Google Cloudとスクウェア・エニックスは2026年3月18日(水)、『ドラゴンクエストX オンライン』(以下『ドラクエ10』)に対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」を導入することを発表した。
本発表は、メディア向けに行われた「ゲーム体験における Google Cloud の生成 AI 活用事例に関する記者説明会」で行われた。本稿ではその発表内容について紹介する。
Google Cloudとスクウェア・エニックスは2026年3月18日(水)、『ドラゴンクエストX オンライン』(以下『ドラクエ10』)に対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」を導入することを発表した。
本発表は、メディア向けに行われた「ゲーム体験における Google Cloud の生成 AI 活用事例に関する記者説明会」で行われた。本稿ではその発表内容について紹介する。
TEXT / 松井 ムネタツ
EDIT / 浜井 智史
「おしゃべりスラミィ」(以下、スラミィ)は、Googleが開発・提供する生成AIモデル「Gemini」を活用しており、ゲーム内チャットを用いてコミュニケーションが可能。プレイヤーから話しかけるだけでなく、スラミィ側からも会話を持ちかけてくることがあり、交流を重ねるうちに親密度が高まっていくという。
ユーザー向けには2026年3月21日(土)に、『ドラクエ10』ファン向け公式イベント「ドラゴンクエストX 春祭り 2026」内で発表され、同日よりクローズドベータテスト参加者の募集を開始。応募は3月30日(月)まで受け付けている。
説明会では、まずGoogle Cloud ゲームインダストリーグローバルディレクターのジャック・ビューザー氏が登壇し、ゲーム業界が直面しているという深刻な問題点と、それを解決するAIを活用した新たなビジョンを解説した。
ゲームに対するプレイヤーの支出は2025年で過去最高の1960億ドルに到達し、市場は拡大している一方で、企業の営業利益は2021年以降、年平均で7%の減少を続けているという。
大きな要因のひとつとして挙げられたのは、ゲーム開発コストの急騰だ。2017年以降は開発コストが90%増加し、コンテンツ投資額は年間400億ドルに上るとのこと。
さらに、プレイヤーの可処分時間の半分以上は、発売から6年以上経過した『Roblox』など既存タイトルに奪われているという。現在のゲーム業界は「ほぼ2倍のコストを投じて、残りのわずかなシェアを奪い合う」という完全に機能不全に陥ったモデルの中にいると、同氏は警鐘を鳴らしている。
その打開策としてGoogle Cloudは「リビングゲーム」というビジョンを提唱。これはライブサービスとAIを融合させ、プレイヤー一人ひとりに知的・動的に適応し、常に進化し続けるゲーム体験ができるものだという。
このビジョンを実現させるために、3つの領域でAIを活用すべきだと同氏は語る。
1つはゲーム開発コストの改善。AIによって反復作業を短縮し、開発スピードを劇的に向上させることができる。
次にビジネス変革。データとAIを活用し、サービス運用やマーケティングなど開発以外の領域も効率化させていくというものだ。
最後はプレイヤー体験の変革。ライブサービスにリアルタイムのAI推論を組み合わせることで、メディアとしてのゲームを再定義することが期待されている。
つまり、ゲームにおけるAIが「バディ(相棒)」としての役割を果たすことで、ユーザー体験に大きな変革をもたらすことができると同氏は説明する。
プレイヤーと冒険を共にして、難解なパズルを解くのを手伝ったり、負けたときには励ましてくれたり、勝利すれば喜びを分かち合ったり……と、感情に寄り添うパーソナルな体験が、AIで可能になるというビジョンである。
AIバディの実現を支える核心技術が「Gemini Live」だ。低遅延でマルチモーダルな会話を可能とするこのシステムにより、AIはプレイヤーの言葉を理解するだけでなく、同時にゲーム画面を「見る」ことができ、状況に応じて極めて自然なコミュニケーションを取ることができる。
ジャック氏はメディアからのQ&Aコーナーで、開発者にとってのAIを「アイアンマンのスーツ」に例えた。才能あるクリエイターがAIというパワードスーツを纏うことで、これまでの限界を超えたスピードと創造性を享受できるという考え方だ。この変革は、90年代後半に起きた「2Dから3Dへの移行」以来の、あるいはそれを超える大きな革命であると同氏は断言した。
Googleはゲームを最先端AI研究の中心と位置づけ、10年以上の歴史に裏打ちされた最高のテクノロジーを提供することで、クリエイターが「プレイヤーを一人きりにさせない未来」を描くためのキャンバスを提供し続けると締め括った。
後半は、スクウェア・エニックスの『ドラクエ10』ショーランナー 安西崇氏(右)と、同社のAI&エンジン開発ディビジョン 荒牧岳志氏より、同作におけるAI活用事例が紹介された。
安西氏は、『ドラクエ10』は14年間にわたるアップデートによって膨大な要素を持つ「立派な遊園地」へと成長を遂げたと語りつつも、巨大であるがゆえに新規プレイヤーが「どこから遊べばいいか分からない」と戸惑い、孤独を感じてしまうという課題を挙げた。
これを解決するべく、オンラインゲームならではのコミュニケーションにAIという新要素を加える形で考案されたのが、今回のプロジェクトの始まりだったという。
開発の指針となったのは、『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親である堀井雄二氏との対話にあった。堀井氏は、村人などのNPCにAIを入れて無限に会話できるようにすることには否定的だったという。会話を切り上げるタイミングが分からず、プレイヤーの負担が嵩んでしまうからだそうだ。
そこで堀井氏が提案したのは、村人ではなく「一緒に遊んでくれる友達」や「共に戦う仲間」としてAIを導入するアプローチだった。親友や家族とゲームを遊んでいるときのような「寄り添う体験」こそ『ドラクエ10』が目指すべきAIの姿であるとして、スラミィの開発が進められた。
スラミィは、プレイヤーをずっと見守ってきた「死神見習いのスライム」という設定をもつ。最初に性格診断を行うことでプレイヤーに合った性格のスラミィが誕生し、ゲーム進行度やシチュエーション(たとえば「プレイヤーが初めて本作の舞台であるアストルティアに降り立った日」など)に適した会話を行う。
プレイヤーがより話しかけやすくなるように、専用のチャットスタンプ(※)で手軽に会話を始められるようにするなどゲーム的な工夫も施されている。
※ イラストとコメントが組み合わさった「スタンプ」を送信できる機能
また、プレイヤーからの問いかけに応じるだけでなく、プレイヤーの服装の変化や冒険の状況に応じてスラミィのほうから会話を持ち掛けてくることもあるのが大きな特徴であるといえる。
なお会話内容はプレイヤーとスラミィの間だけで完結し、他のプレイヤーに見られることはない。
技術的な領域については荒牧岳志氏より解説された。
同氏はこれまで10年以上にわたり、ゲームにおけるAIの実装や研究を続けてきたそう。今回Gemini Liveを採用した理由として、高いレスポンス性能、世界観に合わせたカスタマイズの柔軟性、そして画面情報を認識できるマルチモーダル機能を挙げた。Google側からすぐモックアップの提供を受けられたことも、プロジェクト推進の大きなきっかけとなったそうだ。
カスタマイズ性に関しては、ゲーム外の一般知識(たとえば渋谷の話題など)について発言しないように制御しつつ、『ドラゴンクエスト』シリーズ特有の口調や知識を反映させるために、サーバー側でプロンプトや生成した回答を厳密に管理しているのだと解説された。
また、AIを用いたシステム開発の効率化についても言及。絵を描くのが苦手なプランナーがAIを使って装備のイメージを生成し、企画段階でデザイナーとの情報共有を円滑にしたり、品質管理(QA)のテスト工程を自動化したりといった取り組みが、高騰する開発費の抑制に寄与しているという。
説明会の最後には安西氏より「オンラインゲームでキャラクターの“中の人”を気にせず遊ぶ自由があるように、AIが友人として介在する未来もまた自然な進化であり、スラミィがゲームとAIの新しい未来を築く第一歩になるのではないか」と期待が語られた。
ゲーム開発において、AIを活用することがすでに当たり前になってきている昨今。開発側がどのようにAIを取り入れるかという議論も盛んに繰り広げられる一方、この事例はユーザー側がAIと会話するという位置づけで、ゲームとAIの関わり方をさらに推し進めた形となっている。
今後こうしたタイトルが増えて「最初の事例は『ドラクエ10』だったよね」と語られる日がくるかもしれない。『ドラクエ10』ユーザーは、ぜひこの対話型AIバディをクローズドベータテストから体験してみてほしい。
対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」クローズドベータテスト参加者募集! (2026/3/23更新)|『ドラゴンクエストX』プレイヤー専用サイト「目覚めし冒険者の広場」『ドラゴンクエストX オンライン』公式サイトパソコンゲーム雑誌、アーケードゲーム雑誌、家庭用ゲーム雑誌を渡り歩き、現在はフリーのゲーム系編集/ライター。マイベストゲームは『ウィザードリィ 狂王の試練場』で、最近だと『Forza Horizon』シリーズに大ハマリ。メインPCはAlienware Aurora。セガ・レトロゲーム系メディア「Beep21」副編集長をやりつつ、ボードゲームメディア「BROAD」編集長も兼任。
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