パルコはなぜゲーム事業に取り組むのか?
――自己紹介をお願いします。
西澤: PARCO GAMES 部長の西澤と申します。2007年にパルコに新卒入社し、PARCO GAMESには創設メンバーとして関わっています。ゲーム事業を行う以前はPARCOの店舗で宣伝プロモーションなどを担当していましたが、当時から展覧会やポップアップショップを幅広く手掛ける中でゲームIPにも深く関わってきました。
田代: マネージャーの田代です。2020年にパルコに入社し、ギャラリー事業やコラボカフェ事業、フィギュア事業、出版事業などを担当してきました。主に展覧会が得意分野です。ゲーム事業に携わるのはこれが初めてですが、ゲームが持つ体験や雰囲気はパルコと親和性が高いと感じています。
福井: 福井と申します。現在はパブリッシング事業の推進とIP開発をメインで担当しています。以前はゲーム会社に所属しており、パルコには2024年10月に入社しました。以前は『サクラ大戦』原作側のプロデュースを10年以上やっていたり、オリジナル作品の立ち上げなどに携わっておりましたので、クロスメディア展開などの経験もあります。この中では一番ゲーム・コンテンツ業界に近いと思います。
――パルコはこれまでにもさまざまなカルチャー発信を行ってきましたが、ゲーム事業開発部(PARCO GAMES)を発足させた背景と目的について教えてください。
西澤: ゲームは立派なカルチャーであるのと同時に、時代の流れとしても、世界的な注目度としても、その盛り上がりを肌身に感じていました。
パルコが長年培ってきた演劇や音楽などのカルチャーへの向き合い方をゲーム事業に応用するようなかたちで、独自のインキュベーションやプロデュースを店舗連動型で行えないかと模索する中で可能性を感じたため、事業開発部を立ち上げるに至りました。
――「カルチャーとの向き合い方」とは具体的にどのようなものでしょうか?また、ゲーム事業開発部以前にもゲームのイベントなどは行っていたかと思いますが、これも現在のPARCO GAMESメンバーが手がけたのでしょうか。
西澤: カルチャーとの向き合い方は、シンプルに言えば「インキュベーション」になるかと思います。新進気鋭の、これから活躍が期待されるクリエイターとともに、その成長の過程を含めた新たなエンターテインメントを届けていくような活動が特徴です。また、広く浅くではなく、深く狭く、ターゲット層に深く刺さるような展開 を目指しています。
田代: 弊社は催事やイベント、展覧会に関するノウハウと、開催できる会場(PARCO各店舗)を持っているという強みがあります。
まず展覧会などの体験型企画においてゲームとの相性の良さと可能性を感じたのは、パルコがゲーム事業を立ち上げる前の2023年3月に開催したNintendo Switchの伝説のホラーアドベンチャーゲーム『Ib 』の展覧会「ゲルテナ展 」です。
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『Ib』Nintendo Switch版パッケージ版発売日アナウンストレーラー
田代: 「ゲルテナ展」は当初シンプルにゲームの紹介をする『Ib』展覧会にするという案もありました。しかし、「ターゲットに深く刺したい」「他とは異なる視点を提供したい」という思いがあり、ゲームの舞台である「ゲルテナ展」の世界観を表現し、ゲーム内で起きるギミックを各所に入れ込み、より深い没入体験をコンセプトとしました。
田代: ありがたいことに告知段階から多くの方に共感をもらい、実際にご来場いただいたお客様の反応も実感できたことでゲームが体験型企画として可能性があることを感じました。こういったノウハウはゲームを広める、プロデュースすることに役立つと考えています。
田代: 昨年好評をいただいた『COFFEE TALK』との取り組み、「COFFEE TALK Episode 1.5~SHIBUYA PARCO 」も同様の考え方で、ゲーム内のカフェに雰囲気が似ていたクラブクアトロがプロデュースするミュージックカフェ&バー「クアトロラボ」と連携し、ゲーム内で提供されるドリンクを再現する企画を成功させることができました。
2024年6月に開催された「COFFEE TALK Episode 1.5~SHIBUYA PARCO」
ゲーム事業開発への「パルコならでは」のアプローチ
田代: こういった取り組みを続けていく中で、ゲームを軸にしつつパルコが保有する店舗や音楽・映画・演劇などの他事業との連動をすることで他社では真似できない「パルコならでは 」の企画を体現できると確信し、その後TRPG『カタシロ 』とパルコ演劇事業部との取り組みを行う(後述)など、日々チーム内で新たな企画のブレストを繰り返しています。
――既存の音楽事業部や演劇事業部と同様の取り組み方になるのでしょうか。
西澤: ゲームの場合は「事業開発」と名乗っている点が異なりますね。まだ始まったばかりで、これからR&D的にさまざまな事柄にトライしていく段階です。演劇、音楽、映画などに加えて、ゲームという新たな柱を事業として成長させていくつもりです。
例えば演劇であれば、公演自体をプロデュースします。ギャラリーであれば、ギャラリーの企画を開発していく目線を持ってプロデュースしています。一方、我々ゲームに関しては、現時点と今後で変わってきますが、個々のIPと協業していく中で、どのようなアウトプットにするのか、例えばコラボカフェのようなものを実施したり、メディア展開をしたりといったことを、パートナーとして一緒に作り上げていく方針を取っています。
また、販促だけでなく、開発支援も行う可能性があります。 パルコとフロンティアワークスが共同開発したマーダーミステリー『悪意に染まったプレゼント 』のように、別のタイトルをローンチまでプロデュースすることもあるとは思っています。
――マダミスの話題も挙がりましたが、「ゲーム」の範囲はデジタルゲームもアナログゲームも、大規模タイトルもインディーゲームも全て対象となるのでしょうか?
西澤: はい。オフラインイベントでは、インディーゲームも大規模タイトルも垣根なく実施を検討しています。また、デジタルゲームだけでなくマーダーミステリーやTRPGもあります。この理由は、今の我々はまだR&Dの段階だからです。将来的にはパブリッシングや自社開発も視野に入れており、その際にはSteamなどプラットフォームを絞りながら検討していく予定です。
福井: 我々はゲーム会社ではないので、いきなりゲーム業界に「パルコです!はじめまして!」と参入するのは難しいでしょう。我々の得意とするところ、ノウハウを持っているところ、分かりやすい例で言うと展覧会やグッズ制作などは素早いアウトプットが可能ですし、リアルな場所も持っている。そういった要素が他の企業様との差別化に繋がると思っています。
――なるほど、R&D段階だからこそ、対象を絞らずに手広くプロデュース活動を行っているということですね。いま現在ではインディーゲームシーンに対して積極的にサポート・プロモーションされているように見受けられますが、その背景と理由について詳しくお聞かせください。
西澤: 2023年9月の立ち上げ初期から、インディーゲームは重要なターゲットと捉えています。我々のカルチャーへの向き合い方、インキュベーションの手法、広く浅くではなく狭く深くやっていくというパルコの特徴が、個人の熱意が強いインディーゲームと非常に相性が良いと考えています。実際の手応えを知るために「ヨカゼミュージアム 」「ヨカゼの公園 」や「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2025 (以下、TIGS)」などの企画を実施しました。
Room6様はインディーゲームレーベルとして醸成されている世界観や雰囲気がとても心地よく、素晴らしいムードを持つヨカゼさんとの協業によりユーザーに違った価値提供や新たな発信ができると感じました。ゲームクリエイターさんとレーベルが一丸となってこのムードを大切にされているのだと感じました。
インディーゲームレーベル「ヨカゼ」による1日限定のコンサート・展示イベント、「ヨカゼミュージアム」
TIGSではゲーム業界と吉祥寺の街を組み合わせて魅力を伝えていくこと、この大きなイベントを創り、運営されているPhoenixx様の「前に進むパワー」に感銘を受けました。我々は吉祥寺PARCO屋上イベント全体をプロデュースし、また違うベクトルでのゲームのアプローチとして加わる事により吉祥寺エリアやTIGSの魅力貢献に繋がればという想いで取り組ませていただきました。
PARCO GAMESが示すアウトプットの方向性・多様性
――TIGSは私も現地参加しましたが、すごく盛り上がっていましたね。今後お付き合いしたいクリエイターやゲームとの出会いもありましたか?
西澤: こうしたイベントを通じて、良い出会いにたくさん恵まれました。TIGSでは、屋上で10作品を紹介するという企画がありました。そこでは僕らがぜひ紹介したいと思うゲームを紹介していました。「我々がレコメンドするタイトルはこういうものなんだ 」というメッセージはそこで伝わったかもしれません。
福井: あれも実験的な感じでしたね。パブリッシングやゲーム開発事業とは切り分けて、我々のチームが「これは素敵なゲームだ!」と考えるものをキュレーションするような気持ちで展示していました。パルコには垣根を超えたメディア的な立ち位置も必要だなと思っています。
――TIGS で紹介された10作品は、どういった基準で選定されましたか?
福井: 抽象的な表現ですが「ムードを感じる作品 」というものを選定基準としました。クリエイターさんが持っている世界観が色濃く投影された作品は、イズム のようなものを感じます。
『でびるコネクショん 』は、ばやちゃお氏の世界観と溢れ出る好き が詰め込まれた、良い意味で「へき 」全開のクリエイティブがとても素敵な作品です。
福井: 『南極計画 』は幻想的でありながらもどこか不穏で物悲しい空気感が秀逸な作品で、どんな旅が始まるんだろう?と好奇心を掻き立てます。
ゲームに興味をもつ動機は人それぞれだと思いますが、そこには必ず共感を呼ぶストーリー があって、クリエイターさんとお話ししている中でそのストーリーを重要視しました。
――一方で『DEATH STRANDING』や『龍が如く』など、メジャータイトルのイベントも開催されていますが、あれも同様の座組なのでしょうか。A/Bテストのような意味合いもあったのでしょうか。
西澤: 『DEATH STRANDING 』は5周年というアニバーサリーのモチベーションがあったので、「配送センターを再現する!」というアイデアでイベントを企画しました。結果的に海外ファンが数多く来場してくれる結果になりました。あれは作品の世界観の素晴らしさもありますが、それを「フィジカルな体験ができる」という会場型の展示に落とし込んだのが上手くいった事例でした。
『龍が如く 』は葬式がテーマでした。あれだけ多くのキャラクターが亡くなっていくゲームで、それぞれに焦点を当てるのは、きっとこれまでのアウトプットの中では別の視点だったのではないかと感じています。ああいう変化球を企画できるのも、我々の強みかもしれません。
――こうしたR&D的な活動の中で、PARCO GAMESとしてどのようなヒントを掴みましたか?
西澤: すでに公表していますが、やはり「ゲームパブリッシャー」がパルコが目指すべき方向性であると感じました。 パブリッシャーという立場で我々が宣伝マーケティングを行うことはもちろん、タイトル自体をプロデュースする中でのアウトプットが、これまでにパルコが取り組んできた事柄との親和性が高いと感じています。
福井: とはいえ「タイトルも決まっていないのにパブリッシャーと名乗るのも変ですよね」と、ここ最近はさまざまな実験を行ってきました。実は私が入社する時も「パルコのゲーム事業とは一体なんなのか」をしっかりと聞いていました。パルコが培ってきたもの、できるアウトプットが、日本国内のパブリッシャーと大きく差別化できると、当時から強く感じていました。
西澤: 差別化という意味では、PARCO劇場とコラボして『カタシロ~Relive vol.1~ 』という企画を実施しました。演劇事業とゲーム事業で一緒に取り組んだ事例として、我々がパブリッシングという立場でどのようなアウトプットができるかの提案の一つになったと思います。
PARCO劇場で開催された『カタシロ~Relive vol.1~』。
なお、2025年8月2日~7日に東京・PARCO劇場、8月16日~17日に大阪・森ノ宮ピロティホール、8月23日~24日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて『カタシロ~Relive vol.2~ 』が開催される
プロデュースはインキュベーション目線で
――2024年12月に公開されたIR Dayには、ミッションとして「IPホルダーになる」と「ライツ展開」とありました。ライツ展開はこれまでの話からも強いイメージがありますが、「IPホルダー」はどのように目指すのですか?
2024年12月10日に開催されたJ.フロント リテイリング(パルコの親会社) IR Dayの資料 より
西澤: 会社のミッションとしては、ゲームに限らず広くIPホルダーを目指す流れがありました。二次利用ではなく一次側を目指すという意味です。当然、我々のミッションは「ゲームのIPを保有していく」ことになります。
パブリッシャーとして開発支援をしたり、出資なども含めて取り組んだりすることによって、新しいゲームIP創出が実現できるのではないかと考えています。ただ、デベロッパー目線で言うと、我々はゲーム会社ではないので、内製でゼロからどこまでできるかという点にはハードルを感じています。これについては、同じ目線、同じ思想を持つパートナーがいれば、ぜひご一緒したいと思っています。
福井: 「IPホルダー=直接的にお金を出す」ということには限りません。既存のパブリッシャーと積極的に連携できないような開発者が「タイトルを大きくして欲しい、誰かに任せたい」となった時に、それがパルコの特異性と合致してはじめてIPホルダーになるということです。開発支援だけしてIPをホールドしないこともありますし、今後も資本の力で勝負を賭けに行くようなことは絶対にありません。
西澤: どこまでいってもインキュベーション的な目線 なんです。資本勝負ではなく、アイデア勝負をしていく。ともに大きくしていきたい、そしてゲーム業界のためにもなる、といった目線は忘れないようにしたいです。
――実際の作品探しはどのように行っているのでしょうか。公募などは考えていますか?
西澤: 催事やイベントの流れで関係性が構築される流れが多いような気がしています。今のところ公募は全く考えていません。
福井: 公募は多くの企業がやっていますからね。私たちはもう少し違う切り口で探しています。僕らが「これだ」と思って信じられるところに向かっていきたいです。
――それでは逆に、PARCO GAMESにお世話になりたいと思っている開発者やクリエイターは、どのようにコンタクトを取れば良いでしょうか?
西澤: PARCO GAMESが手掛けるイベントなどで、ぜひ会場で声をかけてください!パルコが一緒に取り組む方を決める方法は非常にユニークです。有名、無名、売れている、売れていないという軸ではなく、「今のこのタイミング、今のこの時代に一緒にやりたいか?」と思えるものを必ず選ぶようにしています。プロデュースの視点で、別の角度から見た時に新しいものが生まれる、その感度が高いのがパルコです。そこはゲーム事業にもリンクしていくと思います。
田代: 「もっとこうしたら良いんじゃないか」というアイデアを我々からも出せますし、催事事業からも店舗型の提案ができます。ひょっとしたら映画化ができるかもしれないし、お店を一緒に作れるかもしれない。その起点が催事になっていて、そこからパブリッシャーが繋がったり、開発者が繋がったりすると良いなと考えています。
――今後、PARCO GAMESとしてパブリッシング、そしてゲームIPとして、どのような事業展開を目指しているのかお聞かせください。
西澤: 我々が生み出したゲームIPを手に、世界中に羽ばたきたいと思っています。アウトプットの多様さ が我々の固有の強みだと考えています。IPを育てていく際、メディアミックスなども重要な要素になりますし、オンライン、オフライン問わずパルコの得意なことを起点にパブリッシングができると良いと考えています。
田代: これまでアウトプットが多様であることを強調してきましたが、パルコとしてインプットも多様であるべき だと思っています。ゲームの発想の前に、ゲームの着想の元となる音楽や本、映画だったり、普段の生活だったりがあるはずで、そういったインプットを他分野から行えることも強みだと感じています。
福井: この先もさまざまな展開があると思いますが、まずは多くのゲームファンの方々にとって、自信を持ってお届けできるPARCO GAMESの作品に触れてもらう ことが重要だと感じています。まずはそれをしっかりと皆さまにお届けできればと思っています。
PARCO GAMES 公式X
ゲームメーカーズ編集長およびNINE GATES STUDIO代表。ライター/編集者として数多くのWEBメディアに携わり、インタビュー や作品メイキング解説 、その他技術的な記事を手掛けてきた。ゲーム業界ではコンポーザー/サウンドデザイナーとしても活動中。
ドラクエFFテイルズはもちろん、黄金の太陽やヴァルキリープロファイルなど往年のJ-RPG文化と、その文脈を受け継ぐ作品が好き。