国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2023」が、2023年8月23日(水)から8月25日(金)までの日程で開催されました。初日となる8月23日には、TECOPARK 代表取締役 三宅 俊輔氏が登壇し、「協力ゲーム『PICO PARK』でプレイヤーの”声”を生み出すために実践したこと」と題した講演が行われました。
ユーザーのプレイを巧みに誘導する手法や、ユーザーの「声」を引き出すための工夫などが解説された本講演をレポートします。
国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2023」が、2023年8月23日(水)から8月25日(金)までの日程で開催されました。初日となる8月23日には、TECOPARK 代表取締役 三宅 俊輔氏が登壇し、「協力ゲーム『PICO PARK』でプレイヤーの”声”を生み出すために実践したこと」と題した講演が行われました。
ユーザーのプレイを巧みに誘導する手法や、ユーザーの「声」を引き出すための工夫などが解説された本講演をレポートします。
TEXT / セレナーデ☆ゆうき
EDIT / 神谷 優斗
『PICO PARK』は、2~8人で協力してプレイする、ステージクリア型のアクションパズルゲームです。
本作のコンセプトは「大人数でわちゃわちゃ盛り上がれる協力ゲーム」。とはいえ、「盛り上がる」に対する認識は人それぞれです。そこで、三宅氏は「盛り上がっているゲーム」を自分なりに定義し、「“声”がよく出ているゲーム」つまり「プレイヤーが自然と声を発し、プレイヤー間で会話が生まれるゲーム」であるとしました。
悲鳴や「ああしよう、こうしよう」といった話し合いといった声にフォーカスした本作。大ヒットに繋がったのは、声によって盛り上がることにこだわったからではないかと三宅氏は分析しています。
講演では、本作に散りばめられた、プレイヤーが実際に「声」を上げて楽しめるようにする19個の工夫が詳しく解説されました。
最初に、プレイヤーの行動を制限することで声を引き出すいくつかのテクニックが紹介されました。
本作では、上記画像左のように頭上にほかのプレイヤーが乗っている時はジャンプできません。この仕様により「どいてほしい」などの声が引き出せます。
また、画像右のように、一部のステージではほかのプレイヤーを掴んで一緒に移動させることができます。この時、掴まれたほうは全く動けなくなってしまうため、掴まれたプレイヤーから「あそこに連れていって」「動きたいから離して」などの声が上がるようになります。
プレイヤー同士の行動制限は、アクションパズルの基幹でありつつ、会話を生み出すという点においても大事な要素であると三宅氏は語りました。
次に、各プレイヤー全体を通しての行動制限について解説されました。
上記画像左のステージでは、プレイヤーが1人でも動いているとゲージが減っていき、0になると全員がミス(ステージの最初からやり直し)になってしまいます。減ったゲージを戻すには、全員が止まる必要があります。
画像右のステージでは、画面中央にある信号機が赤く光っているときに1人でも動いてしまうと、全員がミスになります。
全員の行動が制限されるこれらのギミックにより、余裕があるときには「ゴーゴー!」と、止まらなくてはならない場面では「ストップ!」と声が上がるよう設計されています。
ここで、プレイヤーの失敗やおふざけに対する会話を誘発する構造についても解説がありました。
上記画像のステージでは、穴に落ちてしまってもミスにはならず、落下したプレイヤーは穴の手前から即座にやり直しが可能です。本作はこういった小さな失敗を生む障害物が全ステージにわたって散りばめられています。
「ここで大事なのは、落ちたという事実である」と三宅氏。協力ゲームにおいて、落下という失敗は、他プレイヤーからの「ミスいじり」を誘発します。また、リスクの低い小さな失敗であれば、いじられた側も笑いながら「ごめんごめん」と一言謝って済ませることができます。
また、プレイヤーには「真面目なプレイヤー」と「ふざけたがるプレイヤー」の2種類がいると三宅氏は分析。集団の中にふざけたがるプレイヤーがいると、「なにふざけてんだよ」などのツッコミが生まれ、会話が盛り上がる傾向にあるとのこと。そのため、いくつかのステージには、ふざけられる要素や裏切りやすいギミックが意図的に配置されています。
上記画像では、青いキャラクターがスイッチを押している間は橋がかかり、左側の赤いキャラクターが穴を渡れるようになります。青いキャラクターがふざけたがるプレイヤーだった場合、赤いキャラクターが渡っている最中にスイッチから離れ、橋を消してしまうことがあります。赤いキャラクターからすると、これは裏切りです。青いキャラクターに対してのツッコミが生まれます。
また、このギミックでは落ちたとしてもミスにはせず、裏切りのリスクを低くすることで、裏切りやすいような工夫がされています。
ふざけたがるプレイヤーは、どこでもふざけたがるとのこと。そこで三宅氏は、ゴール手前にも意識しておふざけ要素を配置しました。
上記画像に提示された2つの場面では、どちらも青いキャラクターを除く全員がゴールに入り、あとは青いキャラクターもゴールに入るのみの状況です。
画像左では、ゴールの手前にステージの最初からやり直しになってしまうスイッチが配置されています。青いキャラクターがなかなかゴールに入らずに「スイッチを押すぞ!(笑)」とふざけて脅すことで、ほかのプレイヤーからのツッコミが生まれるのではないかという狙いがこのスイッチにはあります。
画像右は、右下にあるギミックから射出される弾を飛び越えるステージです。1人がふざけてゴールに入らずに弾で遊んでいると「遊んでないでゴールに入れよ!」「ゲームなんだから遊んでもいいじゃん!」という会話を引き出すことができます。
このように、意図的にふざけられる要素を配置することは、真面目なプレイヤーとふざけたがりのプレイヤーの間で行われる会話を生み出すことにつながると三宅氏は語りました。
協力ゲームにおいて、無意識の非協力的な行動はツッコミを誘発します。「こういうプレイヤー、いませんか?」と投げかけられたのは、我先にと前に進みたがるプレイヤーの存在。いくつかのステージでは、プレイヤーの習性を逆手に取り、結果的に非協力的な行動になるよう誘導しています。
例えば、上記画像のリフトは全員が乗ることで上がり、1人でも降りると下がる仕組みになっています。本来、リフトが上がりきるまでリフトに乗ったまま待つべきですが、気がはやって先に上の階に飛び乗る人がいると、全員が先に進めずリフトは下がってしまいます。暗に非協力的な行動を促すこの仕掛けにより、お互いのツッコミが誘発されます。
非協力とは逆に、協力にも焦点をあてたギミックも設計されています。
上記画像左のステージでは、プレイヤー全員が同じボタンを一斉に押し、水色のキャラクターを動かします。プレイヤーは協力するために、「せーの!右!」「せーの!ジャンプ!」といった掛け声が生まれます。
右のステージでは、ステージ右側にあるギミックから落ちてくるボールを、リレー形式でヘディングし、ステージ左側の壺まで入れることが目標です。全員が順番に連続的な動きをする際には、「はい!はい!」や「1!2!」などの掛け声が自然と生まれます。
全員が同じ動きをしなくてはいけない状況下で生まれる掛け声は、重要な声の要素の1つであると三宅氏は語りました。
次に、思わず声が上がるように促すテクニックについて三宅氏は解説しました。
上記画像左は、ピンク色のキャラクターが左に動く壁を押し返すことができず、左へと押されてしまう様子です。この時、「落ちちゃう!」などの声が出るプレイヤーがいたとのこと。
画像右のステージでは、プレイヤーが紐で繋がれ、お互いを引っ張り合いつつ鍵を取得します。一方のキャラクターが落下してしまうときは、紐で繋がれたもう一方もともに落ちてしまいます。その際、プレイヤーの悲鳴がよく上がります。
三宅氏も想定していなかったそうですが、自分がやりたいことに対して不可抗力が加わるとき、プレイヤーはよく声を上げるようです。
次に、声を上げやすいステージ設計について。プレイヤーが大きな声を上げる瞬間は死ぬときなのではないか、と三宅氏。本作に用意された「死に際」には、大きく2種類が存在していると言います。
1つは、悲鳴型の死に際です。上記画像左は、浮いている赤い敵キャラクターに襲われ緑色のキャラクターが死ぬ直前の状況です。三宅氏いわく、悲鳴は死んだときには上がらず死にそうなときに上がるとのこと。また、経験上、死にそうと思ってから死ぬまでの時間の長さで悲鳴の長さが変わると言います。
もう1つは、即死型の死に際です。画像右は、飛行機に乗ったキャラクターが右へ進むステージで、赤い壁に当たると即ミスとなってしまいます。この状況下では、ミスとなっても悲鳴は上がらず、代わりに、「やばい」「マジかよ」「しまった」というような、咄嗟の声が出がちだそう。その理由は「死にそう」と思う間もなくミスとなってしまうからではないかと三宅氏は述べました。
以上を踏まえ、ステージ設計においては、悲鳴型の死に際があるステージ、即死型のステージ、死なないステージのバランスをとるよう意識したそうです。
次に、ミスをしたあとの時間で会話を生み出す工夫が語られました。本作では、キャラクターが1人でも死んでしまうと、数秒後に暗転してリトライとなります。このとき、生きているキャラクターは暗転するまで自由に行動できますが、ゲームの観点では行動できることに意味はありません。しかし、会話の観点では意味があります。
というのも、キャラクターが死んでしまったとき、何人かのプレイヤーは後を追うそう。リトライまでの時間を残したことで、後を追わなかったプレイヤーが、後を追ったプレイヤーたちにツッコミを入れるシーンが見られたと三宅氏は言います。
ここからは、ゲームバランスの調整や、ごくわずかに用意された「少し特殊なステージ」に関して解説が行われました。
本作は、ゲームの得意・不得意問わず幅広く楽しんでもらうことを想定しています。そこで、いくつかのステージは、ゲームが得意な人が苦手な人をフォローできるような構成になっています。
上記画像の場面では、分かれ道の入り口で3人が階段を作り、2人までは障害物のない上のルートを通ることができます。この時、ゲームが得意なプレイヤーから「俺らは下を行くから!」、上の道を通るプレイヤーから「ありがとう」といったコミュニケーションが生まれやすいとのこと。このようなフォローがあると、会話が生まれる以外に、ゲームへの参加もしやすくなるのではないかと三宅氏は話します。
本作は、基本的に全員が頑張らなければクリアが出来ないステージで構成されます。しかし、ごく一部、1人だけが頑張らなければならない「1人だけがヒーローになれるステージ」が存在します。
上記画像の状況では、青いキャラクター以外からは応援の声が生まれ、上手にブロックを落とせた際には称賛の声が上がります。また、青いキャラクターのプレイヤーはドヤ顔をすることも出来るなど、多彩なコミュニケーションが生まれます。
とはいえ、一部の人が活躍するステージばかりだと、活躍できない人がつまらなくなってしまいます。そのため、こういったステージはごくわずかだけ用意することが大事なのではないかと三宅氏は分析しました。
1人の責任が大きいステージがある一方で、全員の個人責任が大きいステージも存在します。
上記画像のステージでは、スイッチに触れると全員が最初からやり直しになるため、各プレイヤーに大きなプレッシャーが掛かります。1人が何度もスイッチを押してしまった場合、ほかのプレイヤーからは「どんまい!」と励ましの声が上がることもありますが、糾弾に近い声がよく聞かれるとのこと。
糾弾の声が多いと、プレイヤー間の友情が崩れてしまう懸念がありますが、プレイにおけるスパイスとしてごくわずかのみ個々の責任が大きいステージを用意しているとのこと。
三宅氏は「制限時間という要素は、会話という要素と相性がいい」と語ります。というのも、タイムリミットが迫ることで、自然と「急げ急げ!」という声が上がります。そこで、全体の1割程度のステージが制限時間制となっています。
「制限時間と相性がいいならば、すべてのステージをそうすればいいのではないか?」という疑問に対しては、三宅氏は以下の通り結論づけています。
シングルプレイゲームにおいては、プレイを続けるかどうかはそのプレイヤーのみに依存します。しかし、本作のようなマルチプレイゲームにおいては、誰か1人の疲れによって全員のプレイが終わってしまいます。そのため、多人数ゲームにおける疲労のケアは、1人用ゲームよりも慎重にならなくてはいけません。
三宅氏は「2〜3割程度まで増やしてもよかったかもしれない」としつつ、「疲れ」に対する気遣いから、制限時間の比重を減らす選択をとったとのこと。
このゲームには、初見殺しのギミックも用意されています。初見殺しギミックの設計にあたっては、誰か1人のミスではなく全体責任になることが優先されました。
上記画像の例では、白い足場に足を踏みだす前の段階では天井ブロックを見せず、初見ではまず対応しきれないようにしています。1人だけのミスであれば「いじり」につながる一方で、全員のミスであれば、共感から笑いにつながるそうです。これを踏まえ、初見殺しを全体責任にしたと三宅氏は語ります。
次に、仕様を決める際に意識した点について語られました。
上記画像では、キャラクターの大きさがゴールに対して非常に大きくなっています。制作にあたっては「キャラクターが大きいままゴールに入れる仕様でいいのか?」に対して結論を出す必要があります。本作は「それでいい」とすることで、プレイヤーからの「入れるんかい!」というツッコミを引き出しています。
ゲームが破綻しないのであれば、見た目の納得性よりもツッコミやそこから始まる会話を優先して仕様を決めるのもいいのではないかと三宅氏は語りました。
本作では、少ないギミックの応用・組み合わせでステージを展開せず、一点もののステージばかりを集めるアプローチがとられました。
というのも、入るたびに「何これ?」「どうする?」の話し合いを促すためです。その結果、プレイヤーはステージに入るたびに話し合いを始めてくれたそう。
本作のステージに組み込まれている協力要素は1~3個ほどで、比較的短時間でステージをクリアするようになっています。また、ステージをクリアした際には必ずステージ選択画面に戻ります。
この仕様は、協力が上手くいった場合には、達成感をプレイヤー間で分かち合ってほしいという意図によるものです。ステージ選択画面に戻った際には、感想などを言い合える時間がほしかったとのこと。達成感や感想を共有できる時間も、会話を引き出すためには必要なのではないかと三宅氏は語ります。
最後の要素は、ビジュアルについて。声を上げるためにはビジュアルも大事な要素だとし、「かわいい」と言ってもらえるようキャラクターをデザインしたそうです。カラフルなキャラクターが1箇所に集まって一生懸命ブロックを押す姿など、全体的に「かわいさ」を重視したデザインとなっています。
その結果、ぬいぐるみがクレーンゲームの景品になるなど、大勢のプレイヤーに愛されるデザインになったのではないかと三宅氏は話します。
最後に、こういったゲームにおいては声を意識して仕様を考えることが大事である、と三宅氏。「どんな掛け声?」「どんな会話?」「どんな悲鳴?」など、声を意識してみるとよいのではないかと語ります。「皆さんも是非、ゲームで生まれる楽しい会話を考えてみてください」という言葉で、講演を締めくくりました。
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