2024年7月6日、九州のコミュニティ主催の「第2回 Unreal Engine KYUSHU LT会 in 鹿児島」が開催されました。アンリアルエンジン(以下、UE)またはUnreal Editor For Fortnite(以下、UEFN)をテーマに、会場参加者と配信視聴者を合計すると270名に及ぶ盛り上がりを見せた本イベント。当日の様子や、地方開催の意義についてレポートします。
「UE/UEFN+地方創生」を想起させる現地イベントの熱狂。ハイブリッド開催でも講演やブース出展の熱を余すことなく伝えた「第2回 Unreal Engine KYUSHU LT会 in 鹿児島」参加レポート
TEXT / HiMiKo
EDIT / 神山 大輝
目次
「Unreal Engine 九州」とは
Unreal Engine九州とは、九州でUEやUEFNを使用している方を盛り上げていきたいという趣旨のもとに立ち上げられたコミュニティです。今回のようなLT会(※)や参加型イベントを九州の各地で開催する活動を行っています。第1回目のLT会は2024年2月に福岡市の会場で行われ、現地会場参加者とオンライン配信視聴者を合わせて70名を超える規模となりました。
※Lightning Talkの略で、勉強会やカンファレンスなどのイベントにおいて、5分や10分などの短い時間でプレゼンテーションを行う手法を指す
今回、第2回目のLT会は、鹿児島県のXRコミュニティとして勉強会・体験交流イベントなどを展開しているXRミートアップ鹿児島も運営に参加し、さらにパワーアップ。発起人に賛同した登壇者も数多く集まり、LTだけではなく30分尺の講演や展示ブースなどが幅広く用意されたイベントとなりました。
UE/UEFNの初心者から上級者まで。あらゆる層を対象とした11講演
オープニングでは今回の運営メンバーであり、Unreal Engine九州の発起人でもあるあぶち氏とまいける氏より開会宣言がありました。「九州を盛り上げたい!」というコミュニティの趣旨の説明や、ハッシュタグの紹介があると、早くもXへは続々と投稿が。
講演内容としては、UE/UEFNの初心者から上級者までさまざまな難易度の方に合わせた計11講演が用意されていました。そのうちのいくつかの講演内容をピックアップしてお届けします。
Epic Games Japan の鈴木孝司氏は「Unreal Engine5でお手軽スタイライズドレンダリング 」と題したセッションを実施。UE5の機能を使用して、セルルック表現のようなレンダリングを行う方法が解説されました。GDC2024のChris Murphy氏(EPIC GAMES)の講演内容を再構成しているとの事でしたが、鈴木氏の目線でつまづきやすい箇所なども丁寧に解説。マテリアルノードの組み方も詳細に示されており、初心者でも試しやすい内容になっていました。
初心者にも分かりやすい内容として、塩谷祐也氏より「Unreal Editor for Fortniteとは? 始めるための前知識 2024 for UEユーザー」と題したセッションが行われました。UEFNの概要から入り、リリースから1年余りが経過した現在の状況を解説。UEを普段使用しているが、まだUEFNを触ったことがないユーザーに向けて、UEとの共通点や実装の具体例、開発やリリースの考慮点、プログラム言語「Verse」の今後の動きなどが語られました。
筆者自身はUEFNをリリース直後に少し触った程度ですが、「当時より使いやすくなっていそうだし、また勉強してみよう」と思わせてくれる講演となっていました。
やや上級者向けの内容としては、ぽちお氏の「Unreal Engine で OAuth 2.0 JWT Bearer Token Flow (Google Cloud APIにアクセスしてみよう) 」が印象に残りました。UEでGoogle Cloud APIを利用する方法や実装例などを解説したもので、プレイヤーの視界に入った文字を即座に英語翻訳するデモが流れると、会場参加者や配信視聴者からたくさんのリアクションが。
スライドでは、Google Cloud APIにアクセスする処理の流れ、JSON Web Token(JWT)の概要、C++やBPでの実装方法の詳細など、実装する際に必要な情報が網羅されていました。難しい内容が時間内に分かりやすく収められていた点で、プレゼンのお手本のようなLTだと感じました。
オンライン参加者も飽きさせない工夫。本イベントならではの体験も用意されていた展示ブース
展示ブースには、今回の協賛企業であるEpic Games Japanや、スポンサー企業である株式会社OneSmallStep、monoDuki合同会社のブースを含む計7ブースが出展されました。会場参加者の間で特に人気が高かったのは、さまざまなVR機材を試すことができる「VR機材掛け比べゾーン」。
Varjo XR-3、Oculus Quest3、Magic Leap2、Apple Vision Proを比較体験できるエリアで、UE5のVRテンプレートや各デバイスのサンプルが体験できるようになっており、各機の性能比較をしやすい展示になっていました。参加者同士で感想を言い合うなど、ブースを中心に会話が弾んでいたのが印象的でした。
また、こういったイベントではどうしても会場参加者と配信視聴者との間で温度差が出てしまいがちです。特に講演合間の休憩時間では、会場参加者は展示ブースを楽しめる一方、配信視聴者はただ待たなければならない時間帯が多くなります。
本イベントでは、このような温度差問題を上手に解決する工夫がされていました。どのような展示があるかを紹介する展示ブース紹介、体験中の様子を2カメラ使用しての中継が行われ、会場の盛り上がりが配信視聴者にも伝わるよう配慮されていました。
イベント開催成功の要因は何か?発起人の話から読み解く、地方開催イベントのカギ
会場参加者アンケートでは、アンリアルエンジンについて「触ったことはないが、以前から興味があった」「触ったことはないが、今回のイベントで興味が出てきた」と回答した割合が約38%、UEFNについて上記と同様の回答を寄せた割合が約62%。また、イベントの満足度として満点をつけた回答者の割合は全体で約79%となりました。本イベントはUE/UEFNの未経験者を呼び込み、さらに満足度も高かった様子がうかがえます。
今回のイベントの運営を務めた発起人のあぶち氏は、桑山ワイクウーデザインさんが代表を務めるXRミートアップ三重の活動に大いに刺激を受け、UE九州の活動を始めました。あぶち氏自身がコミュニティを立ち上げる際にも、地域の人々の専門知識を深めたり人材育成を行ってUE/UEFNの仕事を生み出したりすると同時に、地域の魅力を発信して内外から人を呼び込み、「その地域のファン」を増やしたい思想があったとのこと。
少し大きな枠組みと結びつけて語るのであれば、地方創生の施策として政府が掲げる「地域資源・産業を活かし」ながら「専門人材の確保・育成」を行い、産業創出へ結び付けていく試みと、「関係人口の創出・拡大」を促して「地方とのつながりの構築」を行う試みを組み合わせた思想とも取れます。
ここでいう関係人口とは、「特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人」のこと。今回のようなイベントの運営に携わったり、イベントに内外から参加したりする人も関係人口の一種であり、ここ数年増えつつある各地のUEコミュニティは、こういった施策にうまく沿った形で活動を展開している印象があります。
登壇者はそれぞれアツい郷土愛とUE/UEFNへの情熱を胸に日々活動しており、直接話したり講演を聞いたりするだけで力が湧いてくるのを感じるはず。こうしたイベントに現地参加し、普段抱えている開発の悩み、コミュニティ運営の相談などを持ち寄れば、さまざまなアドバイスを得られることは間違いありません。
「第2回 Unreal Engine KYUSHU LT会 in 鹿児島」アーカイブ動画40歳からCGの勉強を始めた元SE。BlenderとUEの勉強をスローペースで続けています。旅行先ではよく食い倒れています。
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