分かりやすいから“裏切れる”。『ライブアライブ』時田貴司氏が語る、チームの熱量を高めるディレクション・プロデュース術

2023.05.10
注目記事ゲームづくりの知識しくみをつくる見た目を良くするゲームの舞台裏インタビュー
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1994年にディレクターとして『ライブ・ア・ライブ』を制作、2022年にはプロデューサーとしてリメイク版『ライブアライブ』(※)開発をリードした株式会社スクウェア・エニックス 時田貴司氏。

自身の代表作に異なる立場で関わり、ともにヒットに導いた同氏が実践するコンセプトメイキングや雰囲気づくりについて、当時の思い出や開発上の工夫を交えながら語っていただきました。
※本記事ではオリジナル作品を『ライブ・ア・ライブ』、リメイク版を『ライブアライブ』と表記しています

TEXT / 神山大輝

目次

「ゲームにしたら面白い要素」を結集させた『ライブ・ア・ライブ』

――『ライブアライブ』(※)PS4,PS5,Steam版の発売、おめでとうございます。まずは自己紹介をお願いします。

スクウェア・エニックスの時田です。18歳のときにグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、20歳でスクウェアに入った後は『ファイナルファンタジー』シリーズや『半熟英雄』シリーズ、『クロノ・トリガー』などに携わりながら、グラフィックからプランナー、そしてディレクターと軸足を移してきました。

『ライブ・ア・ライブ』は今から29年前、初めてディレクターとして作り上げたタイトルです。昨年7月にSwitch版をリリースし、今回はついにPlayStation®4、PlayStation®5、そしてSteam版の発売ということで、ようやく世界中のプラットフォームでみなさんにお届けできることになりました。

――本作はオムニバス形式の群像劇として人気を博したタイトルのリメイク版という位置付けですが、オリジナルのタイトルはどういったコンセプトで制作されたのでしょうか。

当時は『ライブ・ア・ライブ』の他にも、数多くのRPGがスクウェアからリリースされていました。本作はゲームに入れ込んで面白そうな要素を全部詰め込んだ作品です。あの頃はある程度の経験を積めば、暖簾分けというわけではないですが、自分のタイトルを1本持たせてもらえる時代だったんですね。

『ファイナルファンタジーⅣ』の開発を終えて、その後シナリオ側のディレクターを『半熟英雄』で経験して、「そろそろやらせてください!」とお願いをして……ようやく自分の作品として制作できたのがライブアライブなんです。だから、ロボットでも西部劇でも、とにかく自分の作りたいものを要素として取り込んで、最後にどんでん返しのようなサプライズを用意するといった作り方を実践しました。

――1990年代初頭は数多くの名作RPGが誕生していた時期でしたね。少し話を戻すと、時田さんはグラフィックデザイナーとして入社したあと、プランナーとして大きなタイトルに関わって、その後ディレクターとして活躍されています。一時期はサウンドエフェクトにも携わったとか……。グラフィックデザイナーからプランナーへの転身は、当時としては良くあることだったのでしょうか?

当時はコンシューマ黎明期で、ゲーム産業も今ほど大きくありませんでした。MSXタイトルを作っていた時期はプログラマーとグラフィックデザイナーの2人でゲームを1本作るようなこともあって、開発期間も2,3ヶ月という単位でした。

グラフィックデザイナーの立場ではありつつ、ゲームのアイデアを提案したり、実装部分もある程度理解したり、必要なことは自分たちで全て賄っていました。今ほど職種も細分化していなかったので、珍しいことではなかったと思います。

スクリプトを打つことは「演じること」

――スーパーファミコン時代になって、少しずつ開発体制も変わったかと思います。当時のプランナーはどういった仕事をしていたのでしょうか。

スクウェアは初代ファイナルファンタジーの時代から、プランナーがスクリプトやデータを作ることで量産する体制を取っていました。プログラマーのナーシャ(ナーシャ・ジベリ氏。ファミコン時代の『ハイウェイスター』、『FINAL FANTASY』シリーズ、『聖剣伝説2』などの制作に参加。ハード特性を熟知した天才プログラマーと称された)がアメリカにいたこともあって、細かい部分まで自分たちで作れるようにスクリプトシステムを構築していました。

私がプランナーとして関わったファイナルファンタジーⅣでも、スクリプトでシナリオ実装を行ったり、時間ができたらマップや各種データを作ったり、ある意味アジャイル的に開発を進めていました。

スクウェア入社後の時田氏。1994年7月、『ライブ・ア・ライブ』発売直前の一コマ

――1980年代からスクリプトを仕組み化していたのは先進的な試みだと思います。

スクリプトは楽しかったですよ。学生時代から演劇の道を志していたので、「演じること」や「演出」には以前から興味はありました。スーパーファミコン時代はもちろんモーションキャプチャーなどはありませんでしたが、自分にとってはスクリプトでキャラクターを動かすことは演じることと同義であり、どのタイミングで音楽を再生するか、セリフの調整するかは演出と同義でした。

作っていく中で、少しずつキャラクターの特性が浮かび上がったり、関係性が出来上がったりする。演劇で言えばエチュード(即興劇)のように、役者同士がやり取りしながら作っていくスタイルに近いかも知れません。よく漫画を連載される方が「キャラクターが自然に動き出す」と言いますが、それと同じことを感じていました。

例えば「お前を許さない」というセリフを実装する時、僕はよく分割するんです。「お前を……(ボタンを押す)許さない」といった感じにすると、ユーザーの体験がよりリアリティを伴うものになります。漫画で言うと、良いところでセリフが切れて、次のページで大コマがあるような、コマ割りの工夫に近い感覚かも知れません。

――演劇というバックボーンがあるからこその感性だと思いますし、漫画のコマ割りのようなセリフ分割も面白いですね。これは当時のスクウェア社内でも、時田氏の独自の方法論だったのでしょうか?

そうかもしれません。少年ジャンプの創刊が幼稚園のころで、ガンダムやインベーダーゲームが小中学生、その後もさまざまな作品に触れながら成長しました。漫画やアニメ、ゲームとともに大人になった世代です。声優を目指して劇団の研究生をしていた頃もありましたし、絵も好きで漫画を描いていたこともありましたので、その辺りが影響していると思いますね。

当時の時田氏が描いた、『魔界塔士Sa・Ga』(1989年)のマニュアル用イラスト

ファンクラブ誌「SQUARE TIMES」に向けて描いた4コマ漫画

イメージは変えずに遊び易さを一新した『ライブアライブ』リメイク

――『ライブアライブ』の原作について、改めて当日の開発人数や期間などを教えてください。

チーム全体だと20名程度で、内訳はプログラマーが3名、プランナーがイベント3名にバトル2名、これに加えてグラフィックやサウンドが複数名携わっていました。開発期間は1年ほどでしたね。

――本作は主人公も時代も異なる8つの物語構成が特徴のRPGです。先ほど「面白そうな要素を全部詰め込む」という話題もありましたが、どのように全体をまとめ上げたかを教えてください。

スーパーファミコン版を振り返ると、当時からファイナルファンタジーシリーズSaGaシリーズは群像劇かつオムニバス形式に近いものになりつつありました。ROM容量も増えていましたしね。「1本の長いお話を遊ぶより、今日はこの章をやろう」「好きな順番でお話を進めよう」といった遊び方ができる本当のオムニバスにしようと企画しましたそういう形にすれば、「SFモノも格闘モノも西部劇も全部入れ込んでゲームが作れる!」と思ったんです。

ただ、西部劇であれば「決闘」が必須であるように、それぞれのジャンルの格好良さはそれぞれの世界の文脈に紐づいています。短いながらも、1話ごとにストーリーをかっちり固めたほうが良いとは考えていました。

最後に“王道”の中世編があり、「やっぱりRPGといえばこれだよね!」と思わせてからのどんでん返し、サプライズを仕掛けることも最初から決めていました。遊んだあとに「マジかよ~!」と思ってもらえるように工夫しましたね。

西部劇といえば「決闘」は外せない。それぞれのジャンルの見せ場を盛り込み、1話ごとにストーリーを完結させた

――原作もリメイク版も含め、全体的に映画的な演出であるように感じました。西部劇における決闘のように、「特定のシーンを描きたい」という部分が先行したのか、キャラクターやストーリーから考えたのかを教えてください。

シーンはあくまで結果でしかなく、最初は世界観と主人公が戦う方法、ジョブから考えました。それらが並列したものを、多くの方が想像しやすいように映画的な目線で例えています。

どのジャンルにも「これがこうなったらアツいよね」という作法があると思うんです。そういった要素と自分なりの演出が合わさった結果が、各編の見え方だと思います。

――コアなファンも多い作品ですが、発売当時の雰囲気はどうでしたか?

当時はコアなタイトルだと思われていたかもしれませんね。同年4月に発売された『ファイナルファンタジーVI』のROM容量が24Mb(※)、翌年の『クロノ・トリガー』は32Mbだったので、ロム容量の話題性という意味では仕方なかった部分もありつつ、それでも多くのファンの方に遊んでいただきました(『ライブ・ア・ライブ』は16Mb)。
※メガビット。データの伝送速度の単位としても扱われるが、ここではロムカセットのメモリ容量を指す。16Mbの場合、総容量は約2MB(メガバイト)。当時はビットを省略し、各タイトルをPRする際に「大容量24メガ」などと謳う文化もあった。なお、スーパーファミコンタイトルでの最大容量は48Mb

今回のリメイクは、その根強いファンの皆さんのおかげで実現したんです。当時もファンの方からお便りを頂いたり、読者コーナーを見たりするくらいでしたが、インターネットが出てきてからは感想や評判が急激に広まりました。私自身もTwitterでファンに反応したり、ファンアートを広めたり、積極的にリアクションしていましたね。純粋に自分の作品のファンアートを見るのは楽しいですし、1時間に1回はTwitterで検索する日もありました。

その後、2015年にWii Uのバーチャルコンソール、2016年にニンテンドー3DSのバーチャルコンソールでも配信が開始されました。それを機に記念ライブを開催し好評をいただき、数回音楽ライブを開催してきました。旗を立て続けることでファンの皆さんも応援してくださり、それがだんだん拡大して、少しずつ「これはリメイクも行けるかも?」という空気が醸成されてきました。

2018年97日に東京キネマ倶楽部で行われた[LIVEALIVEALIVE 2018 鶯谷編](写真左・岡宮道生氏)。2015年925日、発売20周年記念として開催された吉祥寺CLUB CITTA’でのライブを皮切りに、2019年にも25周年として新宿ReNYにてライブを行うなど、積極的なファンとのコミュニケーションが交わされてきた

――リメイクの方針として意識した点を教えてください。

初のリメイクであることと、海外へも新展開という形になるため、基本の構成は変えない判断をしました。「遊び易さはいくら変えても良い、しかしゲームとしての流れは変えない」という方針で開発を進めました。

昔のゲームはプレイヤーの想像力に依るところが大きかったため、描写を過度に足してしまうと「思っていたのと違う!」という原因になります。セリフは今風の言葉に多少調整しましたが、追加したものはほとんどありません。

――今回はディレクターではなく、プロデューサーという立場でしたね。昔、自らが開発を率いたタイトルを誰かに任せることに対して、不安はありませんでしたか?

原作は30年前ですし、今のクリエイターの方が優秀だから大丈夫だろうと思いましたよ。私がやったのはメリハリをつけるところと、全体の判断だけです。むしろやり過ぎが怖いくらい、全体の密度を高めてくれましたね。

ただ、お任せする代わりに、調整の時間はしっかり取りましょうとは最初から言っていました。『パラサイト・イヴ』ディレクターを務め、海外で言葉も業界も違うスタッフと制作した経験から、「細かいことは良いから、まずゲームを繋げる」ことの重要性を学んだんです。今回も、まずは全体を繋いでから調整していく方針で進めました。

関わってくださったコアメンバーは60名程度で、製作期間は約3年。当時からすると何倍も大きな規模になりました。現場の熱量も高く、非常に良い体制で作れたと思います。

――作品に対して「密度感」というキーワードも出ましたが、リメイクだとどうしても新要素などを足したくなりませんか?

ファンの方に理想的なリメイクだと言っていただけるように、余計な味付けは足していません。現代は人々の考え方や情報が多種多様で、時代の移り変わりも早いため、むしろ分かりやすくして迷わないことが重要だと考えています。漫画もアニメも、最初は直球のものが流行って、そこから少し変わった作品が流行って、そして一周してまた直球が流行るんですよね。

コンセプトと、大切にすべき部分を自分の中でしっかり見極めて引き算をしていく。みんなが大事にしたいところを明確にして、それがブレずにプレイヤーに届けば良いんだと思います。今は嘘ついて売れる時代ではないし、開発もプロモーションも作品について語ってくれるファンの方へ、軸が一本通っていないと通用しないと思います。

――現場の熱量を高めるためのコツがあれば教えてください。規模が大きくなればなるほど、コンセプトを伝えるのが難しいような感覚もあります。

現場の熱量はアウトプットに付随するものだと思っています。ぐだぐだ言っていても進まないので、まずは作る!なにかが形になった瞬間に、俄然楽しくなってくるんです。実装して出るムード、アウトプットがあってこその雰囲気というのは間違いなくあると思います。

今の時代は分業も多く、ゲーム開発はどんどん細かくなりますが、細かすぎてドライヴしてない現場も多いと思うんですよ。プロジェクトがドライヴしたら、細かいところは現場が自動的に仕上げてくれるはずです。細かいところから積み上げるとプロジェクトが失敗するので、あまり細かいマネジメントをやらないようにしてます。

プロデューサーとしての仕事

――ゲーム開発に限らないと思いますが、『ライブアライブ』のようにシンプルで強いコンセプトは見つけるのがとても大変だと思います。ゲーム開発が複雑化するのと同時に、クリエイターの思考も複雑化しているのではないかと感じる部分もあります。

ゼロから作るのは難しいかも知れませんが、他人と同じ突破口ではない、周りがやっていないスキマを探すのが大事だと思います。ここで言う「わかりやすさ」は、みんなの意見を足したものではないことにも注意すべきです。

合議制ではないとした一方、メンバーのエッセンスがコンセプトに重なるように化学反応を起こすことは重要です。ここも、先ほど言ったアウトプットがあることによる「ノリ」が大きいです。チーム制作の楽しさはいつの時代も変わりませんね。

――今の時代はなかなか「スキマ」が見つからない感覚があります。つまり、コンテンツ制作において誰もやっていないことは既に存在しないのではないか?ということです。作る側の視点でも、売る側の視点でも、強いコンセプトを作るのは難しいのではないでしょうか。

自分の時代だって、ゼロからオリジナルはない、コピー世代だと言われていました。ただ、あの頃はゲームがフロンティアだったんですね。漫画やアニメ、映画では演出、表現がやり尽くされた感はありましたが、それをゲームに輸入することで新しさとすることができました。

今は組み合わせとブレンドで勝負をするのが大切かな、と思いますが、それでもインディーゲームなどを含めて俯瞰すると「やられ尽くした」感はありますよね。こうなると、もう自分のこだわりが一番の強みであり、唯一のものになります。音楽でいえば、同じ楽曲でもアレンジが違えば別の作品になるということ。自分の好きなスタイル、好きなことをぶっちぎるのが重要だと思います。

プロデューサー目線で言えば、想像がしやすいということ、タイトルや画面を見たらきっとこういうゲームだというような想像が働くゲームであることも大切なポイントだと思います。写真を見て、食べてみたいと思うような食べ物の写真のような感覚でしょうか。さらに言えば、脂っこいラーメンを作るとき、あっさりな味付けが好きな人をターゲットにする必要はありません。

想像がしやすく、分かりやすいということは、ユーザーの期待も一致しているためサプライズが有効になります。そして、このサプライズは、ファンとの信頼関係があればあるほど効果的です。先ほどのラーメンの例えが適切かは分かりませんが、ターゲットにしっかりフォーカスして、「美味しそう」と思ってもらった上でこそ成り立つサプライズもあります。

――ある意味では賛否両論、サプライズに対して批判的な意見が出たとしても、そこはターゲットでない以上は気にしないという方向性でしょうか。

批判を恐れたら、最初にやりたかったことさえできなくなります。現代人は何をやってもインターネットに晒されるし、リアクションも多いので、萎縮する人も多いと思います。でも、作る側なら大胆であるべきだと自分は考えます。万人に向けて作るのではなく、自分が向いている方向に対して真摯でいたいと思います。

こうやって偉そうに語っていますが、これは言霊のように自分に言い聞かせているんです。読者の皆さまも、「そうかも知れないな」と納得する部分があったら、ぜひ実行してみてください。

――ありがとうございました。最後に、改めて本作のファンに向けてメッセージをお願いします。

『ライブアライブ』リメイク版、本当に好評を頂いて感謝しております!他のプラットフォームをお待ちいただいていた皆さま、大変お待たせいたしました。PlayStation®4とPlayStation®5の両方で遊べるクロスバイの仕様になっており、Steam版はSteam Deckにも承認いただいて非常に快適に遊ぶことができます。この機会にぜひ遊んでみてください!

ライブアライブ | SQUARE ENIXライブアライブ(PS4, PS5, Steam) | SQUARE ENIX
神山 大輝

ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー作品メイキング解説、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。

ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。

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