登壇者の高橋 和也氏は2020年に任天堂へキャリア採用で入社。『バナンザ』ではゲーム全体のディレクションやステージのレベルデザイン、イベントシーンやテキストを担当した。
田中 航氏は2007年に任天堂へ新卒入社。『スーパーマリオ オデッセイ』などにプログラマーとして携わった後、本作ではディレクター兼プログラムディレクターを担当している
ボクセル技術から生まれた「破壊」のコンセプト
『ドンキーコング バナンザ』(以下、『バナンザ』)は、2025年7月17日(木)に発売されたNintendo Switch 2向けの3Dアクションゲームです。本作は『スーパーマリオ オデッセイ』(以下、『マリオ オデッセイ』)の開発陣がベースとなり、そのノウハウを継承・発展させる形で開発されました。
「CEDEC 2026」では、本作の「破壊」に関するゲーム性をテーマに4つの講演が行われました。本講演はそのうちの「ゲームデザイン編」にあたります。
開発チームが目指したのは、ドンキーコングを象徴する屈強な両腕と新たなアクション性を前面に掲げつつ、ボクセル技術を駆使して、地形から目に見えるすべてのオブジェクトまであらゆるものへのインタラクションを可能にする遊びでした。
「ボクセル」とはいわばピクセルの概念を3次元へと拡張した技術で、空間上にデータを持った無数の箱を敷き詰めることで、オブジェクト単位よりもさらに細かい、ボクセル単位での緻密なインタラクションを実現する手法です。
『マリオ オデッセイ』においても、接触による雪の崩壊や、ハンマーによる岩石の粉砕表現など、部分的にボクセル技術が採用されていました。
同作の完成後、「この技術にはまだ掘り下げる余地がある」と考えた開発チームは、さまざまな試作を重ねます。「地形を殴って自由に壊す」「地形から破片を剥ぎ取って武器にする」「破片を壁に投げてくっつける」といった遊びの検証を通じて、マップ上のいかなる場所も破壊し得るという仕様が新しいインタラクションとして機能するという確かな手応えを獲得。こうして、本作のコンセプトは「破壊」に定められました。
ボクセルを用いた試作の様子。地形の引き剥がしや投擲など、『バナンザ』につながる遊びの原型がすでに見て取れる
遊びのコアとなる「破壊から報酬への連鎖サイクル」
開発初期には、敵の体をボクセルで構築してゲーム性の検証を行ったものの、単に敵の体がボクセルで崩壊するだけの表現では、破壊を主軸に据えるゲーム体験としてのカタルシスに欠けるという課題が浮上しました。
そこで着目したのが、ドンキーコングの圧倒的なパワーを活かしたアクションです。殴られた敵が吹き飛び、ボクセルで構成された地形に激突してさらに破壊するという「破壊の連鎖」こそが、本作の遊びの根幹を成すシステムとして確立されました。
この連鎖のアイデアは、製品版において「破壊から報酬への連鎖」として結実しています。たとえば敵を攻撃すると、吹き飛んだ敵が奥にある金塊に激突してさらなる破壊を巻き起こし、結果として大量のゴールドを獲得できるといった具合です。
また、報酬はゴールドやアイテムに限られません。通常のパンチでは壊せないコンクリートの壁に対し、敵を吹き飛ばしてぶつけることで破壊し、新たなルートを開拓するといった「移動範囲の拡大」も、プレイヤーが得られる報酬のひとつとして位置づけられています。
「ゲーム内に存在するボクセルはすべて破壊できる」という特性を生かし、次々に連鎖のバリエーションが生み出されていきました。
地形から剥ぎ取った破片を投げて壁を壊す。壊せない壁の下を掘って潜り抜ける。あるいは、敵も壁も無視して地面を掘り進めることで、まったく別のエリアを「発見」する――。
このように、「どこでも壊せる・利用できる」からこそ新たな破壊が生まれ、それが次の探索や報酬へとつながり、報酬を得ることでまた壊したくなるという、本作ならではの循環構造が確立されました。
あらゆるゲーム要素を「次の破壊」へと結びつける設計
破壊による遊びの循環を生み出すためには、ボクセルの破壊を局所的な事象で終わらせず、つねに「次の破壊の誘発」を意図的に起こす必要がありました。
その実現に向けて、ゲームを構成する5つの主要要素「プレイヤーキャラクター」「カメラ」「配置物(オブジェクト・敵・NPC)」「コレクションアイテム」「変身」のすべてに対し、「次の破壊」へ自然と遷移する仕組みが実装されました。
1. プレイヤーキャラクター:破壊行動がもたらすドンキーコングの自己強化
まず、破壊というアクションをプレイヤーの操作感覚とダイレクトに同期させるべく、正面・下・上の3方向へのパンチを、Joy-ConのY・B・Xボタンの物理的なレイアウトと完全に一致させて割り当てました。
さらに、単発のパンチから破壊の連鎖を発生させるため、試作段階で検証された「地形の引き剥がし」を拡張。手にした破片を投擲する遠距離攻撃への転用や、近距離攻撃力の底上げ、さらには2段ジャンプや移動速度の向上など、ドンキーコングの基本性能を一時的に上昇させる仕組みを導入しました。
これにより、「破壊することでドンキーコングがよりパワフルになり、さらに次の破壊を行いたくなる」というサイクルが形成されています。
2. カメラ:視界のストレスを払拭する「地中カメラ」の導入
本作のレベル設計において、地中には無数の空洞が隠されています。しかし、地中を掘り進むシチュエーションにおいて通常のカメラ機能を流用すると、視界が地形に遮られ、機動性に不便が生じる懸念がありました。
そこで用意されたのが、地形の内部に入り込んで周囲を360度見渡せる「地中カメラ」です。
このカメラ機能ではフォグを活用し、一定範囲内の空洞やアイテムのみをうっすらと可視化しつつ、遠方のものは視認できないように調整しています。これにより、目指すべき地形やアイテムの方向、および遠近感が把握しやすくなりました。併せて、自身が掘り進んできたトンネル部分を半透過させることで視認性も確保しています。
3. 配置物:ボクセルの「素材」を活用した多彩なギミック
オブジェクトや敵、NPCを形作るボクセルは、それぞれの材質にレパートリーを持たせることで、破壊の遊びに豊かなバリエーションを与えています。
たとえば、敵を構成する素材によって、倒しやすさや有効な倒し方に違いが生まれます。柔らかい素材でできた敵は素早く撃破できますが、硬度の高い敵は一撃では破壊できません。そのため、地形の破片を武器として活用したり、他の敵を吹き飛ばして激突させたりと、撃破に至るプロセスに一工夫が求められる設計となっています。
頑丈な体を持つ敵を撃破するためには、他の敵を倒したときにドロップする岩を持ち上げて叩きつけるなどの戦法が必要となる
また、素材の特性を生かしたフィールドギミックも多数用意されています。
身体が氷でできたNPCから氷を削り取り、それを溶岩に投げ入れて冷却・凝固させることで、安全に通り抜けられるようにするギミックや、塩でできた動く床を削り取り、行く手を阻む菌に投げつけて溶かすといったギミックが例に挙げられました。塩の床は削りすぎると足場を維持できなくなるため、リソース管理の側面も生まれています。
さらに、敵が吐き出す酸を利用して、ドンキーコングの力では壊せない鉄を溶かすなど、敵の攻撃すらも「破壊のきっかけ」として転用することが可能です。
氷でできたNPCから氷を削り取り、溶岩へ投げ込む。NPCはいくら氷を削り取っても瞬時に再生するので、無限の氷の供給源となる
4. 報酬:アクションを起点とした自発的な探索への誘導
地中には、化石や「バナモンド」といった収集品が大量に隠されています。しかし、ただ地中に埋め込むだけではプレイヤーの視界に入らず、発見難易度が高くなってしまいます。
そこで、周囲に散らばったゴールドをまとめて回収するアクション「ハンドスラップ」にソナー効果が付与されました。ゴールドの回収をきっかけに、近くの壁や床に埋まっているアイテムのシルエットが一瞬だけ映り込むようになり、プレイヤーが自発的に地形を破壊して探索したくなるような導線を作り出しています。
「ハンドスラップ」でゴールドを回収する流れで化石の位置を提示し、自然と地中を掘り進むように促す
5. 変身:「目的を持った破壊」へ昇華させるソナー機能
収集したゴールドは、ドンキーコングを強化形態である「バナンザ」へと変身させるためのリソースとしても機能します。
バナンザ状態では、通常時は干渉できない物体も破壊可能になります。そのため、「エネルギーを貯める」→「変身する」→「変身中に次のエネルギーを貯める」という遊びのサイクルが意図されています。
しかし試作段階においては、バナンザ中に破壊できる対象がすぐに枯渇してしまうという問題に直面。制限時間を持て余した結果、やみくもに周囲の地形を破壊するしか能力の使い道がなくなってしまったのです。
そこで、バナンザ中は常時ソナーを発動させる仕様に変更しました。地中に眠るアイテムの位置を常に把握しながら地形を掘り進められるようにしたことで、無作為な破壊を「明確な目的を持った破壊」へと昇華させることに成功しました。
地中に隠れた報酬へ自然と探索に向かわせるルート設計
地表部分と内部の報酬配置を同時にボクセルで作り込む作業は非常に複雑で、一般的な3DCGツールでは限界がありました。そのため本作では、レベルエディター上で直接ボクセルを合成したり、地形の一部を特定の形状でくり抜いたりできる独自の制作手法が採用されました。
ステージ全体は、レイヤー構造のように複数の配置ファイルを重ね合わせることで構築されています。広大な地下空洞を含む複雑な地形も、配置ファイルを地表から分離させて管理することでスムーズに制作可能としています。
巨大な地下空洞を持つステージにおけるレベル構造の例。地表全体の地形ファイル(画像左)と、地下空洞を含むファイル(画像右)を別々に表示したもの
ステージ上に遊びや報酬を配置するコンセプトについては、『マリオ オデッセイ』のレベル設計と比較しながら解説されました。
どちらの作品も、スタートからゴールへ向かう1本のメインルートが存在し、そのルート沿いで報酬が手に入るという基本構成は共通していますが、両者の大きな違いは「プレイヤーから報酬が見えるか、見えないか」という点にあります。
『マリオ オデッセイ』のステージは、周囲を一望した際にローカルコインやパワームーンといった報酬が視界に入り、プレイヤーが自発的にそれを取りに向かうという流れで設計されています。
一方の『バナンザ』では、メインルート周辺に配置された報酬の大部分が地形の中に隠されており、それらを獲得するため必然的に「地形の破壊」というアクションが求められます。
『バナンザ』に登場するステージ「荒野の階層」の一区画。地表に露出している報酬はメインルートの途中にある1か所だけだが、丸で囲われた地点にも報酬が隠されている
プレイヤーに「見えない報酬」の場所を知ってもらう鍵となるのが、「パンチで吹き飛ばした敵が壁を壊したことでアイテムを見つける」「ソナーで隠しアイテムを見つける」といったアクションの連鎖です。
レベルデザイナーが仕込んだ想定ルートだけではなく、プレイヤーが自由に行動した結果あらゆるルートから報酬を発見できるようにレベルを構築。破壊の連鎖によってプレイヤーの選択肢が増えていくように設計されています。
次の探索を促す「報酬の数珠つなぎ」と安心のフォロー設計
さらに本作のレベルデザインには、ひとつの報酬を見つける過程で次の報酬が視界に入るという連鎖の構図が盛り込まれています。
たとえば、バナモンドを獲得できるミニゲーム「チャレンジバトル」への入口は封印で閉ざされていますが、その封印を解く瞬間に、周囲に隠されたアイテムの位置が可視化されます。封印解除という動作が、そのまま別の報酬へ向かうためのヒントとして機能している形です。
ドンキーコングの肩に乗る少女「ポリーン」の口笛によって封印を解除する瞬間、周辺に隠された報酬までの方向と距離が表示される
チャレンジを終えて来た道を戻ると、一度倒した敵が復活しており再戦が開始。その最中に、壁の奥に隠された報酬に気がつき、さらにその奥でレアな化石を発見し、そこまで掘り進む過程で地中カメラによって見つけたペグを経由して下のフロアへ向かう――といったように、報酬が数珠つなぎに連鎖していく展開が想定されています。
また、チェックポイントの役割を果たす「音叉」を叩くことでもソナーが発生し、バナモンド発見のきっかけとなるように配置が組まれています。
加えて、メインルートを取り巻く広大な地形のさらに奥部に配置された報酬までプレイヤーがシームレスにたどり着けるように、何もない地形を破壊した際に一定のルールに基づき動的にゴールドや宝箱が出現する仕組みを導入。宝箱から手に入る地図によって化石の隠し場所が判明し、プレイヤーを次なる報酬エリアへと自然に誘導します。
そのほか、メインルートから外れて寄り道に興じた後、スムーズに元のルートへと合流できるように動線を整える工夫も紹介されました。
メインルートの下方へ掘り進んだ後に上層までスムーズに復帰できる「タル大砲」を配置。また、エリアを島で区分し、次エリアに移る際はトロッコで島を渡る仕組みとすることで、島内の探索を済ませたら最終的に必ず既定のルートで次エリアに乗り込めるため、極端にルートを逸脱しないか心配する必要なく、気ままに寄り道を楽しめます。
コンセプトを徹底的に突き詰めて「破壊の連鎖サイクル」を作り込み、アクションの全要素が次の破壊につながるよう組み合わせる。そして、ボクセル技術に特化したレベルエディターを駆使し、地形制作や配置に工夫を凝らす――本作の開発過程においては、ゲームデザインと実装の両面からのアプローチが不可欠であり、開発チームの各セクション間でも絶えずアイデアの連鎖が起きていたといいます。
ゲームサイクルの設計やレベルデザインの基本セオリーをしっかりと踏襲しつつも、「破壊」というコンセプトに合わせた工夫を幾重にも連鎖させることが、『バナンザ』の斬新かつ豪快なプレイ感を力強く支えています。
「本作の事例が、開発者の皆様にとってヒントになれば幸いです」という結びの言葉とともに、本講演は幕を閉じました。
『ドンキーコング バナンザ』公式サイト『ドンキーコング バナンザ』破壊の連鎖でつながるゲームサイクル - CEDEC2026
ゲームメディアや、劇場アニメのプログラム(いわゆるパンフレット)などに関わるようになり四半世紀。「クリエイターがどのように考え、作品を作っているのか」はつねに大きな関心事です。
インディゲームの文化的側面や、クラウドやAIなどゲーム周辺の技術にも興味アリ。