Tim Sweeney氏が来日。開発者支援・エコシステム強化など展望を掲げる
講演冒頭ではTim Sweeney氏より「Unreal Fest Tokyo 2025」開幕の挨拶および現場のエコシステム、そして待望のUE6に関する言及がありました。
Epic Games CEOのTim Sweeney氏
Tim氏は「東京に戻って来られて、優秀な開発者に出会えたことが本当に嬉しい。ゲームやテレビ、自動車などの開発に携わっている皆さんを支援したい」と述べ、開発者の支援と開発者自身の成功をミッションに掲げている ことを強調。
Epic Gamesはこの1年で、MetaHumanやRealityScan、RealityCapture、TwinMotionなどさまざまなツール群の機能強化を行いながら、エコシステムとして従来の「Unreal Engineマーケットプレイス」「Sketchfab」などの後継となる統合型マーケットプレイス「Fab」を立ち上げてます。
Tim氏の発言で印象的だったのはUnityやGodot Engineに関する言及があったこと。全てのクリエイティブツールでの使用を想定したプラットフォームに対する意欲がうかがえた
「Epic Online Service 」でも、フレンド設定やボイスチャットなどフォートナイト上のオンラインマルチプレイ機能を無料でゲーム開発者に提供しています。
また、来年初頭には、従来はmacOS、Linux、Linux ARM64、Android、iOSの各プラットフォームに対応していなかった「Epic Social Overlay(ESO)」が全プラットフォーム向けに登場する予定 であることが語られました。
EOSはSteamworks(Valveが提供する開発者向けのツールやサービス群の総称。Steamに向けたゲーム開発・配信を行う際に役立つ)と似たサービスですが、あらゆるプラットフォーム、ストアで動作するのが特徴です。
「Epic Social Overlay」概要|Epic Games Developersポータルサイト Epic Games Storeの拡大についても言及されました。最近ではトップパブリッシャーがSteamのプラットフォーム手数料30%を避けるため、Epic Games Storeや独自の配信チャネルでゲームを先行リリースするケースが多くなっています。Steamを介さずに大成功を収めた代表的な例として、『原神 』が挙げられました。
Epic Games Storeでは収益の88%を開発者側が確保できるほか、タイトルごとに年間売上100万ドルまでは収益の100%を獲得できます。
「開発の労力に見合う収益を得るべき」と語るTim氏。基調講演では他プラットフォームと比較しながら、Epic Games Storeの特に収益面の優位性を詳しく解説した。なお、Epic Games Storeは開設以来、21億ドルを開発者に支払っているとのこと
EPICファーストランプログラム を用いて、Epic Games Storeで6か月間独占的にリリースすれば、その期間は利益の100%を得られます。6か月が経過すれば他プラットフォームでの販売も可能となります。
また、UE5のロイヤリティは基本的に5%ですが、Epic Games Storeで同時リリースを行った場合、ロイヤリティは3.5%まで下がります。
EPICファーストランプログラム
UEFNでは26万本のゲームが誕生、累計112億時間も遊ばれている
『フォートナイト』では、さまざまな企業や個人開発者が「Unreal Editor For Fortnite(UEFN)」を用いたゲームを作成しています。累計プレイ時間は112億時間 に上り、26万本ものゲームが誕生 しました。開発者への収益還元額は累計7億2200万ドル におよび、今後もビジネスチャンスが拡大していくとのこと。
2025年12月より新たな収益機会も追加。フォートナイトの島(ゲーム)でアイテムを直接プレイヤーに販売できるようになります。収益分配は初年度が74%で、翌年から37%を獲得可能。これはRobloxで成功したモデルに倣ったものです。
さらにTim氏は、今後作り上げたいゲームの未来について展望を語りました。
プレイヤー個々人が独立したゲームプレイする形ではなく、同じ場所で違うゲームをしながらボイスチャットで交流できるプレイ体験や、自分のアイテムやアバターを世界中のプレイヤーに使ってもらえるようなプラットフォームを構想しているといいます。
UE6ではVerseが採用され、新たなScene Graphも登場予定
UEFNで導入されているプログラミング言語「Verse」は、UnityのC#よりも習得が容易でありながら、数百人規模のAAA開発チームにも対応できるスケーラビリティを備えているとTim氏は語りました。
また、次世代の実装基盤として「Scene Graph」も用意。既存のシステムと比較してより大規模でスケーラブルなタイトルに適しており、とくにMMOゲームに対応しているほか、多くの開発者がコードやアセットを共有しながら作業できるようになるとのこと。
これらの取り組みは、「UE6」へとつながっていきます。今後2年半の間に、UE5とフォートナイトエコシステムにおける最良の部分が融合することで、UE6が誕生するとTim氏は述べました。
より生産的なゲーム開発を実現するべく、Khronosグループを通じてPixarのUniversal Scene Description(USD)やglTFといった業界標準ファイルフォーマットの導入を進めています。開発効率の向上や、複数企業が連携したさらに大きな開発規模でもUEを活用できるようになるとしています。
河崎氏からは国内のゲーム・ノンゲーム事例が紹介
続いてはエピック ゲームズ ジャパン代表の河崎氏が登壇しました。
冒頭ではUE5の自動車業界における採用事例について言及。HMI開発や車両デザイン、ビジュアライゼーション、自動運転の開発支援などでUE5が活用されていることに触れ、ソニー・ホンダ の電気自動車「AFEELA 1」の開発事例も紹介されました。
AFEELA 1には40のセンサーが搭載され、周囲の歩行者や障害物を検知。運転席の左側にはADAS(運転支援システム)を表示し、周囲の状況をリアルタイムに反映。右側には3Dマップが表示されており、リアルに近い形で周囲の環境を確認できるように
映像業界においては、カバー より「ReGLOSS3Dライブ」の開発事例が紹介。リアルタイムレンダリングによるカメラ露出や時間帯変化などの演出を駆使して、没入感の高い体験を作り上げた事例が語られました。
『フォートナイト』に関しては、バトルロイヤル チャプター6 シーズン1: 鬼ノ島 が日本をモチーフにしたシーズンであることに触れ、全国的に広告展開を行っていることや、大谷翔平選手とのコラボレーションに関しても説明がありました。
こうした中、日本における『フォートナイト』サードパーティコンテンツのプレイ時間はバトルロイヤルを上回る結果に 。インフルエンサー関連のマップだけでなく、練習マップやデジタルツインまで多様な島が登場しています。
またリアルタイム3Dの可能性のひとつとして、昨年12月に展開した『フォートナイト』チャプター6のアニメトレーラーも紹介。UE5のトゥーンシェーディングを用いた事例で、日本的なアニメスタイルをスタイリッシュに描き出しています。
ゲーム作品におけるUE活用事例としては、コナミデジタルエンタテインメント の『SILENT HILL f 』、セガ の『ソニックレーシング クロスワールド 』など、日本国内で展開される4作品が紹介されました。
河崎氏は「Timの講演でも触れた通り、Epic Gamesはお客様の成功が最も大切」と述べ、ゲーム業界で培った「(クリエイターとプラットフォーマーが)共に作っていく」スタイルをノンゲーム業界でも発展させていきたいと語りました。
「Epic Games」公式サイト 「Unreal Fest Tokyo 2025」公式サイト
ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー や作品メイキング解説 、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。