2022年12月16日(金)から2023年1月9日(月)にわたって開催された、Unreal Engine(以下、UE) の学習を目的とした映像制作コンテスト『UE5ぷちコン 映像編4th』。今回は「勝負」をテーマに45作品の応募がありました。『善悪の彼岸で拾った財布』を制作し、最優秀賞を受賞したイッカクさんにコンセプトワークから完成に至るまでの工夫やこだわりについて伺いました。
TEXT / 神谷 優斗
INTERVIEW / 神山 大輝
EDIT / 酒井 理恵
目次
イッカクさん
現在、情報系の大学1年生。小学校1年生頃からゲームに触れ始め、中学時代にはPvPのゲームの面白さに目覚める。
ぷちコンには高校生のときから応募をはじめ、今回『UE5ぷちコン 映像編4th』で『善悪の彼岸で拾った財布』が最優秀賞を受賞。
Twitter:@Ikkaku_st
「ゲーム制作」がゲームの1ジャンルだった小学生時代
――自己紹介をお願いします。
イッカクです。普通に中学に行って、高校に行って、今は情報系の学部の大学1年生です。もともと父親がゲーム好きで、PCでやっているのを見て自分もゲームをするようになりました。小さい頃からゲームを作ってみたいという気持ちはあって、家のPCでUnityは触っていたんですけど、2020年頃からUnreal Engine(以下、UE)を始めました。
――小さい頃からゲームを作ってみたかったとのことですが、きっかけがあれば教えてください。
ゲームの中には、「マリオ」や「モンスターハンター」といったタイトルと同列に「ゲーム制作」というジャンルがあるんだと思っていました。ゲームを作るならPCを使う、という感覚は昔からあり、Unityで作れると分かって小学生の頃からゲーム制作していたんですよね。ひよこ本(※)を3分の2ぐらい、意味が分からないながらもソースコードを書き写しながら進めていたんですけど、PCのスペックがぎりぎりすぎて進められなくなり、そこでいったんUnityからは離れました。
※ 荒川巧也氏・浅野祐一氏によるUnity解説書シリーズの通称。Unityの入門本として定評がある
――ゲーム制作そのものは、その後も続けていたのですか?
中学の頃は受験勉強が忙しくてゲーム制作からは離れていました。ゲーム作りを再開したのは、高校2年の頃ですね。確か、第14回UE4ぷちコンがきっかけだった記憶があります。PC部のようなところで先輩から教えてもらったBlenderを使いつつ、UEで制作しました。
――どんな作品を作っていたか、見せてもらえますか?
はい、今まで投稿した作品は全部Twitterにあげていると思います。これが初めてぷちコンに参加した時の作品ですね。
UE4ぷちコンの振り返りとしてゲームをちょっと手直し#UE4 #UE4Study pic.twitter.com/SBWy8jM5RO
— イッカク@UE5とBlenderと (@Ikkaku_st) October 12, 2020
UE4ぷちコンの振り返りとしてゲームをちょっと手直し#UE4 #UE4Study pic.twitter.com/SBWy8jM5RO
— イッカク@UE5とBlenderと (@Ikkaku_st) October 12, 2020
ぷちコンはゲーム編に4回、映像編に今回を含めて2回参加しています。他にも、高校生活の締めくくりとして、学園祭用にソウルライクな3Dアクションを制作しました。当時、その月の無料マーケットプレイスコンテンツにボス用のアニメーションアセットが含まれていたのがきっかけで、購入したコースを参考に制作しました。
DevAddictさんのコースを基に、ソウルライクのボス戦を作りました。#ue5 #UE4Study pic.twitter.com/7d6QEBaPay
— イッカク@UE5とBlenderと (@Ikkaku_st) January 17, 2022
DevAddictさんのコースを基に、ソウルライクのボス戦を作りました。#ue5 #UE4Study pic.twitter.com/7d6QEBaPay
— イッカク@UE5とBlenderと (@Ikkaku_st) January 17, 2022
――映像制作はなぜ始めたのですか?
映像制作のきっかけもぷちコンです。「映像編っていうのがあるんだ。じゃあ応募してみよう」という流れで映像を作るようになりました。いろいろなことに挑戦しようと思い、映像制作もそのひとつとして始めたんです。最近はゲームじゃなくても、作品として世に出せれば手段は問わない、というスタンスで考えています。アニメが好きで、映像に興味があったのも理由としてあります。
――初めての映像制作はスムーズにできましたか? なにか特別な勉強はしたのでしょうか?
最初はサードパーソンを派生させていくYouTubeの動画を見て、実装できそうなところから少しずつやっていきました。分からないところがあればその都度調べて、記事を読み漁りました。書籍は逆引き辞典をたまに使うぐらいで、YouTubeの英語のチュートリアルのほうが参考になりましたね。ヒストリアブログも結構見ていて、本作でも集中線の出し方を参考にしています。
[UE5] 速く走ったときに表示されるスピードライン(集中線)を作ってみよう!|ヒストリアブログ映像作品の印象的なシーンを参考にしたアニメーション制作
――ここからは最優秀賞受賞作『善悪の彼岸で拾った財布』について詳しくお伺いしていきます。投稿の時点で手ごたえはありましたか?
受賞はできたらいいなくらいの気持ちで作ってました。でも、最優秀賞は素直に嬉しかったです。今回は制作に時間をかけられたので、いつもより力を入れてこだわりました。
――こだわって作られたとのことですが、制作にはどれぐらい時間をかけたのでしょうか?
全体では3週間ほど時間をかけました。最初の1、2日でコンセプトを決めて、その後2週間はBlenderでアニメーションを作る作業をしました。その後、出来上がったアニメーションをUEにインポートして、エフェクトの追加や破壊効果、ライティングなどで1週間前後。最終チェックとして、何人かに見てもらってから提出しました。
――作品のコンセプトはどういった流れで決めたのでしょうか。
「勝負」というテーマが発表されたときは、Substance 3D Painterを使って、自作ゲームに登場するキャラクターの悪バージョンを制作していました。ちょうど、正義と悪のキャラクターがいたので、これを「勝負」させるアイデアは自然に決まりました。
勝負が起こるきっかけを考えたとき、とっさに浮かんだ言葉が「魔が差す」です 。そして、魔が差す瞬間ってなんだろう、と考えて頭に浮かんだのが「財布を拾ったとき」でした。
正義と悪が戦う動機の分かりやすさも短編という特性にマッチしていたので、この流れに決めました。
――シーンを構成する際は、絵コンテやVコンテを書いたのでしょうか?
いえ、アニメや好きな作品を参考にしてBlender上で印象的なシーンを5つくらいポージングさせてみて、その道中をつなげるようにしてシーンを作りました。
だから絵コンテは書いていません。代わりに、Blender上で「参考にしたシーンは大体こんな構図だったな」と思い出しながら、モデルでアタリをつけました。
映画やアニメの同じシーンは何回も見て研究しています。大きく影響を受けたのは『キルラキル』『アーケイン』、全体的な空気感やノリは『バキ』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』あたりです。
あとは、Riot Gamesが作る映像が好きなので、意識しています。『VALORANT』は凝ったPVを作っているなと思います。
――アタリもBlenderで制作したんですね。Blenderで行った作業について具体的に教えてください。
Blenderでは、ひたすらアニメーションを作っていました。キャラ単体のアニメーションと比べて、両者が絡み合うものはかなり時間がかかりました。両者のアニメーションを少しずつ修正して作り直していたら2週間が経っていました。
途切れなく見せたかったので、40秒くらいの戦闘シーンをひとつなぎで作りました。財布を拾うシーンと、戦闘シーンの2つに分けたのみで、それぞれのシーンはひとつのまとまったアニメーションになっています。
――使用した3DモデルはBlenderで自作したのでしょうか?
作ったのはキャラ2体と財布のモデルです。キャラクターは3ヶ月前にBlenderで作ったものを使っています。Blenderアドオンの「Auto-Rig Pro」を使ってボーンを入れ、Substance 3D Painterでテクスチャ作業を行いました。
UEによる背景、カメラワーク、ライティングの演出
――アニメーションを作成した後はUEでの作業に移られたんですよね。背景の街はUEで構築したのでしょうか?
はい、背景はすべてマーケットプレイスのアセットを使用しています。たしか、その当時に無料で配布されていた「City Environment Megapack vol 02」だったと思います。壁沿いにカメラを動かす関係で、邪魔になる小物や建物、見えにくくなる煙などは間引きました。このアセットはもともと背景として機能するので、引きの構図で見ると違和感が出てくるところもあります。それを防ぐために、擬似的に街を増やすなどの工夫を施しました。
――カメラワークはどのように制作されましたか?
カメラワークはすべて手付けです。1個1個キーフレーム打って、トライアンドエラーで動きを付けました。
カメラワークはBlenderでアニメーションを作っている最中に頭の中で決めていました。それをUEで再現していく作業をしただけなので、そこまで時間はかかりませんでしたね。
ただ、手ブレや爆発の揺れみたいな、カメラの揺れをつけるのには慣れておらず、手こずりました。
――ライティングに関して、苦労した点や工夫した点を教えてください。
建物がよく見える明るさでライティングするとキャラクターに光が反射してしまったので、明るさの調整に苦労しました。
工夫したのは、色味の調整ですね。文字が出るシーンでは、文字の色に対応したスポットライトを当てています。
ほかにも、パンチを受けた瞬間は紫がかったライティングにしたり、火の出るシーンでは赤みのあるライティングにしたりしています。ポストプロセスエフェクトを使って、画面全体の色味もシーンによって変化させました。高く上空に飛び上がって攻撃するときに、3Dモデルのアウトラインを抽出するポストプロセスマテリアルを、一瞬だけ適用するということもやっています。
――細かく演出を入れているのですね。FOVや線画演出といった映像的な技法は、新たに勉強したのでしょうか?
映像の技術は、今まで見てきた作品から自然にインプットしました。作っている最中に調べてはいますが、演出は定番のものが多い印象です。高2あたりから、映画やアニメを鑑賞するときに、技術的な視点も意識するようになりましたね。
既存のものをカスタマイズして自作品としてなじませる
――受賞作において、技術的な見どころがあれば教えてください。
ラストシーンの破壊表現です。ここでは、「葛藤」や「ジレンマ」などのネガティブなワードを破壊しながら進んでいます。
破壊表現にChaos Destructionを使用しています。いろいろ試したんですが、Chaosをシーケンサに組み込むのが難しく、実装に2、3日かけました。最終的にうまくいったのが、記録したフィールドシステムの動きを、シーケンサーで再生する方法でした。
――エフェクトはどのようなものを使用したのでしょうか?
時間がなかったので、ビジュアルエフェクトは改造したアセットを使いました。炎や紫色の衝撃のエフェクトがそれにあたります。色を変えたり、いらない砂埃を消したりと多少カスタムはしています。背景の街もマーケットプレイスで入手したものですが、アセットの地面が濡れていたので、水たまりらしい「ねちゃっ」とした足音を探してきて適用しました。マーケットプレイスのアセットを使う際は、アセット同士の整合性は取るようにしています。
――映像の音声は、外部ソフトを用いて編集したのでしょうか?
音声はAudacityとAuditionでつけました。効果音などの作業量が軽いものは、直感的に操作できるAudacity。BGMや長めの効果音、気合いを入れて作りたいものはAudition、といったように使い分けています。
録音にはPremiere Proを使用しています。善と悪のキャラクターそれぞれの声と、財布を拾う際の衣擦れ音をとりました。衣擦れ音のほうは録音したものの、投稿した映像作品には採用しませんでした。
――今までの話で、マーケットプレイスのアセットを多く使用している印象を受けました。アセットに関して、自作とマーケットプレイスの使い分けに基準はありますか?
使えるものは使うスタンスです。背景はアセットを使うことが多いですね。使いたいけど、どうしても存在しない3Dモデルは自作します。
ただ、キャラクターと、キャラクターの持つアイテムは自分で作ったものを使いたいですね。
――外部アセットを使用した際、アセットと自作3Dモデルの質感が異なる問題が考えられます。アセットと自作3Dモデルを、どのように馴染ませているのでしょうか。
目に見えて違和感がなければよくて、パッと見の印象で決めています。
今回は街のアセットがフォトリアルだったので、キャラクター側でテクスチャのディティールを上げる調整を、Substance 3D Painterで施しています。
――使用するツールの種類が非常に多いように感じました。ツール習得の力配分があれば教えてください。
積極的に習得しようと思うのは、BlenderとUEです。それと、今回は使っていないんですが、Photoshopですね。それ以外のツールは、必要になったら都度調べる、と割り切っています。
新しいものが好きですし、「この表現が簡単にできるなら頑張ろう」というスタンスなので、新しいツールを試すのに抵抗はありません。できることがどんどん増えるので、どのツールも触り始めが一番楽しいです。
開発中のFPSゲームそして将来のビジョン
――最後に、現在制作中のゲームの、今後の展望について教えてください。
今は『オーバーウォッチ』みたいなゲームを1人で作っています。TPSやFPSのジャンルが好きなので、自分でそういうゲームを一個作ってみたいんです。現在制作中のものは「Epic Online Services」を使ってオンラインで4人対戦するところまではできていて、大学の学園祭で展示もしました。
開発にしっかり取り組んだ期間は3ヶ月半ほどですかね。最終的には、製品として出せるレベルまで開発して、Steamなどで無料で遊べるようにしたいと思っています。でも、そうなると個人開発者が作ったゲームでマルチ対戦は厳しいような気もしています。インターネットを通じてゲームを配布した経験がないので、まずは調べるところから始めないといけないですね。
――ご自身の将来的なビジョンを教えてください。
現在は大学1年で専攻も決まっていませんが、情報系の学部にはいるので、何かしらPCを使った仕事を考えています。なかでも映像やゲーム業界には興味があります。
モデリングやアニメーションなど、幅広くやってきたので、そこから何を選ぶのかはこれから決めていきたいです。
――今、一番楽しいと感じている制作分野は何でしょうか?
今回、特に楽しかったのはモーション制作でした。ゲームと映像を両方作ってみて「映像制作って楽しいな」と思っている自分に気が付きました。現在は自分のモチベーションも少し映像に傾いていますね。
――これからの作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
使用ツール・機材一覧
※記事中に登場したもののみ掲載しています
イッカクさん Twitterコーヒーがゲームデザインと同じくらい好きです
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今日の用語
プレイアブル(Playable)
- ゲームをプレイすることができる状態。
- 1の状態の実行ファイルのこと。
- プレイヤーの操作が可能な状態。操作可能なキャラクターのことをプレイアブルキャラクター(Playable Character)と呼ぶ。