Steamの現状や特性を知って攻略しよう。インディーゲームにおけるマーケティングの基本を学ぶ講演をレポート【GFS2025】

Steamの現状や特性を知って攻略しよう。インディーゲームにおけるマーケティングの基本を学ぶ講演をレポート【GFS2025】

2025.07.10
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2025年6月4日(水)、ゲームのプロデュースとマーケティングに特化したビジネスイベントである「GAME FUTURE SUMMIT 2025」が東京・渋谷で開催されました。

本稿では、リュウズオフィス代表取締役の小沼 竜太氏、タツマキゲームズ CEOの畑佐 雄大氏、そしてアライアンス・アーツ CCOの林 風肖氏が登壇した講演「Steam/PCゲーム/インディーゲームのマーケティング攻略法」をレポートします。

TEXT / ハル飯田

EDIT / 藤縄 優佑

目次

急激に変化するゲーム市場の状況をおさらい

講演前半では、小沼氏がゲーム市場の基本的なデータを紹介しました。全世界のゲーム市場は2023年時点で約29兆円にのぼります。日本を含めた東アジア全体は約12.5兆円で、北米の約8.2兆円と欧州の約5.3兆円を合わせ、これら3地域でほとんどのシェアを占めています。

デバイス別の世界シェアはモバイルが6割程度で、PCと家庭用ゲーム機が2割前後ずつ。地域別ではモバイル大国である日本と中国が含まれる東アジアはモバイルが75%と圧倒的で、他地域にもそれぞれ特色が表れています。

小沼 竜太氏

講演のメインテーマの「Steam」も成長中。Steamの同時接続数は2014年時点では836万人でしたが2024年には3920万人と、10年間で約4.7倍に増加しました。コロナ禍の影響を受けて伸びた後も堅調に増加を続け、2025年3月には4123万人をマークしています。

Steamでリリースされるゲームの数はと言えば、なんと「10年で10倍以上」という驚異的な増加を記録。国内外でモバイルゲーム市場が厳しい状況にある背景も含めて、作り手とユーザーによる「民族大移動が起こっている」と小沼氏は表現し、Steam上での露出とユーザーの興味の奪い合いによって、Steamのレッドオーシャン化が急速に進行していると指摘しました。

商業ベースではないタイトルも飛躍的に増えているため実質的な数字は計算しづらいが、競合は明らかに増えている

Steam上でユーザーがタイトルに触れる3つの導線

話題はSteamのプラットフォームとしての特性に移ります。ユーザーがSteam上のタイトルに触れる主な導線は、以下の3つが挙げられます。

  1. プレイや購入の履歴からおすすめタイトルとしてサジェストされる「レコメンド」
  2. Steamのトップページに掲載される「トップ露出」
  3. 情報を外部で入手し、Steamアプリでタイトルを探す「検索」

このうち最も強力な導線は、2の「トップ露出」です。Steamのトップページに表示されるタイトルは、少なくとも数千万以上のインプレッションを期待できる露出手段に。小沼氏によれば「この枠を確保できるか否かで発売日を調整する場合もある」ほどに価値が高く、非常に高い誘導効果を見込めます。

ユーザーからの一定数の評価によって「非常に好評」「やや好評」など表記が変化するレビューシステムについては、「賛否両論」以下の評価となるとユーザーの購買意欲が明らかに下がる傾向にあることにも言及されました。

講演内では「言語別でのグッドレビュー率」なるユニークな統計も登場。「残念ながら日本語ユーザーは投稿におけるグッドレビュー率が最も低い」データにも触れつつ、意識すべき高評価の目安は「70%以上」とも紹介されました。

段階別プロモーション

続いて、トークテーマは「Steamにおけるゲームのプロモーションのポイント」へ。ゲームをプロモーションする目的を時期別に整理すると、発表から発売までは「ウィッシュリストの獲得」が、発売以降は「販売金額の最大化」がKPIとなります。

ウィッシュリスト登録数は、数が増えればSteam上の露出アップに影響するだけでなく、発売日やセール開始時に登録者へ通知が送られることから、コンバージョンにも期待が持てる大きなポイント。登録数からのコンバージョン率については、到達までの時間には差があるものの「20%程度が限界値」と紹介されました。

小沼氏は事前プロモーションを「初報」「Steam Nextフェス参加」「発売」の3段階のマイルストーンに分割・深掘りしています。

「初報」段階ではSteamのストアページや公式サイトを公開し、ゲーム体験をイメージできる映像・画像を一緒に発表することが基本。最も注目を集めやすい初報段階でストアページがないと大きな機会損失を被ります。「開発中の作品を早く発表したい」気持ちが先行し、ティザームービーやタイトル情報だけ発表するのは避けるべきです。

2月・6月・10月の年3回開催される“体験版のお祭り”的イベント「Steam Nextフェス」は、外部メディアも活用しながら注目を集めるチャンス。知名度が高いため競合が非常に多く、プロモーションが難しくなっているイベントでもあります。

それだけに、体験版専用ストアページの用意や、製品版相当の質の体験版を用意しておくことも大切です。ただし、ウィッシュリスト獲得につながることは間違いないため、小沼氏はイベントへの参加を推奨しています。

最後はワールドワイドでの販売数拡大を目指す「発売」のフェーズ。それまでの傾向を踏まえて「どの言語圏に注力すべきか」を判断して力を注ぎこむタイミングでありつつ、発売直前までウィッシュリスト増加を目指したいといいます。

小沼氏はローンチセールも強く推奨していた

なお、Steamでは年間2万タイトルほどがリリースされているため完全な競合回避は困難ですが、やはりビッグタイトルとの同時期発売は避けるべきであることも確認され、「発売日をずらせるだけのゆとりある開発」が望ましいとも小沼氏は述べています。

実際のウィッシュリスト獲得データを公開

そして、アライアンス・アーツが「Steamのウィッシュリスト獲得数の推移」を2件公開。

1件目は、『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』の数値です。同作はスマートフォン向けの運営型ゲーム『東方ダンマクカグラ』のサービス終了に伴って制作されたスタンドアローン版で、Steamなどでリリースされました。

『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』Nintendo Switch版ローンチトレーラー

運営中には多くのファンを獲得し、サービス終了日にスタンドアローン版の制作、ならびに開発支援のためのクラウドファンディングの実施を発表しました。

Steamでの価格は3,960円と、インディーゲームとしては高価格帯だが、強力なファンベースがあったからこそ成立したと小沼氏は分析する。

なお、本スライド右端に記載された発売日は誤りで、「2024年2月8日」が正しいとのこと

サービス終了日であり、クラウドファンディングを発表した日でもある2022年10月28日が最も多くのウィッシュリスト登録者数を獲得しています。また、発売直前の生放送や発売直前のタイミングでもグラフに“山”ができています。

これは重要な情報をファンにタイミング良く発信したことで、Steamで断続的に露出したことを示します。Steamには「売れているゲームをより売ろうとする」アルゴリズムがあり、一度注目を集めると鎮静化するまでの間、追加の露出を獲得できるSteamの特性を生かした結果ともいえます。

続いてデータが公開された作品は、16万超のウィッシュリスト登録を記録した『ゆんゆん電波シンドローム』。

『ゆんゆん電波シンドローム 発売日決定トレーラー』

こちらは新規IPで、ファン獲得の手段としてインディーゲーム配信番組「INDIE Live Expo」を活用しています。

初報の2024年5月25日、発売延期を発表した同年12月7日、発売日発表の2025年4月13日はいずれも同番組内でのもの。ユーザーの注目やアクセスが集まるタイミングにプロモーションの情報を集中させている具体例として紹介されました。

『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』のデータと同様、山の“余波”、つまり一度注目された作品はしばらく露出が増えているSteamの特性がうかがえる

SteamプロモーションのQ&A

講演の最後には、畑佐氏が質問を投げかけ、小沼氏と林氏が体験談を元に回答していくQ&A方式で「初報のタイミングや体験版公開のスケジュール感」「イベント出展やキャンペーン参加などの、おすすめの施策」といったさらに具体的な内容のトークに。

スケジュール感について小沼氏は「予算やネタがあれば、(プロモーションを)長くやるに越したことはない」と言及。やはりウィッシュリストの数は重要で、追加から発売まで2〜3年程度であればコンバージョン率が明らかに落ちるような事実もなく、注目されるための情報を出していくべきとコメントしました。

畑佐 雄大氏(右)

また、大小さまざまな規模のゲーム開発に携わってきた林氏はプロモーション施策について「プロジェクトの予算規模と密接に関わっている」とし、パブリッシングサポートを受けるような大規模タイトルであればINDIE Live Expoのようなイベントに出す効果も大きいとしています。逆に小規模なタイトルでは「各地で行われるインディーゲームイベントに出展する機会を増やす戦略もあるのかな」との見方を示しました。

モバイルゲームに長く携わってきた畑佐氏は、CPI単価(アプリのインストールを1件獲得するためにかかった広告費用)を例に、外部広告からの流入で「ウィッシュリスト獲得を狙う場合にはどの程度の『ウィッシュリスト単価』となるのが許容範囲か?」という切り込んだ質問も。

この件についても「顧客の平均単価による」前提はあるものの、林氏は「ウィッシュリスト1件あたり100円くらいのこともあれば、1,000円を超えてしまうこともある」と実情に踏み込んで回答。

小沼氏もSteamは流入経路を100%追跡できない仕様のため研究データでのフォローは難しいと、マーケティング会社の立場からコメントしました。

Steamでは2024年7月より「体験版専用」のストアぺージが開設可能になっており、体験版単独でレビュー収集できますが、林氏はこの機能をクオリティアップやユーザーとのコミュニケーションを重視して活用しているとのこと。

林 風肖氏。同氏は、「体験版の配信を停止すると専用ストアページも閉じるが、再度リリースするタイミングでは前回のページを開くか閉じたままにするか選択可能」といった知識も披露していいた

「ストアページに載せるテキスト」にも言及。林氏は「英語に翻訳されることや、海外ユーザーが翻訳機能を使って読むことを意識して、英訳されやすいような日本語の文章や横文字を使用している」と、幅広いユーザーを意識して取り組んでいるとのこと。

小沼氏は「ストアページの情報と実際のゲーム体験に齟齬があるとユーザーが不満を抱きやすい」点に触れ、ストアページはゲームのプレゼンテーションを行う場ではありつつも、そのことにも気を付ける必要があるとしました。

 

気になるけれど、なかなか知ることができない情報が共有された本講演。ゲーム市場の動向から、普段目にすることは多くても気付きづらいSteam上でタイトルが露出される仕組み、そしてプロモーションの要点までさまざまな情報が実際の数字や貴重なデータとともに紹介され、盛況な講演となりました。

「GAME FUTURE SUMMIT 2025」公式サイト
ハル飯田

大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。

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