アークライト 野澤 邦仁のボードゲームを作るには Vol.04「ルール調整編」

2024.11.01
注目記事ゲームづくりの知識チュートリアルアークライト野澤流ボードゲームを作るにはアナログゲーム
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本連載は、『ito』『タイムボム』『タイガー&ドラゴン』などを手がけた株式会社アークライトの野澤 邦仁(のざわ くにひと)氏に、ボードゲーム(※)の企画から制作・出展方法まで指南していただきます。

※ ドイツ・ユーロ流の近代ボードゲーム・カードゲーム

具体的には、「予算50,000円で、創作ボードゲームを20〜50個制作&ゲームマーケットに出展し、販売すること」を目標に据え、その条件をクリアする手法を解説していきます。

連載4回目の本記事では野澤氏の考える、ボードゲームの「ルール調整」のコツを解説していただきます(連載1回目の記事はこちら)。

TEXT / 野澤 邦仁、新井 亨(株式会社サイドランチ)
EDIT / 藤縄 優佑

目次

今回で4回目を迎える本連載。Vol.03:モックアップ制作、クローズドテスト編を経て、ゲーム内容に課題が見つかった段階からお話は続きます。

ボードゲーム(ボドゲ)制作の初心者に、ルール調整で心がけてほしいコツは、以下の2点です。

  1. 最高到達点を言語化し、再現性を高める
  2. ルールはとにかくシンプルにする

これらのポイントについて、順に解説しましょう。

最高到達点を言語化し、再現性を高める

ここで言う「最高到達点」とは、そのボドゲを遊んだときに一番盛り上がる、グッと来る、心が揺さぶられる……そんな瞬間のことです。

まずは、それを改めて言語化してみます。「カードをめくるときのドキドキがたまらない」とか、「手札を一気に何枚も出したときに最大の快感が訪れる」といった感じです。

こうして言語化したポイントを核として、その魅力を見失わないこと、その瞬間がより安定して訪れるように調整することを目指します。

企画の初期段階では「こんなゲームがあったら、こんな風に展開するから面白いよね」という話で大いに盛り上がったのに、いざ作ってみると全然そんなことにならない……。というのはプロの現場でもある話です。

もちろんゲームの最高到達点がつねに再現されるとは限りません。でも、せっかくオリジナルのボドゲを作るなら、なるべくその瞬間が訪れる機会が増えて、面白さをより多くの人が共有できたほうがいいですよね。100回に1回よりは10回に1回、そして理想は毎回です。

毎月たくさんの新作ボドゲが発売されるようになった今では、1回遊んで「面白くないな」と思われてしまったら、深く味わう間もなく他のゲームに移り気されてしまいます。

だから初回プレイで最高到達点を再現し、プレイヤーの心をつかめるか否かは、実はかなり重要です。多くの場合、チャンスは一度しかないのです……!

「①最高に面白い瞬間を言語化する」→「②その瞬間の再現度を高める」。この考えはルール調整の基本だと思っています。ぜひ意識してみてください!

ルールはとにかくシンプルにする

私がボドゲ制作に慣れていない方からアドバイスを求められて、作品を遊ばせてもらったとき、かなりの高確率でお話することがあります。それが「もっとルールをシンプルにしましょう!」です。

デジタルゲームとは違い、ボドゲはすべての処理を人力で行う必要があります。しかも、基本的には説明書を読んで、理解して行わなければなりません。コンピュータが自動で処理してくれるわけではないのです。

こう書くと当たり前にも思えますが、自分の思いを込めてゲームを制作していると、ついつい気負ってさまざまなルールを構築したくなり、シンプルさを軽視してしまうものです。

そこをグッとこらえましょう。ゲーム内の情報や選択肢は、つねにプレイヤーが処理をする「負担」となってのしかかってきます。ヘビーゲーマーならともかく、ライトゲーマーはやることが増えるだけで、肝心の面白いところに到達する前に「なんか面倒だな、面白くないな」と離れていってしまいます。

それにルールが複雑になるほど、覚えることが増えて直感的に楽しめなくなります。結局、作者が「ちょっと薄味かな?」と思うぐらいのバランスが遊び手にとってはちょうどよかったりします。

あえて目安を言うなら、1~2個の目新しい仕組みや要素を核として、他はなるべくシンプルに、直感的に、最小限のルールで構築する、くらいを意識してみることをオススメします。

筆者が制作に携わったボードゲームで、内容がシンプルで売れている商品群。『ito』はシリーズ累計45万本を超えてもなお売れ続け、ほかも数万本レベル

シンプルにする具体例(陥りやすいミスとその対策)

ここでは具体的に、初心者がミスしがちなことをいくつか紹介します。チェックポイントとしてご活用ください。

チェック1.「分岐」「例外」が多くないか?

ゲームに分岐や例外が多いと、プレイヤーが熱中することを妨げます。

例えばあるカードに「場にAがある場合は効果a、そうでない場合は効果b」という効力をもたせるとします。制作者はそのゲームのことをずっと考えているので難なく理解していますが、初回のプレイヤーがいきなり分岐を示されても、現状はどちらのパターンなのか確認する「手間」が増える、つまり負担になります。

単体の手順やカード効果がそれほど複雑ではなかったとしても、ゲームはさまざまな場面で「組み合わせ」が起こるため、総合的に複雑な状況になってしまうことがよくあります。

同様に、例外を設定したくなったときも、いったん立ち止まって考えましょう。基本のルールがあっての例外です。まずは基本で十分に面白いことを目指し、最後の隠し味で例外を設定するに留めておくのが結果的に良いパターンが多いです。「入れるかどうか迷ったら入れない」「なくても成立するなら入れない」くらいの思い切りが重要です。

「ゲームの都合で、ルールの穴埋めのためのルール」が必要な場合は、基本ルールを見直すことで、そもそも例外をなくせないか、考えてみましょう。たまにしか起こらないときのためのルールや効果カードなども同様です。本当に必要な、最低限のものを厳選しましょう。

また、一直線のフローチャートで説明できるゲームは、わかりやすいです。それで面白ければ、遊びやすく広まりやすいゲームになるということです。まずはそれを目指してみてはいかがでしょうか?

いったん人気になって広まってしまえば、その後に「追加パック」「新版」「デラックス版」など、展開していくことだってできると思います。

まずは誰もが直感的に遊べて、一直線に「面白さの最高到達点」にたどり着けるゲームを目指しましょう。

伝統ゲーム『ごいた』を現代風・シンプルにアレンジした『タイガー&ドラゴン』。事前知識が少なくて済むよう、制作チームは次のように工夫を凝らしました。
1.本作の読み合いで重要な「牌の内訳」を覚えなくていい牌構成。2.牌の種類、手牌の枚数、得点計算など参照したい情報は個人ボードや戦場カードに記載。3.ごいたの「王」にあたる特殊牌「タイガー」「ドラゴン」もいつでも出せるルール設計。……などなど

チェック2.できることが多すぎないか?

プレイヤーができることがたくさんあったほうが、それぞれのプレイに個性が出るし戦略性が増して盛り上がるんじゃないか……。実はこれ、まったく逆です。とくにライトゲーマーにとっては、できることが多い→覚えることが多いという、分岐や例外と同じ「負担」になってしまうのです。「正しく遊ぶことに精一杯」な状態では、それを踏まえた駆け引きや面白さまではたどり着けません。

ではどれぐらいを目安にすればいいのか。縛りとしては2択ないし3択くらいがちょうどいいと思います。例えばプレイヤーが自分の番でできることは「A:カードを出す」「B:カードを引く」「C:パスする」の3つ、といった具合です(「パスする」はかなり一般的にも認知されている行動なので、この場合は実質2.5択、と言えるかもしれませんね)。

ゲーム上の選択肢の多さと駆け引きの量は比例しません。ババ抜きで、次のプレイヤーの手札が2枚のときに「右か、左か?」と顔色をうかがって心理を読む場合の2択など、人間の複雑さをゲームで利用するなどして、面白さを十分に担保することができます。むしろルールがシンプルだと、それを踏まえた心理戦などに脳を使える人が増えるため、「面白さの最高到達点」の再現性が高いとも言えます。

どうしても選択肢が多くなってしまうときは、その選択を分割する手もあります。例えば手番で「A:カードを出す」「B:カードを引く」の2択にして、「カードを出す」の後に「場のカードを引き取る / 捨てる」の2択を入れるなどです。

選択肢が多いゲームに独自の魅力や面白さがあるのもたしかですが、今回の目標は「予算50,000円で、創作ボードゲームを20〜50個制作&ゲームマーケットに出展し、販売すること」なので、まずはシンプルなゲームを目指してみましょう。あまり複雑にすると、ルールに振り回されて完成しないという悪循環に陥る危険もありますし……!

大富豪系のカードゲーム『ナナトリドリ』は、「4・5・6」などの連番出しができない設計。これは本作がとにかくゲームのテンポを重視しているため。自分の番に長く考えてしまう要素や、「この場合は出せるの?」といった質問につながる要素は極力排除されています。単に要素を削ると面白さも削れてしまいますが、本作は「手札の成長要素」「同時出しの快感」で面白さが担保されています

チェック3.「〜できない」はプラス効果に変換できないか?

人がボードゲームを遊んでいる場面を数百~数千と観察してきた中で、私が実感していることがあります。それは、どうやら人間は「自分に都合が悪いこと、したくないことは覚えにくい」ということです。

逆に「自分が得すること、したいことは覚えられる」とも言えます。とくに、ゲーム内に「〜できない」という効果があったら、なるべく無くせないか、もしくはプラスの効果に変換できないかを考えてみてほしいです。

例えばカードのテキストで、「○○のときは出せない」というものを作ってバランスを取ろうとするなら、逆に他のカードに「○○のとき出すとボーナスで××を得る」というものを作ってバランスを取るイメージです。

他にも、すごろくでは「1回休み」というマスを作ってしまいがちですが、これは繰り返し遊ぶほど退屈になってしまうデザインです。これを「他の人は全員2マス進む」などとしてしまうのが、現代風です。

プレイヤーが「○○できない」を何度も間違えてしてしまうと、指摘される度に萎えてしまい、「私はこのゲームに向いてないな、早く終わらないかな」という気にさせてしまう要因になります。何度も指摘する側も、良い気分ではないはずです。

ルールとは制限のことだと思われがちですが、制限は最低限にして、良いプレイを褒めるような設計にしてあげるのが、現代ゲームに求められていると思います。最低限どこを制限するのか、そのゲームにおける「良いプレイ」とは何か(作者がやらせたい、かつプレイヤーがやりたいこと)。そこを考えてみましょう。

チェック4.ゲームに収束性はあるか?

プレイヤーの選択によって、いつまでもゲームが終わらない状況が起こることがあります。これは現代では歓迎されません。極端なことを言えば、全員がゲームを引き延ばそうとしても、いずれ強制的に終わるように設計しておくのが無難です。

わかりやすくてよく使われるルールが、「山札がなくなったら」「4ラウンドが終了したら」「○○カードが場に3枚出たら」ゲーム終了、などとすることです。毎ターン必ず山札からカードを引くルールなどと組み合わせて、いずれはゲームが終わることを保証します。

終わりが見えることで、プレイヤーの積極的な戦略を引き出すことができます。1回1回の選択に緊張感も生まれ、ゲーム終了間際の駆け引きも一層スリリングなものになります。

『ナナトリドリ』はゲーム中に山札が枯れても、山札を作り直さずに残りのカードだけで進行します。これは「ずっとパスが続いてゲームがいつまでも終わらない」をなくす工夫です。これも本作のコンセプトの1つ「テンポ重視」の考えからです

プロのゲームクリエイターは、理想的なプレイ時間やターン数を割り出して、そこから逆算して収束性を調整したり、あるいは盛り上がりをプレイヤーが味わい尽くす一歩手前の、腹八分目でゲームが終わるように調整していたりします。「もう満足」ではなく「もう1回遊びたい!」となる工夫ですね。

……ちなみに、『麻雀』に代表される伝統ゲームは、親を交代しながら何度も連続で遊ぶことが前提に体験の設計をされているものが数多くあります。これは一説には、昔は娯楽が少なかったため、長く遊べるゲームが好まれていた、などと言われています。

なので人々が忙しくなった現代の新作ゲームで同様の設計をすると、「間延びして面白さの真髄に達する前に止められてしまう」ゲームになりがちです。いま生き残っている伝統ゲームは、面白い評判と遊び方がすでに広まっているからこそ、受け入れられているのです。なんだかズルいですね!

伝統ゲーム『麻雀』を現代風・シンプルにアレンジした『六華』。本作も事前知識が少なくて済むよう工夫がされています。1.役は基本的に3種のみ。2.牌は「1・1」~「6・6」まで2枚ずつで覚えやすく。3.手牌は5~6枚と少なめ。4.面白さは「手元の牌はいつでも上下ひっくり返せる」ことで担保。5.1ゲームで複数人が得点できる設計で、テンポも良い。……などなど

これらを踏まえた結果生まれるゲームは……

これまでの説明を実践した場合に生まれるのは、おそらくシンプルなルールで、短時間で遊べ、限られた行動の中で楽しさや駆け引きが生まれるゲームになるでしょう。

ルールをシンプルな方向に絞っていくことは、遊びやすさの面だけでなく、オリジナルのゲームを特徴づけることにも寄与します。制作者が「どうしても譲れない」「絶対に捨てられない」と考える個性だけを厳選して残し、ルールを整えることで、ゲームの特徴が一層尖って伝わりやすくなるからです。

繰り返しになりますが、1~2個の目新しい仕組みや要素を核として、他はなるべくシンプルに、直感的に、最小限のルールで構築し、「最高到達点」の再現性を安定的に上げる、くらいが理想です。

初めて遊んだときにはルールをすべて理解できなくても、シンプルな楽しさや駆け引きの中に「最高到達点」の片鱗が見えれば「もう1回やりたい!」「次はもっと上手くやれそう!」など、プレイヤーはハマってくれやすいはずです。

他のゲームに似てしまったら

Vol.2:ゲームの着想7つ道具でも触れましたが、自作のゲームが既存の作品に似てしまったら、そこで諦めるのではなく、その既存ゲームを徹底的に遊び尽くしてみましょう。そう、「創作ゲームはアレンジから」です。

自作のゲームに似た作品をじっくり遊び込んでいけば、きっと「自分はここが不満」「自分ならこうしたい」と思うポイントが出てくると思います。それを自作のゲームに反映しましょう。

オススメなのは、自分が好きな中量級ゲーム(プレイ時間が30〜60分程度)を、自分なりに軽量級ゲーム(プレイ時間が30分以内)に落とし込むやり方です。

多くの場合はカードがメインのゲームになるかと思います。そういう意味で制作費も抑えられますし、元のゲームのどこに着目するか、どこを切り出してまとめるか、といったところに個性が出るので、結果的に元のゲームとは別のものになるでしょう。

既存ゲームへのリスペクトを忘れずに、自作ゲームと真摯に向き合って、「そのゲームならでは」「自分ならでは」の観点を伸ばしてオリジナルになるまで調整を続けましょう!

……と、最後に繰り返しになりますが、本記事はあくまで「予算50,000円で、創作ボードゲームを20〜50個制作&ゲームマーケットに出展し、販売すること」を目標に据えています。自分専用の壮大な世界でたったひとつのゲームを作る場合とはアプローチが異なることは、改めて念頭に置いてください。

そのうえで、さまざまなボドゲの制作に携わり、また他の多くの作品を見聞きしてきた立場からは、まずは上記のやり方を参考に、シンプルで安価な自作ゲームを世の中に発表してみることをオススメします。

本連載のVol.4はこれで終了です。ルール調整は遊びやすさ、とっつきやすさを大きく左右する工程なので、時間をかけて突き詰めてみてください。

Vol.01:企画編
Vol.02:ゲームの着想7つ道具
Vol.03:モックアップ制作、クローズドテスト編
番外編:ゲームマーケット出展申し込み編
Vol.04:ルール調整編(今回の記事)
Vol.05:イラスト&グラフィック、印刷編
Vol.06:説明書、オープンテスト、宣伝編

次回は皆さんも気になっているであろう「イラスト・グラフィック・印刷」のお話です。

引き続き、本連載をよろしくお願いいたします!

アークライトゲームズ 公式サイト株式会社アークライト 公式サイトゲームマーケット 公式サイト
野澤 邦仁(のざわ くにひと)

1987年生まれ。デジタルゲームのプランナーやボードゲームショップの店員を経て、2015年に株式会社アークライトに入社。ボードゲーム編集者として70作以上に携わる傍ら、ゲームマーケットの企画も一部担当。2022年より制作責任者(編集長)に就任。

ボードゲームの代表作は、『ito』シリーズ、「Kaiju on the Earth」シリーズ(『ボルカルス』『ゴジラ』など)、『タイガー&ドラゴン』、『タイムボム』、『未来逆算思考』など。

【主な受賞歴】

  • 日本ゲーム大賞2010 アマチュア部門 大賞『SAND CRUSH』(レベルデザイン)
  • 第15回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞『アナグラのうた~消えた博士と残された装置~』(プロジェクトマネジメント)
  • Makuake Of The Year 2020 受賞『ボルカルス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • Makuake Of The Year 2021 受賞『ユグドラサス』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)
  • ゴールデンボックス ボードゲームアワード2022 ゲームデザイン部門 ノミネート&ルールブック部門賞 受賞『ゴジラ』(シリーズ共同企画、プロデュース、編集)

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