1周10分でも濃い体験を提供。アイテムマネジメントRPG『サマーロード』の開発チーム「リビルドゲームス」にインタビュー【TGS2022】

2022.12.21
注目記事インタビューイベントレポートUnity
この記事をシェア!
Twitter Facebook LINE B!
Twitter Facebook LINE B!

国内最大級のゲームイベント「東京ゲームショウ2022(以下、TGS)」が、2022年9月15日(木)から9月18日(日)まで開催されました。なかでもインディーゲームコーナーは、国内外の多様なチームがユニークなゲームを出展し、にぎわいを見せていました。

本記事では、インディーゲームコーナーに出展した『サマーロード』に注目。同作を開発している「リビルドゲームス」のメンバーにインタビューしました。

※『サマーロード』の画面は、すべて開発中のものです

TEXT & EDIT / 藤縄 優佑

目次

「リビルドゲームス」と『サマーロード』とは?

リビルドゲームスは、カジュアルなアーケードアクション『メットボーイ!』iOS/Android)など、主にスマートフォン向けゲームをリリースしているチームです。メインメンバーはゲームデザイナーであるasaba akinori氏と、プログラマーである保坂 元八氏の2人。

2人は学生時代に「任天堂ゲームセミナー」にて、シューティングゲーム『ネコソギトルネード』を開発。その後はそれぞれ別の会社に勤めつつもサークル「リビルド」として『BUGGG』『アイドルと丼ぶりめし』などをリリースし、2015年にリビルドゲームス社を起ち上げました。

同社は『スラッシュRPG 一閃勇者』『メットボーイ!』などを開発し、2021年には『メットボーイ!』に対戦・協力要素などを加えてパワーアップした『スーパーメットボーイ!』Steam/My Nintendo Store)が、フライハイワークスからリリースされました。

そんなチームがこのたび開発している作品は、Steam向けの『サマーロード』。「忙しいおとなへ贈る 10分で楽しむRPG」と銘打ったゲームです。

本作は、3人のパーティが「遠く東に落ちた謎の光」を目指して旅するRPG。RPGではあるものの、各キャラはAIによって自動で移動し、敵と出会ったら自動で戦闘するため、プレイヤーはキャラを操作できません

(画像はSteamより引用)

ただしプレイヤーは、戦闘などで入手するアイテムを3人に装備させられます。パラメータや付与されている能力はアイテムごとに異なるうえ、装備するアイテムの組み合わせによっては特別な技が発動。さらに、複数のアイテムを合成することで新たなアイテムを入手できます。

入手したアイテムのパラメータや種類を確認しながら、どのキャラに何を装備させて、どんな役割を持たせるのか、どんなパーティをビルドするのか。そういったアイテムマネジメントが本作の魅力といえるでしょう。

(画像はSteamより引用)

先のキャッチコピーの通り、本作は1プレイにかかる時間は10分程度を想定。条件によってルート分岐するストーリーを何度もプレイし、真の結末を迎える頃には本格的なRPGをクリアしたような感覚を味わえるといいます。

余談ではあるが、『メットボーイ!』は2022年8月から『サマーロード』のキャラが登場するセルフコラボを実施している(画像は『メットボーイ!』のスクリーンショット)

TGS中に仕様を変更していた『サマーロード』

――リビルドゲームスさんは、スマートフォンを中心にゲームをリリースしてきましたが、今回出展した『サマーロード』はSteam向けの作品なのですね。

asaba:これまではカジュアルにゲームを楽しみたい方々に向けて、スキマ時間など短時間でも満足できるゲームを作っていました。そんな方々にとって手に取りやすいハードがスマートフォンだろうと考え、スマートフォン向けのゲームを作っていました。

新作の『サマーロード』は、カジュアルというよりは腰を据えてじっくりプレイする「濃い」体験をお届けしたいと思って作っています。そのため、そういった体験にフィットしやすい方が多いであろうSteamを選びました。

――本作は1プレイ10分で遊べるとのことですが、じっくりプレイしてもらいたい狙いとは少々違いを感じてしまいます。

asaba:忙しい方でもいつでもキリ良く止められるようにしているので、1プレイだけならカジュアルだと感じる方もいるかもしれません。ただ、10分という短時間でも充実したゲーム体験を提供できるようにしつつ、プレイするごとに「もう一度挑戦したい」と思ってもらえるようなゲームにしたいと思いながら開発しています。

遊んでいたらいつの間にか何時間も経っていた、といった体験をしてもらえるのが理想ですね。

――試遊してみるとかわいらしいキャラが目を引きます。キャラクターデザインは、お二人のどちらかが担当したのでしょうか。

asaba:『メットボーイ!』でグラフィック周りを担当してくれた外部のメンバーがいまして、その方に引き続き手伝ってもらっています。キャラクターデザインに限らず、3Dモデルや2Dイラストなど『サマーロード』の全アートワークを担当しています。

装備を変更すると2Dイラストにも反映される仕組みなどは、デザイナー自らが工数度外視で提案してくれたものです。

(画像はSteamより引用)

――本作に導入している技術や仕組みで工夫している点を教えてください。

保坂:『サマーロード』では多彩なアクションを用意する予定ですが、アクションの調整にプログラマーの私が介入すると工数がかさんでしまいます。

そこでUnityのビジュアルスクリプトを使用することで、プランナーのasabaだけでも直感的にアクションを組める環境を構築しました。ビジュアルスクリプトは使い勝手が良く、アクションだけでなく道中のイベントシーンもこれ中心で構築できそうです。

「例としてバットをスイングするスクリプトの一部を挙げます。レゴブロックのように機能を組み立てる感覚で技を作れています。また、ランダムプロパティによってアクションが変化する部分も、ここで吸収しています」(asaba)

「一見複雑ですが、おおよその部分は共通化できています。共通化できるものはこのようにまとめておき、パラメータを変化させるだけでパターンを出せるようにしています。たとえば、エフェクトを差し替えたり、溜め時間を延ばして溜め技にしたりといったことが比較的容易に行えます」(asaba)

――ゲーム内システムの仕様で悩みごとは起こりましたか。また、その点に関してどう対処したのでしょうか?

asaba:TGS初日までは、アイテムを装備・合成しているときもゲームが自動で進行するようにしていました。しかし、この仕組みだとプレイヤーが同時に処理することが多くなりすぎて、想定していた以上に混乱を招いてしまいました。

その打開策をTGS初日の帰りに考え、アイテムを操作してる間はゲーム内時間を止めることを思いつきました。そのまま深夜にかけて実装し、2日目から新しい仕様で展示していました。

保坂:突然の実装なのでバグは出ていますが(苦笑)、初日のような混乱は起きていないように感じます。実装して良かったです。

――Unityを開発に使っているとのことですが、いつごろから使っているのでしょうか。また、他のゲームエンジンを使ってみたいと思うことはありますか。

保坂:2014年くらいから使い続けています。当時に比べて日本のユーザーさんが増えたおかげで日本語の資料も増え、開発で詰まったときに問題を解決しやすくなりました。Unity Japanの公式YouTubeチャンネルなど、動画の参考資料が増えているのも助かっています。

他のゲームエンジンも魅力的です。しかし、Unityでゲームを作りやすいように環境を改良し続けていることもあって、なかなか移りづらいですね(笑)。

TGSの展示はキャッチコピーや英語対応が功を奏した

――TGSに出展した感想はいかがでしたか。

asaba:おかげさまで何人もの方に試遊していただけてホッとしています(笑)。

インディーゲームイベントに出展した経験はありますが、大手ゲーム会社さんと同じ場所で出展するのはTGSが初めてです。お客さんの客層もインディーゲームイベントとは違う気がして緊張しましたが、そういった方々の感想もいただけた貴重なイベントでした。

保坂:仕様を変えるなどバタバタしっぱなしで落ち着かなかったのですが、振り返ってみるとそれも含めて楽しめたと思います。

――TGSの展示で気を付けたこと、注力したことを教えてください。

asaba:ポスターに書いたキャッチコピー「忙しいおとなへ贈る 10分で楽しむRPG」は熟考しました。これは、大人がメインターゲットだと明言することで差別化を図っています。このポスターを見て足を止めていただいた方も多くいらっしゃったので、一定以上の成果は出たと思います。

また、TGSの来場者は海外の方も多いだろうと踏んで、本作の英語版も用意しました。予想通り、英語圏の方にも多くプレイしていただけたので、用意したかいがありました。

リビルドゲームスがブースに掲出したポスター

『サマーロード』の現状と今後

――『サマーロード』の開発状況はいかがでしょう。

asaba:進捗はまだ30%程度です。現在はTGSでの課題と対応策を出し終えて、完成に向けてあらゆるシステムを整えている段階です。

――TGSの展示では搭載していない仕様はありますか?

asaba:TGS版では入手アイテムは完全にランダムでしたが、製品版ではプレイヤーがある程度コントロールできるようにする予定です。「アイテムショップ」「合成属性」「AIカスタマイズ」など、アイテムマネジメントだけでプレイングに深みを感じられるもの、オンリーワンのゲーム体験になるよう開発を進めています。

――リリース時期は決めていますか。

asaba:具体的な日取りは未定ですが、2023年の暖かいうちにリリースを目標に開発しています。

――本作をSteamでリリースした後、別のプラットフォームにも進出する予定はありますか。

asaba:たとえば、スマートフォン向けの『メットボーイ!』をNintendo SwitchとSteam向けに移植した『スーパーメットボーイ!』では、マルチプレイ要素を追加するなどしていました。このように、プラットフォームによって中身を適したものに作り変える必要があると思っています。

そうした要素も踏まえ、いろいろと検討しています。

――本作のSteamページを拝見すると、パブリッシャーの項目もリビルドゲームスさんの名前が記載されています。パブリッシャーさんと契約したい考えなどはあるのでしょうか。

asaba:メインメンバーは2人と少ないため、いつもゲーム開発に集中できるとは限らないのが悩みではあります。パブリッシャーさんと組んでゲーム開発に没頭できる理想的な環境が構築できたらうれしいですね。

――最後に、次に出展を考えているイベントがあれば教えてください。

asaba:現状は未定です。TGSの準備が本当に大変だったこともあり、開発がもう少し落ち着くまでイベント参加は見送りするかもしれません。進捗などはTwitterアカウントで発信していますので、そちらをチェックしていただけますと幸いです。

『サマーロード』SteamページリビルドゲームスTwitterアカウントリビルドゲームスWebサイト
藤縄 優佑

編集プロダクション「浦辺制作所」に所属。ITやゲームにかかわる書籍・Webメディアにおいて、執筆と編集を担当している。ゲーム全般が下手だけど好き。

合同会社浦辺制作所 公式HP

関連記事

「Unity 6」で製作された2種類のサンプルプロジェクト『Time Ghost』『Fantasy Kingdom』が提供開始。Unity Asset Storeにて無料ダウンロード可能
2024.10.18
「Unity 6」LTS版が世界同時リリース。本日より「Unity Personal」の利用条件変更が適用
2024.10.17
テクニカルアーティスト向けのUnity解説、よりクリーンなコードを書く方法、HDRPの活用方法など。Unity公式サイト、日本版電子書籍を無料公開中
2024.10.16
Unityの「Humanoid」を活用しつつ、揺れ骨など独自ジョイントを制御するには。QualiArtsによる「CEDEC2024」講演の補足記事が公開
2024.10.08
「Unity 6」で登場する「VFX Graph」新機能について、Unity Japanが解説動画を公開
2024.10.01
ゲームプログラミングにおけるデザインガイド、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが日本語版の電子書籍を無料公開
2024.09.30

注目記事ランキング

2024.10.16 - 2024.10.23
VIEW MORE

連載・特集ピックアップ

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

法線
ホウセン 頂点がどの方向に向いているのかを決定するベクトル情報。ライティング情報を受けて、どのような方向に陰影を作リ出すかを決定する処理に利用する。 マテリアル内で、計算やテクスチャ情報により法線をコントロールすることで、メッシュそのものを弄らずに立体感を出すことが可能。 面の表裏を表す面法線もある。
VIEW MORE

Twitterで最新情報を
チェック!