国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2022」が、2022年8月23日(火)から8月25日(木)まで開催されました。初日の8月23日には、LUDiMUS(ルーディムス)代表取締役 佐藤 翔氏が登壇し、「中南米のゲーム産業・市場を深掘りする」と題した講演を行いました。
TEXT / 藤縄 優佑
EDIT / 神山 大輝
登壇した佐藤氏は新興国のゲーム産業に精通しており、インディーゲーム開発者をサポートするプログラム「iGi(indie Game incubator)」の共同創設者としても活動しています。佐藤氏はこれまでのCEDECで中東・東南アジア・インドなどのゲーム市場について解説してきており、今回は中南米地域(ラテンアメリカ)におけるゲーム市場やゲームの開発状況について、自身の経験を交えながらデータや事例を紹介しています。
中南米の基本情報
講演冒頭では、中南米の基本情報として、人口・経済・言語分布の概要などが紹介されました。
中南米の人口
中南米全体の人口は6.6億人で、東南アジアの6.2億人と同程度の規模を誇ります。なかでも2.1億人のブラジルと、近年日本の人口を抜いたメキシコ(1.29億人)が、人口においては大国といえます。中南米の人口ピラミッドを見ると25歳以下が人口の約半分で、年齢比のバランスは安定しています。
中南米の経済
中南米全体の経済にかかわるデータとしては、2021年時点のGDP(国内総生産)は5兆ドルです。これは日本と同程度で、東南アジア(3.4兆ドル)よりも大きい規模です。
国によって一人あたりのGDPの開きが大きいのも中南米の特徴です。5,000ドルを超えている国は多く、たとえばブラジルは7,000ドルで、チリは10,000ドルを超えています。一方で、ハイチ共和国はマフィア同士が抗争しており、一人あたりGDPは2,000ドルほど。ハイパーインフレで苦しんでいるベネズエラは1,500ドルと、一人あたりGDPが低い国も複数存在します。
消費財のマーケティングにおいて、一人あたりのGDPが5,000ドルを超えるタイミングと10,000ドルを超えるタイミングで売れる商品の幅や種類が非常に広がると、佐藤氏は話します。中南米はその条件を満たす国が複数あることからも、一般の消費財を売る市場として大きいことが分かります。
今の中南米で経済状況が厳しそうにみえる地域も、豊かだった時代を過ごした国もあります。戦前のアルゼンチンは一人あたりのGDPが世界5位に入っていましたし、ベネズエラも1970年代は日本より一人あたりのGDPが高かったのです。
国が豊かになると文化産業が栄えるのが常で、文化へ投資する意識も根付きます。かつて富かだった国が多い中南米は政府の文化支援も盛んで、最近はゲームも積極的に支援するようになってきています。目を見張る成長を遂げている東南アジアと中南米を比較すると、人口は同程度で経済力は東南アジアより高く、中南米のポテンシャルの高さを感じられるでしょう。
中南米の言語分布
中南米で使われている言語の特徴は、東南アジアほど細分化されていないこと。ブラジルはブラジル・ポルトガル語(ポルトガルで話すポルトガル語とは異なる)で、それ以外の国ではスペイン語が多く使われています。スペイン語は方言などで細分化されており、文法の根本的な部分が異なり、語彙も地域差があります。
佐藤氏が現地のさまざまな人と異なる地方の方言で話してみても「方言だとは理解され、話は一応通じる」そうです。また、メキシコで放映されたアニメがアルゼンチンでも見られますし、アルゼンチンで出版された漫画がペルーで読まれるケースも見受けられます。
そうしたことから、中南米におけるスペイン語の方言の違いを気にして翻訳しないよりは、中南米に向けてスペイン語で翻訳したほうが良い結果を生むだろうと、佐藤氏は意見しています。
中南米における通信インフラとSNS
こうした経済下で、ゲームプレイにかかわる通信インフラ・クレジットカード・SNSがどういった状況であるかも重要です。一般的に、通信キャリアは世界中のどの国でも3、4つは存在します。旧国営が運営する通信キャリアが1つか2つあり、残りは外資・民間企業というケースが非常に多いと佐藤氏は話します。
中南米の場合は特殊で、メキシコのAmérica Móvil、スペインのTelefónicaが中南米のどの国でも非常に強い影響力を持っており、通信インフラがどれだけ整うかはこの2社にかかっています。佐藤氏によると、都市部の通信インフラの整備はやや良くなってきているものの、東南アジアに比べるとワンテンポ遅い状況だといいます。
中南米における通信キャリアは、eスポーツなどにも影響しています。たとえば、Telefónicaの子会社が、eスポーツ観戦やクラウドゲームなどをまとめた「Claro Gaming」というサービスを提供しています。2つの通信キャリアは、自身でさまざまなサービスを展開したがる傾向にあり、彼らが納得するものであれば中南米でこうしたゲームビジネスが展開しやすくなるだろうと佐藤氏は分析します。
次にクレジットカードの保有率について。新興国はどこもクレジットカードの保有率が2割未満と低いのですが、ブラジルだけは例外で4割と高く、分割払いの習慣も浸透しています。
そしてSNSは、YouTube、Whatsapp、Facebook、Instagramなどの人気が高いとのこと。なお、日本で根強い人気のLINEは、サービススタート時は強かったものの、今の影響力は小さいといいます。
日本コンテンツの人気
中南米における基本情報として、日本コンテンツの人気についても佐藤氏は説明しています。
アメリカで人気の漫画・アニメなどは中南米でも同様に影響を受けますが、中南米ならではの特徴は『聖闘士星矢』の圧倒的人気です。アニメはもちろん見られていましたし、明らかに『聖闘士星矢』の影響を受けてることがわかるゲームが中南米で開発されています。
主な流通経路は、アニメの場合はメキシコで放映されたものが他国でも放映される形で、漫画の場合はメキシコあるいはアルゼンチンの出版社から翻訳版が出版されることが大半となっています。
各国のゲーム市場とeスポーツ
中南米で人気のゲーム
中南米各国のゲーム市場の特性の前に、中南米全体で流行っているゲームについて解説されました。中南米はプラットフォームごとに人気のゲームが存在しています。たとえば、家庭用ゲームだと『FIFA 22』。これは、サッカーが強い地域なので納得しやすい結果といえます。PCゲームだと『League of Legends』が人気です。
モバイルゲームだと、シンガポール企業Garenaがリリースしたバトルロイヤルゲーム『Garena Free Fire』が不動の人気で、中南米では億人規模(※)で遊ばれているほどです。人気が出すぎているがゆえに、メキシコのマフィアが若者をリクルートする場としても利用されてしまい、規制の動きも見られます。
※Garenaの親会社であるSeaが発表した2022年第2四半期決算によれば、『Garena Free Fire』の全世界アクティブユーザー数は6億1,930万人。モバイルゲームの収益ランキングは、東南アジアおよび中南米で3年間連続トップを維持している
フィンランドのKitka Gamesが開発した、『Fall Guys』フォロワーであるモバイルゲーム『Stumble guys』の人気も高いです。『Fall Guys』は、サービス形態を有料販売から基本無料プレイ化に変えたことで人気が再燃しましたが、モバイルには未対応です。その人気の影響を、モバイルゲームである『Stumble guys』が応えた構造となっています。
ブラジル市場について
各国のゲーム市場について、ブラジルから概要を説明します。ブラジルのゲーム市場は2021年時点で3,072億円と、間違いなく中南米最大のゲーム市場。人口の74.5%が何らかのゲームをプレイしており、女性比率は51%と高いです。
年齢のボリュームゾーンは20〜24歳。49.9%のユーザーの月額所得が最低所得の10倍以上ですが、低所得者もゲームで遊びます。プラットフォーム別の男女比は、スマホは女性比率が非常に高く、男性は家庭用ゲーム機やPCの比率が高い傾向にあります。
佐藤氏によると、新興国のゲーム市場はモバイルが圧倒的に大きく、次にPC、そこから引き離されて家庭用ゲーム機という順になるとのこと。しかし、家庭用ゲーム機がPCより普及しているブラジルのように、家庭用ゲーム機とPCの立ち位置が国によって異なるケースもあるとも話します。
ただ、家庭用ゲーム機が普及していても、正規で売れているかというと話は別。ブラジルのゲーム雑誌をチェックすると、明らかに非正規のゲームの広告が掲載されています。こうした非正規品の多くは、隣国のパラグアイから流れてくるのです。
佐藤氏によれば、ゲーム業界で絶対に知っておきたい中南米の国はパラグアイです。ブラジルとの国境沿いにあるシウダー・デル・エステ(下記スライドに描かれた地図の位置)にゲームを卸す企業が多く存在し、それら企業からブラジルに非正規品が流れます。パラグアイとブラジルの関係性によって税関の取り締まりの厳しさは変わりますが、ゲームに関しては大きく変わっていません。
ゲーム機のエミュレーターは、アーケードゲームを置きたい店やゲームセンター、それ以上に「昔のゲームを遊びたい」という個人が多く購入しています。非正規ではありますが、ゲームの売れ方の実情を把握しておくことは大切だと佐藤氏は話します。
メキシコ市場について
次に、メキシコのゲーム市場を紹介します。中南米のスペイン語圏で最も大きなゲーム市場がメキシコで、2020年時点で2,100億円規模となっています。ゲームユーザーは全人口の57.4%と推測され、7,000万人を超えています。
ゲームユーザーの75%がモバイルゲームユーザーです。特筆すべきは、家庭用ゲーム機のユーザー(20%)がPCゲームユーザー(6%)よりも多いこと。他の新興国はPlayStationのほうが割合が高くなりがちな状況ですが、メキシコはXboxのほうが普及しています(ただし非正規のXboxも流通しているとのこと)。
上記スライドの左側には、怪しげなゲーム機が写っています。佐藤氏がメキシコの方から聞いた話によると「昔はこれらで格闘ゲームの腕を磨き、強い格闘ゲームコミュニティが生まれた」といった経緯もあるとのことです。
ブラジル・メキシコ以外の中南米の状況
中南米の2大ゲーム市場はブラジルとメキシコで、重要なゲーム市場はコロンビア、アルゼンチン、ペルーです。コロンビアは治安も落ち着いてきていますし、かなりの成長株です。アルゼンチンは経済的に不安ではあるものの、中南米のなかでは一人あたりのGDPは大きいほうです。
それ以外の地域であるカリブ海の多くの国々は、言語圏としては基本的にはスペイン語圏。それら国々の市場の特性としては、メキシコやコロンビア、アルゼンチンよりもアメリカに近い、と佐藤氏は話します。これは、カリブ海のプエルトリコ(アメリカの自治領)の影響を受けていることが要因だとしています。
また、佐藤氏はドミニカ共和国やハイチ最大のマーケットのダハボンを視察したところ、ネットカフェのような店が見当たらないことも指摘しました。
中南米のeスポーツ
中南米はeスポーツが盛んな地域です。複数のタイトルにおいて、強いチーム・選手が存在します。
いくつか紹介すると、『Counter-Strike: Global Offensive』ではブラジルのMIBRという伝説的なチームがいます。『FIFA』シリーズは先述の通り中南米では人気が高いタイトルですが、世界大会で目立った成績を残せませんでした。しかし、デンマーク・コペンハーゲンで開催された『FIFA 22』の世界大会「FIFAe Nations Cup 2022」で、ついにブラジルから優勝者が出たと話題になりました。
『ストリートファイターV』においては、ドミニカ共和国に強力な選手がいます(※)。ドミニカ共和国のイベント主催者は「俺たちの国は小さいかもしれないけれど、ストリートファイターだったら中米で俺たちが最強!」と話していたとのこと。
※『ストリートファイターV』の世界大会「Capcom Cup 2017」で優勝したMenaRD選手がとくに有名
佐藤氏は「Taça das Favelas Free Fire(※リンク先は自動で音楽が再生されます)」は、「ファヴェーラ」(ブラジルにおけるスラムを指す言葉)に住む『Garena Free Fire』プレイヤー向けの eスポーツイベントも紹介しました。
中南米はベース・オブ・ザ・ピラミッド、つまり所得が低い人口層がとくに厚く、シェアを伸ばそうと考える場合こうした人々へのアプローチが必要です。その一環として打ち出したイベントが「Taça das Favelas Free Fire」です。
※佐藤氏が挙げたチーム以外では、『VALORANT』の世界大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 — Masters Reykjavík」で2位を記録したブラジルのチーム LOUDは日本でも有名
中南米で開発されたゲーム
中南米のゲーム開発者が関わったゲームの数は膨大で、日本でも有名なタイトルがいくつもリリースされています。
先述したように、中南米は文化産業を支援する文化・歴史が長い地域です。自然と芸術大学のレベルも高い状態にあり、アーティストが手がける作品のクオリティも高くなります。そうした素地に加えてゲーム開発技術力が向上したことで、見た目も中身も良いゲームが出てくるようになりました。そうした状況から、今後も面白いゲームが中南米からどんどんリリースされるだろうと佐藤氏は語っています。
佐藤氏は「ゲーム産業で次に盛り上がる新興国・地域はどこか?」と聞かれることが多く、そのたびに東南アジアと中南米はチェックする必要があると必ず答えているそうです。
BitSummitや東京ゲームショウなど、日本のゲームイベントで東南アジア発のゲームを見かけるようになってきました。中南米の情報は日本に届きづらいのですが、スーパー戦隊シリーズをモチーフにした『Chroma Squad』のように、日本文化に親しみを持つゲームも作られています。そうした意味でも、中南米は注目すべき地域だと佐藤氏は語りました。
ブラジルのゲーム開発
中南米でもブラジルの成長は特にすさまじく、佐藤氏が4、5年前に調査した際のゲーム開発スタジオ数は300程度でしたが、今は1000以上にものぼっているとのこと。ブラジルで開発されているゲームの一例は以下の通りです。
イスパノアメリカのゲーム開発
スペイン語話者が住む中南米地域を指すイスパノアメリカでも、『VA-11 Hall-A』や『Fallout Shelter』といった有名タイトルが登場。ドミニカ共和国やエクアドル、ペルーなどからさまざまなゲームが発売されているうえ、政府から厚い支援を受けています。イスパノアメリカで開発されているゲームの一例は以下の通りです。
ベネズエラ
・世界的人気作『VA-11 Hall-A』の続編『N1RV Ann-A: Cyberpunk Bartender Action』(※開発スタジオのSukeban Gamesはベネズエラで開発していたが、後に国外へ拠点を移している)
ウルグアイ
・タワーディフェンスの走りとも言える『Kingdom Rush』
チリ
・管理シミュレーション『Fallout Shelter』のモバイル版は、カナダのBehaviour Interactiveのチリ支社が開発した(後にチリ支社は閉鎖)
メキシコ
・宇宙飛行シミュレーション『Kerbal Space Program 2』は、1作目を開発したメキシコのチームが参加している
メキシコ
・かわいらしいネコの部屋を飾り付けするゲーム『KleptoCats』(Android/iOS)
・村の復興を目指すアドベンチャー『Lonesome Village』
コロンビア
・時を操作するRPG『Cris Tales』
アルゼンチン
・過去の自分と一緒に戦うタイムループ対戦FPS『Quantum League』
・3体のモンスターを使い、小さな仲間とともに戦う3Dアクション『Teratopia』
ドミニカ共和国
・夢の世界を舞台にしたメトロイドヴァニア『Endless Memories』
エクアドル
・古代文明を守るべく戦うメトロイドヴァニア『Guardian of Lore』
コスタリカ
・チリのチームと共同制作し、G.I.ジョーをテーマにしたTPS『G.I. Joe: Operation Blackout』
ペルー
・ペルー文化にインスパイアされた世界を冒険するアクション『Imp of the Sun』
ボリビア
・小さなクマが主役のゲーム『Jukumari』(Android/iOS)
XR・NFTゲームなどの状況
アルゼンチンではブロックチェーン技術を使ったゲームやビジネスが非常に増加しています。アルゼンチンは経済が安定していないため、米ドルやビットコインを持ちたがる人が多く、これらの事情からブロックチェーン技術や仮想通貨などの利用者も多いとのこと。こうした背景から、NFTゲームを作る人も増えていると佐藤氏は説明しました。
同時に、NFTゲームなどの開発者と従来のゲームを開発する方の間で衝突が起きています。ブラジルのゲームイベントであるBIG Festivalでは、『Chroma Squad』開発者であるMark Venturelli氏が登壇し、「NFTゲームはなぜ悪夢なのか」という話をしています。従来のゲームを作っている開発者からすると、NFTゲームに不安を感じてる状況といえます。
中南米で開発されているXR・NFTゲームの一例は以下の通り。
ブラジル
・協力プレイ可能なVRシューター『Trailer – Laser Storm VR Team Arena』
アルゼンチン
・ブロックチェーンを活用したサンドボックスゲーム『The Sandbox』(※元になったゲームはアルゼンチンの開発者が手掛けた)
・ユーザー同士で交流などを楽しめるメタバース系ゲーム『Decentraland』
中南米の主なゲーム開発関連イベント
中南米はゲームイベントの数も多い地域です。佐藤氏が中南米でまずウォッチすべきゲームイベントは、ブラジルのみならず中南米のゲーム開発者が集まるという、ブラジルのBIG Festival。次いでスペイン語圏で最大級規模であるアルゼンチンのExpo EVAだと言います。
メキシコはゲーム会社が多いのですが、拠点がバラバラでまとまりづらく、イベントはアメリカに行ってしまうそうです。そんなメキシコでもThe Game Summit MXというイベントが開かれるようになりました(近年は新型コロナウイルスの影響で中止)。
また、コロンビアのデジタルクリエイティブイベントColombia 4.0にはコロンビアのゲーム開発者も登壇するため、こちらも注目すべきイベントと言えます。
ブラジル政府は、2021年にブラジルのゲーム産業に関するデジタルイベント「Brazilian Game Week」を開催しました。これは、ブラジルのゲーム市場やビジネスにまつわる話をさまざまな切り口から講演などを行うオンラインイベントで、日本語のWebサイトも用意されています。
これらは「中南米について勉強したい、ブラジルのゲームを見つけたい、ブラジルのゲーム開発者さんとゲームを作りたい」といった方にとっては良いイベントだと佐藤氏は説明しています。
域外企業の中南米市場での活動とまとめ
最後に、中南米の域外の企業、つまり欧米や中韓などの企業が中南米でどういった活動をしているのかを解説します。
欧米・中韓企業の成功事例
日本企業は中南米で撤退・進出を繰り返しており、成功事例として挙げられる事例はないと佐藤氏は言います。強いて挙げるなら、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が過去に実施していた、PlayStationのクリエイターを育てるプログラム。中南米に良いゲーム開発者さんが登場する要因の一つとしてSIEが関わっているのではないかと佐藤氏は意見していました。
アメリカのゲーム開発関連企業のなかには、アメリカのラティンクス市場(中南米にルーツを持つ米国在住者)を中南米と一体とみなし、統合してマーケティングしているところも多く存在します。すなわち、スペイン語やポルトガル語を話す地域を一緒に扱うのです。
例えばメキシコからアメリカ南部に移住した方は、メキシコにいる兄弟などの家族とつながりがあり、一緒にゲームをプレイしているかもしれません。アメリカのラティンクスと中南米を切り分けて考えず、2つの地域を同じマーケティングやeスポーツイベントの担当者が見ることで成功している事例もあります。
一例としては、マイクロソフトが開催していた『Gears 5』のeスポーツイベントがそれに当たります。同イベントは中南米とアメリカで実施し、特にアメリカのスペイン語話者のユーザーが多く参加し、アメリカのラティンクスのチームやメキシコのチームが上位争いをしていました(※2022年7月に同イベントは終了)。
一方の中国企業は、『聖闘士星矢』のモバイルゲーム『Saint Seiya: Legend of Justice』など、モバイルゲームで成功例をいくつも生み出しています。それ以外では、韓国企業のPC向けMMORPGは一定の存在感があります。
グローバル市場における中南米の立ち位置
先に挙げた「ラティンクス」は重要なキーワードだと佐藤氏は話しています。ラティンクスのゲームユーザーやストリーマー、ゲーム開発などのコミュニティとして機能するLatinx in Gaming、ラティンクスの人々のためのゲームイベントLatinx Games Festivalなど、ラティンクスに向けたイベントが次々に開かれるようになってきています。
世界最大のゲームマーケットであるアメリカにおいても、アメリカの人種別世帯の家庭用ゲーム機の保有率は、今や白人家庭よりもスペイン語話者の家庭の方が高く、アメリカ内の家庭用ゲームの主なターゲットはラティンクスに移ってきています。その延長線上にあるのが中南米なので、よくチェックしておくことが肝要だと佐藤氏は語りました。
中南米は理解する必要性が高いゲーム市場
中南米のゲーム市場は家庭用ゲームの非正規輸入なども起きており、秩序が成立しているとは言えない状況です。しかし、市場規模は新興国のなかでも大きく、オンラインゲーム市場での成長が期待できます。また、人気のある日本IPも存在します。
政府などが文化を自国に残すべく支援に積極的な姿勢を見せている影響もあり、現地のゲームスタジオから質の高いタイトルが続々と登場する、と佐藤氏は語ります。
アメリカにおいても中南米出身者、ラティンクスが市場セクターを形成しています。佐藤氏は「世界最大の市場であるアメリカのユーザー動向を理解しようと思うなら、中南米市場を理解することも必要」と語り、講演を締めくくりました。
中南米のゲーム産業・市場を深掘りする - CEDEC2022編集プロダクション「浦辺制作所」に所属。ITやゲームにかかわる書籍・Webメディアにおいて、執筆と編集を担当している。ゲーム全般が下手だけど好き。
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