2022年6月21日、Microsoft×ゲームメーカーズのコラボイベント『Microsoft Game Dev in Japan』が開催されました。本イベントでは、2022年3月に開催された世界最大のゲーム開発者向けカンファレンス「Game Developers Conference (以下、GDC) 2022」で発表された最新情報をはじめ、初心者向けの導入セッションなど、Microsoftのゲーム関連技術が広く紹介されました。全5セッションをオーバービュー形式でレポートします。
TEXT / 神山 大輝
EDIT / 神山 大輝
目次
GDC で発表された最新内容、まとめてお届けセッション
最初に登壇したのは、Microsoft Corporation 増渕 大輔氏。講演冒頭ではGDC2022が3年振りのリアル開催になったことに触れ、Microsoftもオンラインを中心にさまざまなコンテンツを発表していたことを説明。2022 GDC AwardのGame of the yearには『Deathloop』 や『 Forza Horizon 5』が最終選考まで残ったほか、Best Narrative賞に『Psychonauts 2』が選ばれるなど、Xbox Studios や Bethesda Softworks 関連作品もイベントを大きく盛り上げていました。
例年Microsoftは技術者向けの開発ツールを数多く発表していますが、今年度はPlayFabやAzureなど、運営や分析に役立つ「ゲーム運営のためのオンラインサービス群」が数多く取り上げられていました。
Microsoftは、GDCで発表された情報を網羅的に確認可能なWebサイト「Microsoft Game Dev-GDC2022」を公開しています。コンテンツは実際のゲームタイトルに紐づいた事例ベースでのショーケースと、「分析とデータ」と題された更に技術的に深い内容を説明する項目に分かれており、増渕氏は複数のサブカテゴリに分かれた30以上のコンテンツを観るコツとして「テクニカルトーク 選び方のコツ」というスライドを紹介。
具体例として、インディーズ開発者はID@Xboxプログラム(Xbox Oneでのセルフパブリッシングをサポートするプログラム)などの情報が満載の「ビジネス」項目が適していると紹介されました。
また、増渕氏による各カテゴリのピックアップコンテンツについても説明されています。
インディーゲーム開発者向けの施策として、今回新たに発表されたのが「ID@Azure」。プラットフォームを問わず、クラウドを活用したインディーゲーム開発を支援する枠組みとして、Microsoft Azureの無償枠の提供および最大2年間のAzure PlayFab Standardプラン、その他サポートが提供されるとのこと。
Azureに関しては、新たにAzure ゲーム開発 VM(Game Dev VM)が発表されています。
PlayFabについては、GDC2022では初心者向けの講演は行われておらず、アドバンスドな使い方としてバックエンドサポートによるクライアントの相互接続などが紹介されていました。
また、GDCにおける新情報として、マッチメイキングにおいてチケットステータスに関するリアルタイム通知が追加されたほか、ロビーで一時的なグループ化メカニズムを行う新たな機能が発表されています。これに加えて、新たにデータ接続(PlayFabのデータをAzureに保存)とUGC General Availability(GA)に関する情報も発表されました。
増渕氏は講演の終わりに、従来のID@Xboxに加えてプラットフォーム問わず使える技術支援であるID@Azureが発表されたことが開発者にとって有益であることを強調し、さらに「セッション全体で見ると、今年はPlayFabに関する発表が豊富だった」とGDC2022を振り返りました。
20分でわかる!ゲーム開発に役立つMicrosoft Azure サービス
続いて登壇したのは、Microsoft Corporation 森山 京平氏。カスタマーエンジニアである森山氏は、これまでもAzureを使用した開発の支援を広く行ってきたとのこと。今回は『Forza Horizon 5』の移行事例を元に、Azureサービスの紹介が行われました。
本作はオートショーやマイカー、キャラクターカスタマイズなど多岐にわたる機能を持っており、ユーザーランキングや車体チューニングのための車庫管理、パーツの売り買い、レース結果収集やオンライン対戦のためのマッチングなどの機能はすべてゲームサーバーで処理されています。
Forzaシリーズは当初からAzureを活用していたわけではなく、初期タイトルはオンプレミスでの運用でした。この際、設備のスケールに限界が生じたため、次作からはハードウェア増強の必要がないクラウドの活用をスタート。この時点でパフォーマンスとコストの最適化によるメリットを享受していましたが、本作からは更に多くのユーザーの受け入れとコストメリットを両立させるためにAzure Kubernetes Service(以下、AKS)を中心とするアーキテクチャを採用したとのこと。
バックエンドサービスは、ほぼ全てがマイクロサービスとしてコンテナ化したものをKubernetesのPodとしてデプロイされています。ランキングに活用されるLeaderBoards、ユーザー生成コンテンツを管理するUGCなど17のマイクロサービスがAKS上に展開されており、プレイヤーからのトラフィックはAzure Load Balancer経由でAggregator Podで処理をしています。また、これらのマイクロサービス自体がPlayFabと連携し、データのやり取りを行っています。
この他にも、ゲーム開発で使えるAzureサービスは多岐に渡ります。講演では、各機能の概要やユースケースなどが解説されました。
最後に、DDoS対策に関する話題も挙がりました。Microsoft自身も日々DDoS攻撃の対象になっていることから、これらの動向を踏まえた対応策としてAzure DDoS Protectサービスを展開。また、これらに関する公式ドキュメントも公開されています。
講演の終わりに、森山氏も所属するチームが提供するAzure導入の支援プログラム「FastTrack for Azure」が紹介されました。本番運用が確定しており、支援完了後US5$を12ヶ月以内に達成可能なケースなどで利用可能のため、興味がある方はMicrosoftの営業に問い合わせを行って欲しいとのことです。
ゲーム開発環境周りの最新情報セッション
Microsoft Corporation 下田 純也氏によるセッションでは、最新のVisual Studio 2022やGitHub Action、Power of Cloud Build、Azure Game Development VMなどの最新技術が解説されました。
講演の冒頭では、ゲーム開発を取り巻く現在の状況について、新世代機向けの開発と運用型タイトルと継続的リリース、柔軟な開発環境の3つの観点から説明されました。いずれの場合も課題は開発環境の効率化で、AI/ML活用によるゲーム開発支援や各種工程の自動化を進めるとともに、開発者のワークスタイルの変化にも対応する必要があると語られています。
GDCでは、開発者の生産性を向上させる目的のソリューションが数多く公開されています。「Leveling-Up Developer Productivity with Visual Studio 2022」と題されたセッションでは、2021年11月にリリースされたVisual Studio 2022の高速化や新機能、アンリアルエンジン、Unity開発への影響などが説明されました。
前バージョンと比較すると、Visual Studio 2019(16.9)時点でビルドやデバッグの時間は大幅短縮されていましたが、2022からは64ビット化の恩恵もあって検索機能やコード参照が高速化されています。
Visual Studio 2022には新たにホットリロード機能が追加されました。ゲームを停止させずにコード変更を適用する本機能により、伝統的なデバッグのループと比較して、ゲーム中にバグに到達した後の修正工程が大幅に短縮されるとのこと。講演内ではMicrosoft本社側が行ったデモンストレーションも紹介されました。
また、Visual Studio 2022には人工知能を活用したコード支援機能であるInteliCodeが備わっています。本機能はこれまで作成したCodeベースをAIモデルに学習させたのち、学習結果から導き出されたルールに則ってコードの入力支援を行うという内容となっています。
Visual Studio 2022はVisual Studio 2019を残しつつインストールが可能であり、アップグレードも簡単であることから、ぜひ導入して欲しいとのこと。また、Visual Studio Subscriptionに関する言及もありました。
「Build Faster and Make Fewer Errors with GitHub Actions and Cloud-Based CI」では、GitHub Actionsを活用し、CI(Continuous Integration)システムをクラウドベースに移行することでエラー削減およびビルド高速化を実現するワークフローの解説が行われています。
続いて紹介されたセッションは「Harness the Power of Azure Cloud Builds from Development to Deployment」。ゲーム開発ワークフローを一元化することで、リモートワークの場面でも作業効率を向上させたいというゲームスタジオの課題に対する解決策として、Azure クラウドビルドを活用したワークフローを提案しています。
Performanceを用いる場合の移行プロセスや状況ごとのバージョン管理手法、Azure DevOps:クラウドCI/CDやビルドエージェントの解説も行われています。
「Make Remote Game Development Easy with the Azure Game Development VM」セッションでは、新たな開発環境であるAzureゲーム開発VMを使用したリモートゲーム開発が紹介されました。ゲームに必要なツールが全てパッケージされたVM(Virtual Mashine)をマーケットプレイスから取得し、すぐさまデプロイできるという内容で、新たなゲームプロジェクトを作成する場合だけでなく既存のゲームプロジェクトへの接続・組み込みも可能になります。
デモを交えて紹介されたのは、Azureニューラル音声を使用したアクセシビリティの高いコンテンツを作成する「Create Dynamic, Accessible Content with Azure Neural Voice」。Azureの音声合成技術を用いることで、例えば「ゲーム内キャラクターがプレイヤーネームを呼んでくれる」などのインタラクションが可能になります。
また、リップシンクに関するVisemeのテクノロジーについても触れられています。下田氏の講演では全編に渡ってゲーム開発に関する新技術が俯瞰的に解説されており、講演後の質疑応答でも専門的な質問が数多く見られました。
日本初!Microsoft Game Dev Ambassador ねこじょーかー氏が語る! Game Dev Ambassador 活動とPlayFab
続いては、Microsoftによる開発者アワード「Game Dev Ambassador」を日本人として初めて獲得したねこじょーかー氏によるPlayFabの紹介が行われました。
Game Dev Ambassadorとは、Azure PlayFabなどゲーム開発のニーズに応えるMicrosoftの製品群「Game Dev」に深い知識を持ち、サービスを広めることに貢献した人物のこと(Microsoft MVPとは異なる)。本講演では、PlayFabの概要とUnity SDKを用いた始め方、C# SDKについて解説されました。
PlayFabはゲーム開発に特化したBaaS(Backend as a Service)サービスの一種で、ログインの認証部分やアイテムの管理などのロジック部分を提供しています。外部サービスを作品に用いる場合に心配なのが突然のサービス終了などのリスクですが、PlayFabはMicrosoftが運営しているので安心感があると説明。また、Azure Functionsと連携し、サーバー処理もC#で実装できる点にも触れられました。
続いて、UnityプロジェクトでPlayFabを活用する方法が紹介されました。使い方は非常にシンプルで、Unity SDKのパッケージとPlayFab Editor Extensions(専用の拡張エディタ)をインポートすれば準備完了。Unity上からPlayFabにログインし、作成したタイトルと紐づけるだけで使用開始できるとのことです。なお、タイトルは任意の名前を入力するだけで作成可能です。
最後にC# SDKのメリット・デメリットについて解説されました。async/awaitが使えるためにコールバック処理がなくなり処理がスムーズになる点がメリットである一方、UnityパッケージとしてインポートしたPlayFab Editor Extensionsが使えない、WebGLなど一部環境で動作しないなどのデメリットも挙げられています。
講演内では、これらのメリットデメリットを踏まえて、Unity SDKとC# SDKのどちらを採用するのか判断すべきと説明されました。
ゲームメーカーズ×Microsoftスペシャル対談!エンジニアの学び方とコミュニティ活動について語る
本イベント最後の講演として、Microsoft Japan おだしょー(小田祥平)氏とゲームメーカーズ 佐々木 瞬氏による対談が行われました。おだしょー氏は、自社製品/サービスと外部開発者とのつながりを作ることを目的としたDevRel Meetup in Tokyoの運営など各種コミュニティ活動をエヴァンジェリストの立場から積極的に行っている”コミュニティのプロフェッショナル”で、佐々木氏はGamePMやゲームコミュニティサミット、ProCEDECなどのコミュニティ活動を経て、現在は「UE5ぷちコン」などのイベントを開催するほか、この「ゲームメーカーズ」の発起人として幅広い活動を続けています。
冒頭、「データで見る学習と効率」と題して、『IT人材白書2020 今こそDXを加速せよ~選ばれる“企業”、選べる“人”になる~』(発行:独立行政法人情報処理推進機構)によるIT技術者の学習状況が説明されました。先端IT従事者においては雑誌・書籍による学習、Web上での情報収集が70%程度ある一方で、勉強会やコミュニティ活動への参加は24.8%とそれほど多くありません。おだしょー氏は、情報収集型の『Input中心』の学習方法はラーニングピラミッドと照らし合わせると20%程度の学習効果にとどまると説明し、イベント参加や自身の発表などの重要性を強調しました。
続いて、IT従事者とゲーム開発者のコミュニティの種類について語られました。佐々木氏は議論の土台として、「これらはゲーム業界の中でも一部」としながら各コミュニティを独自に分類。「コミュニティ」にはGDCやCEDECなどの大型/公式セミナー系だけでなく個人/企業主催セミナー系が数多くあり、他にもフォーラム系やコンテスト系、もくもく会など非常に多岐にわたる形式が存在しています。
この後も「コミュニティの魅力」や「どう技術的成長につながる?各々の実体験をもとづいて」、「IT業界とゲーム業界の対比」など、さまざまなテーマによるディスカッションが行われました。技術共有に対して閉鎖的な考えがあった時代を経て、現在は個々人が勉強会やコミュニティ活動を行うプラットフォームも充実しています。また、ゲームエンジンの登場によってフレームワークが共通化されたことで、ローレベルではなく汎用的に活用できる開発事例が増えたことがターニングポイントとなっていることも語られました。
また、「コミュニティ参加 初手のオススメ」では、大型のセミナー系の参加で温度感を確かめながら、質問や感想の投稿(Twitter実況なども含む)がスタート地点として良いのではないかと語られました。
講演の終わりには、コミュニティ活動を支援するMicrosoftのプログラム「Azure Rock Star Program」、自学自習のための「Microsoft Learn」が紹介されています。
ゲーム開発を取り巻く最新情報だけでなく、機能導入に関するセッションやコミュニティに関する対談など多岐にわたる講演がありながら、いずれの質疑応答も大いに盛り上がりを見せていたのが全体を通して印象的でした。1つでも気になるセッションが見つかった方は、ぜひ動画アーカイブをご覧ください。
Microsoft Game Dev-GDC2022ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。
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