『THE KING OF FIGHTERS XV』におけるアウトゲームの設計と最適化。株式会社SNKによるUE4開発の裏側【UNREAL FEST WEST ’22】

2023.01.18
注目記事しくみをつくる見た目を良くするゲームの舞台裏講演レポート公開資料まとめUNREAL FEST 2022アンリアルエンジン
この記事をシェア!
twitter facebook line B!
twitter facebook line B!

Epic Games Japan主催のUnreal Engine大型勉強会「UNREAL FEST WEST ’22」が、2022年11月19日(土)から11月20日(日)までの日程で開催されました。

2日目の「GAME DAY」に行われた『UnrealEngineを馴染ませる~THE KING OF FIGHTERS XV における開発事例~』と題した講演では、株式会社SNKのプログラマー呂 朗標氏からTHE KING OF FIGHTERS XV(以下、KOF XV)』におけるアウトゲーム部分でのアンリアルエンジン活用手法が紹介されました

TEXT / wvigler
EDIT / 神山 大輝

目次

UE4.26.1で開発された『KOF XV』

登壇したのは株式会社SNKのプログラマー呂 朗標氏。呂氏は中国広州に生まれ、本国でネットワークエンジニアを経験後、2016年に来日。京都コンピュータ学院を卒業後に株式会社SNKに入社し、『KOF XV』のほか『SAMURAI SPIRITS』にも関わっています。

講演冒頭では『KOF XV』の紹介と講演全体の概要、各セクションの構成が説明されました。

KOF XV』は2022年2月に発売された対戦格闘ゲーム。2D格闘ゲームとして長い歴史を持つKOFシリーズですが、今回は直接ゲームプレイに関わるインゲーム部分ではなく、タイトル画面、メインメニュー画面、キャラクターやモードのセレクト画面、ロード画面などのアウトゲーム部分の開発フローにフォーカス。アンリアルエンジンによる開発手法が解説されました。

バージョンは4.26.1を使用。他にもアウトゲーム部分にはJenkinsやWwiseを使用している。また、インゲーム部分についても使用したツールなどが紹介された

パッケージ/クックのルール設計

開発が進むにつれて、プロジェクトにはテクスチャや3Dモデル、翻訳データ込みのテキストやデバッグ機能など、製品版に不必要なものも含めてさまざまなデータが増えていきます。これらを製品版に含まないために必要となるのが、クックルール(アセット管理)です。

クックパッケージエディタビルドについてそれぞれの違いと役割。これらは全てJenkinsで自動化されている

アンリアルエンジンではクックルールを指定するための方法がいくつかあります。講演内ではProject Setting内のAsset ManagerカテゴリPackagingカテゴリの各項目、そしてより細かい設定が可能なPrimary Asset Labelsなどが紹介されました。

Asset ManagerカテゴリではPrimary Asset TypeやAsset  Base Classなど7つの設定を紹介

Primary Asset Typeを指定するためには、C++でGetPrimaryAssetId()のオーバーライドが必要とのこと

Packagingカテゴリではクック時に含む、または含まないディレクトリを指定する

Primary Asset LabelsはProject Settingより細かい単位で優先度やチャンク、クックルールを設定できる。開発ではCollectionでの指定をよく使ったようだ

本プロジェクト内では3つ全ての手法を併用しており、Asset ManagerカテゴリによるPrimary Asset Typeの定義ではキャラクター・UIなどの大きなカテゴリを、Packagingカテゴリによるディレクトリ指定ではリファレンスミスしやすい臨時アセットなどを、さらにPrimary Asset Labelsではデバッグ関連や個別のルール外アセットに合わせて活用していると語られました。

アーティストとの協業が目指されたステージ/UI設計と最適化

ステージとUIについて、まずはステージのレベル構成が解説されました。Persistent Level下にカメラ、コリジョン、デバッグ機能、エフェクト、サウンド、各種ステージ要素などの複数のレベルが存在しています。

各ステージのパラメータはData Assetを使って管理されています。この中にはキャラクターライトの設定、演出中のライトの動き、演出中のカメラの動きなどが収められています。

アーティストが何度も確認しなければならないステージのライティングは、ビルドの時間短縮のために分散ビルドを導入。3台以上のPCでビルドした場合、通常の半分程度の時間でビルドが完了するとのこと。

製品版用の確認についてはJenkinsで定期的に自動ライトビルドをしてコミットしている

キャラクターなど大量のアセットを扱う場合は、データテーブルで一括管理を行っています。データテーブルはUIが分かりやすく、CSVなどの編集しやすい形式として出力可能であり、アセットのリファレンスも持たせることができるので、デザイナーやアーティストにデータを渡すための作業と相性が良いと説明されました。

黄色枠のキャラクターパネル部分の順番もデータテーブルから自動生成しているため、この部分の仕様もプログラマーを介さずに変更できる

データテーブルに限らず、ブループリント全般で困ったこととして、Enumの最初のメンバーがすでにマップのキーとして指定されている場合、マップは同じキーを持った要素を持てないため、結果としてエディタから新しい要素を追加できなくなることが挙げられました。

開発中にはこの現象に関する質問は非常に多かったようだ

Enumを一時的に他の値に設定する、コピーしてテキストベースで調整しペーストするなどの対策を取る必要があった

このほかにも、UIのテキストなどでテキストスタイルを設定した数パターンのブループリントクラスを用意し、それを継承することで、フォントやサイズをまとめて設定しUI制作の作業効率を高められるテクニックなどが紹介されました。

アーティストの工数削減の手段として汎用アニメーションを流用するため、ウィジェットにはNamed Slotを利用しているとのこと。ただし、やりすぎるとウィジェットの階層が深くなりがちで可読性やパフォーマンスが落ちるため、「加減が必要」だと語られました。

何かの拍子にウィジェットのナビゲーションフォーカスがロストしてしまい、マウス以外の操作を受け付けなくなる問題については、入力用UMGを設定し、そこからフォーカスがロストした場合にSetFocusToGameViewport()を呼び出すことで解決しています。

スライドではブループリントによる処理の実装例が示されているが、実際にはプラットフォーム対応のためにC++で実装されているとのこと

キャラクターセレクト画面など、1Pと2Pで表示が対称になる場面については、2P側のUIを反転表示した後に文字やアイコン画像などの部分をさらに反転させています。これにより、片方のウィジェットを調整するだけで両方のウィジェットに結果が反映できています。

反転部分はブループリントで実装されており、2P側ではX軸のスケールを反転させている

UIより手前にキャラクターが表示されるケースの対応

インゲームの必殺技などの演出において、エフェクトやキャラクターが体力ゲージなどの前に出る表現を行うため、一部のUIは3Dで描画されています。

これを実現するために、ランタイムでのHUDとカメラ距離の再計算やCustom Depth Stencilの使用、HUDにポストプロセスエフェクトを適用しないようにするなどの対応が必要でした。

カメラ距離の再計算を行わない場合の例。演出中にHUDが遠くへ行ってしまっている

距離の再計算は解像度やFOVを使い、比較的簡単な数式で求めることができた

ポストプロセスについては3DWidgetのCustom Depth Stencilを利用してポストプロセスマテリアルの適用をマスクした

ただし、ポストプロセスに関してはFXAAによるアンチエイリアスを除外できていないことが判明し、エンジン改造をしてCustom Depth Stencilでのマスク処理をFXAAシェーダーにも反映させています。

また、このタイトルでは演出中にカメラを激しく動かすために想定外のステージオブジェクトがカメラ映り込む恐れがありました。そのため各セクションと事前に相談し、セーフゾーンを決めた上でステージ班に渡しています。

カメラの前にステージオブジェクトである木などが映り込んでしまった例

黄色い直方体がセーフゾーン、白い四角はバトル範囲を示している

セーフゾーンギリギリまでステージオブジェクトが配置されている

GPU負荷は6ms以下、CPU負荷はドローコール含めて2ms以下に最適化

最適化について、本作ではあらかじめ「GPU負荷は6ms以下、CPU負荷はドローコールを含めて2ms以下」というステージの処理コストの基準が策定されていました。

この基準を満たす上で呂氏が行ったのは、ほとんどがカリングを考慮したアクターマージでの最適化のみであるとしました。

LOD(Level of Detail)を使ったリダクションも考えていたものの、開発序盤以外には使用していない。また、開発後半はほぼアーティストに任せていたとのこと

カリングは現在カメラに映っていない部分を描画しないことでパフォーマンスを上げる機能ですが、オブジェクトが多いとカリングする・しないの判断をする処理自体が重くなってしまいます。そのため、複数のアクターをマージすることで負荷軽減を図っています。

格闘ゲームは基本的に前方からのカメラのみが使用されるため、「中央と画面両端からの視点(3箇所)から見ることで映る可能性のあるオブジェクトが大体分かる」と説明されました。

また、UIの最適化についてはウィジェットリフレクタ機能を活用し、想定外のUIが表示されていないかどうかを確認していたと語られました。アニメーションなどで見えなくしたものの、消し忘れているウィジェット要素の検出などに役立っています。

キャラクターセレクト画面で、メインメニューのウィジェットがすべて描画されていたこともあったという。ウィジェットリフレクタを使用したことで「なぜ重いのか」が判明した事例

続いて、ロードについての最適化が説明されました。メモリからゲーム内にロードする「AddToWorld」部分ではなく、特にストレージからメモリへとロードするメモリロードの部分が解決すべき問題として挙げられました。

ロードには同期ロードと非同期ロードがあり、同期ロードは速度が早いもののヒッチや画面停止しやすく、非同期ロードは速度が遅いもののヒッチは少ないという特徴があります。

本作では同期ロードと非同期ロードを使い分けており、各画面表示時に最初に見えるものに関しては同期ロードで一気に読み込み、ユーザーが操作しないと表示されない要素は非同期ロードで読み込んでいます。ただし、後者もユーザーが操作した時点でまだロードできていなかった場合は同期ロードをかけています。

バトル前のロードについては非同期ロードを入れるタイミングがなく、「多少画面が止まっても、時間をできるだけ短縮させたい」との要望を受けたので同期ロードを実装したとも説明されました。

しかし、結果として同じフレームで一気に同期ロードし、その1フレームが11秒と長すぎる事態に。特定プラットフォームでは1フレームに5秒以上かかると問題が発生するため、アセットを分割し、一定量ロードしたら1~2フレームのディレイを入れ、次のロードを開始するという回避方法を採用しました。

上が分割前、下が分割後の「Unreal Insights」でのデバッグ結果

呂氏は講演の総括として、「KOF XV」はSNKのUE4開発タイトルの2作目であり、まだノウハウはそこまで蓄積していないとした上で、「今後もより多くアンリアルエンジンの機能を導入してクオリティを上げたい」と語りました。

質疑応答ではアーティストとの連携について質問され、意思疎通などに苦労したことが語られた

『THE KING OF FIGHTERS XV』公式サイトUnrealEngineを馴染ませる ~THE KING OF FIGHTERS XV における開発事例~

©SNK CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.

wvigler

アンリアルエンジンにハマり、ぷちコンでゲーム作ってた男。映像編で2連覇したことも。
昔はよくアーケードゲームとかやってました。
一番やり込んだのは「ケツイ ~絆地獄たち~」「戦国BASARAX」あたり。ローグライトゲームとかも好きです。

関連記事

SDFを活用した低負荷なアニメ調のシェーディングをUE5で実装。alwei氏が解説記事を公開
2024.03.01
「Steam Audio」がオープンソース化。UnityやUEに統合できる、ゲームやVRアプリ用の空間オーディオツール
2024.02.22
実写映像を3Dアニメーション化するAIツール「Wonder Studio」にUEエクスポート機能追加。カメラやキャラクターアニメーションなどの要素に分解も可能
2024.02.16
Unreal Engine向けゲーム制作コンテスト『第21回UE5ぷちコン』開始!テーマは「おす」。応募締切は4/7(日)
2024.02.16
揺れ物を手軽に「かわいく」揺らせる疑似物理プラグイン「KawaiiPhysics」がアップデート。ボーン間の距離を維持して、モデルのスカート貫通問題を緩和しやすく
2024.02.12
「Unreal Engine」2024年2月の無料マーケットプレイスコンテンツが公開!Steam APIを活用したブループリントアセットや、ファンタジックなインテリアを集めた環境アセットなど
2024.02.07

注目記事ランキング

2024.02.27 - 2024.03.05
1
『フォートナイト』で動く本格的なゲームが作れるツール「UEFN」とは?従来のクリエイティブモードから進化したポイントを一挙紹介!
2
【CHALLENGE1】「クリエイター ポータル」を使って、UEFNで作成した島を世界中に公開する
3
【2022年5月版】今から始めるフォートナイトの「クリエイティブ」モードープレイ開始から基本的な操作方法まで解説
4
UEFNで使えるプログラミング言語「Verse」のノウハウが集結。『UEFN.Tokyo 勉強会 03 Verse Night』レポート
5
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧
6
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.1「アイテム系」
7
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.5「島の設定」
8
フォートナイトとUEFNがv28.30にアップデート。「NPCスポナー」が、スポーン・撃破時のエフェクトや移動速度のカスタマイズに対応
9
【STEP2】UEFNの基本的な使い方を覚えよう
10
【CHALLENGE2-1】フレンドと一緒にゲームを作ろう――UEFNプロジェクトをチームメンバーとリアルタイムで共同編集する
11
【STEP1】「UEFN」を入手しよう
12
まるで『マイクラ』?ボクセル地形を生み出す無料アセット「VoxelPlugin Free」で”地形を掘ったり積み重ねたり”して遊んでみよう
13
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.4「ゲームシステム系」
14
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part1
15
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.2「ユーティリティ系」
16
フルカラー書籍「UEFN(Unreal Editor For Fortnite)でゲームづくりを始めよう!」、ついに本日発売!全国書店で好評発売中!
17
【CHALLENGE3】UEFNの機能「ランドスケープ」を使ってオリジナルの地形を作る
18
NIKEのAir Maxをテーマにしたフォートナイトの島『Airphoria』、制作に関するチュートリアルが公開
19
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.10「UI系」Part1
20
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.10「UI系」Part2
21
『フォートナイト』で建築ビジュアライゼーション!?UEFNでオリジナルの世界観をどう作り上げたか、その手法を解説【UNREAL FEST 2023 TOKYO】
22
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.6「チーム・対戦系」Part1
23
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.3「プレイヤー系」
24
フォートナイト クリエイティブとUEFNで使える仕掛け一覧 Vol.7「NPC系」Part2
25
フォートナイトとUEFNがv26.30にアップデート。ロビー画面が一新され、クリエイターが島ごとにロビー背景を自由にカスタムできるように
26
【STEP6-1】「オリジナルキャラクターを登場させよう」――Fabでアセットをダウンロードしよう
27
「UEFN」って実際どうなの? 編集部が3時間で「みんなで遊べるアクションゲーム(?)」を作ってみた
28
【STEP4-1】コース外に出たらデスする仕組みを作る
29
【STEP4-2】リスポーンとチェックポイントの仕組みを作る
30
【STEP5-1】スタート時のカウントダウンを作る
VIEW MORE

イベントカレンダー

VIEW MORE

今日の用語

レンダリング(Rendering)
レンダリング コンピューターグラフィックスにおける、各種データ(3Dモデルなど)をプログラムを用いて計算し、画像として表示すること。レンダリングを行うプログラムをレンダラー(Renderer)と呼ぶ。
VIEW MORE

Twitterで最新情報を
チェック!