誰もが作りたいゲームを作れる時代に。100作品超のヒットメーカー「トモぞヴP」が語る、発想力と開発スピードの高め方【簗瀬×神山のゲームデザインインタビュー #3】

誰もが作りたいゲームを作れる時代に。100作品超のヒットメーカー「トモぞヴP」が語る、発想力と開発スピードの高め方【簗瀬×神山のゲームデザインインタビュー #3】

2026.05.21
取材レポート特別企画注目記事UnityUnity簗瀬×神山のゲームデザイン深堀りインタビュー
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ゲームメーカーズ編集長の神山大輝とユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平が気になるインディーゲームのゲームデザインやクリエイティブを深掘りしていく連載インタビュー企画「Unity簗瀬×神山のゲームデザイン深堀りインタビュー」。

第3回では『ケツバトラー』や『スゴイツヨイトウフ』など数々のユニークな作品を世に放っているクリエイターの「トモぞヴP」氏(@TomozoP)にインタビュー。圧倒的なペースで作品を生み出し続けているゲーム作りの進め方や調整指針、そしてそのベースにある「アイデアの作り方」を聞きました。

INTERVIEW / 神山大輝、簗瀬洋平

TEXT / ハル飯田

EDIT / 神山大輝

目次

締め切り駆動型で100作品超を手がける

神山 大輝(以下、神山):ゲームデザイナーの簗瀬さんと一緒にさまざまなゲームを深掘りしていく連載企画!第3回を迎えました。

簗瀬 洋平(以下、簗瀬):ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬です、よろしくお願いいたします。

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神山:今回は『スゴイツヨイトウフ』や『ケツバトラー』などの作品を手がけた「トモぞヴP」さんをお迎えしています。精力的に活動を続け、数多くのタイトルを作り上げたクリエイターです。

無尽蔵にも見えるアイデア、そしてこれらをどうゲームデザインに落とし込むのか、アイデアメーカーとしての一面に迫っていきたいと思います。

トモぞヴP氏(以下、トモぞヴP):読みにくい名前ですが、「トモぞヴP」と申します。よろしくお願いいたします。

面白法人カヤックに所属して8年目になりますが、個人で活動する時は「ゾウノアシゲームズ」という名義で活動しています。プレイヤーが豆腐になって遊ぶアクションゲーム『スゴイツヨイトウフ』は個人名義、お尻にジョイコンを挟んで戦うバトルゲーム『ケツバトラー』は個人で始めた企画がカヤックでの仕事に繋がり、小学館の『コロコロコミック』と共同開発することになりました。

ほかの個人作品としては、unityroomに50個ほどゲームが掲載されています。

面白法人カヤックでのプロフィール写真(トモぞヴP | 面白法人カヤックより引用)

神山:スゴイツヨイトウフ』『ケツバトラー』の2作品が代表作というイメージがあるのですが、そもそもゲーム開発を始めたのはいつ頃ですか?

トモぞヴP:僕は工業高校の出身で、3年生での卒業制作で『ロックマン』風の横スクロールアクションを作ったのが初めてのゲーム開発でした。当時はまだUnity 5時代でした。

また、「Unity1week」は皆勤賞です。第1回の時(2017年)に参加を迷っていたところ、主催のnaichiさん(@naichilab)から「出ちゃいなよ」と声をかけていただいたことがキッカケで参加し、そこから気づけば今日まで投稿を続けてきました。

トモぞヴP氏のunityroom

簗瀬:皆勤賞は本当にすごいですよ!こうしてゲームを出し続けるのは、かなり難しいんです。私も可能な限りは参加しようと思っているんですが、どうしても3回に1回ぐらいになってしまいますね。

神山:高校の卒業制作も含め、約10年間のゲーム制作歴になるということですが、今まで何本ほどゲームを生み出してきたのでしょうか。

トモぞヴP:先日ちょうど数えてみたのですが、仕事で手がけたハイパーカジュアルゲームを数に入れると100は超えていますね。

個人制作に絞ると、恐らく60~70作品ほどだと思います。また、開発数でいうと、カヤックでのハイパーカジュアルもリリースに至らなかったものが60作品ほどあります。

神山:ハイパーカジュアルや小規模タイトルを含むので、規模に幅はありますが、それでも10年間でコンスタントに作り続けて100本を超えている、というのはすごいですね。ゲームを作り始めるために「0から1へ」アイデアを生み出す作業を何十回も繰り返していると思うのですが、どう取り組んでいますか?

トモぞヴP:お題と締め切りがあるところに向かっていく」作り方をしていることが多いですね。

まさにUnity1weekは1週間でお題に沿ったものをという”縛り”の元で作りますし、何度も名前を挙げていただいている『スゴイツヨイトウフ』も「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」に出すために作った作品で、『ケツバトラー』もコロコロコミックの「コロゲープロジェクト」に応募するために用意したものなんです。

コンテストなり企画なりに応募することが多くて、本当に自分で作りたいと思って完全な0から1へ立ち上げたゲームは実はそんなにないんですよ。強いて言うなら「締め切りがあるところに自分から首を突っ込んでいく」というハッカソンやゲームジャムみたいな作り方をしていますね。

神山:完全な「締め切り駆動型開発」という感じですか。

トモぞヴP:そうですね。本当に締め切りがないとまるでダメなんです……。

豆腐は面白そうかつ「絵も描かなくて良い」題材だった

神山:まず、『スゴイツヨイトウフ』はGYAAR Studioのコンテストへの応募作品として始まったとのことですが、コンテスト自体はかなりオープンであまり”縛り”はありませんでしたよね?その中で豆腐のゲームへと辿り着くまでの過程を教えてください。

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トモぞヴP:もともと「豆腐をゲームにしたら面白いんじゃないか」という発想自体は、脳内のアイデアを入れておく箱のどこかにはずっとあったとは思います。あと、「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」の発表から締め切りまでが結構短くて、たしか2ヶ月ほどしかなかったんですね。

そこでなにかかが噛み合って「豆腐のゲームってことにすれば、立方体を動かすだけで絵もあんまり描かなくて良いんじゃないか?」というアイデアに至ったんです。

絵も描けないしモデリングもできない僕でも、豆腐が主人公のアクションゲームなら2ヶ月で作れちゃうんじゃないかという思い付きと、コンテストに向けたオシャレで真面目なゲームが並ぶ中に1個だけ変なゲームがあれば目立つんじゃないかという打算で応募した気がします。

GYAAR STUDIO インディーゲームコンテスト」入賞時の選評

神山:打算的に動いたというのは少し意外でした。今のお話だと、トモぞヴPさんには常にアイデアを貯めておく脳内ライブラリーのようなものが存在しているんですね?

トモぞヴP:今こうやって話していて改めて気づきましたが、確かに「発想のかけら」自体は割とずっと頭のどこかにあったかも知れません。メモを取ることもあれば、どこにも書かずにしまわれ続けてるものも結構ある気はしますね。

しょうもないアイデアならしまい続けることになりますし、今は大体のものは思いついた時点で作り始められてしまう時代になってきているのもありますね。

発想は「脱力」から生み出される。情報をインプットして、整理して、そして忘れる

神山:「発想のかけら」を生み出すコツはありますか?そしてそれが再現性があるものなのか。

トモぞヴP:こうしたテーマで必ず挙げるのが『アイデアの作り方』という本(著:ジェームス・W・ヤング)ですね。

企画職になると一度は読まされるようなメジャーな存在で、僕もカヤックで企画の真似事みたいなことをやるとなった時におすすめされました。ページは少ないですが面白くて、僕はこの本に書いてあるやり方を結構信仰しています。

大まかに説明すると「アイデアは5つの段階から生まれる」という内容で、アイデアを作るためには情報を収集しまくって、それらの要素を関連付けようとしてみて、でもそんなことしても無駄だから忘れて寝てしまおう。みたいなことが書いてあるんですよ。

そして結局は脳を目的の物事から離したリラックスの状態に持ち込めば自然にそのうち思いつくから、そうなってからまとめ上げようとしてみよう。という流れなんですが、事実として自分が今までに思いついてきたこと、やってきたことの大体がこの段階を経ていたんじゃないかと、答え合わせができたような感覚でした。

『アイデアのつくり方』ジェームス・W・ヤング 著 今井茂雄 著 竹内 均 著(画像は公式サイトより引用)

神山:なるほど。過去に別のインタビューで、アイデアについて「脱力」と表現されていたのを目にしたのですが、このことだったんですね。

トモぞヴP:考えるだけ考えて脳をオーバーフローさせたら、その状態ではもう出てこないから一旦忘れてリラックスしようという部分を「脱力」と表現したんだと思います。

よく言う「アイデアが降ってきた」「シャワーを浴びてたら思いついた」の理屈を説明してあるので、僕は人間の脳がそういう作りになっているんだなと思って、この本に書いてあることを信用していますね。

簗瀬:情報の「インプット」と「整理する」ことは脳においても異なる機能で、何もしてない時や夜寝ている時間が記憶の整理に使われていると言いますから、そこを切り替えることによって結果的にアイデアが出るという仕組みですね。ちなみに私が新しいゲームのことを考えつくタイミングで一番多いのは「ゲームをしている時」です

あとは並行で何本も走らせていると、まったく違うことに取り組んでいる時に別のプロジェクトの解決策を思いつくこともよくあるので、私も本当にリラックス、もとい脱力することの重要性を感じますね。新しい情報なんて何かのきっかけがないと絶対思いつかないですから、別のことをやるべきなんですね。

神山:「煮詰まったら一晩寝かせろ」は、どの分野のクリエイティブでも聞く気はしますね。

「豆腐が主役なら面白そう」というワンアイデアから「お金を出して買っていただく」ゲームに至るまで

神山:アイデアを思いついたところで、それをゲームにするのは難しいですよね。『スゴイツヨイトウフ』は「豆腐をゲームにしたら面白い」という発想から2ヶ月でコンテストに提出したとのことですが、どのように開発を進めたんですか?

トモぞヴP:2022年の11月に「豆腐が主役のアクションゲームを作ろう」というポストをしているんですが、たしかこれは募集の発表から2日程度だったと思います。実はこの頃にはゲームの基礎は殆どできていました。

でも、”ちゃんとしたゲームの作り方”を知らなかったせいで1年ほど路頭に迷うことになるんです。1週間で仕上げるカジュアルな作品ではなく、お金を出して買ってもらうようなゲームを作るのが初めてだったので、実質的には本作がゲーム作り初挑戦と言っても過言ではない状態だったんですよ。

神山:「豆腐が主役の横スクロールゲームで、高い所から落ちたら潰れてゲームオーバーになってしまう」あたりの要素はもう固まっていますね。

トモぞヴP:そうなんですよ。1ヶ月くらいで8割ほどの要素は揃っていました。製品版と異なる点は、豆腐がスピンアタックで攻撃するシステムがあったことですね。『スーパーマリオギャラクシー』が大好きで、その影響でした。

簗瀬:スピンアタックがなくなっても、マリオシリーズが大好きなことは『スゴイツヨイトウフ』をプレイしていれば伝わってきますよね。端々からエッセンスを感じます。

トモぞヴP:そうですね。むしろ豆腐自体には思い入れは当初ほとんどなくて、任天堂系のアクションゲームが好きすぎて作りたいというモチベーションが強かったです。

あと、12月頃の動画もあります。これくらいの作り込みで応募して、コンセプトと見栄えが良かったからかコンテストには通ったものの、ここからが大変でした。

神山:Unity1weekで制作するような作品群の枠を超え、商品としてのゲーム開発に初めて進んだと考えると、たしかに苦労は多そうです。とはいえ、最初の画像から2日後にはかなり形になっていることが伺える投稿もあります。

簗瀬:Unity1Weekで鍛えられた制作初速のスピード感もすごいですが、実はトモぞヴPさんのすごさのひとつに、圧倒的な手数でさまざまなゲームを作ってきたからこその「クオリティのコントロール」があるんです。言ってみれば「これくらいでも十分プレイしてもらえて面白いと思える」ラインをしっかり持っているんだと伝わります。

先ほど商品としてのゲーム開発への壁に当たったという言葉もありましたが、逆に言えば『スゴイツヨイトウフ』は企業からは出てこない発想のゲームでもありますよね。

実写映像のクオリティで市販のレベルのゲームであることをアピールしつつも、ゲームの中身には荒々しい部分もあって、そのギャップは「ゲームデザイン」という言葉よりも、もっと総合的な「ゲームをリリースするときの感覚」と言えると思います。

本作では、逗子の老舗とうふ工房「とちぎや」協力による、豆腐作りの映像がカットインされる

神山:横スクロールアクションで遊んでいたと思ったら、急に豆腐作りの実写映像がカットインされますからね。しかも映像のクオリティが高いという。あれはだいぶ笑ってしまいました。

簗瀬:もちろん、トモぞヴPさんとしても試行錯誤してこのバランス感に到達しているとは思いますが、8社ほどでゲーム作りを経験してきた私としては「企業ではできないな」と感じる部分ですね。

しかも『スゴイツヨイトウフ』からはたくさんのゲームを作ってきたからこその手数も感じられて、『ギリジャンパー』のギリギリを攻めるテイストや、『超楽しいウサギのゲーム』に登場したゴリラの要素など、手数の組み合わせによってシチュエーションを増やしているのが特徴的でした。

幅だけでなく高さもギリギリなジャンプを求められる「Giri-Jumper ギリジャンパー」

簗瀬:私が好きなのは、急に出てくる「豆腐クイズ」なんですよ。クイズ自体は急なんですが、実はそれまでのステージ転換のローディング中に豆腐に関するTipsが色々と表示されているので、その豆知識をしっかり読んでいれば「何%以上の濃度の豆乳から豆腐が作れるか」などと聞かれても正解できるんですよね。

神山:確かに、豆腐のTipsを毎回見せられたあとにクイズのステージが来るのは、伏線回収感がありましたね。「あの知識、ただのTipsじゃなくて攻略でも活きてくるのかよ」という意外性とも言えます。

トモぞヴP:あのあたりは、完全に任天堂作品のオマージュですね。

簗瀬:任天堂の作品から影響を受けているのは伝わりますが、単純に「マリオっぽい」ゲームになってしまうのではなく、ありえないテイストに独自のエッセンスを盛り込んでいるので、リスペクトを発揮しながらも自分のシステムの中で面白いゲームにすることを成功させているんだろうなと思います。

トモぞヴP:作っている時はその瞬間必死でやってきたものが集まって完成形になっているので完全に後付けにはなるのですが、今にして思えば自分でもそういう考えだったのかも知れないと思い直しました。

簗瀬:後から気づくというのは、すべてのクリエイターさんがそうだと思います。それまでの積み重ねから作品が生まれてくる訳で、トモぞヴPさんが今までインプットしてきたものがゲームの中に見えることこそが「作家性」なんですよね。

この「作家性」はやはり多くの人が関わるほとだんだん薄れてくるものなので、少人数開発だから、というかほぼ独力での開発だからこそ出てくるものがトモぞヴPさんの作品にはすごくありますよね。私は『The 内閣』がすごく好きで、唸らされる作品でした。

トモぞヴP:あれは自分でもよく出来たゲームだと思います。

階段へタイミングよく議員を落として並べていく『The 内閣

半年の行き詰まりを打破した3つのきっかけ

神山:「その瞬間必死でやってきた」というのは、裏を返せばスケジュールを組まずに毎回その時にできる瞬間最大風速で作っている、というイメージになるのでしょうか。

トモぞヴP:そうですね。実は途中でレベルデザインに行き詰まり、「半年かけてステージが10個以下」という状況になったこともあったんですが、そこを突破したきっかけが3つあるんです。ひとつはパブリッシャーである株式会社Phoenixxさんが、制作進行やマネジメントとしてついてくださったことです。

そして僕は「このゲームは音楽と映像にお金をかけたいんですよ」と言っていたものの、実行に移す手段が分かっていませんでした。しかし、Phoenixxさんのマネジメントのおかげで、さまざまな有名作品のBGMを手掛けられた作曲家の永松亮さん(@NagamatsuRyo)に音楽とムービーをお願いできたことが、2つ目の突破口でした。

3つ目は「豆腐のゲームを作ろうとしてるのに、あまりにも豆腐について何も知らない」と気づいたこと。そして、「豆腐マイスター」の資格を取ったことですね。豆腐の豆知識もそうですし、全部のステージを”豆腐ができるまで”の工程になぞらえることにも繋がったので、ここから一気にハマったような感覚でした。これらは企画書には書いてなかった要素ですし、簗瀬さんが言うように「どう考えてもゲーム会社から出てこないネタ」だとは確かに思います。

トモぞヴP氏 X投稿より引用

簗瀬:トモぞヴPさんだけでなく、チームを組んだ皆さんの影響も強い作品なんですね。

トモぞヴP:そうですね。永松さんには当初、音楽だけをお願いして映像は別の専門の会社に依頼するつもりだったんですが、相談してみたところ永松さんから「映像もできますよ」とお話をいただいて、それなら一気通貫でお願いした方が良いんじゃないかという流れになったんです。

豆腐マイスターについても、カヤックの社内チャンネルで「知り合いに豆腐屋さんはいませんか」と聞いてみたら、たまたま逗子の豆腐屋さんに繋いでいただけたんです。そこで職人の亀田さんという方に「こういう事情で豆腐のゲームを作ろうとしているので勉強させてください」とお願いしたところご快諾いただけて……。こうして振り返ってみると、ライブ感でしかない開発ですね。

簗瀬:まさにその瞬間でやれることをやってきた積み重ねなんですね。少し戻って、レベルデザインで行き詰っていたのは具体的にどういった部分だったんですか。

トモぞヴP:これは”あるある”かも知れませんが、「1-1」をずっと作り続ける状態に陥っていました。

これはGYAAR Studioで知り合った『パーリィナイトメア』制作者のチャレヒトさんに相談して、「それは分析麻痺に陥っていて、最初の1歩目からどこに踏み出せば良いのか分からない状態がずっと続いている」と指摘してもらったのですが、なかなか解決できなくて。

チャレヒトさんによる『パーリィナイトメア』。「GYAAR STUDIO インディーゲームコンテスト」の入賞作品

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トモぞヴP:解決策は「とりあえず合っているか間違ってるかは置いて、ひとつの方向に向かって進み続けるのが良い」ということでしたが、後から思えばそれをやることこそディレクションだったんだなと気付きました。

簗瀬:なるほど。私の感想としては、遊んでいると時折すごく短いステージが来ることに少し”ご褒美感”があったと言いますか、きっちりクリアした手応えもありつつリターンも得られて心の掴み方が上手いなとも思っていました。

トモぞヴP:最初は『スーパーマリオ』的な、中間地点があるくらい長いステージをクリアしていくレベルにしようと思っていたんですよ。ただ、途中からその作り方だと労力がかかりすぎて立ち行かなくなることに気づいたんです。それでいわゆるショート動画的な、30秒から1分でクリアできるレベルを10個作るような作り方に切り替えました。

これも振り返ってみると、全体の流れによる「体験設計」を真面目にやろうという考えに囚われ過ぎていたなと思いますね。それよりもとにかく思いついたレベルをぶわーっと作ってみて、後からそれに理由をつけて並べ替えていく作り方をしたら、結果的にそれがハマりました

実はこれは技術的にも工夫していて、『スゴイツヨイトウフ』はワールドごとに背景や地面の柄、BGMを変えて雰囲気に差を出しているんですが、ブロックやギミック自体はすべて共通の規格でScriptableObjectとして作っているので、後からパラメータを1つ差し替えるだけでワールドそのものの雰囲気をガラッと変えられるんです。

全体の繋がりを事前に考えずにとにかく数を出せるようになったので、そこは技術というかアイデアで解決できたレベルのポイントだったと思います。

簗瀬:ボス戦の前には「ほぼ何にもないステージ」が必ずあるのも「次はボス戦かな」と思えて好きですね。

トモぞヴP:それは明確にオマージュ元があって、ゲームボーイアドバンスの『星のカービィ 鏡の大迷宮』の影響です。僕のゲームの触り心地や体験で一番影響を受けている作品だと思っていて、敵を倒した時のヒットストップから効果音の感触みたいな部分まで、すごくたくさんのオマージュが入っていますね。

神山:なるほど、言われてみれば確かにそうですね。

トモぞヴP:『鏡の大迷宮』を手がけたゲームデザイナーの濱村崇さん(@GDLab_Hama)にもGYAAR STUDIOの繋がりで直接本作を触っていただけて、「ステージは今プレイヤーができるギミックの組み合わせで作る」とアドバイスを頂きました。レベルデザインについては、専門家からのアドバイスがすごく進捗に影響しましたね。

難易度調整の「偶然」とテンポへのこだわり

簗瀬:ゲームの手触りの話が出たので「油揚げ状態」についても聞きたいですね。ゲーム性としては「高くジャンプできて、落ちても潰れ(てゲームオーバーになり)にくい」要素ですが、動きによって油揚げの回転もちゃんと変わるので、結構なこだわりを感じた部分です。

トモぞヴP:これはUnityでアクションゲームを作る時ならではの話になりますかね。実はUnityって、2Dマリオのようなゲームを作ろうと思うと意外と大変で、たとえば”壁に摩擦を設定してなかったせいで「ジャンプしたら貼り付いたまま」になってしまう経験”ってよくあることだと思います。

簗瀬:そうですね、おっしゃる通りですね。

トモぞヴP:そこで独自の重力システムを作るとキリがないので、僕なりの解決法が「Rigidbodyを使って、Unityの重力システムに限りなく任せた作りにする」ことでした。

これはハイパーカジュアル制作で学んだことでもありますが、UnityはRigidbodyで標準制御に任せた方が気持ちいい動きになることが多いんです。ジャンプした時の跳ね方や敵にぶつかる判定はUnityの機能をそのまま使ってなんとかしていましたね。

簗瀬:なるほど。このあたりは開発者によって方針が変わるところで、「完全に思い通りにしたいから自分で書いちゃう派」と「基本機能でなんとかする派」に分かれますが、トモぞヴPさんは基本機能派なんですね。コストとスピードを重視する姿勢を考えると、合理的だと思います。

トモぞヴP:豆腐の種類に関して言えば、このゲームは難易度選択が「絹豆腐」「木綿豆腐」「高野豆腐」になっています。これは「偶然の産物」なんですよ。

GYAAR STUDIOでの開発を進めていた頃に「『ダークソウル』くらい豆腐のキャラメイクができる」仕様を考えていて、そこに「人間のキャラなら性別やタイプを選ぶところを、豆腐だから木綿か絹かを選ぶ」という、ものすごく分かりにくいボケを考案していたんです。

そのとき、「木綿と絹がマリオとルイージみたいだね」と言われたことにピンと来て、「絹が滑りやすくて木綿は普通ってことにすれば良い。しかも高野豆腐は落ちても崩れないからイージーモードにできるぞ!」と思いついて、今の仕様になりました。

画像はSteamストアページより。選択していない豆腐はグレーアウトしている

神山:これも、もとから考えていたアイデアがあって、それをもとに誰かとの対話で思いついた仕様と言えますね。なんというか、良いツッコミどころがあるからこそ、他者からのフィードバックにも多様性が生まれる気がします。

トモぞヴP:これはバチっとはまった感覚がありましたね。ついでに言えば、制限時間が「消費期限」と表示されるのも、東京ゲームショウに出展していた時に体験してくれた小学生くらいの子供が「これって賞味期限はないの?」と聞いてきたことがきっかけなんですよ。

簗瀬:消費期限が意外に短いのも面白いんですが、リトライがしやすいのでプレイヤーに対しても親切だと感じます。

アクション的に難しいステージも、上手くいけば15秒くらいでクリアできるので、チャレンジする気持ちが持てますし、全体的に難易度は高くてもリトライのしやすさで「何回もやれば誰もがクリアできる」くらいに狙って作られていると感じています。

トモぞヴP:難易度は一番調整した部分ですし、その意味ではGYAAR STUDIOでは月に1回程度メンバーが集まっての「テストプレイ会」のようなものがあって非常に有り難かったです。

最初にテストプレイ会に『スゴイツヨイトウフ』を出した時は、今のバージョンには入っていない「ギリギリの崖を飛び越え続けるだけ」みたいなステージばかりで、誰もクリアできなかったんです

その頃は難しいゲームと「遊ばせるゲーム」の区別もあまりついていなくて、そういった細部を詰めていくうちに、最終的に「そこそこの難易度のステージをわんこそば式にいっぱい遊ばせる」方式へと収束していったんです。

最近は「高難易度ゲーム」と言えば一種の言い訳にできてしまうような感覚があって、それこそSteamだとウケが良かったり、ゲーム実況者が「なんだよこれ!」とリアクションしてくれたりすることが正しいもののようにも感じられますが、それはものすごく狭い範囲のゲーマー向けですよね。ましてや豆腐というキャッチーな題材でそれをやるのはすごく噛み合いが悪いと気づかされました。

簗瀬:ゲームのプレイ中は「やられそう」「やられた!」という瞬間が楽しいものの、長時間連続して上手くプレーしないとクリアできない場合はストレスにもなってしまいます。

『スゴイツヨイトウフ』は短いステージをたくさんクリアしていく方式だからこそ、高いとこから落ちてしまって「べちゃっ」と潰れるシーンもストレスなく楽しめますし、次のプレイまで潰れた欠片が残るのも面白いですよね。

画像はSteamストアページより。前のプレイで飛び散った自分自身が画面に表示されている

トモぞヴP:ありがとうございます。潰れた豆腐が残り続けるのは僕も面白いと思って入れたので嬉しいですね。

簗瀬:リプレイの間隔が短いのも意識したポイントですか?

トモぞヴP:意識しましたね。ゲームの開発中、ちょうど桜井政博さんのYouTube「桜井政博のゲーム作るには」の内容を参考にしていたんですが、とにかく「客を待たせるな」と何度も何度も言っているんですよね。

桜井さんは「コントローラーでゲームをしていない時間を極力なくせ」と繰り返し発言していて、ロード時間からゲーム起動時のロゴ表示、そしてリトライの間隔までかなり突っ込んだ話があったのが印象的でした。

簗瀬:タイトルロゴもある程度進んでからアバンタイトルとして出せば逆にかっこいい演出になることもありますし、一旦はロゴを出さずに「先に操作させる」工夫もアリですよね。待たせない工夫としては、落下してしまった時も壁に当たって潰れて、すぐゲームオーバーになるのが良いですね。

トモぞヴP:それは偶然の産物ですね。豆腐は「一定の速度を持った状態で衝突すると潰れる」という判定をしているので、結果としてそうなったんです。

簗瀬:そうだったんですね。一番下まで落下し切るのを待たせないようにしているのかと思っていました。あとはステージ間の豆知識情報も、ロード時間が短いと全部は読み切れないのですが、それでも待たずに先のステージに行きますよね。

ロード中には、さまざまなとうふのTipsが表示される

トモぞヴP:ですね。実はSwitchくらいの性能があればロード画面を出すまでもなく読み込み可能なんですが、ゲームテンポの区切りとして場面転換のような感覚でロード画面を表示して、ついでに豆知識も出しています。

簗瀬:そういえば私も、過去にQAからのフィードバックで「ロード画面が0.4秒くらいしかなくてTipsが読めないので表示をやめてください」という話になったこともありました。

トモぞヴP:なので、『スゴイツヨイトウフ』ではロードが終わった後にポーズを押すと、画面左下に豆知識が残るようにしました。この知識はクイズでも使うので。

「Dynamic Bone」で揺れる豆腐。操作の手応えはどう作る?

神山:豆腐がかなりプルプルとした質感なのが印象的ですが、この「揺れ」はどう作ったんですか?

トモぞヴP:一言で言えば「Dynamic Bone」を使って揺らしているのですが、このプラグインは人体や動物の尻尾を揺らす表現でよく使われるものです。豆腐のためのものではありません。そこで、豆腐の場合は中心から各頂点に向けて、つまり8方向に支柱を伸ばして「Dynamic Bone」を設定しています。

物理性を内包した2Dプラットフォームアクションゲームにしようとは最初から計画していて、初期段階で実装していました。

簗瀬:ジャンプ台として登場するプリンも揺れていましたが、あれもDynamic Boneですか?

トモぞヴP:そうですね。豆腐のDynamic Boneは見た目にも面白いですし、操作のフィードバック感が増すので実装して良かったですね。

操作のフィードバック感については、仕事でハイパーカジュアルゲームを作っていた経験が大きいと思っています。やはり基本的には「ゲームをしない人のためのゲーム」なので、ゲーム性よりも直感的なプレイ感や操作に対するフィードバックが重要で、社内では「官能性」という方言を使うこともあります。

僕はその部分を結構作り込む癖があって、豆腐が揺れたり落ちたら崩れたりという部分は、その経験の集大成と言えるかも知れません。

神山:ステージ自体が短く、そしてロードがほぼなくパパッと切り替わって次のコースが即プレイできる。リトライも早い。こうした体験も、どこかハイパーカジュアルの文脈を感じます。

トモぞヴP:僕がハイパーカジュアル畑で育った延長で作っているので、そういうレベルの作り方になっているとも言えますね。

簗瀬:カジュアルな部分もありつつ、中には繊細な操作が必要とされるステージもあって結構難しいんですよね。しかもリトライポイントが無いステージもあって「これは通しプレイでクリアして欲しいんだな」というメッセージも伝わりました。

ボスラッシュも結構工夫が見られて、直前のボスは連続になってしまうけどどうするんだろうと思えばセットになって出てきたり、 あとはすべてのボスが「3回弱点を突くと倒せる」仕様からボスラッシュでは2回でOKになっていたり、ゲームテンポをすごく意識して作られていると感じました。

このゲームには魚やゴリラなどのボスキャラが登場おり、最後はボスラッシュも用意されている

トモぞヴPさんが「偶然の産物」とおっしゃった部分も含めて、とにかく工夫を数えきれないほど感じるのが『スゴイツヨイトウフ』の全体的なすごさだと思っています。

トモぞヴP:なんというか、ここまで開発中に考えていたことを紐解かれたのは初めてで、すごくありがたいですね。

使われなかった「2000万ポリゴンの豆腐」モデル

神山:どこかで読んだのですが、豆腐の表現にはフォトグラメトリを使用しているんですよね?

トモぞヴP:そうです。GYAAR STUDIOで「豆腐のグラフィックを限りなくリアルにしたい」という旨のことを言ってみたら、「うちにそういう施設ありますよ!」と、AAAタイトルで使うようなとんでもない設備を使わせていただく機会があって。

むちゃくちゃな巨大なカメラや無数のカメラが1丁の豆腐を囲んでいる、あまりにも面白い光景でしたね。

トモぞヴP氏 X投稿より引用

神山:それはすごい光景ですね……。

トモぞヴP :伝わりにくいので「豆腐のモデルをキャプチャした」と表現しているんですが、実はポリゴンとして起こす工程とテクスチャ情報として起こす工程の2種類をやったんですよ。前者は無数のカメラで囲んで撮影して、後者は暗室のような環境での撮影だったのを覚えています。

ただ、実際に使用したのはマテリアル情報だけでした。本当はバンダイナムコスタジオさんの技術で作られた2000万ポリゴンぐらいの豆腐のモデルがあったんですが……。

神山:それはなぜ使用されなかったんですか?

トモぞヴP:あまりにも”豆腐そのもの”すぎてゲームに 落とし込むにはディテールが深すぎたのと、単純にマテリアルを含めると立方体にテクスチャを貼り付けた質感の表現で十分足りたからですね。

神山:なるほど。豆腐の実物は完璧なキューブではありませんから、2000万ポリゴンのモデルを動かしてみると加速度が変わってしまうような可能性も考えられますし、立方体+マテリアルの処理が正解だったのかも知れません。ちなみに撮影モデルの豆腐はどこから調達されたんですか。

トモぞヴP氏 X投稿より引用

トモぞヴP:僕が協力いただいていた逗子の豆腐屋さんで買ったものです。逗子から東京のスタジオまで横須賀線を乗り継いで豆腐が崩れないように運搬していく謎のミッションが発生していて、道中はずっと『DEATH STRANDING』のサントラを流していました。

神山:大変なミッションでしたね。ゲームオーバー時の崩れた豆腐も、特にフォトグラメトリは使わなかったのでしょうか。

トモぞヴP:そこはリアルすぎると逆に申し訳なくなるのもあり、単純な立方体を割ったモデルをBlenderで作っています。

神山:ありがとうございます。あとはカメラが引いているので、それもあってディティールは必要なかったのかもしれませんね。Dynamic Boneの使い方も特殊で、勉強になりました。

こだわりの手触りや演出の影響元は?

神山:続いては手触りの調整について、先ほど『鏡の大迷宮』のオマージュも大いに盛り込まれているとのお話もありましたね。

トモぞヴP:当時、Nintendo Switch Online + 追加パックでも配信が始まっていて、かなりプレイし直しました。ゲームボーイアドバンスのタイトルは、全体的にすごくフィードバック感というか手触りがいいゲームが多いと思っていて、「やりたいことにハードウェアの性能が追い付いた時期だからなのかな?」と考えています。

2023年よりバーチャルコンソールで登場

簗瀬:ドット絵の時代はできることが少ないからこそ、演出やエフェクトはその担当者がすべてコントロールした上で開発されていたというのはあると思います。

あとは初めて「すごく感触がいい」と思った経験は残り続けるので、手触りや音、グラフィックなどが合わさったひとつの完成形として体験した人が多いのかも知れません。

神山:ドット絵によるアニメーションは1フレームずつ完璧にコントロールされていますから、そこが手触り感に繋がっていると。

トモぞヴP:それと、開発期間中にやり直したと言えば初代の『星のカービィ』ですね。恐らく10回くらいプレイして、特にゲーム全体のボリューム感の参考にしています。

これも桜井政博さんのYouTubeで何度も登場しているタイトルで、こじんまりとしているのにめちゃくちゃ完成度が高い作品だと思っています。意図的に「ゲームをしない人に向けたゲーム」として作られてる点でも、トウフと温度感は近いかなと思いました。

初代作品ではカービィが「コピー能力」を持っていない

神山:ボリューム感では、1時間程度でクリアできる内容になっていますよね。

トモぞヴP:本当はクリア後にしか遊べない裏ステージなどもやる予定だったんですが、どこかで「このゲームはほどよく遊んでもらって、ムービーを見せて、それでもう終わりで良いな」と。

500円のタイトルですし、企画書の段階でも「Steamでセールをやっている時についでにカートに放り込むようなゲーム」と書いていたはずなので、ある意味では最初から狙ったボリューム感でもありました。

セールで更にお手頃価格に。他のゲームと一緒にカートに放り込みやすい価格帯

神山:ここまででも『カービィ』 シリーズ、そして桜井政博さんの影響が強く出ているように感じました。

トモぞヴP:人生で1回はカービィのようなゲームを作りたい気持ちがどこかにあったんですよ。桜井さんのYouTubeも何度も見返しましたし、作り終わった後には「桜井政博さんのYouTubeを参考にゲームを作った」というnoteも公開しました。

これはnoteにも書いていないことですが、『スゴイツヨイトウフ』の中には桜井さん本人が意識しているかどうかというレベルの演出の傾向まで意図的に取り入れています。ひとつ挙げるならば「エンディングで必ず空が出る」ことで、『スゴイツヨイトウフ』のエンディングもこれに倣いました。

簗瀬:そう言えばエンドロール中に操作ができるのもオマージュになっていますね。

トモぞヴP:そうなんです。僕と同じぐらいの世代で、ゲームボーイアドバンスあたりの『カービィ』作品を遊んでいた人からすると「これがやりたかっただけじゃねぇか!」って思われたんじゃないでしょうか。

エンドロール中も豆腐の操作が可能

神山:ちなみに、配信で使いやすいボリューム感ということもあって、多くの配信者が取り上げていましたが、そこは想定されていましたか?

トモぞヴP:比較的カジュアルで引きがあるタイトルにしたつもりではいたので「配信で遊んでもらえたらな」とは思っていましたが、有名な方々を含めてすごく遊んでいただけたので、想像以上でしたね。

若い世代の男性配信者みたいな層は私とも感性が近いからか、すごく刺さっているなと感じました。

加賀美 ハヤト(にじさんじ)も配信するなど、大きな反響があった

Unity機能とAI活用で「コードを書かない」時代に

神山:ちなみに、開発時期で活用したオススメのUnity機能があれば教えてほしいです。

トモぞヴP:Unity Localization」ですね。翻訳機能って、そもそもなにをすればいいか全く分かっていなかったんですが、あれがなければローカライズできなかったなとは思います。

トモぞヴP:データをシートに落とし込み、必要なところを埋めれば、あとはそのシートのCSVだけを外注さんにお渡しするだけ。実はオブジェクトごとにローカライズ設定のようなものがあって、それに気づかないままUnityのエディターをいじってしまい、言語ごとにぐちゃぐちゃの設定になってしまうという罠も踏んでしまったんですが、これはちゃんと使い方を読んでから使うべきでしたね。

神山:ローカライズは日本語も含めて5言語でしたよね。

トモぞヴP:日本語と英語と、中国語の簡体字と繁体字。あと韓国語だけは後から追加したんですよ。なぜか韓国方面から評判が良くて、有志でのローカライズModが出るくらいだったので需要があるならと対応しました。僕がカヤックで作った『I scream Ice cream』という声で遊ぶゲームも韓国からの反響が良くて、少し不思議です。

叫ぶことでアイスクリームを操作する『I scream Ice cream』

ここ1年はまったく人力でコードを書いていない

神山:カヤックさんのHPでは「技術部/Unityエンジニア」という肩書になっていますが、かなり企画寄りの仕事をしていますよね。

トモぞヴP:そうですね。ただ、うちの会社はあらゆる職種の垣根があまりないのですが。最近は企画職の人たちもClaude Codeを使ってUnityのゲームをリリースしているくらいで、恐ろしい時代が来ているなと思います。

僕自身も学生の頃から現在まで便宜上はUnityエンジニアではあるのですが、4年前に「GitHub Copilot」が登場したあたりからコードを書く機会が減って、ここ1年はまったく人力で書いていないかも知れません。ですから、エンジニアと名乗るにはおこがましいかも知れませんね。

今は「Unity MCP」が実装されたおかげでClaude Codeと合わせてバリバリゲームが作れるので、ありがたいです。

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神山:AI活用事例は多く聞きますが、こうして見ると、特にハイパーカジュアルの文脈ではゲーム開発のワークフローがすでに大きく変わっているということに衝撃を受けますね。

トモぞヴP:1年前まではChatGPTに相談してはコピペしたりGitHub Copilotと協力してコードを書いたりくらいでしたが、Claude Codeが実務レベルを超えてきたんですよね。

Unityでポチポチやっていた作業をMCP経由でほとんどやってくれるようになりましたし、フォルダの整理のような細々したところも一切合切AIに任せた方がより早く綺麗なものができると感じます。

ホットクックに材料を入れたらいつの間にか料理ができている現象に近いことが、ここ最近ではUnityで実現できているような感覚です。アート用の表現やオブジェクトの配置などもカジュアルゲームぐらいなら完全ノーコードで可能で、実際に前回のUnity1weekで出した『神経衰弱(させないで)』は完全にAIで作っています。

食べ物カードを神経衰弱で揃えないとおじさんがどんどん痩せ細って衰弱してしまう『神経衰弱(させないで)』

神山:アート用の表現とは、カスタムシェーダーを書いてくれるイメージですか?

トモぞヴP:そうです。画面を歪ませるだとか、画面全体にかけるURP(Universal Render Pipeline)用のシェーダーだとか、アセットを検索しようにもどう調べるのが正解か難しいことでもしれっとやってくれます。

簗瀬:ちなみに、Unity AIのオープンベータもちょうど今月始まりましたね。Unity AI Assistantを活用した開発もオススメです。エディタ内のエージェントがUnityの文脈やゲーム開発のワークフローを理解しているので使いやすいと思います。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン アドボケイトの高橋啓治郎氏による実演動画

トモぞヴP:最近だと、巨大なお茶を点てる『超茶道』でもAIが役立ちました。ハードウェア周りなど複雑なパラメーターを扱わなければいけない作品では、まずAIが土台を作って、人間が調整をするワークフローが良かったです。

声を使ったゲームを作るにしても、アナログな情報である「声」を扱う術をそこそこ習得しなければいけないんですが、そういった部分も任せるとかなりやってくれるので助かります。

神山:『超茶道』にはすごく笑わせていただきました。おそらくそのままAIを活用するのではダメで、トモぞヴPさんの中でイメージや手触り感の正解と言えるものができているので、「ある程度良い感じのもの」を細かくジャッジして調整していく作り方が成立しているんだと思います。

トモぞヴP:頭の中にある感覚とプレイのフィードバックを繋ぐ時に、別の概念を介さなくても良くなったのはかなり熱いなと感じます。エンジニアリング自体は僕も大好きなんですが、追い付かなかったところを任せられるのは大きいですよね。

とは言え完全に任せきっていては今の仕上がりにならないので、おっしゃる通りで細かい部分はパラメーターで調整します。ホットクックの例えに戻るなら、最後の調味料での調整だけは人間がやらなければいけない、という感じです。

簗瀬:それは結局のところ、誰もがディレクターになるということですよね。

ゲーム開発はグループ作業になりますが、そのゲームを心からすごく作りたいと思える人数は、何人いてもだいたいアイデアを出した中心となる1人だけになりがちです。他の人は協力する構図が、チーム制作の基本形でもありました。

それがもしかすると、これからは「自分が心から作りたいゲームを、全員が作れる」ようになっていくのかも知れません。もちろん、それだけでは作れないゲームもあるのは間違いありませんが。

トモぞヴP:Unity1weekで作品を出したいとなったときも、たとえば「ゲームの面白さをあげることに直結しない作業」はかなり減らせますよね。

簗瀬:すごく分かります。私もゲームプレイの部分を作るのは好きですが、たとえばタイトル画面からゲームへの遷移などの部分などを作る時はあまりテンションが上がらないので。

トモぞヴP:音量を調整するUIなどもそうですね。

神山:もちろん画面遷移もUIも創意工夫が現れるパートではありますが、画一的な仕様でも成立する部分については省エネで終わらせるという考え方ですね。

ちなみに『超茶道』も含めて、トモぞヴPさんのエンターテイメント性やギャグセンスは相当高いと思うんですが、これらはどこかのルーツがあるのでしょうか?

タイミングよくゲージを溜めて全てを許されるパワフルな土下座をする『パワー土下座』など、ユーモアのセンスが光る作品も数多い

トモぞヴP:強いて挙げるのであれば、子供の頃になぜか偏ったギャグ漫画ばっかり読んでいた時期があるんですよね。同級生が『NARUTO』や『ONE PIECE』、『BLEACH』を読んでいる時期に『ボボボーボ・ボーボボ』や『Dr.スランプ アラレちゃん』を読んでいました。『コロコロコミック』はバッチリ現役で読んでいた世代ですよ!

ゲーム制作者を目指すなら?→「Unity1weekに出よう!」

神山:たしかに『ケツバトラー』は本当にコロコロとの親和性の塊みたいなゲームだと個人的に思っています。トモぞヴPさんは個人と会社(チーム)と、どちらの開発も経験されていますが、どんなところに差を感じますか?

トモぞヴP:まさに『ケツバトラー』の時がすごく明確で、単純に「この人たちと作ったら面白そうだな」という直感から、個人ではなくカヤックで作ると言い出した面もありますね。

会社の行動指針のような標語で「何をするかより誰とするか」とは結構言われるんですが、僕はこれはすごくいい指針だなと思っています。『スゴイツヨイトウフ』で永松さんに色々とお願いできたこともそうですよね。

永松さんのYouTubeでは映像作りの過程も公開されている

神山:「こいつと作りたい!」と思える人が周りにいるのは良いですね。

トモぞヴP:そうです。もちろん学生作品などは「チームのメンバーがいなくなった」などの悲しい経験をすることもあると思います。

でも、私の工業高校での経験ですが、「メンバーが蒸発する」は結局ディレクター役だった自分が締め切りをはっきり示せていないなど「何も決めないディレクター」だったからだと思います。そこに着いていく人間はいないな、と自分でも反省していますね。

神山:そんなトモぞヴPさんが今や完全な締め切り型駆動ということで、やや前半の話と繋がりを感じますね。

トモぞヴP:そうなんですよ。未だに僕は締め切りがなければ何もできないと毎度気づかされているので、これからも頑張ります。

ちなみに先日、「東北ゲームアワード 2026」で学生作品の審査をさせていただいたんですが、投票で大賞に選ばれたゲームはメンバーが誰一人として蒸発していなくて素晴らしいなと思いました。ゲーム自体も電気プラグを投げていくパズルアクションのような内容でよく出来ていて、隅々までコンセプトが通っているのを感じましたね。

神山:ゲームメーカーズの読者でこれからゲーム制作に挑戦したいと思っている方、または制作中だけどなかなか完成できない方に向けて、たくさんの作品を生み出してきたトモぞヴPさんからメッセージをお願いします。

トモぞヴP:これはもう「Unity1weekに出ましょう」。これだけです!

10本作ったうちの9本はつまらないかも知れませんが、1本面白いものが出るかも知れません。本当に何でも良いので、最初に大作を作ろうとせずにまずは1本完成させることを大事にすると良いと思います。

そして、それを人前に出してフィードバックをもらうところまでがワンセットです。全部がこなせるのがUnity1weekなので、是非参加してください!

トモぞヴP氏が手がけた新作『BIOTONE.』(画像はSteamページより引用)

トモぞヴP:最後に、BitSummit直前ではありますが新作『BIOTONE.』を発表しました!Steamページが公開されていますので、ぜひウィッシュリスト登録をお願いします!

トモぞヴP氏 Xアカウント『BIOTONE.』Steamページ

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フォワードシェーディング(Forward Shading)
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