡県デジタル戦略局 参事の杉本直也氏。「VIRTUAL SHIZUOKA」の概要を述べた後、国内外で活用している事例を紹介しました。

静岡県デジタル戦略局の杉本氏

静岡県のWebサイトにもある通り、「VIRTUAL SHIZUOKA」とは静岡県全域を計測して「3次元点群データ(※)を取得・蓄積し、オープンデータ化する取組みです。計測にはレーザスキャナなどが使われます。例えば、セスナによる航空レーザ計測(LP)では上空約2kmから1秒間に200万本ものレーザ光を照射するとのこと。かなり精密なデータとなるのもうなずけます。
※ 1点ごとに緯度・経度・標高の3次元の位置情報を持っている点の集まり。『VIRTUAL SHIZUOKA』ではさらに、受光強度・RGB(色)の情報も持っている

地表面だけでなく海岸や水中部の地形も含んでおり、かなり広範囲にデータを取得しているのが見て取れる

30TBもの詳細なデータが、クリエイティブコモンズ(CC-BY4.0)のもとで自由に利用できるとあって、国内外で活用事例が増えてきているとのこと。

個人のクリエイターの事例としては、『Minecraft』上に富士山を再現したり、VRChatclusterといったメタバースプラットフォームでバーチャル富士登山のイベントを開催したりと、かなりカジュアルな使い方も。また、スペインの個人ゲームクリエイターが「VIRTUAL SHIZUOKA」のデータを活用しており、CloudCompareUnityQGISを使って、不要な影を除くテクスチャ補正方法などをフィードバックしてくれたといいます。

YouTubeにて公開中の富士山を『Minecraft』上で表現したもの

YouTubeにて公開中の、アバターを用いた富士登山。YouTube上には、このほかにもバーチャル富士登山の様子が多数投稿されている

企業や自治体の事例としては、災害状況や河川計画などの見える化、教育用シミュレーターへの活用など、現実世界を視覚化して合意形成や意思決定に活用している例が紹介されました。空飛ぶクルマやバスの自動運転などのまだ実現していないアイデアについても、仮想空間上ではシミュレーションや映像化が行えるため、住民などの合意を得やすいのが魅力です。「こんな使い方ができそう」というアイデアや活用事例を引き続き募集しているので、思いついたらぜひ知らせてほしいとセッションを締めくくりました。

「VIRTUAL SHIZUOKA」の活用イメージ。講演中では、この図に掲載されている事例の詳細も語られた

空飛ぶクルマのイメージを視覚化したもの。ゲームエンジンを使った映像制作にはデジタルツインとの親和性を感じたという

続く講演にも、点群データを利用した事例いろいろ。講演・LTの内容をピックアップ

「点群データの活用と可能性」登壇者:エリジオン プロダクトマーケティング・ゼネラルマネージャー 中川大輔氏

エリジオンは3D形状処理とデータ変換の技術をベースにパッケージソフトウェアを企画・開発しており、古い建物や施設、遺跡などの文化財を3Dデータ化し、コンテンツを制作したこともあるとのこと。例えば、浜松市にある昭和時代の水道ポンプ施設の3Dデータを利用してシューティングゲームを制作し、イベントで体験してもらったといいます。

また、スキャン技術の最新動向としては近年増えてきたという移動体型スキャナを紹介。短時間のスキャンで高精度なデータが取得できるデモも流れ、イベント参加者から驚きの声が上がる場面もありました。文化財の保護のためにはメンテナンスやコストがかかるが、コンテンツ化し体験してもらうことで必要性を感じてもらえるのではと語り、セッションを締めくくりました。

エリジオンにてプロダクトマーケティング・ゼネラルマネージャーを務める中川 大輔氏

浜松市の水道ポンプ施設の3Dデータを使用したシューティングゲーム。3Dデータ化するだけでは理解を得づらいが、ゲーム化し体験してもらうことで文化財を身近に感じてもらう効果を狙っている

歩きながらスキャンができる移動体型スキャナ。20分ほど歩いて撮影しただけで比較的綺麗なデータが取得できる

「点群データのゲーミフィケーションTipsとUEのジャーナリズム活用事例」登壇者:静岡新聞社 編集局 社会部長 鈴木 誠之氏

静岡新聞社 編集局 社会部の鈴木氏。同氏は論説委員、編集委員も兼務している

セッションテーマにもある「ゲーミフィケーション」とは、ゲームの要素をゲーム以外の物事に取り入れる手法のこと。UEで点群データを扱うための手順を解説しつつ、袴田事件のVRコンテンツ、夏の急激な気温変化をジェットコースターで表現した映像などの事例を語りました。

袴田事件の取材で入手した実音声データを使用しVRアプリを制作。没入感を感じてもらうことを狙った

2024年の急激な気温変化をジェットコースターコンテンツにしたもの。よく気象情報などでは「ジェットコースター並みに気温が急降下」などと表現するが、それを本当にジェットコースター視点で見てみることを思いついたという

VR・ARなどのXRコンテンツやゲームコンテンツを制作することで、時事問題や地域課題をより身近な問題として捉えられるようにしたい。そのための新しいストーリーテリングの手法として、UEが活用できると述べました。

「Unreal 3DSで眺める静岡県」登壇者:FutureSoftware 和田 敏幸氏

FutureSoftwareの和田氏。UEのコミュニティなどでは、「ぽちお」という名前で活動している

本イベントの主催者でもある和田氏はGoogle Cardboardを参考にした2画面立体視の仕組みを自作し、簡易VR体験を実現。「VIRTUAL SHIZUOKA」のデータを使用し、ヘリコプターで静岡上空を飛ぶゲームのデモを紹介しました。

膨大なデータ数となる点群データは変換やインポートなどの処理を自動化すると扱いやすいとのこと。UEのEditor Utility WidgetUnreal Python APIを使った自動化ツールを作成することで、マテリアルを割り当てた状態でデータを自動配置させることに成功したといいます。

点群データの処理はEditor Utility WidgetとPython Scriptを活用して自動化。当セッションの資料には、参考にできるようBPやPythonコードも掲載されている

Unreal EngineとTwinmotion、今後の展望は

最後のセッションにはエピック ゲームズ ジャパンの杉山 明氏が登壇。「Unreal Engine/Twinmotion最新情報」と題して、UE、Twinmotion、MetaHuman、RealityScan、RealityCapture、Fabなどのツールについて、実装されたばかりの機能や開発中の機能を中心に解説。約1時間で各ツールの概要や最新動向が分かるセッションとなりました。

エピック ゲームズ ジャパンでBusiness Development Directorを務める杉山氏

UEの最新バージョンであるUE5.5については、MegaLights、Substrate Material、Naniteの適用範囲の拡大、パストレーシング、PCGの改善点などに言及。アニメーション関連では、モジュラーコントロールリグ、アニメーションレイヤー、アニメーションデフォーマーなどの最新機能や、MetaHuman Animatorで音声ファイルから口の動きを再現し、フェイシャルアニメーションを生成する機能についても述べられました。

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続いてTwinmotionDatasmith関連では、Twinmotionの最新版である2025.01(執筆時点ではパブリックベータ)の機能を中心に、最新の動向が紹介されました。Autodesk社のインダストリアルデザインソフトウェアであるAlias向けのメッシュ修正ツールの提供や、ボリュメトリック クラウドのレンダリングサポート、シーケンサー上でのカメラの動きの修正ツールなど、要望が多かった機能が追加されたとのこと。

BMW社の車両データを組み込み、2万点を超えるパーツから成る内部構造までリアルタイムで表現したデモ。「Unreal Fest Seattle 2024」のこちらの動画参照してほしい

シーケンサー上でカメラの動きをパスとして表示し、カメラスピードなどの調整をスライダーで行えるようになった

Configurator機能については、家の内装をクリックすると家具などのオブジェクトやマテリアルが入れ替わったり、ドアが開閉したりするデモが紹介されました。

従来はUE上で作りこむ必要があったインタラクティブなコンテンツも、Twinmotionの標準機能で制作できるようになります

Configurator機能のデモ。机の脚にあたる部分のマテリアルが複数用意されており、画面奥に表示されている4つのボタンを押すことで色を変える仕組み

続いて、従来のUnreal Engine マーケットプレイスやSketchfabのストアなどが統合されたアセット類のプラットフォーム、Fabについて触れられました。

3Dオブジェクトなどのアセット単体での提供に加えて、テーマごとに組み上げられているアセットパックの提供も進められています。Megascanのロードマップは暫定版ではあるもののWeb上でも公開されており、今後どのようなアセットパックの提供を予定しているかが確認が可能です。

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杉山氏はUEをベースとした「Unreal エコシステム」の考え方を示しつつ、コンセプトデザインなどの上流工程から開発、マーケティング、販売などの下流行程に至るまで、全工程で活用できるツール群なので今後も積極的に活用してほしいと結びました。

個人クリエイターが現実そっくりのデジタルツインを持てる時代

本イベント全体を通じて企業や自治体によるノンゲームの事例が多く取り扱われた一方、和田 敏幸氏による「Unreal 3DSで眺める静岡県」のセッションや月ヶ瀬 理緒氏による「旅するUnrealEngine」のLTなど、個人ユーザーが気軽に「VIRTUAL SHIZUOKA」のデータを活用している事例も充実していました。

本イベントの開催前、筆者はデジタルツインというと産業用がメインと思い込んでいたように思います。今回のMeetupは、筆者のようにデジタルツインの活用に尻込みしているクリエイターの背中を押し、もっと自由に使ってみるよう促してくれているように感じました。この記事をここまで読んでくれた方も、気軽に「VIRTUAL SHIZUOKA」のデータに触れてみてはいかがでしょうか。

「Unreal Engine Meetup in Shizuoka Vol.1」connpassページ
HiMiKo

40歳からCGの勉強を始めた元SE。BlenderとUEの勉強をスローペースで続けています。旅行先ではよく食い倒れています。

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