高度な知識がなくても感覚的な操作でノベルゲーム制作ができるソフト『ティラノビルダー』。「ゲーム制作は難しい」と考えて最初の一歩を踏み出すことを躊躇っている人にこそ使ってみてほしいその魅力と、基本的な使い方を解説します。
TEXT / しまさや
EDIT / 神山 大輝
目次
必要なのはイラストとシナリオだけ!ノベルゲーム制作の魅力
ゲームづくりには「高度なプログラミング知識がなければいけない」「操作の難しい専用ソフトを使用する必要がある」「ゲームの素材を作成するだけでも時間がかかる」など、敷居の高さを感じている人も多いと思います。しかし、ひと括りに『ゲーム』といっても、さまざまなジャンルがあります。
その中でもノベルゲームの場合は、他のジャンルよりも「制作ハードルの高さ」がツールの力によって下がるかもしれません。
ノベルゲームはストーリーに重きを置く分、シナリオを用意するだけでゲームとして成立し易い傾向があります。
作品によってはUnityやアンリアルエンジンなどのゲームエンジンを用いて制作されているものも多くありますが、現在はスマホアプリだけで完結するノベルゲーム制作ツールも登場しているほど、非常に身近な存在になっています。
今回は、感覚的に扱える上に、使い方によってはハイクオリティなゲームが作成できる『ティラノビルダー』を紹介します。
ノベルゲーム制作に手軽に挑戦できるティラノビルダー
ティラノビルダーは、『CEDEC AWARDS 2022』エンジニアリング部門優秀賞を受賞したティラノスクリプトというプログラム言語を感覚的に使用できるように作成されたノベルゲーム制作用のソフトウェアです。
Windows版、Mac版がそれぞれ用意されており、最低限のイラストとシナリオさえ用意できれば、誰でも手軽にゲームを完成させることができます。
ラインナップは無償版となる『スタンダード版』と有償の『PRO版』の2種類で、PRO版の価格は1,480円です(2022年8月現在価格)。BOOTH、DLsite、Steamでそれぞれ販売されていますが、公式のおすすめはBOOTHです(DLsiteのみ1,540円)。
スタンダード版、PRO版のいずれも使用規約は同様であり、制作した作品を自由に公開することが可能です。
スタンダード版で制限される機能一部は下記の通りです。
各素材の使用数に上限がありますが、それでも10人まで登場人物を出すことができれば、短いゲームなら作成に支障はないかと思われます。まずはスタンダード版を試してみて、気に入ったらPRO版を購入してみましょう。
PCゲームはもちろん、ブラウザゲーム、iOSやAndroidアプリも作成することができ、商用利用することも可能です。これはスタンダード版でも変わりはありません。
ノベルゲーム制作界隈の活発なコミュニティ
ティラノビルダー公式サイトには、『ノベルゲームコレクション(以下ノベコレ)』というティラノ製ゲームのみ登録可能なプラットフォームが用意されています。
完成させたゲームをここに登録することで、パソコンゲーム版をダウンロード可能にできるだけでなく、任意でブラウザゲーム版も公開することが可能です。昨年からPWAにも対応しており、スマートフォンからのプレイもしやすくなっています。
ノベコレに登録されているゲームは現在3,000件を超えており、日々投稿数が増えています。専門プラットフォームに制作したゲームを登録することでプレイユーザーの獲得が期待でき、各ゲームごとにコメント投稿欄も設置されているので感想をもらえる機会が増えます。
Twitterやnoteで『ティラノビルダー』『ティラノスクリプト』『ノベルゲームコレクション』で検索をすると、多くの人が自作ゲームの告知だけでなく、技術的なアドバイスを発信していたり、制作中のゲームについての悩みにアドバイスを送っていたり、コミュニティとして成熟している状況が伺えます。
1年に1度のティラノゲームフェス!
また、ノベコレでは2016年から毎年『ティラノゲームフェス(以下フェス)』が開催されており、昨年は参加ゲーム数527本という大規模なものになりました。感想を投稿することで参加できるコメントキャンペーンも行われているため、制作者だけではなくプレイヤー側も積極的に参加しているのが特徴です。フェスに参加した作品は感想をもらえる可能性が高く、これが制作のモチベーション向上にも繋がっています。
過去受賞作の中には、2017年に優秀賞を獲得したゲーム『Elysion feeling of release』が今年Switch版をリリースするなど、大躍進を見せているタイトルもあります。
今年のノベコレは9月開催が予定されており、参加作品募集期間は8月31日までとなっています。つまり、いまから制作を始めれば、充分に間に合う可能性があります。
「こんな短期間では無理だ」と思われるかもしれませんが、参加作品は『プレイ時間5分のものでもOK』とされています。次項で紹介するようにティラノビルダーでの制作はとても感覚的でシンプルなので、ゲームプランによってはいまからでもノベコレへの参加を目指すことができるでしょう!
ティラノビルダーの基本的な使い方
ティラノビルダーでの制作は難しい知識がなくても感覚的に行うことができます。
ドラッグアンドドロップで必要なコンポーネント(パーツ)を配置していくのが基本操作で、サンプル動画のように「登場した人物の表情が笑顔に変わってから挨拶をするというシーン」なども簡単に作成できます。
こちらの映像のように、「キャラクターを登場させ、表情を変え、台詞を話す」というシーンを一緒に作っていきましょう。
手順1.ティラノビルダーをダウンロードする
基本操作はスタンダード版もPRO版も同様なので、ここではスタンダード版のダウンロードからゲームを作成する箱(プロジェクト)を作成するまでの流れを説明します。
スタンダード版はティラノビルダー公式サイトからダウンロードできます。Windows版、Mac版ともに安定版と最新版が用意されています。ここでは安定版をダウンロードしておきましょう。
解凍したフォルダ内にある『TyranoBuilder.exe』を開きます。インストールの必要はありません。
左上にある『新規プロジェクト作成』をクリックします。
作成するゲームのプロジェクト名を入力します。使用できるのは半角英数字のみです。
この名前でプロジェクトフォルダが作成されるので、日付やタイトル名など任意の名称を付けていきます。
ゲーム形式を選択します。
一般的なアドベンチャーゲーム形式だけでなく、『かまいたちの夜』などに代表される文章のみで表現されるサウンドノベル形式の作品も作成できます。
ゲーム起動サイズを設定します。
以前は960×640のサイズが多かったですが、現在は1280×720が標準的です。自由にサイズ設定もできるので、自分の作りたい内容に応じて設定して問題ありません。
起動時にタイトル画面を表示しない、メニューボタンをつけない場合は、チェックボタンにチェックを入れます。
最後に『プロジェクト作成』をクリックすれば、ゲーム作成を行う箱になるプロジェクトデータが作成されます。
手順2.作成画面のエリア構造を理解する
ゲーム作成画面の構成は画像のようになっています。
①背景の設定、キャラクターの登場退場、テキストの挿入などを指示するための機能(コンポーネント)が置かれています。
※スタンダード版とPRO版では使用できるコンポーネントに違いがあります
②選んだコンポーネントが並べられているエリアです。上から順に再生されます。
シナリオはテキストコンポーネントに直接入力していきます。
③登場させるキャラクターの立ち絵指定、待機を選択したときの時間設定、変数の指定など演出にかかわる細かな演出を行います。
④スタート画面から再生、データ保存、キャラクター登録、各種設定などを行います。
手順3.実際に作ってみる
ここからは実際に「キャラクターを登場させ、表情を変え、台詞を話す」シーンを作成してみます。
ティラノビルダーを開いた時点で『scene1.ks』というシナリオデータが指定されているので、今回はそのままそこで作業を進めます。
scene1.ksには、事前に公式が提供する背景画像が用意されています。キャラクターの立ち絵は、今回は『わたおきば』様からダウンロードしたものを使用しています。フリー素材として立ち絵や背景、音源などを提供してくれている方は非常に多いので、各Webサイトの規約を守った上で適切に使用していきましょう。
ティラノビルダーでは、「右のコンポーネントから使用したいものをドラッグアンドドロップしてシナリオエリアに持ってくる」という操作がメインになります。
scene1.ksには、事前に『#ガイド』と書かれたテキストが設置されています。
画面上部にある再生ボタンを押すとシーンが再生されるので、いったんそれを確認してから『#ガイド』を削除しましょう。
ゲームのキャラクターを登場させるために、使用したい立ち絵を登録します。
右上の『キャラクター管理』をクリックして登録画面を開きます。
名前は自由につけることができます。今回は仮に『主人公』としました。
名前を入力して『追加』をクリックした後、作成されたエリアに使用したい画像をドラッグ&ドロップして登録します。
キャラクター登場コンポーネントをシナリオエリアに配置します。パラメータエリア上部にキャラクターというプルダウンが表示されるので、いま作成した『主人公』を選択し、『ファイル選択』をクリックします。
使用する立ち絵を選びます。
『領域選択ツールを開く』をクリックします。
マウスで配置したい場所に立ち絵を移動させて、決定をクリックします。
しばらくこの表情にしておきたいので、ウエイトコンポーネントを配置します。時間は右エリアで調整可能です。
キャラクター変更コンポーネントを設置して、『ファイル選択』で変更したいイラストを指定します。
テキストコンポーネントを配置します。
この際、必ずメッセージ枠コンポーネントが配置されている下部に配置してください。ここにセリフを記入します。
再生ボタンを押すと、指定したイラストのキャラクターが指示通りに動きます。事前に素材を用意しておけば、ここまでの工程は数分で完了します。このキャラクターがこれからどんな物語を歩んでいくのかは、作成したプランとシナリオ次第です。
ネット上で探せる素材が豊富
ノベルゲームに使用できる素材は有償・フリー素材を含めて多くのサイトで配布されています。
例えば『立ち絵 フリー素材』などで検索すると、多くのウェブサイトやBOOTHのショップなどがヒットします。サウンドファイルに関しても同様に検索しても良いですし、以前に記事として紹介した「Springin’ Sound Stock」などを活用しても良いでしょう。
一般的な素材以外で注目すべきなのは、ティラノビルダー独自のプラグインの存在です。
基本仕様では制作しづらい細かな設定や演出を行う拡張・補助機能として、公式サイトにも多くのプラグインが紹介されており、個人制作されたものがBOOTHなどでも公開されています。こうしたプラグイン開発が活発なのも、ティラノビルダーの特徴です。
ティラノビルダーでノベルゲームを作ってみよう!
「ゲーム制作は難しくて敷居が高い」という感覚を、ティラノビルダーは取り払ってくれます。その上で「更に複雑なゲームを作ってみたい」と制作意欲を刺激される作品群が多く公開されていることで、ゲーム制作をより学びたいと思わせてくれる環境が存在しています。
ティラノビルダーについてもっと深く知りたい場合は、公式チュートリアルに沿ってゲームを1本制作・公開してみることをおすすめします。さらに細かな情報を学びたい場合は、BOOTHで販売されている公式ガイドブックを読んでも良いでしょう。
公式以外では、有志からの情報を多く得ることができるティラノビルダー制作テクニック wikiや、Twitter上のユーザー同士のノウハウ共有など、わからないこと、やってみたいことなどを調べる場所は多岐に渡ります。また、Twitter上のユーザーコミュニティに参加することで、新たな作品に出会う機会も増えることでしょう。
直感的にゲームづくりが行えるティラノビルダーで、ぜひ『ゲームを実際に作って完成させる』を経験してみましょう!
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今日の用語
ローパスフィルター(Low-Pass Filter)
- 電気信号のうち、指定した周波数(カットオフ周波数)以下の信号を通し、それより上を大きく低減させるフィルター。
- ゲーム開発において、基本的にはサウンド用語として用いられる。例として、特定のセリフをローパスフィルターによってくぐもった音に加工することで、隣の部屋や遮蔽物の後ろで話しているかのような表現を行うことができる。