『Spell Fragments』とは
『Spell Fragments』は、「自分だけの最強魔法を作ってダンジョン攻略に挑む」体験が楽しめる、マルチプレイ対応のローグライクTPSです。「呪文の欠片」を組み合わせることで効果や発動条件をカスタマイズできる「魔法構築システム」により、プレイヤーのアイデア次第で多様な攻略法を楽しめるのが特徴です。
主要な開発メンバーは西井氏ただ一人。2023年3月から個人開発をスタートし、2024年には東京ゲームショウなどのイベントにもプレイアブル出展を行っています。
クラファン開始から半日未満で目標達成。開始後の反響は?
──本日はよろしくお願いします。最初に、ご自身と実施中のクラファンについて紹介をお願いします。
Cocoro Softwareの西井と申します。よろしくお願いします。
私は、2024年3月にCocoro Softwareを立ち上げ、『Spell Fragments』を開発しています。今後のコンテンツ拡充や全体のクオリティアップ、開発メンバーの拡充に向けた支援を募るため、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」でクラファンを2025年4月26日まで実施しています。
『Spell Fragments』クラウドファンディングページ──2月6日にクラファンをスタートしてからの反響はいかがですか。
2月6日21時の支援受付開始後、翌日の8時には目標金額の200万円に到達し、支援者数も100人を超えていました。本当にありがたいです。
1週間後の2月13日には190人以上の方から支援をいただき、金額も目標の180%を超えました。プロジェクトを「お気に入り」登録している方の数は280人超と、CAMPFIREの中でもカテゴリ上位に入る反響がありました。開始前のお気に入り登録者数が160人程度だったため、口コミなどで広めていただいた影響が大きいのかなと感じています。
記事公開日である3月12日時点での支援者数は370人に到達し、支援総額も730万円を超えている(画像はクラファンページのスクリーンショット)
3月12日時点で、CAMPFIREの「ゲーム・サービス開発」カテゴリにおける支援総額トップとなっている(画像はCAMPFIREのスクリーンショット)
支援者さんからいただいたコメントも全部見ていますし、最近はDiscordのコミュニティも盛り上がってきていて、モチベーションに繋がっています。
資金調達手段としてクラファンを選択した理由
──クラファンを実施しようと決めた経緯を教えてください。
企画の段階から「クラファンをやりたい」と考えていました。自分も支援者としての経験がありましたし、目指す「最高のゲーム」を作るために資金が必要だと分かっていました。
私が初めて世に出す作品を、このゲームが好きだと思ってくださる方と一緒に作り上げていく感覚が味わえるのも魅力的でしたね。
より計画が具体的になったのは、2024年3月の会社設立に向けて事業計画書を作成したときです。その時点で、クラファンの実施時期やSteamでのアーリーアクセス開始時期はある程度決めていました。
──2025年2月開始という時期設定には、どのような意図があるのでしょうか。
当初は、会社設立年度でありつつ年末商戦のタイミングからずらした2024年11月を予定していましたが、少し遅らせました。
クラファンの結果は、注目度の目安として資金調達にも活用できる重要な情報だととらえています。そこで、ゲームとしてのクオリティと知名度が高まったうえでクラファンを行った方がよいと考え、東京ゲームショウなどでの試遊出展やPVの完成を経てからの開始としました。
──クラファンのほかに、資金調達で活用・検討された手段があれば教えてください。
自己資金以外ですと、日本政策金融公庫の融資と日本ゲーム文化振興財団の助成金、地元の信用金庫さんからの融資を活用しています。
日本ゲーム文化振興財団の令和5年度における助成対象に採択されている(画像は日本ゲーム文化振興財団公式サイトのスクリーンショット)
──近年はパブリッシャーから開発費の支援を受けるケースも増えていますが、本作の開発で行っていないのはなぜでしょうか?
どこまで内容への影響があるかは契約次第だとは思いますが、私は開発の意思決定を基本的に自分一人で行いたいと考え、パブリッシャーからの資金援助は受けないことにしています。
ただ、海外向けのプロモーションがあまりできていないので、そこに協力していただけるパブリッシャーは探しています。海外への体制が整っていないことから、今回のクラファンも国内向けに展開しています。
過去の事例を参考に「ギャップを生じさせない」点を意識
──クラファンを実施する際、どのような情報源を参考にされましたか?
クラファンに関する基本的な情報やポイントは、CAMPFIREの担当者さんから細かく説明やアドバイスをいただけました。また、以前海外向けのプレスリリースを手伝っていただいたご縁から、Neon Noroshiさんからもアドバイスを受けています。
自分が過去に支援した『Elin』のクラファンページを見返すなど、他のプロジェクトも参考にしようとチェックしていました。
──『Elin』の事例から取り入れた要素はありますか?
むしろ取り入れられなかったことが大半ですね。『Elin』が行っていたグローバル展開まで手を伸ばすのは難しいと判断しました。
──そのほかに参考になった過去の事例があれば教えてください。
特に気をつけたのは、無事に資金が集まったものの、完成したものに対して支援者さんが「想像していたものと違った」とギャップを感じて評価が下がってしまったケースです。とにかく「良く見せよう」としたイメージ先行のプロモーションは危険だと感じています。
私としても支援していただくからには後悔させたくない、ちゃんとゲームのファンになっていただきたいと思い、クラファンのページで自分の思いやゲームの方向性について詳細に説明しています。
クラファンページにはゲームの方針などが明文化されている(画像はクラファンページのスクリーンショット)
私は、ユーザーの求めているものと提供するものがマッチしていることが一番の成功だと考えています。クラファンの目標金額には到達しましたが、ここからの取り組みが本当の意味での成功か失敗かを決めるといえますね。
クラファンに対するリスクのとらえ方
──開発における主なリスク要因とその対策について教えてください。
「支援者へのリターンが提供できない」のようなリスクが考えられますが、グッズについては、事前に生産コストやスケジュールの見積もりを取って実現性を確認しています。
また、一人開発ならではのリスクとして最も危惧しているのは「私が倒れて開発が止まってしまうケース」です。そのためにも支援金や融資を基にプログラマーさんを雇うなどして「自分がいなくても進められる」状態にしておくことを考えています。
また、「完成しない」リスクへの対策として、企画段階から「自分一人で作り切れる設計」も心がけていました。
クラファン開始までの準備プロセス
──ここからは実際にクラファンを開始するまでの準備や流れについて詳しくお伺いします。まずは、これまでの大まかなスケジュールを振り返っていただけますか。
事前準備を始めたのは2024年の11月頃です。当時は、開発と並行してゲームのPVやストーリートレーラーの発注や監修も進めていました。また、書き下ろしイラストは制作に時間がかかるので、事前にイラストレーターさんにお話を通しておき、実施の2か月前頃から正式に制作を進行しました。
実施の1か月前から、リターンのひとつ「世界に1冊だけの魔導書」で使う作中のオリジナル文字を作成してイラストレーターさんに清書を依頼するなど、リターンの準備をスタートしました。「世界に1冊だけの魔導書」は、支援者全員の名前が記載される、作中の魔導書を模した本です。
「世界に1冊だけの魔導書」のイメージ。ゲームの完成後、Cocoro Softwareにて一冊のみ制作される
その後、12月19日からクラファンページの開設までユーザーアンケートを公開し、「希望するリターン内容」や「ゲームに期待すること」などを調査しました。ありがたいことに、約250人から回答をいただきました。
アンケートの回答をもとにリターンの設計などを進め、2025年1月31日にクラファンページを開設しました。ギリギリまでアンケートの結果を反映するため、ページの文章や画像は開設前の一週間で一気に作りました。
そして、クラファンを開始したのが2月6日の21時です。
──準備のタイミングでは、CAMPFIREの担当者からフォローを受けられるのでしょうか。
統計データなどを基にしたクラファンのセオリーについて説明を受けられるミーティングやメールでの質問回答などのフォローが受けられました。特にクラファンページを作る段階では、過去の事例を基に細かくアドバイスをいただきました。
プランごとのリターン早見表をリターンの先頭に掲載するアイデアは、担当者からのアドバイスによるものだそう
また、今回はお願いしませんでしたが、リターン設計やページ内の文章についてのサポートも受けられると思います。
事前にアンケートを行い、ユーザーの希望を調査
──事前のアンケートはユニークな施策だと思います。実施の経緯や狙いについて教えてください。
私はCocoro Softwareを設立するまでゲーム業界に身を置いてはいなかったため、業界の知見が足りていない自覚がありました。
そこで、実際に調査したデータ、それも一般的なものではなく『Spell Fragments』に関心がある方の好みや要望を見極めたいと思い、アンケートを実施しました。
──アンケートでは、具体的に何を調査したのでしょうか?
ひとつは、ゲームに期待する要素ですね。私がコンセプト重視で設計していることもあってか、実際のゲーム内容から大きく離れた結果にはならず「このままやっていけばギャップは生まれないだろう」という裏付けになりました。
プレイスタイルも知りたかった要素です。「PCでは遊べないからゲームのプロダクトキーはいらないけれど、リターンのグッズに興味がある」という方も想定し、アンケート項目に入れました。
実際のアンケート画面。プレイ環境だけでなくプレイの意向も質問
また、「説明に書いてあると安心すること」も聞いています。いただいた回答にできるだけ応えるため、クラファンページには想定されるリスクと対策、開発の方針などを明記して「資金を持ち逃げされることはないですよ」とアピールしています(笑)。
──アンケート結果を反映し、当初から変更を加えた点はありますか?
リターンのひとつに、「禁忌魔法版」と題したα版を先行プレイできる権利があります。禁忌魔法版は開発中のバージョンのため、当初は配信を許可しないでおこうと考えていました。
アンケートでも90%ほどが配信制限に賛成という結果ではあったのですが、残りの10%の「配信したい」という意見に応えるために、YouTubeの「メンバー限定ライブ配信・動画」や「限定公開(※)」などといったクローズドな環境のみといった条件付きで配信できるルールに変更しました。
※ YouTubeにおける動画の公開設定のひとつ。検索結果や関連動画には表示されず、動画のURLおよびリンクからのみアクセスできる
禁忌魔法版の制限事項に関する説明──意外だったアンケート結果はありましたか?
印象的だったのは、リターンの中で「支援者名をクレジットに掲載する」権利を「一番重視する」方と「一番重視しない」方が両方とも多く、意見が大きく分かれていたことです。人によって期待するリターンが大きく異なることに驚きました。
また、過去にクラファンでの支援経験については「ある」という方が半分以下だったのも意外でした。初めて支援してみようと考えていただけているのであればありがたいですね。
リターン設計におけるグッズの決め方
──リターンの内容や支援コースの設計にあたって、特に意識された点はありますか?
「別のリターンを選んだ方が得だった」と感じてほしくないので、コースごとの金額設定の妥当性は重視しています。
加えて、「すべてのプランにクレジット掲載のリターンがある」「グッズだけ追加できるコースを用意している」点にはこだわっています。
──グッズは生産コストの都合上、リスクの高いリターンだと思います。どのような基準でグッズを選定されたのでしょうか。
一番はアンケート結果ですね。『Spell Fragments』のイラストが好きだと言ってくださる方も多く、身近に置いて鑑賞できるグッズを選びました。非常に素敵なイラストですので、良い状態で手元に保管いただくための複製原画もリターンの選択肢に含まれています。
クラファンのために描き下ろされた、イラストレーターNeg氏の作品
アンケートでは、人によって求めるグッズが大きく分かれたため、マグカップのような「実用性の高いグッズ」と、アクリルブロックのような「鑑賞性に優れたグッズ」を両方用意するよう意識しました。
また、支援した思い出になるという観点から「世界に1冊だけの魔導書」に記される内容を手元に残せる「あなたのページのレプリカ」も用意しました。
──リスクヘッジの観点から、グッズの将来的な一般販売の可能性はありますか?
確かにリスクヘッジという観点では一般販売も良い選択肢ですが、「このゲームを真っ先に見つけて支援していたんだよ」という支援者さんの気持ちを大事にしたいと考えています。そのため、今回のリターン品については一般販売しないことをクラファンページに明記しました。
ただし、いくつか例外もあります。例えば、今後同じイラストを使用した異なるグッズを制作する可能性や、海外向けのクラウドファンディングを実施する場合には同じグッズをリターンとして提供する可能性があります。
そのほかに想定される例外についても、透明性を確保するためクラファンページに明記しています。いずれにしても「クラファンで支援する価値」を損なわないように気を付けています。
また、アンケートでいただいたそのほかのアイデアについては、ゲーム発売後にグッズ化を検討したいと思っています。
目標に合わせた金額設定とPR戦略のポイント
──今回のプロジェクトでは目標金額が200万円に設定されていますが、この金額はどのように算出されたのでしょうか?支援金の配分計画についても教えてください。
支援金は約50%が開発費に充てられる予定で、約30%がリターン品の生産・作成費用、そして残りをCAMPFIREの利用手数料や消費税などに使用します。つまり、今回ですと「開発費として100万円を手元に残す」設定になっています。
──クラファンの目的は「コンテンツ充実や全体のクオリティアップ」とのことでしたが、そのために必要な開発費が100万円という計算でしょうか。
デザイナーに入っていただいたり、キャラクターをより作り込んだりと、クオリティアップしたい点はいくつもあります。その中でも優先度が高く、他の開発者さんに入ってもらうことでゲームの面白さと開発スピードがどちらも向上できる「ダンジョンのクオリティアップ」をアーリーアクセス版の水準までやり切るのに必要であろう資金が100万円でした。
──作り込みたい要素についてはいつ頃から考えていたのでしょうか。
私個人での開発だけではコンテンツ量が足りなくなるのは企画段階から想定できていて、ある意味で「クオリティアップの余地がある」設計になっていました。
そのまま一人で作り切れるコンテンツ量とクオリティでリリースを目指していた可能性もありましたが、幸いにも9月のタイトル発表やイベント出展などで大きな反響をいただき、クオリティアップを目指す決心がつきましたね。
──クオリティアップを目指すと果てしないものがありますから、どこまでを目標とするかの設定が難しいと感じます。
目標金額については担当者さんから適切なアドバイスがいただけると思います。
最初の目標金額に、必要資金のうちクラファンで達成が見込めそうな金額を設定すると「クラファン目標を達成した」という実績を残しやすくなります。これにより「こんなに期待されているゲームなんです」と、今後金融機関と相談しやすくなる効果も期待できます。
また、「次の目標に到達したらゲームモードを追加します」のように、「ストレッチゴール」(※)を設けるケースも考えられます。
※ 支援目標金額の達成後に設定する更なる目標
ストレッチゴールはCAMPFIREの担当者からもおすすめされたシステムですし、私も検討しています。
──支援金が手元に入るのはいつ頃になるのでしょうか。
サービスによって異なるかもしれませんが、募集終了日の翌月末などに設定されていることが多いようです。
──クラファンの実施期間を決めるうえでの判断基準を教えてください。
もっと短いプロジェクトもありますが、今回の実施期間はCAMPFIREで設定可能な最長の期間にしています。
2月末のビッグタイトル発売で、皆さん忙しくなるのではないかなと(笑)。まずは2月上旬にスタートして、少し落ち着いた3月、4月にもまたα版に注目してもらえたらと考えています。
プロジェクトの認知拡大戦略としてメイキング動画を公開
──クラファンのプロモーションについて、戦略などはありますか?
広告宣伝は得意ではないですし、あまりお金をかけられなかったのですが、ありがたいことにたくさんの反響をいただいています。
プロモーション施策のひとつとして、イラストレーターのNegさんに描き下ろしイラストのメイキング動画を出していただいています。
──今後もさらに支援が集まるよう応援しています。本日はありがとうございました。
今後もより多くのご支援、ご感想をいただけるとうれしいです。ありがとうございました!
追加質問:ゲームのアルファ版を提供し始めたらどうなった?
編集部
インタビューの後日、改めて西井氏にクラファンの反響を伺いました。
──クラファン開始から1か月ほど経って、起こった変化や気づいたことなどはありますか?
「クラウドファンディングの多くは開始当初と終了間際で支援が多くなり、中盤は支援が少なくなる」と聞いていましたが、今回はゲームのアルファ版である禁忌魔法版を途中から返礼品として提供したことで、実施期間の半ばでも大きな盛り上がりが生まれました。
2月22日の提供開始から、支援額が開始当初に匹敵する伸びを見せています。
総支援額の推移を示したグラフ。データは3月10日時点のものであるため、3月10日以降のグラフは横ばいになっている
クラファン実施期間中にアルファ版や体験版を提供開始し、口コミで認知度を高める施策は、ゲームのクオリティアップ前であっても面白さに自信がある開発者さんに対して強くオススメしたいです。
『Spell Fragments』クラウドファンディングページ『Spell Fragments』Steamストアページ『Spell Fragments』公式X
大阪生まれ大阪育ちのフリーライター。イベントやeスポーツシーンを取材したり懐ゲー回顧記事をコソコソ作ったり、時には大会にキャスターとして出演したりと、ゲーム周りで幅広く活動中。
ゲームとスポーツ観戦を趣味に、日々ゲームをクリアしては「このゲームの何が自分に刺さったんだろう」と考察してはニヤニヤしている。