2023年12月17日(日)、インディーゲーム開発者向けカンファレンス『Indie Developers Conference(以下、IDC)2023』が東京・新橋で開催されました。
本記事では3名のインディーゲームプロデューサーが登壇したパネルディスカッション「絶対に勝つためのインディープロデューサーの必殺技」をレポートします。
2023年12月17日(日)、インディーゲーム開発者向けカンファレンス『Indie Developers Conference(以下、IDC)2023』が東京・新橋で開催されました。
本記事では3名のインディーゲームプロデューサーが登壇したパネルディスカッション「絶対に勝つためのインディープロデューサーの必殺技」をレポートします。
TEXT / じく
EDIT / 酒井 理恵
登壇したプロデューサーは、ワイソーシリアスのさいとーだいち氏、プチデポットの川勝 徹氏、OdencatのDaigo氏の3名。
本講演ではそれぞれのプロデューサーとしての立場から、企画・開発・販売の各フェーズで考えていることが話し合われ、ディスカッション中でも聴講者から自由に質問を受け付ける形式が採られました。
最初のテーマは、「これは売れる!」とプロデューサーが確信する企画について。各プロデューサーが、自ら手がけたタイトルを例に挙げながら答えました。
「最初に出てきた絵面がエモーショナルであること」と答えたのは、『メグとばけもの』『くまのレストラン』を送り出したDaigo氏。『メグとばけもの』では、怪物と少女が手をつないでいるシーンが、『くまのレストラン』では死者に最後の晩餐を提供するレストランがトップ・シーンとなっています。
自身が開発したゲームを、自分でプレイして感動した時に「これは売れる」と思うそうです。ゲームシナリオとゲームデザインが絶妙に絡み合った瞬間が、Daigo氏の“勝ち確”を感じる瞬間です。
『グノーシア』開発の「プチデポット」を率いる川勝氏は、「ゲームのポイントを一言で言えるようにしておくこと」を意識しています。ゲームを口コミで拡散してもらうには、ゲームを完結に説明する必要があるため、プロデューサーがあらかじめ用意しておくのだそう。なお、『グノーシア』の場合の一言説明は、「1人用人狼ゲーム」。
さいとー氏は「自分でなければ、このチームでなければ、作れないゲーム」を作るようにしています。『NEEDY GIRL OVERDOSE』では、インターネットで名を馳せるにゃるら氏が作る「インターネットがテーマのゲーム」は、100万本のヒットになるだろうと確信していました。
話題は、「プロデューサーを務めることになった経緯」に移ります。
川勝氏が率いる開発チームは、20年来の友達が不景気で仕事がなくなり、生計を立てるために集まったバンドのようなものだったそうです。「仲間は天才だと思いますが、生き方が弱く、このままだと人生がうまくいかないかもしれない」ことからプロデューサーとして動いたと、川勝氏は話しています。
川勝氏は、プロデューサーと開発者の信頼関係についても言及しました。
プロデューサーは、例えばメディアや開発者に協力を仰ぐために自ら動きながら、やりたいことではなくやらなきゃいけないことを決める。こうした仕事を引き受けることで、開発者との間に信頼関係が生まれると語りました。
さいとー氏は、プロデューサーははじめから存在するのではなく仲間から分岐するもの、その後専業になっていくかもしれないとコメント。プロデューサーは大変な仕事なので、最初は大切な仲間のためといった動機がないと基本的にはできない役割、と述べています。
IDCのようにゲーム開発者も多く参加するイベントでは、イベント後に生まれる濃いコミュニティに参加することもゲーム開発では重要であると、川勝氏は強くアピール。同氏が知る限りでは、日本のインディーゲームで成功した方のほとんどは、どこかのコミュニティに所属しているとのこと。
さいとー氏も、良いものを作るために協力や切磋琢磨する場として、コミュニティの大切さを訴えます。
Daigo氏も「RPGツクール」コミュニティに初期から参加し、海外のゲーム会社勤務時のつながりなど、さまざまなコミュニティに属していることがゲーム開発につながっています。
川勝氏はゲームの試遊・展示イベントも同様に重要と話し、イベントに年間3~4回のペースで出展できれば自然に参加者同士でコミュニケーションが生まれると言います。
また、チーム内で改善点を指摘し合うと喧嘩になりかねませんが、イベントで試遊してもらった意見を伝えれることで、スムーズに納得してもらいやすくなる効果も見込めます。
『グノーシア』の場合は、開発メンバーを含めて約6,000回のテストプレイをしました。これだけの数のテストプレイをこなすには、プレイヤーの気持ちに寄り添って考えながらリアルに体験することを念頭に作り込むことが大事と川勝氏は述べました。
次の話題は開発フェーズについて。
まず川勝氏はチームが安心して開発できるように、活動資金についてアドバイスしました。資金が減ってくると心の余裕がなくなり、正しくない判断をしてしまいます。すると、2~3年かけて作ったゲームが台無しになってしまいます。
こうしたことを防ぐため、資金が底をつく前に開発を一旦止めて資金を貯める期間を設け、安心できる環境を築いたほうがよいと言います。
出資については、川勝氏・さいとー氏ともに「出資はなるべく受けないほうがいい」と口を揃えます。さいとー氏は、株式でのプロジェクト出資も避けていると話しました。
また、さいとー氏は開発フェーズで資金に余裕がなくなって判断力が落ちたとしても、企画フェーズで絶対売れると判断した企画であれば、プロデューサーはフルアクセルを踏むべきと話しました。
「プロデューサーは苦しむのが仕事」と語り、「体重が減っても貯金が無くなっても、作らなければならない作品はある」と、さいとー氏は熱弁を振るいました。
Daigo氏はエンジニアの視点から、考えを二つ述べました。
1つ目は、企画フェーズが終わっていないのに、開発フェーズに移行してしまう人がとても多いこと。企画が固まっていない状態で開発するので、開発中にプロジェクトが二転三転。開発そのものがキャンセルになることもあるといいます。
2つ目は、売上や流行は自らの手でコントロールできない一方で、開発コストはコントロールできることです。例えば、ライブラリの共用化などで複数プロジェクトで共有リソースを利用したり、人間にテストさせずマシンでテストプレイしたりすることで、開発コストは削減できます。
実際に、Odencatでは『くまのレストラン』と『メグとばけもの』で同じゲームエンジンを使用しており、構造も同じ。JSONファイルと画像ファイルと音楽ファイルが違うだけで、ソースも全プラットフォームで同じなのだそうです。
話題は、最後のマーケティングフェーズへ。開発した作品をどう売るかはプロデューサーが独自の「必殺技」とも言える方法を確立しています。
Daigo氏は「売れなくても死なない会社作り」を目指しており、コンスタントに買い切り型タイトルをリリースする力をつけているとのこと。買い切り型タイトルは運営型と異なり、一度リリースすれば棚に残って売れ続けます。『くまのレストラン』のように小粒で遊びやすいタイトルをどんどんリリースする手法が王道であり、それが運営型ゲームにはない強みだと話しました。
この観点では、「『メグとばけもの』は失敗だった」ともDaigo氏。開発プランが崩れてしまい、本当は1年で作るべきだったものが2年半もかかってしまったのが、その理由です。
川勝氏は「インタビューを受けるときに何を話すかを意識する」こと。ゲームは遊んでみないと楽しめるか分からないので、「6,000回テストプレイして開発に4年かかった」といったキャッチーなワードを意図的に語りながら、ゲーム開発のストーリーそのものも売り込みます。
メディアを巻き込むためにも連絡可能なメディアには、採用される・されないは関係なく、プレスリリースを送るよう聴講者に勧めました。「メディアが取り上げるということは、その話題を面白がっていると言えます。ならば、それ以上に面白がる人が世の中にもいるだろうという想定です」と、川勝氏は話しています。
さいとー氏の場合は、コミュニティと場所を作ること。『殺戮の天使』をプロデュースしていたとき、ニコニコ動画でゲーム実況が流行っていた様子を見て、この流行に乗れたらゲームが売れる確信を持ったそうです。ゲームを売る力があるコミュニティに所属し、そのコミュニティが持つ力に乗ってみればゲームは売れる、と語りました。
また、そうしたコミュニティがない場合はコミュニティを作るのも大事で、この思いに従って作られたのが、さいとー氏が発起人を務めた「INDIE Live Expo」(※)とのこと。
※ 日本語・中国語・英語での全世界同時放送を行う世界最大級のインディーゲーム生放送イベント。リュウズオフィスが運営、ワイソーシリアスが特別協賛している
実況に関して、Daigo氏は『メグとばけもの』がゲーム実況でバズった割には売れていないことを明かし、「ゲーム実況に取り上げられることと売上の相関はゲームジャンルによって異なる」と語りました。
さいとー氏は、複数の有名ゲーム実況者に実況され「流行っている」と多くの人から認識されてから、初めてゲームが売れると述べました。「ストーリードリブンのゲームはゲーム実況されても売れない」としつつも、実況されることでIPとしては伸び、グッズの売れ行きが伸びる可能性を語りました。
質疑応答の時間に、聴講者から「試行錯誤したものの海外へ向けたアプローチの方法が分かりません。海外に向けてできることはあるのでしょうか?」という質問が投げかけられました。
さいとー氏は、小規模のデベロッパーが海外に向けて打てる策はほぼないとしながら、日本国内のみをターゲットにしたゲームを作るのは、売上を考えるとほぼありえないと話しました。
ゲーム実況やXでバズることよりも、プロデューサーはSteamにどうやったら露出してもらえるかを考えてゲームを作るべきであり、Steamのトップページに出ないゲームは売れないとさいとー氏は言います。
Daigo氏はさいとー氏の意見に対し、モバイル版で認知度を上げててからSteam版やSwitch版を出すことで海外での売上を伸ばすことができるのではないか、と考えを述べました。
『メグとばけもの』と『くまのレストラン』を比較すると、海外では『くまのレストラン』のほうが売れていました。これはApp StoreやGoogle Playはモバイル版でゲームを出すと日本と国外を区別せずに露出してくれたことによるものだとのこと。国内でフィーチャーされると、海外にも波及する効果について話していました。
本講演は、時間いっぱいまで各プロデューサーの怒涛のトークで一気に駆け抜けました。インディーゲームプロデューサーのかなり赤裸々な面や独特な視点が語られ、終了時には満足した聴講者たちの拍手で締めくくられました。
『NEEDY GIRL OVERDOSE』(ワイソーシリアス) 公式サイト『グノーシア』(プチデポット) 公式サイト『メグとばけもの』(Odencat) 公式サイト「Indie Developers Conference」Xアカウントゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。
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