銃で戦うアクションRPG『Guns Undarkness』制作において、全ての工程を一人で行う目黒氏。ひとつのゲームを作り上げていく過程における思考プロセス、実現にあたってのツール選定や工夫について、「今は全ての作業が楽しい」と語る目黒氏に詳しくお伺いしました。
銃で戦うアクションRPG『Guns Undarkness』制作において、全ての工程を一人で行う目黒氏。ひとつのゲームを作り上げていく過程における思考プロセス、実現にあたってのツール選定や工夫について、「今は全ての作業が楽しい」と語る目黒氏に詳しくお伺いしました。
INTERVIEW & TEXT / 神山 大輝
INTERVIEW / 佐々木 瞬
▼インタビュー前編はこちら
――ここからは『Guns Undarkness』の制作工程について具体的にお聞きします。“ゲームデザイン・作曲・開発を1人で担当している”とのことですが、具体的な作業範囲を教えてください。例えば、シナリオや世界観設定、キャラクターモデリングなどはどのように進めているのでしょうか。
シナリオなどはゼロから全部自分で作っていますし、3Dモデルも購入アセットが中心ながら、ユニークで必要なパーツはできる範囲で私がモデリングを行っております。ただ、自分ではどうしようもないキャラクターデザインの部分は『攻殻機動隊 SAC_2045(Ghost in the Shell: SAC_2045)』などで知られる新進気鋭のロシア人イラストレーター イリヤ・クブシノブさんにお願いしています。また、楽曲の作詞は『ペルソナ』シリーズでも一緒に仕事をしていたLotus Juiceさんに依頼しました。
これとは別に、ゲームの内容のアドバイスを講談社さんに頂いていますが、UE4や各DCCツールでの実作業というところは基本的には自分一人でやっています。
――もともと会社で開発していた時点からUE4を使っていたのでしょうか。
いいえ。ですから、UE4での作業というのは、本当に空っぽのプロジェクトファイルからスタートしています。最初の3ヶ月で「今から始めるUE4極め本」をやって、その後は朝起きて2時間作業して、会社から帰ってきて1時間作業して。仕事の合間を縫って、地道に作業をしていました。
――まずはキャラクター制作について、使用したツールから教えてください。
キャラクターモデリングはCHARACTER CREATOR 3、アニメーションはakeytsuを使っています。テクスチャはほぼ既存のものの調整程度で、Gimpで完結しています。Photoshopを購入しても良いのですが、今のところは無料ツールで何とかなっていますね。また、キャラクター以外の必要なオブジェクトはBlenderで作ることもあります。
――コンセプトアートに近いモデルが作られていますね。顔の造形はどのくらいの時間を掛けて作業をしていますか。
キャラクターにもよりますが、1体につき1週間ほどの作業時間になっていますね。CHARACTER CREATORではHEADSHOTという、1枚の写真から頭部モデルを自動生成するプラグインを使うことができますが、基本的にはこちらをベースにモデリング作業を進めています。写真素材を使うのが一般的だとは思いますが、イリヤさんが描いてくれたイラストは写実的な表現ですので、インポートしても正常に動作してくれました。これをベースにして、顔の各パーツの調整を進めていきました。
ちなみに、主人公たちが着ているスーツは自分で上手く作れなかったため、外部の方にお願いしました。モデルだけを頂いて、リグやウェイトは自分がやっています。ウェイトはなかなかうまくいかないので、苦手です。
――そのほか、ステージ上に配置するオブジェクトなどはどうしていますか?
3Dモデルについては、ユニークで用意する必要があるもの以外はマーケットプレイスなどで購入したアセットが中心です。素材購入はほとんどがマーケットプレイスですが、たまにDaz 3DやTurboSquidを見ています。また、CHARACTER CREATOR 3上でもモデルが購入できるので、その辺りを定期的にチェックをしていますね。
――隠れながら接敵するという本作において、最も重要なのがレベルデザインだと思います。こちらの設計思想について教えてください。
レベルデザインの前に、ゲーム全体を通じて何回レベルアップが必要で、そのために何回バトルが発生するかを決めています。何度エンカウントさせて、どのくらいの時間でプレイさせれば良いのかというバトル前提の設計です。本作は章立てになっていて、1章につき約3つのフィールドを用意しています。全体を通して何度エンカウントが発生するかの数値から逆算して、各章のレベルに敵を配置していきます。何体置くか自体はオリジナルの計算式を使っています。
――あくまでデータありきで、レベルはその次の工程なんですね。各章の想定プレイ時間はどの程度ですか?
1章分のプレイ時間は約1時間で、イベントなどを含めると2時間程度のボリュームになると思います。全体では15~20時間を想定して制作しています。
――これによってレベルごとの想定プレイ時間と、敵の配置数が割り出されると。実際のレベルデザインはどのように進めていますか?
紙による作図などは使わず、全てUE4上でSuperGrid Starter packを用いて検討をしていきます。重要なのは、敵の配置はシナリオと合致している必要があること。各レベルに対し、「敵がいろんなところに隠れていて、突然襲ってくる」といったテーマや、「敵とは別の第三勢力が登場し、これを助けるために三つ巴状態になる」などのテーマをシナリオ準拠で立てていきます。もちろん、シナリオによって「地下を進んでいる想定」なのか「タワーを登っている想定」なのかも違いますし、タワーなら高低感を出した敵の配置やギミックを検討すべきです。どうやって敵が登場したら面白いか?というアイデアは常に考えていて、思いついたそばからiPhoneのメモ帳に書き留めています。
――想定プレイ時間、敵の配置数、そしてシナリオから見たレベルごとのテーマ。ここまで揃ってからレベルデザインを行うことで、やみくもに進めるよりも遥かに効率的に作業を進めることが可能ということですね。
逆に言えば、ここからは手探りです。感覚的に作ってはいますが、その中でも特に気をつけているのが「隠れる場所をプレイヤーに何箇所見せるか」です。フィールド中に隠れることのできるポイントは矢印で示されていますが、選択肢が多すぎても迷ってしまうんですね。ある一定のポイントを通り過ぎると隠れる場所が減ってエンカウントしてしまう、といったバランス感覚で調整を行っています。レベル配置の試行錯誤とテストプレイを繰り返して、時には講談社さんにも遊んでもらって意見をお伺いしながら制作を進めています。制作者はどうしてもプレイングが先鋭化してしまうので、他の方に遊んでいただくのはすごく重要ですね。
――RPGではフィールドと宿屋(回復ポイント)の間隔と、消費するHPやスキルポイントなどのリソースの関係も重要になります。この点については、どのように考えていますか?
当初は「なんでも潤沢でお手軽に遊べる」という形で考えていたのですが、これも講談社さんとのやり取りの中で「一度フィールドに入ると、終わりまでにスキルポイントが尽きるようなギリギリの設計の方が良いのではないか」という判断に変わりました。いかにしてスキルを温存しながら進み、限られたリソースでクリアを目指すかという遊びに変化しています。カバーのメリットを際立たせるために、あえてリソースをギリギリにした上で「カバーしたらスキルポイント消費がゼロになる」という特徴を付け加えました。
――防御力の上昇だけでなく、スキルポイント上のメリットがあるとなれば、積極的にカバー行動を行いますね。
フィールド上のアクションは、何度も続けていると面倒になってしまうんです。使用するスキルポイントがゼロに、というのは非常に大きなアドバンテージになりますので、必然的にプレイヤーはカバーを積極的に行うようになります。また、全員がカバー状態でエンカウントすると、ボタン連打で大ダメージを与えることのできるカットインを挟んでいます。これもカバーの明確なメリットです。
――連射することで敵の体力を奪ってから戦闘を開始できるという、カバー時限定のQTE(Quick Time Event)ですね。さらに、カバーによるスキルポイント上の恩恵もあると。
そうですね。このゲームはアクションゲーム寄りのフィールドなのに、バトルに入ると完全なターン制バトルになるんですよ。だから、フィールドとバトルの間にアクションゲーム的な「敵をバンバン撃つ感覚」を入れたかったんです。カバーはゲームをスムーズに進めるために有効な手段でありながら、さらに爽快なアクション性も伴うものというシステムにしました。
――多くの方が気になっているであろう、本作のサウンドについて聞かせてください。
音楽は、今回はオルタナティブ・ロック(以下、オルタナ)を制作する予定です。使用ツールはAvid Pro Toolsです。世界観がポストアポカリプスなので、なんとなくグランジ風の方向性が良いだろうと考えました。とは言っても自分はオルタナについて詳しいわけではないので、自分の想像上のオルタナを作っていこうかなと考えています。この考え方は少し不道徳かも知れませんが、その対象を知りすぎていればいるほど真似事のようになってしまうので、ある程度無知なうえでイメージしながら作っていくのがオリジナリティとクオリティのバランスを取ることに繋がると考えています。ちなみに、音楽はまだ1曲しか書けていません。
――目黒さんのご経歴から考えると、世界観やシナリオをサウンドで牽引していくような作り方を想像していましたが、サウンドは最終工程なんですね。
音楽が付くと良くなったように感じてしまう。でも、本当は音がまったくない状態でゲームが面白くないといけないはずです。現状の画面だけで面白くなるように作っていって、ゲームとしての芯が見えたら音で補強するという考え方です。あとは、曲作りについては「皆さんのご想像通りのものは作らない」というのがポイントだったりもします。
――それはどういった意味合いでしょうか。
昔は、その作品の世界観に100%ばっちり合った音楽を作ることが正しいと信じていたんです。ゲームが主役で、音楽は意識させてはいけないのだろうと考えていました。ですが、長くゲーム音楽を作るうちに、音楽は音楽でプレイヤーの皆さんの体験を引っ張るフックになるべきだろうと考えが改まったんです。その結果、少しマーケティング的な観点もあるかも知れませんが、斜め上を目指すような方向性となりました。根底にはプレイヤーを驚かせたいという気持ちがあって、「こんなのアリなの?でも聴いているとクセになるかも」というところを狙っています。
楽曲の一部は公式PVから視聴可能
――拝聴するのがとても楽しみです。ちなみに、効果音も自作されていると聞いていますが、こちらはどういった手法で制作を行っていますか。
基本的にはライブラリからネタを持ってきて、それを調整する形にしています。ファンタジー世界ではないですし、武器も銃ということもあって、意外な方向性を目指した音楽とは異なり、写実的なサウンドが中心になっています。
――今回のような個人制作や会社としてIPを背負うような開発、そのどちらも経験した目黒さんの視点から見て、それぞれの楽しさやメリット、逆に大変なところを教えてください。
どの会社も同じかも知れませんが、ゲーム会社の場合それぞれの専門家が全力でひとつのタイトル制作を行うので、得てして自分が想像もできないようなクオリティのデザインやシナリオが上がってきます。それらが組み合わさることで、本当に奇跡のような作品が生まれることがある。こういったマジックが素晴らしいと感じています。
一方、個人の場合は気兼ねなく自分の思い描いたゲームを作れることが最も素晴らしい点です。周りからどう思われようと、妥協せずに自分が良いと思ったものを追求できるのが良いところです。正直言って、今は本当に楽しいんです。音楽だけでなく、3DCG制作やレベルデザイン、シナリオなどあらゆる作業が押し並べて楽しいんですよ。飽きることもなく、いろんな作業をローテションしながら作り進めています。
――ちなみに、目黒さんはTwitterでも制作過程を発信しています。なにか理由はあるのでしょうか。
自分が制作を始めた頃、UE4の情報はいろんな方のブログや記事を参考にさせていただいていました。先人がいなかったら、絶対にここまで辿り着けませんでした。だから自分自身も、なるべく「こういったものが出来ました」「こういうことをしたら上手くいきました」ということをSNSに載せるようにしています。こんなシェーダー使ってみた、加算アニメーションを使ったら上手くいった、のような具体例を内容までしっかり書いていくことが、皆さんへの恩返しに繋がると考えています。皆さんの姿勢を見習って追いかけていく感覚ですね。
髪のシェーダーいじってみた。
少し良くはなったけど難しい!!
これ、沼になるやつだ。 pic.twitter.com/XXrYY8YuoF— 目黒将司(Shoji Meguro)@MegaRock (@s_megarock) November 15, 2021
アニメーションで加算の適用(Apply Additive)がキャラが巨大化する謎が解決した!
加算する側のアニメーションの詳細にある「加算セッティング」でAdditive Anim TypeをLocal Spaceにする必要があるのか!(デフォはNo Additive)
動画はThirdPersonIdleに左腕だけ加算させたアニメーション。 pic.twitter.com/xq3ocSXQbv— 目黒将司(Shoji Meguro)@MegaRock (@s_megarock) February 21, 2022
――最後に、個人制作者としての道を歩み始めた目黒さんの今後のヴィジョンを教えてください。
既に『Guns Undarkness』の次に作りたいゲームもあります。今作を含めて3作ほどの構想があるので、よりステップアップしたシステム、また違った世界観のゲームを作っていきたいと考えています。理想は3年スパンで、60歳になるまでに3作品作れたら良いなあ、などと思っています。
――これからの作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
『Guns Undarkness』Steamページゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。
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