2024年12月17日(火)、ゲーム開発コミュニティ「FGDC(Future Game Development Conference)」が「【こたつで】ゲーム業界で戦う広報のリアルな話【FGDC勉強会vol.21】」を開催しました。本記事では、同イベントで開かれた講演やディスカッションの内容をレポートします。
TEXT / HiMiKo
EDIT / 藤縄 優佑
目次
ゲームテスト会社社員が広報向けイベントを開催
イベント会場は、東京・渋谷のクリエイター向け施設「404 Not Found」。同施設には冬季限定でこたつが設置されていました。登壇者も参加者もこたつでリラックスしながら、イベントが進行していきます。
イベントの主催者は、ゲームテストサービスやセキュリティサービスを提供するAIQVE ONE(アイキューブワン)の桑野 範久氏。
桑野氏は、「社名が急遽変わっても何とか対応した件」と題した講演を行いました。講演名のような緊急事態が起きたときに備え、会社理念を事前にしっかりと固めておくこと、取引のある方々と日頃から良好な関係を築くことが重要と話します。
しばらく取引が途絶えている方であっても、関係を良好に保っておけばお互いに助け合えるため、関係構築を大事にしてほしいと、講演を締めくくりました。
「愛される企業ブランディングの作り方」
ゲーム・エンタメ業界を中心に広報・人事のコンサルティングや記事制作を担う、SPRINTの代表取締役社長 吉田 千夏氏は「愛される企業ブランディングの作り方」を講演。
企業ブランディングとは「『●●といえばこの会社』という意識をターゲットに根付かせること」だと、吉田氏は言います。
例として有名な飲食店チェーン2社を挙げ、ユーザーが抱くイメージ(高い/安い、おしゃれ/親しみやすい、長居できる/短時間でさくっと、など)に沿うように、ロゴや広告、店内の雰囲気などをデザインしていると指摘。
ブランドが浸透すると、ユーザーはそれぞれのイメージから自社の商品・サービスを連想してくれるようになるため、中長期的に購買意欲を高めやすいと話しました。
ただ、企業ブランディングの戦略を立てないままに広報活動を行うと、うまくターゲットに伝わらなかったり、あまり効果が出ない施策に工数をかけてしまったりと、無駄につながる場合があるとのこと。
戦略の基本は、以下のことを明確にし、時流に沿った自社らしい施策を立案することです。
自社らしさはどのようにして生かせば良いのかという点に関しては、ゲーム関連会社の事例を紹介。
女性向けのスマートフォンゲーム開発などを手がけるジークレスト(※)は、推しの記念日に休暇を取れる福利厚生制度「推しメン休暇制度」や、キャラクターの魅力を引き出すべく表現技術を研究する「イケメンテックラボ」など、自社らしい施策をアピールしていました。
※ ジークレストは2025年1月にサムザップに吸収合併された。事業はサムザップの「GCREST」ブランドとして、サービスが継続されている
ゲームやデジタルコンテンツを企画・開発・販売するヒストリアは、Unreal Engine(以下、UE)専門の会社である強みを生かし、UE学習者向けのコンテスト「UE5ぷちコン」を定期的に開催しています。UE開発者向けのブログも創業時より続けており、UEの専門性の高さを示すことに成功しています。
最新技術を用いたテストを実施するAIQVE ONEでは、テストのトレンドなどを発信する「QA TechNight」と題したセミナーを開催しています。IT業界の著名人などを招き、イベント自体の注目度を高めるなどの工夫が見られます。
吉田氏はまとめとして、「戦略をきちんと立てる」「経営者と伴走する」「客観性を持つ」「スピード感を忘れない」ことをポイントに挙げていました。
「多分明日から実践できる!広報に役立ちそうな小ネタ集」
AIQVE ONEの広報・マーケティングを担当する藤沢 海氏は、「多分明日から実践できる!広報に役立ちそうな小ネタ集」を講演しました。
構成作家を務めたのち、ITや小売業界にて広報、マーケティング、採用を担当してきた同氏ならではの、多彩な経験やノウハウが語られました。
一口に「広報」といっても、会社によって期待されている役割や施策に幅があります。「知名度向上」「メディア施策」「Webマーケティング対応」「採用募集増加」を広報に期待する会社もあれば、「ブランディングを守ること」「とりあえずいてもらうこと」を求める会社もあり、藤沢氏の所属してきた会社のなかでもさまざま。さらには同じ会社でも状態によって求められる役割が変わることもあると話します。
藤沢氏は広報だけでなく、構成作家などで吉本興業とかかわった経験を有して、そのどちらも得た知見をもって「広報がやった方がよいこと・やらない方がよいこと」についても話しました。
「無駄なミーティングは省く」「無駄な予算をかけない」「発信する先のお客さんを意識する」「商売である意識を持ち、儲かるために何をすべきか考える」といった企業人としての観点に加えて、「リスクを恐れない」「直感を大切に」「口だけにならず手を動かす」など藤沢氏個人としての観点も述べました。
「広報は、営業やほかの職種と比べると金銭を扱う意識が薄れがちですが、会社が利益を上げるために自分が貢献できることは何かを考え、行動するのがよい」と語りました。
広報の仕事としてよく挙がる「プレスリリースの執筆」についても言及。社外の多くの人をターゲットにしたプレスリリースのような文章を書く際は、「構成を先に作る」「おもろいかおもんないか考える」のが良いそうです。
長文を書くのが苦手な方は、まずはドキュメント上に使いたい画像を配置してしまい、画像に沿った見出しを考え、最後に中身の文章を書く手法をオススメしています。また、音読しても読みやすい文章になるように整えるのもコツとして紹介。
もし内容が面白くないと感じたら、そう感じるポイントの掘り下げと、どう改善すべきかを考えていくことが大事とのこと。藤沢氏自身は、情報の受け取り手が誰なのかを意識しながらWebサイト、ノベルティ、展示物のデザインなどを作っていると語っていました。
活発なやり取りも飛び交う「フリーディスカッション」も開催
講演終了後は、事前に募った話題や会場での参加者の質問に答える「フリーディスカッション」の時間が設けられました。
「予算をかけられない状況で効果のある広報の施策を打つには?」という質問には、藤沢氏は「RPG Maker(RPGツクール)」や「ティラノビルダー」でRPGやノベルゲームを自作したことを挙げました。吉田氏は自社や個人の発信力を高めることを意識しつつ、メディアに取り上げてもらうように働きかけることを提案しました。
「広報する効果が高いSNSは?」には、桑野氏はゲームのプレイヤーに対してはXによる広報が未だ効果的であると話します。ゲームタイトルごとにDiscordコミュニティを運営している企業も増えてきており、そちらにも注目していることをコメント。吉田氏は、各SNSの年代別ユーザー数などの公開データを参考にしつつ、実際に触ってサービスの特徴をつかみつつ活用する必要があるといいます。
活発なやりとりも見られた、ゲーム業界の広報担当者が集まる珍しい場となった本勉強会。企業の広報担当者のみならず、個人ゲーム開発者も参考になりそうな話でもありました。本記事で話しつくせなかった内容もあるので、少しでも興味のわいた方は、ぜひこういった勉強会に足を運んでみてください。
AIQVE ONE公式サイト40歳からCGの勉強を始めた元SE。BlenderとUEの勉強をスローペースで続けています。旅行先ではよく食い倒れています。
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