ゲーム開発現場での活用が進む“ストリーミングサービス”。今回は効率的な開発を助けるストリーミング技術に着目し、今年登場したばかりの「Amazon GameLift Streams」を特集します。
「その日のビルドをAWSサーバーに置いておくだけで、あとは誰でも、どんな環境でもテストプレイが行える!」という環境構築の方法とそのメリットについて、エンジニアの検証を交えながら深堀りしていきます。
ゲーム開発現場での活用が進む“ストリーミングサービス”。今回は効率的な開発を助けるストリーミング技術に着目し、今年登場したばかりの「Amazon GameLift Streams」を特集します。
「その日のビルドをAWSサーバーに置いておくだけで、あとは誰でも、どんな環境でもテストプレイが行える!」という環境構築の方法とそのメリットについて、エンジニアの検証を交えながら深堀りしていきます。
TEXT / 神山 大輝
ゲームストリーミングサービスは、PCやスマートフォン、家庭用ゲーム機などでゲームを実行する従来の方式とは異なり、ゲームの実行をサーバー側で行うサービスです。
ユーザー視点では、性能の高いPCがなくても、ネットワークに繋がったブラウザさえあれば、どこでも、どんなデバイスでもハイエンドなゲームが遊べる可能性を持つ技術です。
今回取り扱う「Amazon GameLift Streams」もゲームストリーミングサービスの一種。フルマネージド型サービス「Amazon GameLift Servers」に並ぶ新サービスとして、GDC 2025の開催に合わせて登場しました。
GDC2025講演より。Amazon GameLift自体は極めてメジャーなサービスで、UbisoftやMetaなど世界中の企業が使用している
Amazon GameLift Streamsのメリットは「いつものビルドをアップロードするだけで、数分以内にゲーム配信が開始」すること。
類似サービスはいくつかありますが、Amazon GameLift Streamsは完全なフルマネージド型サービスであり、「ブラウザで簡単に設定できる」点が大きな特徴と言えます。
(画像は公式ドキュメントより引用)
さらに、アップロードするビルドには個別のプラグインや追加のコードを組み込む必要がなく、いつもの実行ファイルでも問題ありません。これは特にゲーム開発の中盤以降において、余計な要素を組み込むことによるエラー要因を避けたい開発者にとって大きな利点となります。
最終的には不要になるコードやプラグインを入れると何かがバグる――こうしたトラブルを特に意識せず防止できる意味でも「そのままアップロードすればOK」というのはありがたい。
他にも、遅延が少ない、1080p / 60fpsに対応するなど機能上のメリットも多い
「開発中のビルドをアップロードしたら、どんなブラウザでもすぐに動くようになる」ことの、なにが嬉しいのか?ゲーム会社では、多くのクリエイターがGPU搭載のハイエンドPCを使用して開発を行っています。
開発中のタイトルは最適化されておらず動作が重いため、社内プレゼンのために使う会議室のPCや、忙しく飛び回るプロデューサーのノートPCでは快適にプレイできません。
しかし、本当は全員が手元の環境で開発中のゲームを動かしてプレイフィールを確認したいはず。画面共有や画面録画ではゲーム性を伝えるのが難しいし、的確な判断や指示も出しにくいものです。
数GBにも及ぶビルドデータを受け取り、時間を掛けてインストールする――こうした手間を掛けずとも、プロデューサーが手元ですぐにプレイフィールを確認できるのは時間的なアドが大きいはずです。
デバッグ時の環境構築で時間が掛かるのは、必要スペックを満たすPCを数多く揃えた上で、個別にビルドデータをダウンロードしなければならないこと。特に、社外協力会社にビルドを渡して検証を依頼する場合、部材調達は骨の折れる仕事です。
こうした場合でも、クラウド上でテスト環境を提供すれば、「同一の条件」でのデバッグが可能に。さらにアクティブなストリームや利用状況をEC2 コンソール上で管理できるため、デバッグログの一元管理も可能です。
同じ仕組みは、ユーザーへのβテストなどにも活用可能。大規模なビルドデータの配布、環境設定の手間、そしてビルドを渡してしまうことによるセキュリティリスクを排してユーザーテストを行う需要は高く、ログ収集も可能なため「誰かどのくらい遊んで、何が起きたか」を分析して開発に反映するなどのメリットがあります。
また、ゲームのバージョン違いを同じストリームグループで管理できるのも特徴。ステージギミックや敵キャラクターの移動速度が異なるビルドを2種類用意して、それぞれを待ち時間少なく遊び分けて手触りを確認することも可能です。
Windows、Linux、Protonのランタイムをサポート。ゲーム自体にストリーミングのための追加機能を実装する必要がないため、プレーンな状態でテストプレイやデバッグが可能だ。
もちろん、タイトルによって(例えば超高速なアクションゲームなどシビアな操作が要求されるものなど)はストリーミング全般の命題でもあるレイテンシーが気になる場合もあるが、開発のフェーズによっては使い分けができるはずだ
具体的な事例として、Epic Gamesによる『フォートナイト』では、ユーザーテストにAmazon Gamelift Streamsを用いることでテスト回数を従来の2倍に伸ばしたとのこと。
ゲームのダウンロードやインストールが必要ないのでデータがローカル側に移動しない、つまり「速いだけでなく、セキュリティ的なメリットも大きかった」と、GDC 2025の講演で同社テクニカルディレクター Alex Carberry氏が語っています。
23:19頃から、Epic Gamesによる大規模ユーザーテスト事例が紹介されている。『フォートナイト』では、ストリーミングを用いることでユーザーテストの回数を従来の2倍にできたという
テストやデバッグではなく、顧客に届けるための手段としてAmazon GameLift Streamsが選ばれた事例も。米国のカジュアルゲーム開発会社「Jackbox Games」は、パーティゲームに親和性の高い層へアプローチするためにスマートTV進出を決めました。
Jackbox Games 事例記事より引用。スマートTVでゲームを遊ぶためには、ウェブアプリケーションに移植することや、スマートTV上のネイティブOSで実行することが求められた。また、テレビなのでCPU,GPUのパワー不足もあり完全な移植は困難だった
こうした中、ゲームストリーミングであれば端末側の事情を考えずに、すべてのゲームを配信することが可能だったとのこと。
また、同社CTO Evan Jacover氏は「個々のゲームごとにキャパシティ(ストリーミングのための各リソース)をスケールするのではなく、すべてのゲームを1つのストリームグループにまとめて管理することで余分なキャパシティを確保する必要がなくなり、スケールコストが大きく削減できた」と解説しました。
ゲーム開発のあらゆるフェーズで活用が見込めるAmazon GameLift Streams。ここからは実際に触りながら使い心地を紹介していきます。
まずは、普段通り作成したビルドをストリーミングで遊べるようになるまでの設定作業のスピード感を検証。
題材に用いるのは、ゲームメーカーズが制作した書籍「#休日ゲーム開発部 土日で始めるゲームづくり for UE5」で制作できる3Dアクションゲームです。
今回使用したコンテンツ。一見するとシンプルなデモに見えるが、ジャンプとシューティングを組み合わせたアクション性の高いゲームに仕上がっている
事前にUE5でパッケージ化を行い、Windowsで起動できるexeファイルを作成。ゲームを実行する仮想マシン(VM)としてWindows環境を選択するため、あえてストリーミング用の設定やプラグイン有効化を行う必要はありません。
ゲームをストリーミング配信するためには、AWS上にゲーム(以降、AWS上の表記にならってアプリケーションと記載)を登録する必要があります。
まずは「ストリームを作成」をクリックし、「ランタイム設定」でWindows(※)を選択、その後AWSのクラウドストレージである「S3」にゲーム自体の実行ファイルをアップロードします。
※ 正確には「Windows Server 2022 Base」。他にもUbuntu 22.04やProtonが選択できる。ランタイムに応じて、使用できるストリーククラス(AWSから借りるPCの種類、と言い換えてもよい)が異なる
ページの案内に従い、S3に任意のバケットを作成し、実行ファイルをアップロード。その後、「全般設定」で以下2つを設定する
設定後「アプリケーションを作成」ボタンをクリックすると、ストリーム用のアプリケーションが使用可能な状態に。続いて、このアプリケーションを実行するための「ストリームグループ」を作成していきます。
ストリームグループに任意の名前を付けた後はストリームクラス、つまり「(ストリーミングに用いる)ハードウェアのスペック」を選択する画面に移行します。
GPU性能が高ければコストも高くなりますが、今回のゲームくらいであれば上から2番目、「gen4n_win2022」(NVIDIA T4 Tensor Core)で事足りました。
アプリケーション、ストリームグループの両方が作成できたら、それぞれを「アプリケーションをリンク」ページから関連付けます。
最後に「ストリーム設定を構成」からリージョンと容量を設定します。これが終われば最終確認画面に移行し、設定を反映したストリームグループが完成します。
これにより、アクセスがあったタイミングで自動的にストリームインスタンスが起動し、ストリーミングが開始されることを期待できる
設定はこれで完了。あとはAmazon GameLift Streamsのテスト機能である「テストストリーム」で正常動作するかをチェックします。
ゲームをパパっと切り替えて検証できるのもAmazon GameLift Streamsの強み。「AWSTest_Level_B」という便宜上作成した別ビルドを用意して、切り替えてみます。
異なるビルドを再び「アプリケーションを作成」でアップロードし、作成後に「ストリームグループをリンク」を選択。無事にリンクできていれば、テストストリーム画面から別ビルドが選択できるようになっているはずです。
テストストリームがうまくいったら、ブラウザからインターネット経由でアクセスできるようにするためEC2インスタンスを使用してWebクライアント環境を構築します。
詳細な設定は公式ドキュメントにまとまっており、手順通りに進めば比較的すぐに設定が完了します。
ここで行う作業は、Amazon GameLift Streamsでストリーミングされるゲームへ、インターネット経由でブラウザからアクセスを可能にする目的で行われます。
今回の構築では、OS「Amazon Linux 2023」、インスタンスタイプ「t2.micro」を選定し、Node.jsをインストールして「WebSDKBundle」というサンプルプログラムを導入・稼働させていきます。
この後はインスタンスを起動して、いくつかのセットアップをして完了です。
チュートリアル: Amazon EC2 インスタンスでの Node.js のセットアップを参考にしながら進めましょう。
この設定が終われば、外部からのアクセスができるようになります!
Amazon GameLift Streamsを使って、最大40名でハイスピードなレースを繰り広げる『Faaast Penguin』を実際に遊んでみました。
ゲームのアップロードからプレイまでの流れは、先ほどまでの3Dアクションゲームの手順と同様。特殊な設定やビルドの調整などは不要で、ストリーミング環境とローカル環境で同じゲームサーバーに接続し、スムーズにマルチプレイ環境を実行できました。
『Faaast Penguin』はハイスピードなレースゲームですが、遅延などもまったく気になりませんでした!
5月に登場した新ワールド「スタードロップ」における難易度の高いジャンプアクションもストレスもなくプレイできています。
最大40名の対戦ゲームである本作は、社内のテストプレイももちろん大人数で行います。40名へのビルド配布は時間が掛かりますが、ストリーミングであればNASへの負荷もなく、サクッとテストが可能に。
ログ管理や差分の適用もスムーズなので、プロトタイピングやQAの効率化だけでなく、タイトル開発のさまざまなフェーズにおいても大きなメリットになると思われます。
ここまでさまざまなユースケースや、実際の設定方法の概要を説明してきました。ゲームストリーミングは既にメジャーな技術ですが、新たに登場したAmazon GameLift Streamsの利点はフルマネージド型であること。
画面共有や動画シェアではなく、ゲームのプレイそのものをブラウザ経由で提供できれば、開発中タイトルの情報共有が正確になります。開発後期、デバッグやユーザーテストにおいても、部材調達、あるいはセキュリティ面のメリットが多いため、規模や期間に応じて活用が見込まれます。
本サービスのトライアルに関しては公式サイトをご確認いただくか、ぜひAWSへお問い合わせください!
最後に、手順まとめを書いておく。「これを読めば設定OK」な詳細手順をまとめたドキュメント(pdfファイル注意)ので、実際に試すときはぜひ参考にしてほしい
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