約30年に及ぶシリーズの歴史を振り返る
講演の冒頭では、あらためて「風来のシレン」シリーズについて説明します。本シリーズの特徴は「ダンジョンが自動生成」であることと、「ターン制でゲームが進行」し、ゲームオーバーになると所持品がなくなり、レベルも1に戻ってしまう厳しさのあるものです。
決して簡単ではない難易度が印象的なシリーズですが、何度もゲームオーバーになりながら、プレイヤーが知識を貯えていき、やがてクリアできるようになるゲームバランスを持っています。
それによって多くのプレイヤーを獲得し、シリーズではおよそ30年のあいだで30作品以上にも及ぶタイトルをリリースしてきました。
本シリーズはコンソールや携帯ゲーム機で展開されたナンバリングタイトルが印象的ですが、ここでは篠崎氏はフィーチャーフォンの携帯アプリとして展開されたシリーズについても紹介。主に2004年~2009年頃『風来のシレンEXTRA』など、携帯アプリでもシリーズが遊ばれていたことを説明しました。
携帯アプリ版はすでにフィーチャーフォンでのサービスが停止しているため、あくまでシリーズ本編でのサブの位置づけではあります。ですが、携帯アプリ版はコミュニティ機能を試みる場所としても大きかったとのこと。その試みについては後述します。
そんなシリーズ最新作『風来のシレン6』が今年リリースされるやいなや、シリーズ最速でなんと20万本を超える販売を達成します。これには篠崎氏も「正直、想像していなかった」と語りました。
『風来のシレン6』は9月と10月には有料DLCが配信され、今冬にはSteam版の発売が決定するなど、ますます快調に広がっている最中でもあります。
これまでの「シレン」で発案されたコミュニティ機能
そんな「風来のシレン」シリーズでは、過去には大まかに分けて5つのコミュニティ機能が発案されてきました。いずれも、他のプレイヤーに協力してもらうことで、やりごたえのあるダンジョン攻略をより深く楽しめる仕掛けになっています。
風来救助という他プレイヤーに助けてもらうアプローチ
特に有名なのは「風来救助」でしょう。この機能は、ゲームオーバーになっても、他のプレイヤーに同じ階層まで来てもらい、助けてもらうことで、復活できるというものです。いまでは「風来のシレン」シリーズになくてはならないほど、大事な機能になりました。
「風来救助」では、救助する側のプレイヤーは道具を持ち込んで挑戦することができます。また助けに行くだけではなく、その過程で手に入れた道具も持ち帰れることも大きなメリットでもあります。
本機能が初めて実装されたのは、『不思議のダンジョン 風来のシレンGB2 砂漠の魔城』(以下、風来のシレンGB2)からです。実装の背景は、「やはりこのゲームは簡単ではなく、ゲームオーバーで所持品がなくなり、レベルも1に戻ってしまうため難しい」ことが大きかったためで、救済策として発案されました。
「風来救助」の機能で得られることは大きく分けて2つ。1つは、先述したように難易度の高さに対し、復活が可能になる救済策です。
2つめは、他プレイヤーが救助する楽しさの提供です。これはいい風に聞こえますが、篠崎氏は「そのプレイヤーが助けることで、ゲームオーバーになったプレイヤーよりもゲームが上手いと言葉にしなくても伝えられる」のだと説明。つまり、プレイヤーの善意や優越感をくすぐる機能でもあったわけです。
「風来救助」した、当時の広告イメージ。目玉の機能になると判断し、広告でも大きく打ち出していた
「風来救助」を初めて実装した「風来のシレンGB2」は、プラットフォームが携帯ゲーム機であるゲームボーイカラーでした。当時は無線通信ではなく、有線の通信ケーブルを通して他のプレイヤーとゲームで対戦したりするものでした。
当初の「風来救助」も、そんなゲームボーイならではの通信機能から発案されました。ですが、当時のスタッフは「有線の通信ケーブルで行うかたちだと、プレイヤーが自分と近しい人としかコミュニケーションできない」という問題に気づき、広いプレイヤーとコミュニケーションできるよう、パスワード制に決めていました。
その後も「風来救助」は携帯ゲーム機の進歩と共に発展していきます。ニンテンドーDSの時代になり、無線通信が可能になったり、またインターネットへの接続ができるようになったりしたことで、ネット上に「風来救助」用の独自サーバーを作ることができました。
これにより、救助依頼を出したプレイヤーはサーバーに蓄積され、救助したい人はいつでも依頼を探せるようになります。
さらに時代が進むと、「風来救助」はSNSと連携するようになります。2011年にPSPで発売された『不思議のダンジョン 風来のシレン4 plus 神の眼と悪魔のヘソ』では、独自サーバーを廃止し、Twitter(現X)のハッシュタグにこれまでの機能を代用する試みを行います。
ですが、この方法にはいくつか難点もありました。Twitterが頻繁に仕様変更することです。当時の開発スタッフは仕様変更のたびに、「風来救助」に関して大きな更新作業を余儀なくされました。
またPSPではソフトのプログラムの更新作業を定期的にできるようになったため、対応できていました。篠崎氏は「これが更新できないハードだったらと思うとゾッとする」と、当時を振り返っていました。
まとめとして、「他社のサービスをコミュニティ機能に使うと、そのサービスが仕様変更した際の対応が難点」と、篠崎氏は指摘しています。
「オンライン番付」で他プレイヤーと順位を競う
続いて「オンライン番付」について紹介。こちらはいわゆるハイスコア機能であり、プレイヤーの実力をランク付けすることが目的です。番付をサーバーにアップすることで、これまでローカルで比べるしかなかったプレイヤーの実力が、全国規模に広がることで、より順位を競いたくなるようにしました。
特に「風来のシレン」シリーズは「何度も遊びながら、ゲームを上手くなっていく」ことが特徴のため、オンライン番付はプレイヤーのモチベーションを上げることに繋げやすい利点がありました。
一方でオンラインならではの問題も。改造データでオンライン番付に登録されることです。スコアに関しても、本当にプレイヤーのゲームプレイの結果なのか、改造された数値なのか判断がつきにくく、運営側も対策できるか悩みどころになっていました。
そのため、こうしたスコアリング機能については「改造データの対策が肝」と篠崎氏は指摘しています。
ゲーム内の問題だけじゃない! プレイヤーも問題を作れる「問題作成キット」
「風来のシレン」シリーズには「フェイの問題」という、本編のダンジョン攻略に役立つさまざまなシチュエーションを攻略するという、詰将棋の問題に近い試みがあります。そこでコミュニティ機能として、プレイヤーが自分で問題を作れる「問題作成キット」もいくつかのシリーズに実装されました。
「問題作成キット」は、作った問題をプレイしたり、再配布したりできることを特徴としています。
「問題作成キット」では、タイルに部屋やモンスターや道具を配置していくことで作成ができるようにしています。各要素のウィンドウが用意され、作りやすいUIも特徴でした。
この「問題作成キット」でプレイヤーが得られる要素は大きく分けて3つ。自分で問題を作って楽しめることはもちろん、他のプレイヤーに問題を遊んでもらえることも大きいです。それ以上に、ゲーム本編に用意された「フェイの問題」以外にもたくさんの問題にチャレンジできることも嬉しいところでした。
不思議のダンジョンに挑む姿を見せたい!「LIVE機能」
現在も動画サイトなどで人気を博すゲームのリアルタイム配信。「風来のシレン」では、なんとフィーチャーフォンの携帯アプリ時代に、そんな「LIVE機能」を実装していました。
2007年の「風来のシレンLIVE」では、プレイヤーが自分のゲームプレイを配信することができていました。現在と異なるのは、他のユーザーも同じ携帯アプリを立ち上げないと配信が観られなかったことでした。
ちなみに、当時の「LIVE機能」は「ゲームプレイの映像がそのまま配信される」ものではありませんでした。同じアプリを立ち上げているため、配信しているプレイヤーのゲームプレイ状況の情報が、配信を観ているプレイヤーのアプリ側で再現されるかたちで配信を見せていました。
その他に、配信を観る側のプレイヤーが、配信者に向かって「ナイス!」や「フレー! フレー!」などのコメントを伝えることができるなど、今のゲーム配信でもできる機能が実装されていたことにも注目です。
「LIVE機能」では、プレイヤーが「自分のプレイを見せたい」ということや、「他のプレイヤーの立ち回りを観たい」、「応援したい」、「失敗を観たい」という需要を満たすものでした。これも今のゲーム配信と繋がる要素です。
篠崎氏は当時から「『風来のシレン』は他人にプレイを見せたくなる」ゲームだと感じていたことから、「LIVE機能」の実装を行っていきました。また、フィーチャーフォンという常に通信ができるプラットフォームだったことも、この機能を実装する大きな要素となっていました。
このプレイヤーの次の一手はなんだ? 「ライブ探索表示」
「ライブ探索表示」は、上記のスライドにあるように「ゲームプレイ中のステータスや道具の情報も観ながらプレイできる」というものです。
この機能については篠崎氏が基本部分を発案しました。本機能が初めて登場した2020年の『不思議のダンジョン 風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス』は、ニンテンドーDSからPlayStation Vitaに移植され、その後Nintendo Switch、Steamへ移植された作品です。「大きな改良はやりづらいが、しかし何か売りになるものが欲しい」という背景から、「ライブ探索表示」は生み出されました。
篠崎氏が本機能を思いついたきっかけは、まさしく「風来のシレン」シリーズをプレイする、多くのゲーム配信でした。そこでの配信者の一部が道具やステータスの情報も画面に表示しながらプレイしていたことが、「ライブ探索表示」を思いつくヒントになりました。
過去30年分を踏まえた、『風来のシレン6』のコミュニティ機能
こうしたコミュニティ機能を発案してきた歴史は、最新作となる『風来のシレン6』でも生かされています。講演の後半では、『風来のシレン6』に実装された機能について、主に4つが紹介されました。
さらに助けに行きやすくする「風来救助」。自分で自分を救いに行くこともできるように
シリーズの目玉となる「風来救助」は『風来のシレン6』でも実装されています。基本的な機能はそのままに、他プレイヤーの救助のしやすさを中心に一部の機能を変更していきました。
『風来のシレン6』で大きく変えたのは、「救助に道具を持ち込むこと」、「救助中に手に入れた道具を持ち帰ること」をカットしたことです。
一見すると、これまでのシリーズでの「風来救助」のメリットを切ってしまったように見えるかもしれません。
篠崎氏は「救助に道具を持ち込むということは、一方で持ち込んだ道具を失う可能性がある」、「また、道具を持ち込めるということは、 プレイヤーによっては“必要な道具が揃ってから救助へ”と考えてしまうためハードルが上がる」と、変更した理由を説明しました。
その他にも、『風来のシレン6』は特に装備や道具を準備してダンジョンに挑むよりも、何度も繰り返しプレイしてもらってプレイヤーに上手くなってもらう方針で開発されていました。その方針もあり、「風来救助」も今回の決定が下されています。
救助で得られるメリットとして、新要素の「救助の奥義」を実装しました。これは、救助が楽になるステータスアップや特殊能力を得るもので、「奥義ポイント」を溜めることで使用可能になります。
『風来のシレン6』では、救助の結果によって「奥義ポイント」を手に入れられます。こちらは救助に失敗したとしても獲得できるようになっています。そのため、何度でも「風来救助」に挑戦しやすくなっています。これも「なるべく救助に気軽に行ってほしい」という、ゲームデザインの考え方がポイントになりました。
また、『風来のシレン6』では「自分救助」という大胆な機能も追加されました。言葉どおり、失敗したプレイヤー自身で失敗した地点までの救助に向かう機能です。
ただ、「自分救助」にメリットがありすぎるとコミュニティ機能として活性しないため、ここでは奥義ポイントは獲得できないようになっています。
篠崎氏は「自分救助」を実装した理由として「救助依頼を出した後は待つしかなかった」という問題を解決することや、「他のプレイヤーの噂で、ゲーム機とソフトを2セット買って、自分で自分を救助していたと聞いた。でも、ゲームが売れれば嬉しいと言っても、プレイヤーにそんな負担はしてほしくはない」ことが大きいと語りました。
もちろん「風来救助」の機能変更はシリーズで長年、続いてきたもののため、調整に時間がかかりました。篠崎氏は「変更を加えるのは大変であり、覚悟がいる」と、人気シリーズを開発してきた開発者ならではの一言を残しています。
新たな「ライブ探索表示」は、さらに多くのプレイヤーに使いやすくした
『風来のシレン6』でも「ライブ探索表示」は実装されています。プレイヤーに人気を博していたため、今回も使われている機能ですが、開発側はいくつか内容の改善を模索していました。
主に「ライブ探索表示」で、配信者向けに表示する情報を増やしたものや、一方で配信しないプレイヤーでも使いやすいパターンを用意。その他にも、アップデートで別のパターンを追加してきました。
「ライブ探索表示」機能を使わない通常のゲームプレイ画面
「ライブ探索表示」の1つ目。道具やステータスの他に、『風来のシレン6』では装備している武器と防具の細かな情報も追加。本作では装備の「印」という追加効果まで表示できるようにし、これによって配信を観るユーザーにも情報を確認しやすくした
「ライブ探索表示」の2つ目。ステータスや装備の情報のみに情報を絞ったもの。主に配信せずに1人でプレイする人向けに、状態を確認しやすくした
「ライブ探索表示」の3つ目。1つ目とほぼ同じだが、プレイ画面を大きくした(上記スライドの赤線部分が1つ目のプレイ画面の大きさとの比較)。画面を少し大きくするだけでも、プレイアビリティは大きく変わった
「パラレルプレイ」で同じ状況を他のプレイヤーも挑戦できる
『風来のシレン6』で初実装となったのが「パラレルプレイ」です。これは、全国のプレイヤーにデータを共有し、「他のプレイヤーが同じ状況から同じダンジョンでプレイできる」というものです。
具体的な仕様はこうです。プレイヤーは自分のゲームプレイでの状況を、好きなタイミングで「パラレルID」として作成し、独自サーバーにアップロードします。他のプレイヤーはサーバーのパラレルIDを取得し、IDに記録されたゲームプレイ状況からプレイできるようになります。
他のプレイヤーの「パラレルID」からスタートしたゲームプレイを少し進めたところから、さらに「パラレルID」を作成していくという、重層的な遊び方も可能。篠崎氏は「自分より上手い人は同じ状況でどのように対策するか観る遊び方も。Xなどで自分のパラレルIDを投稿しても面白いかもしれません」と説明
「パラレルプレイ」のその他の特徴は、受け取ったパラレルIDと同じダンジョン構成を何度でも遊べることや、プレイヤーは何人でも同じダンジョンを同時にプレイできることがあります。
ただし、「パラレルプレイ」ではクリアしても道具は持ち帰れないようになっています。たとえば、クリア直前のパラレルIDがあったとすると、簡単に道具を集めることができてしまい、ゲームバランスが壊れるためです。あくまで、ひとつの挑戦として触れる機能になっています。
公式からの挑戦状という意味では、現在、公式から不定期イベントとして「公式パラレルプレイ」としてIDを配布。クリア出来たプレイヤーに抽選で商品のプレゼントも
ダンジョンクリア率集計や、ゲームオーバーになりやすい地点の集計
最後にその他の機能として、いくつかの集計の機能が紹介されました。1つ目は各ダンジョンのクリア率の集計機能です。平均クリアレベルと自分のクリアレベルを比較できる表示もあり、そのダンジョンがどれくらい難しいものだったのかを確認できるようにしています。
さらに細かく、各ダンジョンのどのフロアでゲームオーバーになりやすいかも集計し、「危険度」として表示するようにもなりました。これにより、プレイヤーは各フロアの危険性を確認しやすくなりました。
篠崎氏は「こちらの集計仕様は他プレイヤーとのコミュニケーションを減らすかもしれない」と前置きしながらも、プレイヤーが遊びやすくなったというメリットが大きいことを説明しています。
まとめとして、「風来のシレン」シリーズのおよそ30年に及ぶ歴史の中では、ゲームのプラットフォームがコンソールからモバイル、PCに広がっていったり、プレイヤーのゲームプレイも動画サイトでの配信が主流になったりする時代の変化もありました。
「風来のシレン」シリーズは、そうした時代ごとにプレイヤーが求めている遊びや流行りに注目し。多くのプレイヤーが楽しめるようなコミュニティ機能を作ってきたと言えるでしょう。そこに、ビデオゲームがプレイヤーに提供できる新しいサービスの可能性が読み取れるかもしれません。
『不思議のダンジョン 風来のシレン6とぐろ島探検録』公式サイト「不思議のダンジョン 風来のシレン」における コミュニティ機能とその変遷 | CEDEC+KYUSHU 2024
「ジャンル複合ライティング」というスタンスで活動。ビデオゲームを中核に、映画やアニメーションをはじめ、現代美術から格闘技、社会など数多くのジャンルを横断した企画やテキストを執筆している。