国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2026」が、2026年7月22日(水)から7月24日(金)までの日程で開催されました。
さまざまな角度からゲームに関する知見が紹介・共有された講演の中から、本稿では『ドンキーコング バナンザ』のビジュアルアーツをテーマとした講演「『ドンキーコング バナンザ』もっと壊したくなる世界 ~驚きデストラクションと濃厚な絵作り~」の内容をレポートします。
国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2026」が、2026年7月22日(水)から7月24日(金)までの日程で開催されました。
さまざまな角度からゲームに関する知見が紹介・共有された講演の中から、本稿では『ドンキーコング バナンザ』のビジュアルアーツをテーマとした講演「『ドンキーコング バナンザ』もっと壊したくなる世界 ~驚きデストラクションと濃厚な絵作り~」の内容をレポートします。
TEXT / ハル飯田
EDIT / 浜井 智史
『ドンキーコング バナンザ』(以下、『バナンザ』)は、2025年7月17日(木)に発売されたNintendo Switch 2専用のアクションゲーム。主人公のドンキーコングが壁や床などフィールド全体を破壊しながら冒険を繰り広げるという、豪快かつ自由度の高いアクション性を特徴としています。
『ドンキーコング バナンザ』公式紹介映像
CEDEC2026では、本作の根幹である「破壊」のゲーム性を多角的に解剖する4つの講演が行われました。そのうち本講演では、アートディレクターの渡辺 大介氏と、地形リードアーティストの濱田 亮氏、そしてグラフィックスプログラムを担当した佐々木 浩幸氏が登壇。アーティストおよびエンジニアそれぞれの視点から、本作におけるアートの方針や目指したゲーム体験が語られました。
『バナンザ』では、レベルデザインの都合上必須となる一部の要素を除き、多種多様なロケーションのほぼすべてを破壊できます。このゲーム世界は、地形や敵、NPCに至るまでボクセルで構築されており、ゲーム内でボクセルデータをリアルタイムに更新することで破壊表現を可能にしています。
『バナンザ』の開発にあたり、チームは破壊を通じて「この地形も壊せるのか」「壊れた破片が吹き飛んで新たな道を発見!」といった驚きをプレイヤーに提供することを目指しました。そこで、破壊と驚きの連動を意味する造語「驚きデストラクション」がコンセプトとして掲げられました。
「破壊」から驚きが生まれるこのゲーム体験をアート面から補強するにあたり、一見すると壊せそうにない地形や物体までをも破壊できる「意外性」に着目。精緻に構築された世界を壊せるという事実こそが驚きを生むと考え、本作では広大な地続きの地形に対し、リアルな植生や無数のオブジェクトを配置する「濃厚な絵作り」が行われています。
これを実現するための手法として、まずはインタラクティブな形状変化に対応できるボクセルをベースにフィールドを構築。そこに、リアルな質感を付与するマテリアル表現と、装飾用のポリゴンモデルを組み合わせるという方針が採られました。
さらに、破壊の過程そのものを楽しめるよう、破壊の工程を「破壊中」「破壊の瞬間」「破壊の後」という3つのフェーズに分割し、それぞれに表現の狙いを定めています。
〈破壊中〉
対象物の材質に応じた写実性の高い挙動を取り入れ、破壊の過程に説得力を持たせる
〈破壊の瞬間〉
打撃を与え続け、まさに破壊されるその瞬間に破片を派手に飛散させ、確かな手応えと爽快感を与える
〈破壊の後〉
えぐれた地面や、欠けたオブジェクトの内側の材質などを露出させ、破壊された情景を視覚的にわかりやすく示す
細部までこだわったこれらの演出が、プレイヤーの「もっと壊したい」という欲求を刺激する“楽しい破壊”を実現しているのです。
本作で掲げられた破壊表現のコンセプトを実現するための技術的なアプローチについて、アーティストとエンジニア両方の視点から解説されました。
本作のボクセルモデル制作は、まずアーティストがMayaでポリゴンモデルを作成し、それをボクセルデータへと変換したうえで、ゲーム内でメッシュを再構築するという手順を踏みます。そのため、ゲーム内に実装されたモデルには頂点やUVといった情報が引き継がれず、処理負荷の都合から情報密度も低下してしまいます。
テクスチャを貼り付ける際にもUVコントロールが効かないなど、厳しい制約が存在するボクセルモデル。しかし『バナンザ』における破壊アクションでは、マテリアルによって伝わる「地形の硬さ」が、プレイの印象を左右する極めて重要な要素となります。
そこで、表現のリアリティと情報密度を引き上げるための解決策として「マテリアルの細分化」が採用。同じ材質であってもシチュエーションに応じてマテリアルを分けたり、ベースとなる土台に別のマテリアルを重ねたりと、緻密な使い分けを行うことで、制約下でも濃厚な表現を実現しています。
また、本作には数多くの動物をモチーフとした意匠が登場します。シマウマやキリンといった動物の柄を表現したマテリアルを使用するなど、マテリアルの細分化は単なるリアルさの追求にとどまらず、より魅力的な表面演出にも貢献しています。
そのほか、地形リムで稜線を色付けして地形を把握しやすくするなど、ボクセルをシェーダーの機能で補強し、見た目の濃厚さと遊びやすさを向上させています。
一律でタイリングテクスチャを使用する箇所は表面の印象が単調になりやすいため、デカールを用いたワンポイント装飾を追加。こうした複数の工夫を組み合わせることで、本来は制約が厳しいボクセルの表面をリッチに表現することに成功し、濃厚な絵作りの土台が築き上げられました。
『バナンザ』の開発にあたっては、「マテリアルを重ねたり混ぜたりしたい!」というアーティスト側の要望に応えるべく、エンジニアチームがレベルエディタ上でボクセルを編集できるツールを実装。苔や泥を表現するための局所的なマテリアルの追加・変換を、シチュエーションに応じて細かくコントロールできる環境が整えられました。
さらに、動物柄のマテリアルを使って表面を複雑に塗り分けるために、レベルエディタ上でポリゴンモデルをボクセルに重ね合わせ、重なった部分を別のマテリアルに塗り替える機能も実装。このポリゴンモデルは地形の表面だけでなく、内部に向かっても立体的に埋め込まれているため、地面をえぐり取ったクレーターの断面などでも、途切れることなく模様が表示され続けます。
デカールの配置をゲーム内でリアルタイムに検証できる仕組みも導入。デカール本体と投影先である地形との深度値の差を検知し、地形の破壊によって「デカールが表面から浮き上がってしまった」状態を判定すると、自動的にデカールが消滅するよう設定できる仕様となっています。
続いて、ボクセルモデルの上に配置するポリゴンモデルの作り込みについて紹介されました。
あらゆるものを壊して楽しんでもらうため、まずは破壊されることを前提とした「壊れモデル」が多数配置されました。これらは世界観の雰囲気づくりに寄与するだけでなく、ベースの地形とは異なる挙動で壊れるため、破壊アクションのアクセントとしても機能しています。
また、草や小石といった「コリジョンを設定するほどの体積はないが、テクスチャのみでは立体感に欠ける」小さなオブジェクトを配置する「大量描画」という仕組みを導入し、画面内の密度を増強。
そのほか、ボクセルの形状だけでは表現しきれないディテールを補うべく、ポリゴンを被せて配置する「カバーパーツ」が活用されました。景観の説得力を底上げしつつ、配置先のボクセルが変化したタイミングで自然に消滅する仕様となっており、フィールドに違和感なく馴染むよう工夫されています。
これらの多彩なポリゴンモデルを土台となるボクセルモデルに組み合わせることで、『バナンザ』ならではの「濃厚で作り込まれた世界」が構築されていきました。
「大量描画」のアイデアに対して、エンジニアサイドより「すべてを手作業で配置するのは非現実的であり、地形が破壊されて形が変わればすぐに破綻してしまうのではないか」という課題が提示。その解決策として、Houdiniを用いた配置ワークフローの開発に着手しました。
配置したい地形のデータをHoudiniに取り込むと、その形状やマテリアル情報に基づいてオブジェクトの大量配置が実行される仕組みで、一定のルールに基づいたランダム配置はもちろん、特定範囲の配置状況を任意にコントロールすることも可能です。
地形の破壊によってマテリアルが変化した際には、配置されたモデルが自動で消滅するよう設計されています。さらに、トゲのある地形を破壊した後に、新しく露出した表面にもトゲを維持させたい場合など、単純にモデルを消すだけでは対応しきれないケースにおいては、リアルタイムでの再配置処理が行われます。
続いての話題は、破壊の工程を「破壊中」「破壊の瞬間」「破壊の後」の3段階に分割した表現について。
『バナンザ』では、心地よく説得力のある破壊を演出するために、複数の表現手法を重ね合わせるように採り入れています。
そのひとつが「ヒビ」の表現です。壁が壊れていく過程において、以下のような3つのステップを経ることで物理的な説得力を高めると同時に、プレイヤーに対して地形の硬さを視覚的に伝える重要な手段として活用されています。
破壊された瞬間については「何を壊しても気持ちよく派手に吹っ飛ぶこと」(濱田氏)を重視し、あえて大袈裟に放物線を描いて破片が飛散するよう調整されています。同時に、素材ごとに破片の飛び方を変化させることで材質ごとの違いも表現されています。
そして本作最大の特徴である「あらゆるものを壊した後でもそのまま遊び続けられる」ゲーム性に対応するべく、破壊された物体の内部の作り込みに挑戦。そこで誕生したのが、破壊後に露出する専用の「内側マテリアル」です。
この内側マテリアルはゲーム内に登場するすべてのマテリアルに対して用意されています。破壊後の地形にコントラストが追加されるほか、とくに地中の表現においては、深度に応じてラフネスやアルベドを変化させることで土の濡れ感を演出するなど、リアリティある表現へと繋がっています。
しかし、すべての地形や物体において「外側」と「内側」それぞれにマテリアルを配置したボクセルを逐一作成していくとなると、作業工数が膨大になりアーティストへの負担が嵩んでしまいます。さらに、ボクセルの解像度は処理負荷やメモリ容量の兼ね合いで限界があるため、薄い表面を精緻に表現することがシステム的に適していませんでした。
この課題を解決するため、マテリアルをリアルタイムで自動的に塗り替える仕組みが考案されました。破壊された箇所を、あらかじめ表面マテリアルと紐づけられていた「内側マテリアル」へと上書き処理することで、内部の露出を自然な形で表現することに成功しました。
マテリアル同士を紐づけるだけで対応できるシンプルさに加え、表面を薄く削り取るような演出にも活用可能。ボクセルの制約を超えた表現を実現するうえで重要な機能となりました。
また、物体が受けたダメージ情報をボクセル側で保持し、それに応じて内側マテリアルにヒビ用のテクスチャをブレンドすることで、段階的にヒビが入っていく表現も可能となりました。さらに、ダメージが蓄積して「あと1発で壊れる」状態に達したことを視覚的に示すため、専用の破壊痕デカールが投影される仕組みも構築されています。
アーティストの豊かなアイデアを、エンジニアが的確な技術力で支えることにより、効率的かつリアリティあふれる表現が実現している事実が明かされた本講演。
『バナンザ』では地形だけでなく、敵やNPC、さらにはUIに至るまで、ゲーム内の随所に徹底した破壊表現が盛り込まれています。本作の根幹をなすコンセプト「驚きデストラクション」を支え、その魅力を一段と引き上げた「濃厚な絵作り」の裏側には、アーティストとエンジニアの強固な連携と試行錯誤の積み重ねが存在していたのです。
『ドンキーコング バナンザ』公式サイト『ドンキーコング バナンザ』もっと壊したくなる世界 ~驚きデストラクションと濃厚な絵作り~ - CEDEC2026大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。
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