ゲームエンジンだけではない、開発関連ツールの魅力。全25社がブース出展、さまざまなツールを触って試せる「GTMF 2024」参加レポート

2024.08.27
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2024年7月9日、ゲーム開発向けツールやミドルウェアなどに特化したイベント「Game Tools & Middleware Forum(以下、GTMF)2024(東京会場)」が開催されました。6月28日開催の大阪会場に続いた今回の東京会場ではブース出展や多くのセッションが催され、会場内は大いに賑わいました。

本レポートではGTMFの様子やいくつかのブース出展をピックアップすると共に、GTMF運営委員長 及川 直昭氏へのインタビューをお伝えいたします。

TEXT / じく

EDIT / 神山 大輝

目次

大いに盛り上がったGTMF2024東京会場

会場は秋葉原UDX GALLERY NEXT THEATERで、ゲーム開発に関連するツールやミドルウェアの出展が並ぶブースエリアと、講演を行うセッションエリアの2つに分かれています。ブースエリアでは来場者へのデモンストレーションやプレゼンテーションが積極的に行われており、常に交流が盛んな印象でした。

ブースエリアの隣に位置するセッションエリアでは、終日にわたって出展者による講演が実施され、セッションとブースを往来する多くの来場者の姿が見受けられました。

来場者はそれぞれの目的に合わせてGTMFのセッションプログラムやブース出展に臨んでいた

気になるツール・ミドルウェア出展をピックアップ

ヤマハ

ヤマハのブースでは、通常のイヤホン/ヘッドホンで360°あらゆる方向の音を立体的に表現できる音響処理ソフトウェア『Sound xR Core』のデモコンテンツを展示。実際に視聴ができました。

デモコンテンツは立体音響プラグイン『Sound xR Core』をUnreal Engine 5.3で実装しており、開発はヒストリアが担当しています。実際に体験すると、2chバイノーラル音響とは思えない音声が文字どおり360°から聞こえてきます。距離やカメラの向きに対応した音声の強弱がリアルに再現されており、特に上方向の音像がよく分かる内容となっていました。

デモ内の演出に驚いて身体が跳ね上がったり、目前を通り過ぎていく音声の行方を目で追ってしまったりなど、『Sound xR Core』の立体音声技術に圧倒されました。

『Sound xR Core』には、1,000本以上の頭部伝達関数(HRTF:Head Related Transfer Function)が用いられています。HRTFは周囲で鳴っている音が左右の耳にどのように届くかを表した関数で、これを再現して頭上・背後・耳元などで鳴っているように聴かせることができます。

CEDEC2017講演「HRTFを極めた者が3Dオーディオを制する!? ~カプコンとヤマハの3Dオーディオプラグイン共同開発事例~」より引用

『Sound xR Core』はUnity/CRIWARE/Wwise向けに販売中で、記事執筆現在、アンリアルエンジンへの対応が進められています。

『Sound xR』公式サイト

Mapbox Japan G.K.

Mapbox Japan G.K.のブースでは、位置情報ゲーム『信長の野望 出陣』『ドラゴンクエストウォーク』などの人気タイトルで採用されているデジタル地図開発プラットフォーム「Mapbox」のデモアプリや地図デザインツールが展示されていました。

2D・3Dを問わず用途に合わせて地図データをカスタマイズでき、レンダリングが圧倒的に速いのが特徴。ゲームだけでなく、Yahoo! JAPAN、朝日新聞デジタル、JR東日本などあらゆる業種や企業にプラットフォームを提供しているそうです。なお、日本の地図データはゼンリンデータコム、海外の地図データはOpenStreetMapを使用しています。

Mapbox」が持つゲームに使えそうな機能としては「マップ上に配置されたポリゴンから家屋への出入りを検知してアイテム入手」「ルートナビゲーションでこれまで通った移動ルートを基にイベントを発生させる」などが挙げられるとのこと。現在も「Mapbox」を採用したゲームタイトルが開発中とのことです。

「Mapbox Japan G.K.」公式サイト

AccelByte Inc.

AccelByte Inc.のブースでは、オンラインゲームの環境構築・ローンチ・運営を支援する包括的なバックエンドサービスが展示されていました。『PUBG: BATTLEGROUNDS』などのタイトルで知られる韓国のゲーム開発会社KRAFTONなど50を超える大手ゲームスタジオに採用されているとのこと。

1つのゲームタイトルや同じゲームスタジオのアカウントに対し、PC・コンソール・モバイルといったクロスプラットフォーム環境で動作するためのアカウントの管理、マッチメイキング、ゲーム内ストア、アナリティクスなどの機能を提供。基本的にはゲームの開発初期にバックエンドとして提携し、実際にゲームがリリースされる数年前から運営を支援するのが通常の運用の流れとなるそうです。

AccelByte公式サイトより

また、小規模開発を対象にしたスタータープランなども用意しているとのこと。セキュリティをしっかり担保したマルチテナント(相乗り的なクラウドベース)でコストを削減しつつ、昨今のゲーム業界におけるタイトル数減少にも対応しています。

そこにはゲーム開発者に対する長期的なPRも含まれており、将来的に開発で課題に直面した際に「AccelByte」の採用を検討してほしいという思いも込められているそうです。

「AccelByte Inc.」公式サイト

ミライセンス

ミライセンスは、独自の3次元触力覚技術(3DHaptics)の研究開発・商品化・応用サービスに携わるスタートアップ企業です。その基礎技術を体験できるデモや、ゲーム開発現場に向けた振動生成ソリューション「AMPTIX」が展示されていました。

3DHapticsは皮膚への特殊刺激パターンにより脳内錯覚を発生させ、触った感覚や手ごたえ感をリアルに再現します。ミライセンスはその表現を「力覚」「圧覚」「触覚」の“三原触”に分けています。会場のブースでは、そのうちの一つである「力覚」を体験することができました。

スマホで力覚の方向を指示すると、手に持っている小さいデバイスが振動します。デバイスは振動しているだけなのに、手が指示された方向に引っ張られているような感覚を覚えます。

「力覚」は強く、 手が引っ張られるような感覚。そのまま身体まで動いてしまいそうになる

こうした3DHapticsを用いたゲーム開発向けソリューション「AMPTIX」のデモも展示されていました。コントローラーなどのデバイスを前後にうごめくように振動させる編集機能や、サウンドデータから方向感を生成する機能などがあり、「振動」という目に見えないものが直感的・視覚的に編集できているのが印象的でした。

「丸い」「ギザギザ」などの視覚的なイメージで振動を表示し、生成や編集もできる

株式会社ミライセンス 公式サイト

WOVN.games

WOVN.gamesのブースでは、ゲーム専用に開発されたローカライゼーション支援プロダクトWOVN.games」が展示・実演されていました。

本ツールを使うことで、従来の「テキスト翻訳→ゲーム組み込み→LQA(Linguistic Quality Assurance)」という流れや各プロセス間のやり取りで発生する煩雑さやコストが削減され、翻訳品質の向上が見こめるそうです。

翻訳結果をリビルド不要でリアルタイムに実機上で確認・修正できる「リアルタイム翻訳」や、実際に表示されるシーンに作業テキストを表示できる「スクショ表示」などの機能がExcelライクな操作で実現できるため、従来はリストを見ながら作業をしていた翻訳者がインゲームプレビューに近い形で作業を行うことが可能になります。

デモンストレーションを実際に見て、「ゲーム画面を見ながら翻訳できる」という利点と分かりやすさが実感でき、ゲームの世界観に沿った翻訳を行うための理想形とも思えました。

Excelライクのリストに「1st FLOOR」と入力すると、リアルタイムでゲーム画面にも反映される

「WOVN.games」はローカライズ歴15年のプロフェッショナルによって開発されたそうで、これまでのゲームローカライズにおける課題を解消できる画期性を感じさせるものでした。

「WOVN.games」 公式サイト

Audiokinetic

Audiokineticのブースでは、フラッグシップ製品である統合型クロスプラットフォームオーディオミドルウェアWwise」のプレゼンテーションが行われていました。

「Wwise」は多様な機能を備えた統合型のサウンドミドルウェアで、インタラクティブなサウンド実装がサウンドデザイナー自身で行えるオーサリングツールも備えています。

立体空間の中で、どのような音声がどこで発生しているかを視覚的に確認できる

「Wwise」はサウンドデザイナーがサウンドデザインに没頭できるよう、サウンドデザインとエンジニアリングを分離するアーキテクチャを採用しています。今回のブースでは、16万個以上のオーディオソースや編集用クリップなどが編集可能なREAPERマルチトラックフォーマットとして提供されている次世代マルチトラックサウンドライブラリ「Strata」が併せて紹介されていました。

(画像はAudiokinetic「Strata」公式サイトより引用)

「Strata」のコレクションには、環境音・キャラクター・戦闘などの音源が用意されており、各コレクションの収録数は数百~1万以上にも及ぶそうです。

Audiokinetic 公式サイト

CRI・ミドルウェア

CRI・ミドルウェアのブースでは、「CRIWARE」「OPTPiX」の最新アップデートが紹介されていました。

サウンドミドルウェア「CRI ADX」の展示デモでは、本ツールに採用されたヤマハの仮想立体音響ソリューション「Sound xR」の体験が行えました。

ヘッドホンを付けた状態で音声ファイルを再生すると、スマホにARで表示されているキューブからボイスが再生されます。そのまま移動したり向きを変えたりすると、それに合わせてボイスの定位や距離感も変化します。この他にも、ゲームエンジンに依存せずC#言語での開発環境で使用可能な新しいCRIWAREプラグイン「CRIWARE for C#」が併せて紹介されていました。

CRIWARE for C#は各環境で使える最大公約数的なものというイメージで、ゲーム開発はもちろん、その汎用性を活かした幅広い利用範囲が特徴に挙げられます。例えば、音ゲーにおける譜面部分の開発、通信系分野でダミークライアントを用意するテストシステムなど、ゲームエンジン以外のC#内製ツールなど多様なシーンに導入できます。

これら以外にもOPTPiXからリマスター超解像機能による画像拡大と画像ファイルサイズの軽量化を実現する「OPTPiX ImageStudio 8」、超汎用の2Dアニメーション作成ツール「OPTPiX SpriteStudio紹介されていました。

株式会社CRI・ミドルウェア 公式サイト

GTMF運営委員長 及川 直昭氏インタビュー

株式会社CRI・ミドルウェアの営業本部長であり、今回のGTMF2024の運営委員長も務める及川氏

2023年からの継続開催と来場者の様相

——久しぶりの開催となった前回のGTMFから1年を経て、今回新たに感じた違いや進展があればお聞かせください。

昨年のGTMFはコロナ禍以降3年ぶりの開催で、開催の判断も含めて準備がギリギリとなりました。今年はその経験と反省を活かして早めに準備を進めました。皆様への情報発信や出展者様へのお声がけなどもコロナ前の形式に戻し、準備万端で臨めたのではないかと思います。

出展社の顔ぶれについては、長くご参加いただいている企業も多い一方、新たにゲームがメインでない企業やネットワーク系の企業も増加傾向にあります。

——GTMFは各社の講演も魅力ですが、オンライン配信を取りやめた理由を教えてください。

現地での体験を尊重したいという考えが第一にあります。オンライン配信はたしかに便利ですが、GTMFとしてはツールやミドルウェアのデモンストレーションを行うブースエリアを大切にしているので、「ぜひ現地に来てほしい」という意図を込めてオフラインのみのイベントに戻しました。ツールやミドルウェアにとってブース出展は重要で、例えばサウンドを実際に聞いてもらったり、モーションキャプチャーを実際に行ったり、端末を実際に触ったりなどのコミュニケーションはオンラインでは成り立ちません。

現地参加につながる施策として、今回は「いざ行かん!ともにGTMFへ!」「教えて!ゲームのお仕事あるある」などの企画を用意しました。また、「教えて!ゲームのお仕事あるある」には「昔の自分に言っておきたいこと」「未来の自分に伝えたいこと」というお題を設け、世代を超えた意見交流なども狙った意図があります。

イベント集客や現地での参加者交流、ビジネスマッチングの施策として「いざ行かん! ともにGTMFへ!」という来場者プレゼントも企画されていた

——GTMFを構成する3要素は「ブース」「セッション」「懇親会」だと思いますが、ビジネスマッチングを加速させる施策などを行う予定はありますか?

GTMFは会場に来場者が集まり、凝縮されたブースエリアで、通りがかりの方や初見の方との出会いがあることが特色だと考えています。ゲーム業界にはさまざまなイベントがありますが、GTMFではより制作・開発の現場に即した展示や講演を行っているため、来場の皆様や出展各社にとって「具体的なビジネスにつながりやすい」という特徴があります。こういった性格のイベントは他には無いと思います。

ブースエリアではデモンストレーションに来場者が耳を傾けるシーンが多く見られた

ツールやミドルウェアを提供する立場として

——ゲームエンジンの標準機能が日々進化する中で、ツールやミドルウェアを提供するベンダーに求められるのはどのようなことでしょうか。

ゲームエンジンでできることが増えていくことは、開発者にとって良いことだと思います。その中でツールミドルウェアはエンジンと連携していくことが大切ですし、標準機能プラスアルファを常に意識して、開発者の選択肢を増やすことが役割であると考えています。

ゲームエンジンには、いろいろな機能が備わっています。そこにツールやミドルウェアを使用するとなるとそのコストが発生するわけで、そのコストに見合うクオリティやワークフローの効率化など、何らかの価値を提供しなければなりません。

ツールミドルウェア各社は調査や開発を独自に行い、より良いものを提供しようと努力しています。GTMFがその情報交換の場としても機能していると嬉しいですね。

——個人や小規模チームによるインディーゲーム開発に対して、ツールやミドルウェアを提供するケースは増えているのでしょうか。

各社それぞれですが、例えば弊社(株式会社CRI・ミドルウェア)はインディーゲーム開発者向けのプランや認知拡大にも力を入れており、製品の強化やイベント参加などを行う中で積極的に支援を行っています。ツールやミドルウェアはユーザーを増やさなければならず、まずは触っていただく機会を増やす意味では重要な市場と考えています。

——GTMFの今後の開催予定についてお教えください。

GTMFは年に一度、6月から7月にかけて開催しておりました。他の展示会と重ならない時期であり、夏のゲーム系展示会のトップバッターとして定着してきたと感じております。来年は大阪万博の関係で、時期の変更も含め検討中ですが、年に1回皆様と直接お会いできる場として継続して開催していきたいと考えております。

会場内ではあちこちで出展者や来場者による交流や情報交換が行われていた

GTMF GameTools & Middleware Forum 2024 公式サイト

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