2025年7月18日(金)から8月31日(日)にわたって開催された、アンリアルエンジンの学習を目的としたゲーム制作コンテスト「第24回UE5ぷちコン」。今回は「スピード」をテーマに165作品の応募がありました。
本記事では、最優秀賞を受賞した『Pokke_the_Rush』の制作者である鍋入りさんに、企画から実装に至るまでの工夫やこだわりについて伺いました。
2025年7月18日(金)から8月31日(日)にわたって開催された、アンリアルエンジンの学習を目的としたゲーム制作コンテスト「第24回UE5ぷちコン」。今回は「スピード」をテーマに165作品の応募がありました。
本記事では、最優秀賞を受賞した『Pokke_the_Rush』の制作者である鍋入りさんに、企画から実装に至るまでの工夫やこだわりについて伺いました。
TEXT / 浜井 智史
鍋入りさん
ゲーム会社でフロントエンジニアを務める。学生時代からUnityでゲーム制作を行っており、ゲームジャム参加経験なども。「第24回UE5ぷちコン」では『Pokke_the_Rush』が最優秀賞を受賞。
応募作『Pokke_the_Rush』はitch.ioで公開中。
なお、写真は愛犬のココ
――まずは自己紹介として、ご経歴やゲーム制作経験をお聞かせください。
鍋入りと申します。2018年より新卒入社したゲーム会社で7年ほどフロントエンジニアを務めており、バックエンド側も少し担当した経験があります。
学生時代にはUnityで制作したゲームを文化祭などで展示していました。就職後はしばらく仕事に専念していましたが、1年ぐらい経って余裕が出てきてから個人制作も再開し、Unity1週間ゲームジャムに参加したり、学生チームを率いてゲーム制作イベントに参加したりしています。
――Unityユーザーの方だったのですね。一方で「ぷちコン」はアンリアルエンジン(以下、UE)を使用するコンテストですが、以前からUEも使用されていたのでしょうか。
2、3年前に4Gamerさんが出していたチュートリアルを参考にゲームを作ったり、2021年に開催された「アンリアルクエスト」に参加したりと、簡単な操作経験はありましたが、本格的にゲーム制作に使用したことはありませんでした。
そんな中、大学の後輩にあたる「こが」さんからぷちコンへの誘いを受けたので、勉強もかねて参加することを決めました。
こがさんも今回の「第24回UE5ぷちコン」に参加している。応募作品は『トルクディフェンダー』
――ここからは最優秀賞作品『Pokke_the_Rush』についてお伺いします。まずは、簡単にゲームの紹介をお願いします。
電脳空間をアバターで駆け抜けるハイスピードアクションゲームです。左クリック連打で突進・攻撃を仕掛け、ジャンプ台やグラインドレールを駆使して最速ゴールを目指すタイムアタックとなっています。
ステージには行く手を阻む障壁があり、数字キー入力でロックを解除できます。右手のマウス操作で移動・攻撃しながら、左手のハッキング操作で障壁を突破するマルチタスクを楽しんでもらいつつ、1,2分くらいで1ステージをクリアできるボリュームで制作しました。
ストーリーは、一見普通の女子学生が凄腕ハッカーとして暗躍するというものです。友人のピンチを救うなどの目的でハッキングを仕掛け、ミッションを遂行していきます。
『Pokke the Rush』応募動画
――サイバー空間を舞台としたハイスピードアクションゲームという構想は、いつ頃から固まっていたのでしょうか。
ハイスピードアクションにしようと決めたのはテーマを聞いてすぐのことでした。
もともと『Pizza Tower』や『ワリオランド』シリーズなどの2Dハイスピードゲームが好きだったので、そうした中世モチーフのゲームを3Dで作ろうと構想していました。
しかしフィールド用のアセットを探すのに難航したため、UEデフォルトのプリミティブなアセットで制作コストを抑えられると考え、舞台をサイバー空間に変更しました。
――路線変更を決めたのはどのくらいのタイミングでしたか?
テーマ発表から約1週間後にフィールド用アセットを探し始め、その直後に路線変更を決めたので、かなり初期のことでした。
そこからぶっ通しで開発を続け、1.2か月ぐらいで本作が完成しました。
――フィールド作成ではUEデフォルトのアセットを使用したとのことですが、そのほかに外部アセットなどは使用しましたか?
プレイアブルキャラクターである主人公の3Dアバターは、VRChat用の3Dモデル「pokke(ポッケ)」をお借りしています。
サウンドはパーカッションや電子音系のフリー音源で、とくに加工などをせずに使用しています。ステージに入った時のエコーなどは手付けしており、フリーの音声編集ソフト「Audacity」で加工しました。
また、フィールドのデフォルトメッシュをより機械的・電子的な質感に仕上げるため、SuperGrid Starter packのマテリアルを使用しました。
――アクションゲームのシステムが現在の形となった過程を教えてください。
幼少期から好きだった『ソニック』シリーズの影響もあり、ジャンプと連続ホーミングアタック(※)、グラインドレールを主軸に制作しました。敵にカメラを向けて左クリックを連打しておけば一通りゲーム進行ができるように、緩めに調整しています。
※ クリックで敵などに自動接近・撃破するアクション
そのベースのアクションシステムに要素を追加して、プレイ開始1分のプレイフィールで強い印象を生み出そうと考えたとき、『Deadeye Deepfake Simulacrum』などに見られるハッキング操作に思い至りました。特定のボタンを押すだけで終わるのは捻りがないため、コマンドアクションとして導入しました。
――最初の1分のプレイフィールを大事にする考え方は、どういった背景で養われたのでしょうか。
Unity1週間ゲームジャムで相互にゲームをプレイし合う文化に触れており、そのときにゲームを遊んでくれる人を歓迎するようなプレイ体験を提供したいと考えているところから、本作のブラッシュアップにも影響しているように思います。
キー入力演出は、本質的にはただ数字キーを入力するだけの操作なので、単調さを感じさせないように『Rez』(※)などの演出を参考にして、SEやルックなどのフィードバックを大切にしました。
※ 2001年にセガがリリースした、PlayStation 2・ドリームキャスト用の3Dシューティングゲーム。2008年にはHDリマスター版『Rez HD』、2016年にVR対応版『Rez infinite』がリリースされている
アクション中にこなせる並列タスクとして、数字を順番に入力する形に落ち着いた
本作のサイバーパンクな世界観を構築するにあたり、『Rez』などの既存作品にインスパイアされています。
例えば、画面左上のスクリプト表示も『Rez』を意識しています。このスクリプトはアクションに紐付けられたコンソールログで、レールやジャンプ台を使うコマンドの発動時や、敵を倒した際にプロセスIDが表示されるような挙動をイメージしています。高度で高速なハッキングをこなしている感触を得てもらうために導入しました。
コンソールログは、ゲーム中に行うアクションや敵の撃破などに対応して表示される
また、スコア計算の仕組みは『Pizza Tower』の仕様を参考にしつつ、残り時間、HP、スコアを「TOKEN」という単一の値に統合しました。これによりHPなどのパラメータが不要となり、ランキングもTOKENを表示するだけで済むので、作業工数を大幅に削減できました。
ホーミングアタックについては、アタック可能タイミングでのロックオンと、クリックによるアタック確定時でロックを分けています。この状態遷移は『ソニックフロンティア』『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』などのシステムを参考にしています。
また、グラインドレールの途中ではなく先端からホーミングアタックできる仕様も、昨今のソニックシリーズに倣っています。
そのほかにも、ニューロマンサーや攻殻機動隊といったサイバーパンク作品など、これまで自分が触れてきた数多くの作品がリファレンスとなり、本作の世界観の形成に大きく反映されています。
――プレイフィールを向上するために、ほかにどのような点を工夫しましたか?
まずカメラの追従を緩く設定して、疾走するキャラクターをやや遅れて追いかける形にすることでスピード感を演出しました。これは結果的に酔いの軽減にもつながりました。
またNiagaraでRibonエフェクトを作成し、ホーミングアタック時に光の帯を発生させています。
ほかにも、風切り音を移動速度に応じて切り替えています。フレームごとに位置を参照して、その差分を計ることで速度を割り出しています。余裕があればスピード線も出したかったのですが、作業期間の兼ね合いで断念しました。
――演出の重要度や作成順を決める上で、どのように判断基準を設けましたか?
第1に開発速度を重視しました。作れそうなものだけを選定して、その中からとくに入れたいものから着手しました。
コンソールログは絶対に入れたかったので真っ先に実装し、Ribonエフェクトも優先的に取り入れました。
――エフェクト作成にはどの程度の工数をかけましたか。
爆発やボードに乗っている際のエフェクトは、基本的にUEデフォルトのものを使用しています。
より強調して見せたいエフェクトはNiagaraで手付けしています。Ribonによる光の帯や、チェックポイント破壊時に飛散する破片・Rippleなどです。これらは合計30分ほどで作成しています。少ないポリゴン数とシンプルなマテリアルで、いかに見映えの良い演出を作り出せるかに注力しました。
――UIアニメーションもコンピューター的でスピード感があり、洗練された印象を受けました。作成にあたり工夫された点はありますか?
UIのカラーリングは、無機質なサイバー空間に合わせて白基調で統一しました。その落ち着いた画面でもUIアニメーションを印象づけるため、コンボ数カウントやTOKEN表示はRotateとScaleを活用して素早く大きく見せるようにしています。
また被ダメージ演出では、画面に赤フェードをかけつつUIを振動させています。UIアニメーションでは全体的に、作業コストを抑えつつ良いフィードバックを与えられるように仕上げています。
攻撃被弾時や落下から復帰するタイミングでは、赤フェードと振動により非ダメージを表現している
――ここまでアクションゲームパートの工夫をお聞きしてきましたが、続いてメニュー画面の話に移ります。チャット形式で物語が進むスタイルはどのような過程で完成したのでしょうか。
イラストの発注方法などに詳しくなかったので、今回はテキストチャットを通じてストーリーやキャラクター設定を伝える「環境ストーリーテリング」方式を採用しました。
友達とカフェの約束をするチャットや、洋服店から届くクーポン通知など「普通の女子学生」の生活が垣間見える一方、ハッカー稼業の取引履歴を覗くこともでき、ストーリーに深みを持たせています。デザインは専門ではありませんが、できる範囲で自作しています。
小ネタとして、ハッキング用アバター「pokke」の入手ログも
具体的なチャット内容やストーリー進行は、Geminiとの壁打ちによってアイデアを広げています。また洋服店などの自動メッセージは、Geminiに指示して20文字くらいで3件ほど生成させた候補の中から選んだ文章を、そのままゲームテキストとして採用しています。
――こうしたUIは普段の業務でも触れた経験があるのでしょうか。
普段ソーシャルゲームのUI実装に携わっていることもあり、すんなりと作成することができました。
主人公が友人たちとチャットを交わすアニメーションは、プレイヤー自身がリアルタイムで入力している雰囲気を出すために、メッセージ送信欄に自動で文章が入力されるような演出としています。
チャットメッセージのテキストデータはCSVをData Table型でインポートしました。こちらも本業でマスターデータをCSVで作成し、アプリケーション側でパースする作業を経験していたため、同じようなフローで制作できました。
データテーブル型から構造体の列挙をもらうにあたって、インポート処理を自分で記述する必要があったのが大変でしたが、そのほか大きな問題もなく取り扱えました。
――続いて実装面について、まずキャラクターの動作はどのように作成しましたか?
デフォルトのThirdPersonCharacterブループリントに、ジャンプやホーミングアタック、ロックオンなど各アクションを追加で実装しています。ハッキングのシステムも、入力を受け付ける必要があるためThirdPersonCharacterに入れました。
――ホーミングアタックはどのように実装しましたか?
カメラからSphereTraceByChannelを飛ばして一番近い対象をアタック対象に選択し、ロックオンします。
その状態でアタックを実行すると、TickごとにLerpを用いて敵のアクタとの距離から補間を取り、等速直線運動で前進するようにSetActorLocationでキャラクターの位置を更新しています。対象に到達すると、敵やジャンプ台、レールなど対象ごとに異なる処理を実行します。
――バイパスレール搭乗時の挙動に関しては、Character Movement Componentに特別な措置を施しているのでしょうか。
Splineのパーツの角度に、キャラクターの角度も追従するようにしています。移動の仕組みは、ホーミングアタックと同様にSetActorLocationを用いています。
また、搭乗時のスピードに応じてキャラクターの移動速度が変化する仕組みや、レール終端に到達したときに速度を維持したまま飛び降りる仕組みを実装しています。
アタック状態からレールに乗った場合
ボードで滑りながらレールに乗ると、アタックだけの場合より飛び降りた後の飛距離が長くなる
――今回初めてUEでゲーム開発をするにあたり、使いやすいと感じたポイントや便利な機能などがあれば教えてください。
IKリターゲット機能は大変重宝しました。ゲームで採用した3Dアバターとは頭身が異なる別モデルのモーションを適用できたことが非常に助かりました。
アニメーションブループリントも使いやすく、ステートマシンによるアニメーションの遷移がとても見やすいと感じました。初心者でも直感的に扱えることがUEの大きな利点だと考えています。
また、UEではUnityとは異なりビジュアルスクリプティングがメジャーな選択肢としてプッシュされているため、初学者にとって扱いやすいと思います。
そのほか、UEではオンラインマルチプレイ機能を直感的に実装できると聞いているので、機会があれば使ってみたいです。
――逆にUnityならではの強みだと感じた部分や、UEの操作面で苦労した点などはありましたか?
WebGL出力がサポートされると嬉しいです。Unity Roomでゲームを出すことに慣れているのと、自治体との事業でアプリをリリースする場合などノンゲーム分野ではブラウザ対応が非常に強力な選択肢となるため、UEでもほしいと感じました。
苦労点としては、初めて本格的な3Dアクションゲームを制作したので、キャラクターモーションの調整が大変でした。IKリターゲットは便利な機能ですが、スケルトンのScaleが片方だけ100となっていたり、rootに不具合があったりでモーションが不自然になることもありました。
また、アクタの非アクティブ化に際してUnityとの仕様の違いに戸惑いました。Unityでは「gameObject.SetActive」のみで管理できるところが、UEでは衝突と見た目で処理が分かれており、Hiddenだけ設定したら衝突が残ってしまったことがありました。
――ゲーム制作をする上で、とくに大切だと考えている点を教えてください。
ナラティブ要素がプレイヤーに大きなモチベーションを与えると考えています。何のストーリーもない記号的なゲームをスコア目当てだけで遊ぶのでは動機づけが弱いため、「友達を助けたい」「攫われた人を救けに行こう」といった目的意識を持たせるように心がけています。
本作においては「友達の窮地を救う」「学校の出席日数記録を改竄し落単を免れる」といったストーリー的な動機づけを行っています。
――チャットを増設してハッキングのシチュエーションを拡大することで、さらに物語を広げていくこともできそうです。今後の展望などはありますか?
本業などでなかなか時間が取れないので実現できるかはわかりませんが、いろいろと展望は考えています。
本作は冒頭3、4分のプレイフィールを磨き上げることに注力したゲームなので、ここからプレイ時間をどう伸ばしていくかは検討の余地がありそうです。モチーフがサイバー空間なので、さまざまなコンピューター用語(ウイルス、cron、プラグイン、root権限など)をステージギミックに落とし込むことで、シナリオやステージギミックを拡張できるかもしれません。
――今後はどのようなジャンルの作品を作りたいと考えていますか?
『Megabonk』や『Cruelty Squad』のように、シェーダーで頂点にスナップを効かせたPlayStation 1を彷彿とさせるルックのゲームが好きなので、いずれ作ってみたいです。ほかには『killer7』のように、ローポリにシェーダーを活用してリッチなビジュアルを作り込んでいる作品にも憧れています。
いろんなジャンルのゲームを手広く遊んでいるので、インプットは豊富にあります。最近遊んだ中では『ARC Raiders』がとても面白かったので、ルートシューターゲームに興味があります。そうした中からその都度いいなと思ったゲームをジャンル問わず作りたいと思っています。
――これからのご活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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