【制作期間3年半】『Skyrim』『Fallout』開発者が教える、個人開発でオープンワールドゲーム『The Axis Unseen』を作る方法【GDC2025】

【制作期間3年半】『Skyrim』『Fallout』開発者が教える、個人開発でオープンワールドゲーム『The Axis Unseen』を作る方法【GDC2025】

2025.04.09
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ゲーム開発者・関係者を対象とした国際的なカンファレンス「GDC(Game Developers Conference)」が、2025年3月17日から21日まで(現地時間)サンフランシスコのMoscone Centerで開催されました。

「Level Design Summit: From ‘Skyrim’ and ‘Fallout’ to Solo Dev: Creating ‘The Axis Unseen’」と題する講演に登壇したのは、オープンワールドのホラーゲーム『The Axis Unseen』を個人で開発したNathan Purkeypile氏。これまで『Skyrim』『Fallout 3』『Starfield』などのヒット作に携わっています。
比較的短期間でオープンワールドのゲームを個人開発するためのヒントやコツをPurkeypile氏が解説した本講演をレポートします。

PHOTO&REPORT / Mogura VR

TEXT / 酒井理恵

目次

登壇したのはJust Purkey Gamesの創設者であり、ゲームクリエイターであるNathan Purkeypile氏。21年間におよぶゲーム制作経験で『The Elder Scrolls V: Skyrim(以下、Skyrim)』『Fallout 3』『Starfield』などのヒット作を手がけてきました。また、プライベートでは2児の父でもあります。

本講演ではPurkeypile氏が広大なオープンワールドゲームである『The Axis Unseen』をどのようにして比較的短期間で個人開発したかそのヒントやコツを解説します。ワールドマップのレイアウトとデザイン、プロシージャル生成と自作の使い分け、Unreal Engine 5(以下、Unreal EngineはUEと表記)をどのように使ったか、テストや最適化、個人開発に向いている人などさまざまなトピックを取り上げます。

Just Purkey Games 創設者兼ゲームクリエイターのNathan Purkeypile氏

『The Axis Unseen』は古のモンスターを狩るヘビーメタルホラーゲーム

なぜ個人で開発しようと思ったのか?

Purkeypile氏はBethesdaに17年間在籍し、その間に『Skyrim』など手がけたゲームが多くの賞を受賞してきました。「最高のゲームは他の部門にも積極的に関わり、愛情を注ぐことで生まれる」と考えていたPurkeypile氏。これまで「リードアーティスト」として活躍してきましたが、本人としては「ゲーム開発者」のようなものだと考えていました。

Purkeypile氏は、再度大規模なAAAプロジェクトに参画して何かを達成するよりも、何か新しい挑戦がしたいと考えていました。そこで興味を持ったのが個人ゲーム開発でした。個人開発であれば、ゲーム開発のさまざまな側面にかかわることができます。Purkeypile氏は自分の好きな要素を詰め込んだ『The Axis Unseen』を開発します。

インターネット上の評価が厳しいものだった『Fallout 76』の経験も個人開発を始める契機となった。システム化した開発の結果、人に嫌われるようなものを出したくなかったのだ

どんな人が個人開発に向いているのか?

AAAタイトルの開発では髪の毛ひとつとっても専門化が進み、それのみを行う人がいますが、個人開発に向いているのは、ゲーム開発のあらゆる側面に興味を持てる人だとPurkeypile氏。さらに、さまざまなタスクを整理してこなし、締切を守れる必要があり、気が散りやすい人には向いていないかもしれないと述べました。

また、Purkeypile氏が友人などと小さな会社を興すという選択肢を選ばなかったことに関しては、幼い子供がいる状態で柔軟性を持って仕事をするために、たとえ大変でも個人で開発するしかなかったと述べました。

さらに、友人と会社を興すのは友人を失う覚悟が必要だとPurkeypile氏は加えます。意見が対立したときのために、穴の無い契約も結ばなければなりません。

Purkeypile氏が選択したのは、AAAタイトルを制作するぐらいの時間をかけて、個人で集中して作品を制作することでした。

個人でやったことと、外部のメンバーに依頼したこと

「燃料(おそらく開発資金)」の当てがあるならば、外注するのも手だとPurkeypile氏。ただし、その前提には自分が望むものを相手に正確に伝えることができ、かつ、依頼されたほうはそれに応えられるだけの能力がなくてはなりません。本作では、他者に作業をしてもらっている間に、Purkeypile氏は自分が好きなClifford Meyer氏の音楽を採用するために奔走しました。

このような仕事の振り分けができるかどうかはプロジェクト次第とのこと。Purkeypile氏のプロジェクトでは、不足部分が断片的なものであったため外部の協力者が意味を成しました。

誰とでも仕事をするための最善の方法は、緩い制約のみ与えて、後は各々の情熱に任せることだと考えるPurkeypile氏。「あまりにも細かく管理しすぎると、人はワクワクしなくなってしまう」と、『Fallout 76』のディレクションでも同様の方針を執っていました。

本作に招いた作家に対しても、Purkeypile氏はその人の持ち味を活かしてほしいという考えから世界観やモンスターの力を説明するに留めています。ただし「このリュージョンには、このような理由で、この種の物語を作ってほしい」といったことだけは指示し、ゲーム全体に種々様々なストーリーが散らばるようにしました。

個人制作でオープンワールドのゲームを作るための心構え

個人制作では、生産性が非常に重要です。Purkeypile氏はこのような巨大なゲームを作るためには「どれだけの時間がかかるか」ではなく、「どれだけの時間があるか」を考えるべきだと言います。2日、2週間、あるいは2か月とタスクにかかる時間や内容を整理する必要があります。

Purkeypile氏は毎日メモをしながら仕事をすることを習慣にしています。自分のしたことはドキュメントにまとまっているため、パッチノート作成時にはそのメモをコピーするだけで良いそうです。

SNSをするのを否定はしないですが、個人開発といえど最終的にリリースできるものを作らなければいけないため、時間は大切にしなければいけないとも述べました。ホットキーで実行できることはホットキーを使い、必要であれば自分の制作のためのツールも作るべきだと言います。

多作であるべきか、最高の一作を作るべきか。それが問題だ

書籍『Art & Fear : Observations on the Perils (And Rewards) of Artmaking』(邦訳版:『アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方』)には「陶器の寓話」という話があります。陶芸教室で生徒たちを「多くの壺を作るグループ」と「最高の壺を1つ作るグループ」に分けてそれぞれ壺を作り、授業の終わりにその技術について全員で評価しました。すると、多くの壺を作ったグループのほうが質が高い壺を作っていました。その理由は、頭で考えすぎず、手を動かし続けたからです

人は完璧主義に陥り、誰も気づかないような細かい部分に時間をかけすぎてしまうことがあります。しかし、何かを作ったら世の中に出して次の制作に移り、新しいことを学ぶことが大切だとPurkeypile氏は言います。

ツールは何を、どう使うべきか

スタートアッププロジェクトでは、新しいツールの調査に時間を費やすべきだとPurkeypile氏。ゲームは常に変化しているからです。

Substance Painterの登場はPurkeypile氏のキャリアの中で最高の変化の1つで、いいものを作れるようになった一方で習得は本当に大変だったそうです。一度習得してしまえば、もう元の制作手法には戻れません。でも、一部の人は「うまくいく」スキルに固執しがちです。ゲームに色がなかった頃からゲームを制作していたPurkeypile氏は、1つのスキルに固執するのは不合理なことだと語ります。

一方、新しいツールを取り入れる場合は、費やす時間を制限し、実際の影響範囲や、習得に必要な時間を知っておく必要があるとも述べました。このため、ツールの導入は実際のプロジェクトではなく、プリプロダクションで行います。プロジェクトの途中で新しいツールを導入することは混乱を招き、互換性などのさまざまな問題が生じるため、避けたほうが良いでしょう。

3Dモデル制作にかける時間を節約する方法

ZBrushなどの3Dプログラムは複雑です。しかし、VRスカルプトする方法を学ぶと誰でも簡単に操作できる、とPurkeypile氏は言います。VRであれば、実際にその空間に入ってみることもできます。さらに、アンリアルエンジンを使えば、メッシュを最適化もせずに放り込むだけでNaniteなどの機能を使えるというメリットも付加されます。

このワークフローを使うことで、モデル、テクスチャ、アニメーション、動作音などを含めて、1週間に1つのクリーチャーを作成できました。Purkeypile氏は以前は5~6体の傑作を集中して作っていましたが、このゲーム制作を通して、そうしたアプローチが正しくなかったと知ったと述べています。

ビッグフットとフクロウのクリーチャーは、同じリグを使って、歩行と走行のアニメーションだけを変えています。これはそれほど大きな時間の節約にはならなかったそうです。

フォトグラメトリはPurkeypile氏がよく使う手法です。以前は、高価なカメラを使って何百枚もの写真撮影に加えてPC上での処理も必要なものでしたが、今はスマートフォンで簡単にできます。何週間もかけてキャラクターを作ったり、布をシミュレートしたりする代わりに、フォトグラメトリを使ってモデルを撮影すれば、後はゲームエンジンに放り込むだけで済みます。

本作の死体は粗末なローブを着たPurkeypile氏の妻をフォトグラメトリして作成した

プログラミングはブループリントで

25年前にプログラミングの経験もあったPurkeypile氏にとって、ブループリントはそのブランクを埋める良いツールだったそうです。

ブループリントは問題領域がどこにあるのかの追跡も簡単です。Purkeypile氏のプロジェクトは100%ブループリントで構成されており、今日まで問題は起こっていないとのこと。

1秒も無駄にしないための開発環境

Purkeypile氏は、個人制作だけでなく全ての開発者にとって複数のPCを用意することは必須だと言います。なぜなら、アセットのロードや請求書のダウンロードなど、作業をしていない時間は非常に多く発生するからです。確かに費用はかかりますが、複数のPCを用意することで、効率向上や互換性テスト、DLSSの実装も可能になります
Purkeypile氏が本作の開発に使用した構成は以下の通り。

  • AMDグラフィックカード搭載機:メインPC
  • NVIDIAグラフィックカード搭載機:ラップトップPC
  • ジャンクPC:Perforceサーバー起動用
  • Threadripper搭載機:非常に高速なビルドやアップロードが可能

Purkeypile氏のPC環境。4台のPCと8枚のモニターを使用している

Steam Deckは最低スペックのテストマシンとして使用。ハイエンドPCでのテストでは見つかりにくい問題もSteam Deckのようなデバイスで見つかることがあるため、こうしたデバイスで常にパフォーマンスが維持されているかを確認すべきだとPurkeypile氏。実際、Steam Deck Verifiedを取得しているPurkeypile氏のゲームは非常に快適に動作するとのこと。

Steam Deckを使うことで、PCゲームによくある「太陽が眩しすぎて画面が見えない」といった問題にも対処しておくことができます。

クラウド管理ツールを使いたがる一方で、バージョン管理をしたがらない人が居ますが、トラブルを避けるためにやめたほうがいいとPurkeypile氏。バージョン管理ツールのPerforceゲームを作れる力があれば、設定は全く難しくなく、5人以下の会社なら無料で利用できます。Purkeypile氏はローカル環境に設定していますが、リモートでのアクセスも可能です。

Perforceはゲーム開発だけでなく、人材管理、マーケティングにも使用したとのこと。データは別のPCとも共有できます。

Purkeypile氏はリモートワークでParsecを活用し『The Axis Unseen』の多くのシーンをキャンプ場で制作したと言います。Parsecでは複数のモニターをサポートしているので、通常は3台のモニターを使用しました。森の中で料理しながら、右側のモニターでビルドチェックもできるのです。

いよいよゲームを開発。まずはプロトタイプの作成から

プロトタイプの作成段階では基本的なアイデアを検証し、ゲーム全体を作るための指標を得ます。Purkeypile氏はアンリアルエンジンを使ったことがなかったため、それを試してみたり、VR機能を使えるように設定したりしました。

プロトタイプであっても、いきなりオープンワールドゲームを作り始めることはしませんでした。プロトタイプの目標は、ゲームの最初の5分間を体験できるようにすることです。これによって、あらゆる要素を検証しました。

プロトタイプでアートスタイルの試作もしました。最初はフォトリアルを目指していた本作ですが、トラッキングや照準が非常に難しく、プレイ感が悪かったため、変更したそうです。

多くのゲームではUIやマーカーを使用しますが、本作ではUIをあまり使わずに、できるだけゲーム内の世界に没入できるようにしたかったとのこと 。このため、テクスチャは削除し、ハイディテールなジオメトリだけを残しました 。

また、ハンティングのゲームであるため、地面の素材を重視しました。足音は土の上では非常に静かで、岩の上では少し音が大きくなります。

テクスチャを削除したことで、モデルに関する多くのステップを省略できました。ゲームのプレイ感が向上したほか、アート制作も迅速になり、フォトリアルな他のゲームとの差別化にもなったそうです。

この時点で、ゲームのリージョンモックアップも作成。これらの作業は1日以上の時間はかけませんでした。環境アセットと天候処理の一部を使って、全体のトーンと、ゲームが進むにつれて徐々に雰囲気が不気味になるというコンセプトの検証もしています 。

コンセプトアートの目的は「この像がどのようなもので、どういうポーズをしているか」といったことを理解するためにあるので、下手でも構わないとPurkeypile氏。本作ではほんの数秒で描いたコンセプトアートもあるといいます。

プロトタイプ段階に作成したアセットは決して無駄にせず、再利用。荒野を舞台としたゲームなので、過剰な装飾やオーガニックな要素が必要なかったのです。

「どうやって巨大なオープンワールドを作ったのか」と不思議に思われる本作ですが、実際にはゲームのシステムや仕組みの方がはるかに重い作業だとPurkeypile氏は述べています。

ベーグルのような彫像は、別の場所でも使用。環境アセットなども再利用している

プロトタイプ制作をすることでどこが問題になりそうかリスクの評価ができました。本作では、Purkeypile氏がサウンド担当者を採用すべきかどうか迷っていました。そこで、UIやセーブシステムなどもできる限り自分で試作することで、サウンドについてリリースできるクオリティを自分で担保できるかどうか知ることができたそうです。

プロトタイプからオープンワールドゲームへ

5分間のプロトタイプから28時間以上遊べるゲームにする過程については、これまでPurkeypile氏が6作ほどオープンワールドのゲームを制作した経験があるからできたことで、初めてであれば1人での開発は推奨できないとのこと。

マップの設計

オープンワールドのレイアウトを決めるのに最も重要なのは、早い段階でプレイテストを始めることだとPurkeypile氏。実際にゲームとしてプレイしてみて、どのように感じるかを確認します。

最終的に出荷したマップとは異なるが、中央の巨大な山がどこからでも見えるのは製品版とも共通している。マップ制作の一部はここでもVRスカルプトを利用。プレイ感の把握に役立った

テストプレイする際に、スケール感の把握のためにフォリッジやプロシージャルツールを使って、マップ全体に木などのオブジェクトを簡単に配置しておくと良いとPurkeypile氏。草も配置すると、実際にその場所を歩いた時の感覚がより分かりやすくなるとのこと。プレイしてみると配置の問題などを細かく調整できます。

プロシージャルツールは速くて便利ですが、プロシージャルツールのみではなくハイブリッドで開発を進めたほうがビューポイントを制御できて便利だとPurkeypile氏。あるエリアから別のエリアにランドマークを見せたい、芸術的観点から構図を決めたい、開けた場所を作りたい、あるいはクリーチャーとのエンカウントに合わせて何かを調整したいなどの理由から手動で調整することは非常に重要になります。調整にはそれほど時間はかからないとのこと。

本作ではHoudiniは地形・道路のシミュレーションのみに使いました。これは開発当時、アンリアルエンジンで当時Houdiniを使っている人がそれほど多くなく、フォーラムで質問しても2年間回答がつかないような状況だったためです。また、Houdiniは多くの制御ができる一方で、とてもプログラムが複雑な上に独自の専門用語も多数あります。初心者向けのチュートリアルでさえ8時間もかかり、Purkeypile氏も開発の途中で挫折したような形となりました。

本作ではHoudiniの習得よりも開発を優先したが、プロジェクトによってはHoudiniのスキルを持つ人を雇うほうがいいケースもある。どんなゲームにしたいか見失わないことが大切だ

マップ設計の早期に確立しておきたいことの1つとしてPurkeypile氏はワールドのスケール感を挙げました。これは開発のあらゆることに影響を与えるためです。

『The Axis Unseen』のゲームマップは『Skyrim』の5倍の広さとなりましたが、これはプレイテストの結果から生まれたものでした

『The Axis Unseen』には30階建て相当の超巨大なクリーチャーがいるため、マップが小さいとそのクリーチャーにすぐ遭遇してしまうことがプレイテストで分かったのです。

POIとエンカウントの密度

オープンワールドのレイアウトに関して、Point of Interst(「行ってみたい」と思わせる場所。以下、POI)とエンカウントの密度も重要だとPurkeypile氏 。これらを非常に早い段階で配置しておくことで、必要なロケーションの数や、それらの実装、視線を遮るものなどを把握できます

すべてのアセットを非表示にし、地形の起伏だけを見せたもの

すべてのリソースを見えるようにしたもの。大きな青と緑のマーカーはPOI、細い緑のマーカーがクリーチャー

これにより、エンカウントとロケーションの密度やイベントがどこで起こるかを一目で把握できます。これらの配置は、実際のオブジェクトではなく、キューブを使って非常に初期の段階で行いました

ランドマークはどこにいても見えるように調整

『The Axis Unseen』は、マップを全く開かなくてもプレイできるように設計されています。この場合、ランドマークが常に見えるように位置を調整する必要があります

『The Axis Unseen』では、巨大な蛇の死骸が巻き付いた高い山があります。別の場所にもこうした蛇の骨があるので、それらを使って自分の位置を推定できるようになっています。

これらのランドマークは非常に大きく、遠くからでも見えるように配置します。これにより、世界のスケール感も演出できます。

『Fallout 76』では巨大な掘削機「ロックハウンド」やスキーリゾート「世界の頂上」などが主要なランドマークとなっている。位置の変わった右の写真では、「世界の頂上」が左上に見える

リージョンの多様性

リージョンの多様性も重要な要素です。『The Axis Unseen』と『Fallout 76』は、どちらも広範な地域バリエーションを持っています。カラーパレット、植生密度、地形の起伏、天候、景観などを変えることで、常にゲームが新しい体験に満ちたものになります。このペース配分とバラエティはオープンワールドのゲームにとって重要だとPurkeypile氏は述べました。

オープンワールドのデザインにはBlock Kitを使用

オープンワールドのデザインにおいては、一度に全てを行うのではなく、段階的に作業を進めることが重要とのこと。

『The Axis Unseen』では、ロケーションを構築する際に「Block Kit」という自作のキューブや柱を使用して、自由に建物を組み立てました。高さも簡単に調整できるため、さまざまな視点からの見え方を調整するのに役立ったそうです。建物の制作時間は約20~30分程度です。

以前の会社で使っていた同様のキットは、ブロックのおもちゃのように特定の組み合わせでしか組み立てられないものが多く自由度が低いものでしたが「Block Kit」はこの欠点を補っています。

小屋などの構造物も、いくつかのブロックを組み合わせて作成しました。こちらは数時間程度かかりましたが、短時間で目的の構造物を作成することには成功しています。

プロジェクトの状況によっては、専用のキットを作る方が適切な場合もあるだろうとPurkeypile氏

UE5を使うことで得られたメリット

開発にUE5を選んだのは、Purkeypile氏が新しい技術や機能を使って、視覚的に魅力的なゲームを作りたいという強い欲求があったためでした。UE5は、オープンワールドゲームの開発に非常に適したエンジンで、以前は非常に困難だったワールドパーティションやLODが標準で搭載されているのに加え、最新のグラフィック機能も活用できます。

シェーダーのコンパイルは時間がかかることがありますが、ゲームのロード画面の裏で行うように工夫することで、ブラックスクリーンになった時に処理落ちが発生してもプレイヤーにストレスを与えることなく処理できます。

移動時のプレビュー表示も、最初はアセットの最適化が必要でしたが、その後は注意深く性能分析を行うだけで済みました。

どのエンジンも時とともに改善されていきます。早期にUE5で開発を始めたことで、エンジン側の問題は多数修正されました。

既存アセットを使うことは恐れなくていい

UEやUnityのようなエンジンを使用する利点の1つに、Megascansのような豊富なフォトグラメトリアセットを容易に利用できる点が挙げられます。既存のアセットを流用しただけのゲームは批判されることもありますが、Purkeypile氏は自分で全て作ろうとするのは非効率で、開発者は本当に重要な部分の開発に集中すべきだと考えています。

UEを使うことで、フォトモードのような機能も比較的簡単に実装できました。これはプレイヤーにとって楽しい機能であるだけでなく、ネット上でスクリーンショットを共有してもらえれば無料のマーケティングにもなります

一方で、天候システムは既存のアセットを使わず、独自に開発しました。以前から天候に関する具体的なアイデアがあり、霧の濃度や特定の指数、エフェクトへの影響など、細部にまでこだわりたかったのです。既存のアセットでは、これらの細かな調整は難しいものでした。

独自のシステムを実装することで、アート、デザイン、システムを一人で統合的に考えることもできました。

開発も終盤、テストプレイ~リリースの流れ

ゲーム開発においては、常にテストプレイを行い、可能な限り早期にバグを修正することが重要だとPurkeypile氏。最終段階になってから問題が見つかると、対応に多くの時間を要する可能性があります。Purkeypile氏は開発期間中、常に新しい人にテストプレイをしてもらい、フィードバックを得るようにしていました。これにより、自分では気付かなかった問題点や改善点を発見することができました。

常に安定したビルドを維持することも重要です。頻繁にクラッシュするような不安定なビルドでは、テストプレイヤーもストレスを感じ、適切なフィードバックを得ることが難しくなります。

Steamには、プレイテスト用の特別なブランチを作成し、プレイテスト用のキーを配布してレビューをもらえる機能があります。特定の地域の人々を招待することもでき、非常に便利です。

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ローカライズの準備は開発段階から

今回初めて取り組んだローカライズも、UEの機能のおかげで比較的容易に行えたとPurkeypile氏。ただし、早い段階からローカライズのことを考慮しておくことが重要です。テキストは文字列テーブルにまとめて管理することで、翻訳作業を効率化できます。Purkeypile氏は、初期段階では自動翻訳ツールを使って仮の翻訳を入れ、文字数制限やフォントの問題などのUIの問題点の洗い出しに専念することを推奨しています。

個人開発におけるマーケティングでは何ができるか

マーケティングもPurkeypile氏が今回初めて本格的に取り組みました。マーケティングは他のスキルと同様に、習得に時間と練習が必要なスキルです。そのため、できるだけ早くからゲームを発表し、情報を発信するようにしました。その結果、IGNやPC Gamerといったメディアに取り上げられたり、ドキュメンタリー番組で紹介されたりするなどしました。

効果的だったマーケティング戦略は「陶器の寓話」とギャンブルを組み合わせた、試行錯誤を繰り返す中で効果的なものを見つけていくというものでした。インディーデベロッパーであれば、Twitter、TikTok、Instagram、Facebook、さらにはLinkedInなど、あらゆるプラットフォームで情報を発信するべきだとPurkeypile氏。LinkedInでは情報発信が開発関連の取引にもつながりました。思いがけない場所からビジネスのつながりは生まれることがあります。

ライブイベントへの出展は、ウィッシュリストの増加という点では効果は薄いかもしれませんが、ユーザーテストという点では非常に重要だとPurkeypile氏は述べています。友人などにテストプレイしてもらうのとは異なり、ライブイベントでは見ず知らずの人がプレイするため、より率直なフィードバックになるためです。また、ライブイベントに向けて安定したビルドを維持することは、開発の健全性を保つ上でも役立ちます。

Purkeypile氏は、最初は伸び悩むものの、ある時点から急激に伸びる「ホッケースティック効果」を目の当たりにしたと言います。この効果を狙うためには、Steamにトリガーを集めて、注目を浴びることが重要だと語りました。TwitterやTikTokでもバズが起きることはありますが、一時的なものであり、Steamでの露出に比べると影響は小さいと言います。

ウィッシュリストの登録者数は1つの指標に過ぎません。Purkeypile氏の場合はウィッシュリスト登録者数は16万人におよびましたが、AAAタイトルが好きなゲーマーからのウィッシュリストが多く、インディーゲームのアルゴリズムとは異なる傾向が見られました。

当初の予定通りにリリースしても尽きない「スケジュール」に対する反省点

ゲームの完成度には満足しているものの、もし次に同様のプロジェクトを行うなら、もっと大きなバッファ期間を設けるとPurkeypile氏。3年半前に設定した期日を守ることはできましたが、予測できない問題が常に発生するため、最後の2、3ヶ月は結局徹夜に近い状態になっていたのです。

今回は『Skyrim』の10周年というタイミングで発表できたため、無料でマーケティング効果を得られましたが、通常のマーケティングにはもっと多くの労力がかかるだろうとも予測。ホッケースティック効果を考えると、より開発が進んだ段階で発表する方が効率的かもしれないと述べています。

デモ版の公開とレビューの掲載も、もっと早い段階で行うべきだったとPurkeypile氏は振り返ります。デモ版に対するレビューを早期に集めることで、製品版で問題が発生する前にフィードバックを得て、改善することができるからです。

「Main Takeaways」として今日の講演を5つのポイントにまとめ、Purkeypile氏は講演を終えました。

『The Axis Unseen』公式サイトLevel Design Summit: From 'Skyrim' and 'Fallout' to Solo Dev: Creating 'The Axis Unseen' ‐
酒井 理恵

ゲームメーカーズ編集。その他、ソーシャルゲーム、ボイスドラマ等のフリーのシナリオライターとしても活動中。突き抜けた世界観のゲームが好き。

『サガ・フロンティア』のアセルス編などのゲームを心のバイブルにして生きてます。

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