バトルの難易度を自分好みにカスタマイズ。ライト層もヘビー層も楽しめる『FINAL FANTASY XVI』戦闘アクション開発手法をバトルディレクターが解説【CEDEC2023】

2023.10.11
CEDEC注目記事ゲームづくりの知識ルールをつくるしくみをつくるゲームの舞台裏講演レポートCEDEC2023
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2023年8月23日から25日の3日間、パシフィコ横浜 ノースで開催された『CEDEC 2023』。数多くの講演の中から、今回はスクウェア・エニックス バトルディレクター 鈴木 良太氏による講演「FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~」のレポートをお届けします。

ファイナルファンタジーシリーズを長く遊んできた層や、アクションゲームを好んで遊ぶライト層、アクションに奥深いやり応えを求めるヘビー層といった複数のプレイヤー層が楽しめる戦闘をデザインした手法に迫ります。

TEXT / HATA

EDIT / 神谷 優斗

目次

登壇した鈴木氏は、1999年から20年に渡りカプコンで『デビル メイ クライ 5』などの3Dアクションや、2D対戦格闘ゲームを開発。2019年からはスクウェア・エニックスで『FINAL FANTASY XVI』のバトルディレクターを務めています。

ハードルの低さと上達の奥深さが両立する戦闘

これまでのファイナルファンタジーにおけるバトルシステムはターン制コマンドバトル、アクティブタイムバトル、セミアクションと推移してきました。これらのシステムには長い歴史があるため、多くのファン(シリーズプレイヤー層)が存在します。

本作はシリーズで最もアクション性の強いバトルシステムを導入しています。このため従来のシリーズプレイヤー層だけでなく、アクションを好んで遊ぶライトプレイヤー層や、アクションにやりごたえを求めるヘビープレイヤー層もターゲットとなり得ます。

ターゲットの拡大に応じて「アクションが得意なプレイヤーも不得意なプレイヤーも両方楽しめる」ことがバトルデザインの目標として掲げられました。アクションが苦手であってもプレイの実感が得られるように不正解が少なく、得意な層が上達しがいを感じられる効率性の差による奥深さを持つ戦闘が目指されました。

講演では、この目標を実現するためのバトルデザインの手法を「プレイヤー」と「エネミー」の2つの視点から解説しています。

「難易度選択」を使わずにハードルの低さを実現

まずは、プレイヤーに関するバトルデザインのテクニックについて解説。

アクションが苦手な層と言っても、苦手とする部分はプレイヤーによって異なります。そこで、ハードルを低く設定することに対しては「サポート機能を充実させる」という、従来の「難易度選択」とは違ったアプローチがとられました。

講演では、自分で操作できている実感を損なわずにハードルを低くする3つのサポート機能が紹介されました。

攻撃回避サポート

通常、エネミーの攻撃を回避するには、攻撃を受けるコンマ数秒の間にタイミングよく回避ボタンを押すことが必要です。一方、サポート機能が有効なときは攻撃のタイミングで自動的にスローモーションになり、回避に1秒以上の猶予が生まれますこのサポートにより、アクションにおける反射神経の比重が軽減されます。

体力回復サポート

リアルタイムの戦闘においては、常に自身の体力ゲージに気を配ることが求められます。これが苦手なプレイヤーに向けて自動で回復アイテムを使用する機能を用意することで、プレイヤーの体力管理に関する負担を減らします。

攻撃サポート

戦闘においては、エネミーの種類や間合いなどに応じた適切な攻撃やスキルを選択することが重要です。本作では、攻撃アクションを自動で選択するサポート機能を実装。攻撃ボタンの連打のみで華麗なアクションが繰り出せます。

なお、発生するアクションの組み合わせは、与えるダメージの多さではなく、多彩な技による見栄えを重視して選択されるとのこと。

エネミーに素早い斬撃を繰り出し、空中に打ち上げて追撃、最後に地面に叩きつける一連の攻撃が、攻撃ボタンのみで繰り出せる

「体力管理は苦手だけど、攻撃は自分で考えて出したい」といったニーズに応えるため、これらのサポート機能は一律に有効化されるようにはせず、受けられるサポートの種類を「装備」という形で選択できるようにしています。

このシステムは、難易度選択で「イージー」を選ぶことに抵抗を感じるプレイヤーに対しても効果的であると鈴木氏は言います。

サポートの種類に対応したアクセサリを装備することで、サポート機能が有効化される

また、ハードルを低くするとはいえ、何も考えずに攻撃ボタンを連打すれば勝てるほど難易度を低くはしていません。攻めと引きのタイミングをプレイヤーに判断させることで、プレイヤーの思考停止を防いでいます

いかにもダメージを受けそうな攻撃の演出や、隙だらけの演出を見せて、押し引きの判断をさせる

低難度から高難度まで戦闘テクニックを散りばめ、継続的に成功体験を与える

本作はライトプレイヤー層の遊びやすさを追求するだけでなく、ヘビープレイヤー層が自身のプレイヤースキルの向上を楽しめる要素も数多く存在しています。「ジャスト回避(プレシジョンドッジ)」や中難易度の「マジックバースト」、高難易度の「パリィ」など、高いプレイスキルを要求するテクニックがいくつも用意されており、これらを習得することで更に効率的にエネミーを倒せるような設計となっています。

プレイヤーの攻撃がヒットした時に△ボタンをタイミングよく押すと発動するマジックバースト。攻撃力増加や敵の体勢を崩す効果がある

以上のテクニックを組み込むにあたっては、テクニックの習得をプレイヤーに強要せず、習得によるメリットも戦闘の効率がよくなる程度にとどめたとのことです。メリットが大きすぎることでプレイヤーが「やらなくてはならない」と感じるのを防ぐのが目的です。

また、これらのテクニックは、プレイヤーが上手く戦闘できていると感じる瞬間を増やす目的もあります。習得する難易度を分散させることにより、プレイヤースキルを向上させていく過程で「このテクニックが習得できた」という成功体験が何度も得られます。

テクニックを習得する難易度のバランスについては、難しいアクションを成功させる体験をより多くのプレイヤーが味わうことができるように調整されました。鈴木氏が過去に自身が携わったアクションゲームにおけるパリィと本作のパリィを比較すると、受付期間がかなり長いことがわかります。

パリィの受付時間を9フレーム(0.15秒)も長くとっている

召喚獣アクションにプレイスタイルを反映させる

次に、召喚獣アクションによる奥深さのデザインについて解説。戦闘中に使用できる召喚獣のフィートアクション(※1)とアビリティ(※2)は、召喚獣に応じて大きく異なります。
※1 ほかの召喚獣では使用できない、それぞれの召喚獣固有のアクション
※2 召喚獣に関連するアクション。最初は対応する召喚獣を装備していないと使えないが、習熟することで召喚獣を問わず使えるようになる

「フェニックス」のフィートアクションは一気にエネミーとの間合いを詰める技、「ガルーダ」のフィートアクションはエネミーを引き寄せる技、「タイタン」のフィートアクションは防御に特化したカウンター技など、召喚獣の特性に応じたアクションが設定されている

召喚獣アクションに特徴を持たせるにあたっては、尖った部分とへこんだ部分の明確化を意識したと鈴木氏は言います。

タイタンのアビリティは、隙が大きいが威力のあるチャージ攻撃。カウンターやパリィでエネミーの体勢を崩してからなど、発動するタイミングをプレイヤーが見極める必要がある、長所と短所が大きい技に仕上がっています。

加えて、へこんだ部分は他の召喚獣アクションでカバーできることと、死にスキルを生まないことも意識したとのこと。

そして、同時に使用できる召喚獣アクションを制限し、プレイヤーに使用するアクションをカスタマイズさせるようにしています。これにより、おのずと戦術に多様性が生みだされます。

フィートアクションは全7種のうち3つ、アビリティは6つに制限

エンディングを迎えた時、召喚獣アクションの組み合わせがプレイヤーごとに大きく異なっている状態を目指したと鈴木氏は語りました。

操作受付タイミングとキャラクターポーズの関係

ここで鈴木氏は、プレイヤーの操作感に対する調整に言及しました。

ボタンを押してもレスポンスがない場面があると、操作感が悪い印象を与えてしまいます。そこで本作では、キャラクターを操作できないときは操作できないとはっきりわかるポーズを取らせることで、レスポンスがないことに納得感を与えています。例えば「ランジ」と呼ばれる技では、動けない時にはキャラクターの重心を大きく下げて動けないことを伝えます。

また、キャンセルタイミング(※)についても説明がありました。
※ アクション後、再度操作を受け付けるようになるタイミング

本作において、回避、攻撃、移動などの各アクションが受付可能となるタイミングは個別に設定されています。ランジの場合、発動から28フレームで回避、ジャンプ、召喚獣アクションを許可し、その10フレーム後に通常攻撃を許可、さらに10フレーム後に移動が許可されます。前述した、動けないことがわかるポーズは、移動が許可されるタイミング(ランジでは48フレーム目)まで続けるのがよいことになります。

なお、各アクションのキャンセルタイミングは専用のエディタで設定している

攻撃の「タイミング」と「種類」を正しく伝えるエネミーの予備動作

最後に、エネミーに関するコンバットデザインの手法が語られました。

攻撃のそぶりがないエネミーから突然攻撃を受ける経験は、プレイヤーに理不尽な感覚を与えます。

そこで、攻撃の予兆を記号化することが徹底されました。エネミーが攻撃する際は、必ず「どういう攻撃がくるか」「いつ攻撃がくるか」が感覚的にわかる予備動作が入るようになっています。鈴木氏は経験上、この調整は大げさなくらいがちょうどよいと感じているそうです。

武器を構え、身体を横にひねることで横薙ぎの攻撃がきそうだと予感させる

攻撃の直前、大きく構えを変えることで「今攻撃がくる!」と感じさせる

理不尽さをなくすもう1つのポイントは、画面外からの攻撃の抑制です。エネミーが近接攻撃を行う際は、必ず画面内に移動してから攻撃を行うように制御されています。

この処理は、複数のエネミーと戦う本作においては特に効果的であったとのこと。なお、魔法などの遠隔攻撃は抑制せず、代わりにUIによる予兆記号を示して理不尽さをなくしています。

エネミーが描画されているかどうかで、近接攻撃の発生を判定している

すべてのエネミーが制限なしに攻撃する戦闘は、エネミーの数に応じて難易度が跳ね上がるほか、同時にくる攻撃に対処するのが難しいためアクション初心者にとってハードルが高くなってしまいます。

その対策として、同時に攻撃できるエネミーの数を制限するチケット制が導入されています。チケット制は、チケットを受け取ったエネミーのみが攻撃状態に遷移でき、攻撃終了後はチケットを返却。そして次のエネミーがチケットを受け取る仕組みです。チケットを受け取っていないエネミーは、待機などの様子見を行います。

なお、ボスにはチケット制が適用されず、ほかのエネミーとは無関係に攻撃します。

鈴木氏は最後に「本講演の要素は体験版でも楽しめるため、よければプレイしてみてください」と述べ、講演を締めくくりました。

『FINAL FANTASY XVI』公式サイトFINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~ - CEDEC2023
HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れてゲームライフが始まる。2000年代にノベルゲーム開発を行い、異業種からゲーム業界に。ゲームメディアで記事執筆を行いながらゲーム開発にも従事する。

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