登壇者はエピック ゲームズ ジャパンで自動車、映像、建築などノンゲーム分野でのUnreal Engine活用に関わっている向井 秀哉 氏です。なお、向井氏は前回の『UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER 』でも『Unreal Engine 5.0 ノンゲーム向け機能紹介 』と題した講演でUnreal Engine 5(以下、UE5)におけるノンゲーム向け機能紹介を行っています。
質疑応答に関しては向井氏に加え、同社テクニカルアーティストの斎藤 修 氏、ソフトウェアエンジニアの澤田 祐太郎 氏が参加することが説明されました。
講演で紹介する機能についての通知事項
講演で紹介する機能にはBeta や実験的機能 の段階のものが多数存在します。実運用の際はそれぞれの機能のパフォーマンスや安定性に注意が必要です。
UE5.1 に関してはすでに更新点がまとめられたリリースノート が発表されています。本講演ではその中から向井氏が選んだノンゲームでも役立つ機能を紹介 します。
レンダリング関連機能
Lumen UE5の動的グローバルイルミネーション・反射システムであるLumen の改善点について紹介します。
窓ガラスや水面がよりリアルに――光の反射に関する改善 Lumen はUE5時点では対応していなかったTwo-Sided Foliageシェーディングモデル とSubsurface Color をサポートしました。これによりTwo-Sided Foliage を使ったシーンでのオクルージョンによる暗さが改善され、光を透過するより自然な見た目になりました。
Naniteが有効なメッシュのみになりますが、Foliageもサポート するようになりました。使用する場合はNaniteを有効にした上でFoliageのインスタンス設定で「Affect Dynamic Indirect Lighting 」を有効にすると使用できます。
ソフトウェアレイトレーシングを使っている場合はすぐ下の「Affect Distance Field Lighting」有効にすることで使用できる
水面のレンダリングで使用されるSingle Layer Waterシェーディングモデル もサポートされました。Lumen による反射が加わることで、よりリアリティのある表現が可能になっています。
Single Layer Waterは深さや距離による見え方の変化をOpaqueのまま表現できるので、とても便利な機能になっているという
また半透明素材での反射をサポートする新機能としてPost Process Volumeに「High Quality Translucency Reflections 」というプロパティが追加されました。これによりガラスなどの半透明素材でもきれいな反射を表現できるようになりました。
半透明の窓ガラスに対し、手前にあるインテリアや壁などがきれいに反射しているのが分かる
Lumenの反射クオリティを上げるTips
映像、ビジュアライゼーション向けの手軽な方法として、処理負荷は問わない方向で紹介
ここでLumenの反射のクオリティを上げる方法 として以下が向井氏から簡単に紹介されました。
ソフトウェア レイ トレーシングをハードウェア レイ トレーシングに変更 する
Post Process Volumeの「Ray Lighting Mode」を「Hit Lighting for Reflections」に変更 する
コンソール変数の「r.Lumen.Reflections.Temporal」を0に変更 する
コンソール変数の「r.Lumen.Reflections.ScreenTraces」を0に変更 する(スクリーントレースをオフにする)
Post Process Volumeの「Lumen Scene Lighting Quality」を上げる
ハードウェア レイ トレーシングに変更することによりサーフェイスキャッシュではなくレイトレーシングによる計算になり反射品質が向上。また、スケルタルメッシュも反射するようになる
Lumenのノイズが気になる場合はPost Process Volumeの「Lumen Scene Lighting Quality」を上げることで減らすことができる
また、斎藤氏からのTipsとして、反射内ではGIを持たせられないスケルタルメッシュにマテリアルを使ってフェイクのGIを追加する 方法が紹介されました。
下記はデフォルト状態とクオリティを上げた状態の比較です。
暗さが残る部分をより明るく調整――光量に関する改善 Post Process Volumeに追加された新機能Diffuse Color Boost では数値を上げることで間接光を明るくできます。室内などの間接光を増したい時などに役立つ機能だとしています。
内部的には間接光部分のDiffuse Colorを明るくしている。上げ過ぎると物理的に正しくない部分が出るため、2.0ぐらいまでがおすすめとのこと
また、Skylight Leaking(スカイライト漏れ) はスカイライトが本来届かない、閉じられた空間などにもスカイライトを適用する機能です。スカイライトが回りきらない部分や間接光部分の明るさ調整に便利な機能とのことです。
その他にもScene Captureのサポート やノイズの改善 、サーフェイスキャッシュのアルゴリズム改善 などが行われています。
ハードウェア レイ トレーシングのWindowsシステム要件はWindows 10以上
Nanite
自動LODを実現する仮想化ジオメトリシステムNanite ではTwo-Sided やMasked 、World Position Offset 、Pixel Depth Offset などマテリアル機能に対するサポートが広がりました。また、Lumenと同じくFoliageにも対応 しています。
Lumenに加えてNaniteもFoliageに対応したため、自然系の環境がより構築しやすくなった
一方、講演時現在、Nanite 非対応である半透明の機能 やNanite用に作られていない過去のメッシュ なども存在します。こうした非NaniteアセットとNaniteアセットが混在している状況でもワークフローを滞らせない対応 も進みつつあります。
講演では対応の一例として、既存のメッシュにNanite用のハイメッシュをインポートした後にNaniteが有効か無効かによってNaniteとLODを切り替える機能 や、Naniteが有効な場合にマテリアルをオーバーライドする機能 、StaticMeshComponent単位でNaniteの無効化ができる機能 が挙げられました。その他、マ テリアルノード「Nanite Switch」を使って切り替える方法 も紹介されました。
また、Nanite メッシュはHidden Shadow にも対応したため、影用のみNaniteメッシュにすることで仮想シャドウマップ(VSM)のパフォーマンス向上に貢献 できるとのことです。
そして、Nanite を使用したInstanced Static Mesh Componentで距離カリングが動作 するようになったため、より最適化が可能です。
また、実験的機能としてLandscapeのNaniteメッシュ化 とスタンドアロンレイトレーシングやパストレーサーでのNaniteサポート が現在提供されています。
実験的機能なこともあり、LandscapeのNanite化ビルドには時間がかかるとのこと
以前はフォールバックメッシュが使用されていたが、コンソールコマンドによってNaniteメッシュを使用することができるようになった
UE5.1からNanite はDirectX12かつShader Model 6を有効にする必要があります 。使用する際はご注意ください。
有効にしていないと右下に警告が現れる。Windows環境ではWindows 10以上にする必要がある
パストレーサー 物理的に正確でフォトリアルなレンダリングを行うパストレーサー がExponential Height FogのVolumetric FogとSky Atmosphereをサポート するようになりました。
現在のところはSky Atmosphereのサポートを有効にするとVolumetric Cloudsが表示されなくなってしまうなどの制限がある
他にもDecal 、Per-Instance Custom Data およびPer-Instance Random material expressions 、Light Function が新たなサポート対象になっています。
マテリアルノードではInstanced Static Meshなどのインスタンスごとにデータを変更可能
コンソールコマンドにより色付きのLight Functionも使用可能
また、パストレーサー でもマルチGPUがサポート されるようになりました。パストレーサー にかかるレンダリング時間の短縮に役立つとしています。
使用時はNVLink SLIを有効にし、コマンドラインを設定。その後にコンソールコマンドで「r.PathTracing.MultiGPU」を1にする必要がある。
パストレーサー でのデノイザーとして以前のOpen Image Denoise に加え、実験的機能のOptiX Denoiseがサポート されています。OptiX Denoise はNVIDIAのGPUで駆動する機械学習を使用したデノイザーで、より早いデノイズ計算が可能になるのとことです。
現在、プラグインを有効化した後にコンソールコマンドを入力すると使用できる
また、パストレーサー でより正確なモーションブラーを実現するための「Reference Motion Blur 」オプションがMovie Render Queueに追加されています。これにより、モーションブラーがかかった際にデノイズのかかったぼやけたような表現になってしまう問題が解消されています。
Strata Strata Material はマテリアルの新たな要素として追加されました。ハードコードされたシェーディングモデルなどの制約に囚われず、より自由にマテリアルを作成できる マテリアルオーサリングシステムです。実験的機能であり、今後仕様変更になる可能性はあるものの、一般化していくつもりだそうです。
Strata Materialに関する情報は今後Epic Developer Communityの専用ページ に追加されるとのこと。また、サンプルプロジェクトも順次公開される予定だ
Strata MaterialはProject Settingから有効化が可能です。以前は別々のシェーディングモデルとして扱われていたサブサーフェイスとクリアコートを共通のものとして扱うことが可能 です。また、Fuzz関連のパラメーターによって布などの毛羽立ち表現も簡単に実現できる とのことです。
薄い油膜やシャボン玉のような光の干渉による遊色効果表現ができる「Thin Film」ノード もStrataに提供されています。また、今まで難しかった曇りガラスのような表現も簡単に実現 することが可能です。
エディタ関連機能
TextureとTexture Asset Editorの改善 Cubemapテクスチャのエディタで3D表示時に全体を見回したり、各面を見ることができるオプションが追加 されました。また、圧縮設定として32bit floatが追加 され、32bitで作成された画像を32bitのまま使用することができるようになりました。
UE5.1時点ではSky Lightで16bit floatとして扱われてしまう。これは今後改善する予定であるとのこと
アナモフィック レンズ カメラ設定の項目として「Squeeze Factor 」が追加され、アナモフィックレンズ (※)で特徴的な縦に伸びたボケを表現できるようになりました。また、クロップの設定も追加されています。
※横長(2.39:1)の映像を撮影・再生するための特殊レンズ
アナモフィックレンズ特有の青いレンズフレアの表現については未対応だが、こちらはBloomのConvolutionを使えば擬似的な表現をすることができるという
Light Mixer レベル上のライトを管理、編集できるLight Mixer機能も追加 されています。ブループリントのライトコンポーネントも含め、複数選択してプロパティをまとめて変更が可能 になりました。アウトライナーなどでライトを探す手間が省けます。
SkyLightなどの環境光に関してはこちらではなく、既にある環境光ミキサー の方に表示されるようだ
UVエディタ UE5.1に追加されたUVエディタ は実験的機能からBetaへとアップデート しました。大きな改善点としてUDIMのサポート が挙げられ、そのほかにもUVやエッジ単位でAlignが可能 になり、アイランド間隔を調整できるツールも追加 されています。
Pattern Tool モデリング機能にはPattern Tool が追加されています。今までブループリントなどが必要だったメッシュの規則的な配置がモデリングモードから簡単に行えます。
配置したメッシュの出力形態を1つずつのメッシュに分ける、DynamicMeshにする、インスタンス化するなどから用途に応じて選択できる
映像シネマティクス関連
In-Camera VFX Editor In-Camera VFX Editor ではステージオペレーター向けのUIが追加 されました。nDisplayへの投影確認 、カラーコレクション変更 、ライトカード追加 など実際のステージ、スタジオなどでよく使われる機能が集約されています。
カラーコレクションは適用範囲を全体・ビューポートごと・部分的・アクター単位などから選択できる
Media Plate アクターにより動画や連番画像の再生が以前より簡単に行えるMedia PlateプラグインがBeta提供 されました。平面・球面・任意メッシュなどを選択して動画を投影可能 です。またアルファ抜きにも対応 しています。
カメラで表示されている部分のみをストリーミングしたり、Mip Mapを使用したりすることでパフォーマンスが上昇。連番EXRも再生可能だ
使い方はプラグインを有効にした後に、追加するアクターをレベルに配置し、動画などを選択するだけ。シーケンサーでの再生コントロールもできるとのこと
シーケンサー Cine Camera にClipping Plane機能が追加 され、狭い空間などカメラを引くと手前にものが写り込んでしまう場合や逆に近すぎてクリッピングされてしまう場合などに調整できるようになりました。
シーケンサー関連の新しいプラグインとしてLive Link Face CSV ImporterプラグインがBeta機能として追加 されています。リアルタイムフェイシャルキャプチャiOSアプリ「Live Link Face」の拡張機能で、iOSでのキャプチャ時に生成されるCSVファイルを読み込み、シーケンサーで再生できます 。
以前はフェイシャルキャプチャのために通信環境を整える必要があったが、オフラインでも手軽にキャプチャが行えるようになった
Metahumanに必要なフェイシャル設定がされているため、プラグインを有効にした状態でCSVをドラッグ&ドロップすると直接レベルシーケンスとしてインポートできる
シーケンサーではさらに実験的機能として2つの機能が紹介されています。
Virtual Production LiveLink ではPixel Streamingを使ってバーチャルカメラのストリーミングが可能 です。今までより低いレイテンシーでブラウザから操作できます。
Pixel Streamingを通してブラウザから操作できるので、Android端末などからでも操作可能
Cinematic Prestreamingプラグイン では低フレームレート時などにNaniteやVirtual Textureのストリーミングが遅れる問題が解消できます。事前に Movie Render Queueのレンダリングのキャッシュを生成し、再生時に確実なストリーミングを可能にしています。
ムービーレンダーキュー シーケンサーの高品質なレンダリングを提供するムービーレンダーキュー では1つのシーケンサーから複数カメラの映像をまとめて書き出すことが可能 になりました。シーケンサーに含まれる全てのカメラからの映像を書き出すには、カメラオプションの「Render All Cameras 」を有効にします。
また、Orthographic(並行投影)カメラでの書き出し やnDisplayのビューポート映像の書き出し も新たにサポートされています。
Orthographic(平行投影)は現在はFXAAを有効にしたPath TracerおよびDeferred Renderingのみサポートしているようだ
nDisplayの書き出しは1画像にまとめてではなく、ビューポートごとに書き出されるとのこと
nDisplay nDisplay やインカメラVFX では新たにLumenがサポート されるようになりました。ソフトウェアレイトレーシング、ハードウェアレイトレーシングどちらも使用可能 です。また、Beta機能であるnDisplay Quick Local Launcher ではプラグインを有効にすることでSwtichboard を起動せずにローカルでnDisplayを確認できる ようになっています。
その他機能
そのほかプラットフォーム、パイプライン周りの更新についても語られました。
Pixel Streaming Pixel Streming のスクリプトの保存場所 が、UE5.1でエンジン内からGitHub内に移行 しています。
また、UE5.1からはプラグインを有効にするとエディタメニューにPixel Streamingの項目が追加 され、シグナリングサーバーを簡易起動できる ようになっています。
そして、実験的機能ではあるもののUEエディタ自体もPixel Streamingでブラウザから操作が可能 になりました。「-EditorPixelStreamingStartOnLaunch 」のコマンドラインを使用すると、この機能が有効な状態でエンジンが起動します。
マルチディスプレイへの対応はされていない。今後の機能については改善を予定
XR XR でもNanite 、Lumen 、Temporal Super Resolution(TSR) のサポートが開始されました。まだ実験的機能としての提供であるものの、ぜひ試してみてほしいとのことです。
現状ではPCのDeferredレンダリングのみサポートしているとのこと
また、XRのプラグインについてOculus VRとSteam VRのプラグインは非推奨 となり、Open XRプラグインに移行 していくことが語られました。HoloLensも同様にWindows Mixed Realityプラグインが削除されOpen XRに移行 するとのことです。
現在Beta機能のEnhanced Input はすでにOpen XRに対応 しており、HMDをはじめとするさまざまなコントローラーに対する設定、管理などの柔軟性が上がっていると語りました。
Datasmith Datasmith 関連ではメニューをリボンへ移動、Direct Linkのサポートなど、3ds Max側のDatasmithプラグインが改善 されています。Direct Link Auto Syncがサポート されたことにより、3ds Maxの作業をUE5で連携し、同時に進められます。
現在発生している日本語UIだとリボンが表示されないバグは5.1.1で対応予定
その他にもマテリアルやライトなどサポートが拡充しています。
また、AutodeskのBIMソフトウェア「Revit 」との連携ではDirect Link Auto Sync 、エクスポートするビューの選択 やデカールのサポート などが追加されています。そして、Revitサブスクリプションライセンスを持っている場合、Twinmotionが無料で利用できます。
Material X へのサポート も実験的機能として提供されています。ただし、現状ではStandard Surfaceマテリアルのみのサポート となっており、今後のアップデートに期待して欲しいとのことです。
LiDAR 更新点の最後としてUE上で点群データを扱うためのLiDAR Point Cloudプラグイン について言及がありました。プラグインを有効化した際に新しくLidarモードが追加 され、点群の編集がレベル上でできる ようになり、編集機能も複数追加 されています。
Lidarモードでは複製・マージ・コリジョン追加などの編集も行える
矩形・なげわといった選択ツールもいくつか用意されている
そして、選択された点群をスタティックメッシュとして変換 できるようになりました。これは現在、点群をそのままメッシュ化したような見た目ですが、将来的により良い変換方法を実装するとのことです。また、点のノーマルを計算し、デフォルトではカメラ方向の点の表示を法線方向に揃えられる ようになっています。
向井氏はアップデートに関するさらなるの情報はリリースノート やドキュメント 、またはロードマップ などで公開されていると講演を締めくくりました。また、UE5の現状のアニメーション機能について、同社の岡田 和也 氏がCEDEC +KYUSHU 2022 にて行った講演とその資料 を紹介しました。
リリースノートに詳しい情報が載っているほか、ロードマップでもざっくりとどのような更新だったのかを確認できる
岡田氏のアニメーション機能の資料は247ページに及ぶとのこと。また、講演動画も後日に同社Youtubeチャンネルにて公開予定
質疑応答では斎藤氏と澤田氏も加わった。更新点のドキュメント化についてやPixel Streaming、LiDARについての質問がなされた
Unreal Engine 5.1公式リリースノート Unreal Engine 5.1公式ロードマップ Unreal Engine 5.1 新機能まとめ for ノンゲーム
アンリアルエンジンにハマり、ぷちコンでゲーム作ってた男。映像編で2連覇したことも。
昔はよくアーケードゲームとかやってました。
一番やり込んだのは「ケツイ ~絆地獄たち~」「戦国BASARAX」あたり。ローグライトゲームとかも好きです。