クラウドサービスの新たな選択肢として注目を集める「Tencent Cloud」。2023年には同サービスの代理店事業と開発支援サービスを、株式会社ブイキューブがスタートしました。
数あるクラウドサービスの中でも、Tencent Cloudはゲーム開発やライブ配信を重点的にサポートしているのが特徴。本記事では使いやすさやコストメリットなどを整理するとともに、エンジニアの検証をもとに「使用感の本音」をお届けします。さらに、国内担当者の生の声をショートインタビューとして掲載しました。
クラウドサービスの新たな選択肢として注目を集める「Tencent Cloud」。2023年には同サービスの代理店事業と開発支援サービスを、株式会社ブイキューブがスタートしました。
数あるクラウドサービスの中でも、Tencent Cloudはゲーム開発やライブ配信を重点的にサポートしているのが特徴。本記事では使いやすさやコストメリットなどを整理するとともに、エンジニアの検証をもとに「使用感の本音」をお届けします。さらに、国内担当者の生の声をショートインタビューとして掲載しました。
TEXT / 神山 大輝
近年はコストメリットとスケーラビリティの観点からオンプレミスではなくクラウドサーバーを使用するパターンが主流になりつつありますが、「どのクラウドコンピューティングサービスを用いるのか?」は悩みのタネになりがちです。
2013年にサービスを開始し、2019年に日本市場に参入した「Tencent Cloud」も有力候補のひとつ。Tencent自体が世界最大級のゲーム会社であることから、Tencent Cloudもゲーム開発に目線が向いたサービスとなっています。
Tencent Cloudは「一般的なクラウドコンピューティングサービスが持つ機能は大体持っている」と言ってよく、さらにボイスチャットや映像送受信をゲームに速攻組み込めるゲームマルチメディアエンジン(以下、GME)や高品位なセキュリティ&アクセラレーションを提供するEdgeOne、Cloud Application Renderingなど、直接的にゲーム開発に役立つ機能群もしっかりと備えています。
ただし、近年まで国内市場シェアは北米系サービスが大半を占めており、Tencent Cloudをはじめとする別の選択肢への移行には強い動機が必要な状況がありました。この潮目が変わりつつあると感じるのが、企業向けのソフトウェアおよびサービスを開発・販売する株式会社ブイキューブが代理店事業をスタートしたこと。
特に仮想サーバーやCDNなどインフラコストは20~30%程度安くなるケースもあり、本国と同等のサポートを日本語かつ50%程度のコストで受けることも可能になるとのこと。
国内代理店を経由することによるサポート面、コスト面のメリットが明確化したことで、ゲーム開発におけるTencent Cloud活用が有力な選択肢となりつつあります。
サポートやコスト面だけではなく、Tencent Cloud自体に目を向けてみます。特にフォーカスすべきは「機能導入が容易なGME!」「低遅延なクラウドレンダリング!」とのことで、今回はゲームメーカーズのエンジニアがTencent Cloudが提供する両者を用いて機能実装を行ってみました。
使用したゲームエンジンはUE5.3.2。銃による撃ち合いが可能なシンプル設計のFPSゲームを制作し、「ボイスチャットの音質や遅延、実装のラクさ」「アクション性のあるゲームでも、クラウド上で問題なくプレイできるのか?」の2点を検証してみました。
山野
GMEはTencent Cloudが提供するPaaSで、SDKを使って簡単にボイスチャットが実装できるそうです。Tencentが展開する『PUBG: BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)でも使用されているとか。早速テスト用に制作したゲームに組み込んでみます。
設定はごくシンプル。まずはTencent Cloudのアカウントを作成し、本人確認を行います。続いてTencent Cloud Game Multimedia Consoleにアクセスしてアプリケーションを作成し、各設定を完了させます。
アプリケーションを作成したら「アプリID(AppID)」と「許可キー(AppKey)」が入手できます。GME側はこれで準備OKなので、あとはSDKとサンプルプロジェクトをダウンロードして、Visual Studioで起動したプロジェクトにIDとキーを入力します。
すでに日本語ドキュメントが充実しているのも嬉しいポイント!今回の実装で参考にしたのは「Unreal SDKのクイック導入」「Unreal Sample Projectのクイックスタート」の2つ
サンプルプロジェクトをベースに、制作したゲームに組み込みを行ってみた。左下にMicとSpeaker、SpatializerのON/OFFボタンがある。Spatializerをオンにすると距離減衰や定位が反映され、それぞれのキャラクターから音声が聞こえるように
山野
特に迷うことなく、手順どおりに実装が進みました。ここからは神山 編集長と一緒にボイスチャット機能を試してみます。マイクは普通の民生機ですが、音質面にもぜひ注目してください!
神山
このあとに続くインタビューパートをまとめ終わるよりも早く実装が終わってしまった……。自分が喋りながら動き回るので、山野さんは止まって聞いてください。
遅延をまったく感じず、音質的にも(マイクの性能に左右されますが)クリアに感じます。すぐに試せる上に無料枠も10,000分と多いので、社内でのデモ開発などにマッチする印象を受けました。
Tencent Cloudが提供するCloud Application Rendering(クラウドレンダリング)は、ゲーム本体をクラウド上にアップロードし、「どこからでもアクセス可能なブラウザ上でプレイできる環境を作る機能」です。
昨今の3Dゲームは一定以上のGPUを積んでいないと快適に動作しませんが、クラウドレンダリングなら端末や場所を問わず快適にプレイすることができます。
神山
わざわざ実行ファイルをダウンロードする必要がないですし、ノートPCやiPhoneからもアクセス可能なので、サクッとテストプレイを行う際に便利ですね。これからの時代のディレクターは、たとえタクシーの中でも細かいフィードバックができてしまう……仕事が捗りそうですね。
クラウドレンダリングの手順はブイキューブが掲載するQiita記事に詳細な手順が掲載されており、この通りに進めれば問題なく実行可能。驚いたのは、UE5側で特に設定を変更することなく、ただWindows用(Android用)ビルドをアップロードするだけで完了すること。
今回はプロジェクトに一切変更を加えることなく、アップロードするだけで準備完了。あとは「何人までアクセスできるか?」「Concurrency Scale、つまりSサイズ、Mサイズ、Lサイズ、どのレベルでクラウドレンダリングを行うか?」を選択するだけ。今回はLサイズでレイテンシーの検証を行ったが、動作自体はSサイズでも行えている
検証端末は、GeForce RTX3070搭載WindowsデスクトップとiPad mini、そして3年前のモデルとなるiPhone 12 mini。ブラウザもGoogle Chrome、Safari、Edgeと複数使ってみましたが、いずれも55fps以上、通信の往復速度を示すRTTは10-12ms(約0.01秒)でプレイできていました。
実際にiPhone 12 miniでプレイしている様子。タップと攻撃モーションの発生から、遅延がどの程度生じているかを確認してほしい。かなり快適にプレイができており、接続ができないなどのトラブルは一切起こっていない点も優秀
技術本部 エンジニア 藤本諭志 氏
ブイキューブのライブ配信システム開発をはじめ、20年以上の経験を持つエンジニア。Tencent Cloudではソリューションアーキテクトとして技術面を力強くサポート。
――Tencent Cloudの代理店事業を始めた経緯を教えてください。
池田:ブイキューブは「Evenな社会(すべての人が平等に機会を得られる社会)の実現」を掲げており、社会課題の解決のためにさまざまなビジネスを展開しています。誰でも、どこにいても平等に働けるよう、働く方同士をつなぐ音声・映像配信ソリューションの自社開発や代理店事業を行い、実際に働く場所としてのテレキューブ事業なども行っています。
藤本:Tencent Cloudはこれまで扱ってきたAgoraやZoomと同じように代理店として事業展開しますが、実はブイキューブ自体もソフトウェア開発会社なんです。「V-CUBE セミナー」などのSaaSを中心に、100名以上のエンジニアが開発業務に従事しています。
ブイキューブとしては、すでにAgoraでオンラインコミュニケーションの技術基盤を提供していますが、あくまでこれは映像・音声配信特化のPaaSです。ゲームやアプリケーション開発を行いたいユーザーのバリューチェーンをすべて満たすためには他技術の提供が必要だと感じていました。
――そこでTencent Cloudに白羽の矢が立ったということですね。
藤本:Tencent Cloudはサービス幅が非常に広く、自身の顔にフィルターを掛ける美顔SDKやステッカーを貼るアバター的なSDKまで提供しているんですね。最初は単純に面白いなと思って見ていたんですが、自身で試すうちに位置ズレの少なさやオクルージョンを含めて同社の技術力の高さを知ることになりました。顔認識とフィルター程度であればiOSやAndroidのNativeアプリだと普通になってきましたが、これがWebブラウザで問題なく動いているのはブラウザ性能を越えている。エンジニアとしては「どうやっているんだろう?」と気になってしまって。
また、私自身がPUBGのヘビーユーザーで、日頃から「常に安定して動作しているのは凄いな」と実感していました。自社でゲーム開発を行っているバックボーンからして、信頼の置けるメーカーだと感じたんです。
池田:代理店事業の上で重要になるのが、ベンダー側とのコミュニケーションの取りやすさです。Tencent Cloudはレスポンスが迅速で、技術的な内容をTencent Cloud側のエンジニアと密にやり取りすることができています。
――Tencent自体がゲーム会社であり、Tencent Cloudもゲーム開発に向けた内容が充実しているとのことですが、改めてサービスの特徴を教えてください。
藤本:ゲーム開発においては、Tencentが自身のタイトルを守るために磨き上げたアンチチートやWAFなどを内包した「Edge One」や、今回検証していただいたクラウドレンダリングが有用だと思います。クラウドレンダリングはメタバース文脈でも使えると思っていて、GPUを搭載していないマシンやモバイルで、ログインレスかつインストールレスでコンテンツが楽しめることの重要性は今後さらに高まると感じています。
また、ゲームでは音声通話を組み込むシーンも多いと思いますが、クリアかつ低遅延なボイスチャットに特化したPaaSである「GME」も優秀ですね。
――GMEもクラウドレンダリングも、今回かなりスムーズに導入ができたと感じています。続いて、“ブイキューブを通じてTencent Cloudを使用すること”によるメリットを教えてください。
池田:サポート面とコスト面のメリットがあります。前者については、Tencent Cloudと直接契約するサポートの半額程度で同等のサポートを日本語で受けることができます。後者については、私たちは代理店としてTencent Cloudとの価格調整を踏まえた価格のプランニングができる立場です。CDN(Contents Delivery Network)は他企業に比べて20~30%ほど安く提供可能です。
――ありがとうございます。最後に、Tencent Cloudを検討している開発者にメッセージをお願いします。
藤本:技術開発のスピードが極めて速いのがTencentの特徴です。最新の機能が足りずにサービスが停滞するくらいであれば、スピード感のあるベンダーを採用する方がエンジニア目線ではメリットがあります。
例えば、一般的なCDNはHTTPのリクエストしか対応していないケースも多いですが、Tencent CloudではすでにGoogleのQUICプロトコルに対応しています。こういった最新情報はブイキューブとして定期的に日本語発信したいと思っておりますので、ぜひ当社ブログにも注目ください!
池田:ブイキューブによるTencent Cloudの展開は始まったばかりです。まずは情報収集レベルで良いので、ぜひお気軽にご相談いただけると嬉しいです!もちろん、Tencent Cloudを利用するからと言って、最初から全てのコンピューティングリソースをTencent Cloudに集中させる必要はないと思います。最初はクラウドレンダリングや、無料枠のあるGMEなど、CDNの一部分からだけでもお試しください。
【ブログ記事】進化したCDN = EdgeOneTencent Cloudに関するご相談・お問い合わせゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビューや作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。
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