2022年2月18日(金)から4月3日(日)に渡って開催された、Unreal Engine(以下、UE) の学習を目的としたゲーム制作コンテスト『第17回UE4ぷちコン』。今回は、「かいとう」をテーマに80作品の応募がありました。『妖刀コントロール』を制作し、最優秀賞を受賞したごりぺい氏に企画から実装に至るまでの工夫やこだわりについて伺いました。
TEXT / ゆう すけ
INTERVIEW / 佐々木 瞬
EDIT / 神山 大輝
目次
ごりぺい氏
ゲームデベロッパーに勤める傍ら、個人でモバイルゲームの制作を行い、FlatMountainとして計4つのモバイルゲームを発売。『第16回UE4ぷちコン』では「ささき賞」、『第17回UE4ぷちコン』では最優秀賞を受賞。
Twitter: @GoriTechGame
ゲーム開発・ぷちコン参加のきっかけ
『第17回ぷちコン』提出用に制作された『妖刀コントロール』の紹介映像
――まずは自己紹介をお願いします。
ごりぺいと申します。ゲーム専門学校に4年通った後、ゲームデベロッパーに就職し、現在はモーションデザインを専業としていて、パソコンで作業するだけではなく、モーションアクターとして体を動かすこともしています。ゲームデベロッパーで働きながら、FlatMountainとして個人でモバイルゲームの制作・販売を行っていて、今までで4作品を販売しています。
――モバイルゲームを専門に制作されているとのことですが、モバイルゲームにこだわる理由を教えてください。
ゲームを制作しようと考えたとき、個人でコンシューマー機向けのゲームをつくるのは無理だろうと思い、勉強の意味も込めてモバイルゲームをつくりはじめました。ハイパーカジュアルゲームが流行っていますし、自分も今ではコンシューマー機向けのゲームよりモバイルゲームで遊んでいる時間の方が長いので、モバイルゲームの方がより多くの人に届けられるのではないかと考え、今もモバイルゲームの制作を続けています。
――ゲーム業界に対してはいつから興味を持たれたのでしょうか?
小さいころから楽しいことを創造して誰かに提供することが好きで、自分でトランプや鬼ごっこの新しいルールを作って友達と遊んでいました。高校生のときにダンスかゲームかで卒業後の進路に悩み、いろいろと考えた結果、ダンスは趣味でもできるけどゲームづくりは趣味ではできないなと思って、ゲーム業界を目指しました。今でこそゲームも趣味でつくれますけどね(笑)。当時は思いもよらないことでした。
――ごりぺいさんは、以前から『ぷちコン』に参加されていますよね。どういった経緯で『ぷちコン』に参加することを決めたのでしょうか?
2年前、新型コロナウイルス感染症が流行し始めたときに、自粛期間中に副業を始めようと思い、何かできることはないかと探していたところ、UEと出会ったんです。その年のゴールデンウィークからUEを触り始めて、だんだんと慣れてきたところで、11月に開催された『UNREAL FEST×ぷちコン 冬のゲームジャム祭り! 』に参加しました。そこで制作した『あつまれ!動物のサバンナ』が放送内で評価してもらえたことが自信につながって、前々から噂で聞いていた『ぷちコン』に参加しようと決心しました。
『UNREAL FEST×ぷちコン 冬のゲームジャム祭り! 3日目』
動画の9時間19分頃からごりぺい氏の『集まれ!動物のサバンナ』が紹介されている
マーケットプレイスをフル活用したゲーム開発
――ここからは『妖刀コントロール』についての質問をさせていただきます。まずは、簡単にゲームの紹介をお願いします。
『妖刀コントロール』は、指先ひとつで楽しめる爽快アクションゲームです。プレイヤーは空飛ぶ刀を操り、敵キャラクターを斬ることでステージを進めていきます。
――刀本体を動かすという発想が面白かったです。どういった経緯でそのアイデアに至ったのですか?
最初は侍や忍者などの刀を使う「人」を主人公として開発を進めていたのですが、キャラクターの見た目によって好き嫌いが出てしまってダウンロード数が減ってしまうのではと。そこで、好き嫌いが少なく、モーションを作成する手間がない刀を主人公にすることに決めました。ナイフを飛ばして的に当てるゲームが先に発売されていましたが、刀を飛ばすゲームは無かったので「これはいける!」と感じましたね。
――作品のPVの演出も素晴らしいなと感じました。映像のつくり方にコツなどはありますか?
『妖刀コントロール』のPV
もともとモーションデザインを本業としているので、なにかを面白そうに見せるのは得意でした。でも、PVを作るという経験はなかったので、他のゲームの演出やPVを見漁って、真似するところから始めました。冒頭のゲーム画面をアップで撮るという演出は某オールスター型格闘ゲームのPVを参考にしています。ゲーム内の演出もそうですが、先に発売されている作品がどういった表現をしているかを観察し自分なりに解釈することで、自身の表現の幅を広げることができるのだと考えています。
――ゲーム内のモデルやエフェクトなどについて質問させていただきます。制作に使ったツールを教えてください。
ゲーム制作には、UE4とBlenderを使用しています。敵キャラクターの待機モーションをBlenderで制作して、他のモーションはマーケットプレイスから購入したものを編集して実装しています。モデルはすべてマーケットプレイスで購入したものの色や形をエディットして実装しています。
――モデルの編集で特にこだわったものがあれば教えてください。
プレイヤーが操作する刀は特にこだわっています。刀はもともとキャラクターに付属しているもので、最初はこのキャラクターを主人公にしようと考えていましたが、途中で付属の刀を主人公とすることに変更しました。湾曲している日本刀よりも、直刀の方が開発的に都合が良かったので助かりました。
『Yuko – Stylized Character』
背中に付属している刀のみ使用
『Advanced Magic FX 12』
刀に使用されたトレイル
色合いがあっているため、そのまま使用したとのこと
――エフェクトも綺麗なものが多かったですが、どのように実装しましたか?
エフェクトも同様にマーケットプレイスのものを編集して使用しています。例えば、ゲーム内の爆発ギミックは2つのエフェクトを組み合わせて表現しています。マーケットプレイスには良い素材が本当にたくさん販売されているので、制作において無くてはならないものですね。セールのたびにページをずっと見てしまいます(笑)。
『2D Sprite FX』
爆発の初期に使用
本爆発が起こる前の予兆として分かりやすくなるように表示している
『Stylized Vfx Mix』
爆発のメイン部分に使用
前作の『ドライブマスター』でも使用されていす
『Celebration VFX Pack』
爆発でゲームオーバーになったときの刀の砕け散り表現に使用
このアセットは紙吹雪やクラッカーのような演出が多く、カジュアルゲーム制作で重宝するとのこと
敵を斬った際の斬撃エフェクトの編集画面
タイムライン上から各要素の表示、非表示を切り替え、必要な要素を絞り込み、色合いの編集などを行っている
カジュアルゲームで大切なのは「気持ちよさ」
――『ぷちコン』に参加するにあたってテーマに沿ったゲームを企画するところから開発が始まると思います。『妖刀コントロール』を作るまでの企画段階の話をお聞かせください。
今回のテーマ「かいとう」を見て、最初にファイルの「解凍」でなにかできないかなと考えました。ファイルが敵として出てきて、それを倒したら、ファイルが解凍されてその素材をもとに世界が広がっていくみたいな。このアイデアは期間と制作の難しさを考慮して断念しました。次に「開桃」で桃太郎の作品を考えましたが、こちらもキャラクターをモデリングするのが無理だなと。最後に「快刀」で刀で敵を斬るという今のアイデアに落ち着きました。
――実現した手順もお伺いします。企画が決まった後にどこから着手しましたか?
先に発売されていたナイフを飛ばすゲームでは、的にパスっと刺さるのが気持ちよかったので、まずは刀を気持ちよく壁に刺すところの実装から始めました。最初は壁に刺さる角度刺さらない角度まで細かく決めようとしていたんですけど、うまくいかず。妥協して今は刀の先端ではないところでも刺さるようになっています。パレートの法則の自分なりの解釈なんですが、ゲームをつくるときは完璧を目指さずに70~80%の完成度で次へ次へと進めた方が良いと思います。会社でのゲーム開発ではなかなかできませんが、こういうことが許されるのもインディーゲームの良いところの1つなのかなと思います。
『Ground Impact/Attack VFX Pack』
刀が壁や地面に刺さった際に使用されたエフェクト(左)と編集されたもの(右)
次に敵を斬るところを実装しました。斬られたとき、敵キャラクターが消えるのでは少し味気ないので、真っ二つに割れるように設計しました。これは、敵キャラクターの中に透明のプロシージャルメッシュを待機させて、斬られたら本体を透明に、隠していた方をスタティックメッシュとして表示させ、そのあとに重力を軽くすることで表現しています。また、斬られたときのモーションが派手に見えるように、腕を開くポーズに変更しています。
敵キャラクターが飛んで行った後に何も残らないのが少し寂しいなと感じたので、持っている刀を残るようにしました。
――斬られた後の動作にプロシージャルメッシュを使ったとのことですが、ラグドールを使わないのには何か理由があるのでしょうか?ラグドールの方が楽に実装できると思いますが…
ラグドールを使うと、斬られた後のキャラクターの動きがあまりにリアルすぎるんですよね。斬られて力が抜けて倒れる動きは少し残酷な描写かなと。勢いで斬って、そのままの勢いでキャラクターが飛んでいくと少しはラフな感じに見えるのではと思いました。
そして最後にレベルデザインを行いました。簡単なものから複雑なものまで全部で80個のステージを制作しました。ステージ数が多かったので、この作業はかなり疲れました。
ステージの順番を考えるのにも時間がかかったのを覚えています。私は、Excelでステージの順番を整理するんですが、プレイヤーが飽きないように、ずっと難易度が上がり続けるのではなく時々難易度を下げてゲームプレイ後の感想にランダム性を持たせるということに気を付けました。
――途中に最後のステージよりも難しいステージがありましたが、あれも狙ったものですか?
そうですね。途中に一番難しいステージを配置することで「途中にめっちゃ難しいステージなかった?」とプレイヤー同士で話題になってくれるのではと思いました。ですが、あのステージはとても難しくて、デバッグの段階では私もパーフェクトクリアできていないんですよね。理論上は可能だろうと思ってそのままにしてあります。カジュアル層をペルソナ(ターゲット)にしているので、あまり難しいステージをつくるつもりはないんです。制作したゲームがいつも難しくなってしまうことには、いつも悩まされています。
――そのほか『妖刀コントロール』の制作において、特にこだわった部分や一押しの場面があれば教えてください。
特にこだわったのは、ゲーム画面の色を白・黒・赤で統一したところです。制作を始めたとき、敵は白色にしていたのですが、某瞬間アクションミニゲームのゲーム画面から着想を得て、当たるとリアクションがあるものは色を統一した方が良いと考え、壁と敵を黒色にしました。敵キャラクターを黒塗りにすることで、敵キャラクターっぽい見た目になりましたし、何より容量の削減に役立ったので良い調整だったかなと思います。
UIも含めてゲーム画面が白・黒・赤の3色でまとめられている
『POLYGON – City Pack』
敵キャラクターに使用されたアセット(左)と編集されたもの(右)
ローポリなので容量の削減につながったとのこと
――開発や製品化において苦労した場面はありましたか?
毎度のことなんですが、容量削減に今回も苦労しました。モバイルゲームを販売するときは100MBを目指してリサイズの作業をするんですけど、『妖刀コントロール』が完成した当初は1GBもありました。ひたすらアセットのテクスチャをクリップスタジオにエクスポートしてデータを圧縮する作業を繰り返して、200MB以下までは削減することができました。本当は『ぷちコン』の放送に合わせて発売するつもりだったんですが、あまりの作業量だったので『ぷちコン』が終わってから作業を始めました。
今後の展望、インディー開発者のコンシューマー機へのチャレンジ
――最後に今後作ってみたい作品や、キャリアの展望について教えてください。
まず、『妖刀コントロール』のアップデートとして、新しいステージとランキング機能が付いているエンドレスモードの追加を考えています。いつ作業が完了するかは分からないですが、期待して待っていただけると嬉しいです。
妖刀コントロールアプデ中です。#UE4 #UE5 #indiegames pic.twitter.com/rdAx6TYOaV
— ごりぺい@Unreal Engineでモバイルゲーム開発 (@GoriTechGame) May 29, 2022
勉強の意味でモバイルゲームづくりを始めて今も続けていますが、最近はインディーへのサポートも手厚くなっているので、いつかコンシューマー機向けのゲームの制作にもチャレンジしたいと考えています。あと、最優秀賞を受賞しましたが、これからも『ぷちコン』には参加したいと考えています。コンテストが開催されるごとに作品を作っていれば、自身のスキルアップになるし、知名度アップにも繋がるのかなと思っているので。
―これからの作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
使用ツール・アセット一覧
※使用アセットは記事中に登場したもののみ掲載しています
その他のアセットについては、ごりぺい氏本人が執筆した記事をご確認ください。
『妖刀コントロール』 公式サイトごりぺい氏Twitterゲームメーカーズ編集部。とにかくゲームが好きで、プレイするジャンルはRPG、SLG、FPS、ADV…とさまざま。『CoD』シリーズでは、アマチュアプレイヤーとしてのesports経験も。
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