1995年に設立された「CESA」が人材育成に挑戦
——まずは原田氏の略歴やCESAでの活動内容などをお教えください。
原田:CESAの原田と申します。2024年にCESAに入職し、現在はTGCAを中心とした人材育成に関する業務全般を行っています。これまでは通信制高校の教員や、文部科学省が所管する国立研究開発法人の事務職を務めていました。
TGCAは文化庁の予算による基金を活用して行う育成プログラムであり、行政との折衝経験や若年層のサポート経験など私の持つキャリアが合致したため、今回プログラム全般を担当させていただくことになりました。
——CESAについて、改めて設立経緯やこれまでの歩みについてご紹介ください。
原田:1995年に国内の家庭用ゲーム会社16社が中心となり、一般社団法人「コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会」(※)が発足しました。当時は「PlayStation」(1994年12月3日)や「セガサターン」(1994年11月22日)などが発売され、多種多様なソフトハウスがゲーム業界に参入できるタイミングでした。「ゲームの開発能力をさらに高める」ということで大手を中心に16社が集まり、産業としての成長を目指して業界連携したのです。
1994年12月3日発売「PlayStation」(画像はPlayStation公式サイトより引用)
1994年11月22日発売「セガサターン」(画像はセガ公式サイトより引用)
他方、この頃にはゲームがカバーできる領域が広がり、生み出される多種多様な表現や現れた海賊版へどう向き合うかという課題も同時に発生していました。そこで、産業振興だけでなく産業発展を阻害する課題もみんなで話し合い、一丸となって対応していくという趣旨もCESA発足の経緯のひとつです。
※ 2002年に「コンピュータエンターテインメント協会」へ改称。略称は当時と変わらずCESAのまま
——現在の主な活動内容を教えてください。
原田:分かりやすいところだと、「東京ゲームショウ」や国内最大のゲーム業界カンファレンス「CEDEC」など大型イベントの主催をしています。また、業界の健全な発展を図ることもCESAの活動指針であるため、自ら啓発活動やガイドライン制定を行い、業界による自主規制も実施しています。
CESAは2026年で30周年ということもあり、当時からは産業構造も大きく変化しています。その中で、今年からはCESAゲーム白書が新しく生まれ変わり、数値や実績だけでなくゲーム産業の今が分かる「CESA ゲーム産業レポート2024」発行を予定しています。
文化庁所管の基金を活用した「TGCA」が実現するまで
——これまでのCESAの活動に新たに加わるTGCAですが、この概要を改めて教えてください。
原田:CESAと文化庁と日本芸術文化振興会の連携のもとに実施する、「世界で活躍するクリエイターを育てる」ことを目的とした人材育成プログラムです。世界で評価されるオリジナルのゲームIPを創出できるクリエイターの育成を将来的なゴールと定めています。
すでに2024年11月から育成対象者の公募が開始しており、育成プログラム終了は2027年3月です。約2年間にわたってサポートを行う計画になります。
——そもそもの経緯をお聞きしたいのですが、なぜCESAが育成プログラムを立ち上げようと考えたのでしょうか?
原田:ほかの業界と同じく、ゲーム業界においても人材は放っておけば育つものではありません。人口減少と海外への人材流出、これに加えて開発技術が高度化する中で、ゲーム業界として人材を育成する必要があると感じていました。
令和5年度には補正予算を活用した「文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター等育成事業)」という基金(※)が設立されており、ゲームも含めたクリエイターの人材育成支援を掲げた活動が活発化しています。また、今年6月には従来のクールジャパン戦略をリブートする「新たなクールジャパン戦略」を政府が発表し、ゲーム業界を含めた全体の枠組みの課題として“世界に広く楽しまれるためのコンテンツを作ろう”ということが決まりました。
※ 文化庁所管の「日本芸術文化振興会」による、舞台芸術や現代アート、メディア芸術、デジタルゲームなど各分野の次代を担う若手クリエイターやアーティストの挑戦や育成を支援する目的の基金
——この基金の公募に対して手を挙げたのがCESAということですね。
原田:はい。ゲームはすでにプラットフォームの垣根がなくなりつつあり、グローバルリリースも一般的になってきましたが、“コンテンツ”という意味でも、すべてが新しかった30年前とは状況が変わってきています。CESAとしても、もう一度、世界中で人気を博すゲームコンテンツの創出ができる人材を輩出できるように後押ししたい思いがありました。
具体的にどんなサポートがあるのか?スケジュールや運営体制を聞く
——優れたIPを創出する、世界で活躍するクリエイターを育てるといった大きな目標に対して、どのようなアプローチを行うのでしょうか。
原田:プログラムが開始する2025年4月から2027年3月までの2年間で、「現役クリエイターによる伴走型支援を受けながらゲームを制作する」、そして「国内外のイベント経験を経て実地経験やビジネスノウハウを得る」ことを目指して活動していただく予定です。
まずは東京ゲームショウ2025に向けて開発を進め、国内でのイベント出展を目指します。そこからステップアップし、2026年1月の台北ゲームショウや8月のgamescomといった海外イベントに向かうようなイメージです。ただし、この2年間においてはゲームをリリース・販売することを目的とはしていません。
——ひとつずつお聞きしますが、現役クリエイターの伴走型支援とはなんでしょうか。
原田:CESAの理事会社(※)などに所属する現役クリエイターをメンターとして、支援者に対してアドバイスをしたり、どういった点が面白いのかを議論したりする制度を想定しています。
アドバイザーにはゲーム制作のクリエイティブ的な部分で支援する「クリエイティブアドバイザー」と、海外に行くのも含めてビジネス面を学ぶ「ビジネスアドバイザー」という2種類が存在し、それぞれ各社での経験豊富なメンバーが割り振られています。さらにクリエイティブアドバイザーが、実際に伴走支援する「専任メンター」と、特化したアドバイスを行う「スペシャリティアドバイザー」に分かれています。
※ カプコン、バンダイナムコエンターテインメント、ディー・エヌ・エー、スクウェア・エニックス、コーエーテクモゲームス、セガ、グリー、コナミデジタルエンタテインメントの8社
——専任メンターとはどの程度の頻度でやり取りをするのでしょうか?
原田:月に1回ほどのミーティングを通じてゲームの進捗などをディスカッションします。授業やカリキュラムというよりは、ゼミのようなかたちで、対話を通じて面白さをブラッシュアップするような認識です。
もう片方のスペシャリティアドバイザーは、それぞれ特徴が異なるゲーム制作を繊細に細かくアドバイスしていただく方たちです。一人のメンターだけでは、ゲーム制作の隅から隅まですべてに助言するのは難しいです。専任メンターでも答えるのが難しい領域については、メンターからスペシャリティアドバイザーにつないでもらうかたちになります。
複数社の現役クリエイターがアドバイザーとして協力する関係は、CESAならではの座組だと思っています。
——月に1度は頻度としては高くないように思いますが、細かい質問は都度行ってもよいのでしょうか。
原田:コミュニケーションを円滑にするために、個別の細かい質問などは事務局で一度受け取り、整理してからメンターに届けるなど、負担が少ないようなかたちで考えています。
——採択者それぞれにメンターがつき、それぞれで質問するよりは、一度質問などは事務局で集約するのが効率的ということでしょうか。ちなみに、本プログラムには10組の育成対象者が採択される予定ですが、それに対してアドバイザーはどのような人数構成になるのでしょうか?
原田:10組の育成対象者に対して10人の専任メンターを用意します。ただ、マンツーマン形式だと専任メンターの負担だけでなく、育成対象者側もストレスを感じるケースもあるはずです。この点については、プロジェクト監修の立場であるレベルファイブ 日野氏による助言なども受けながら、より自由な進行ができる組み合わせや人数構成となる工夫も検討しています。
TGCA運営方式(画像は公開中の「募集の概要」PDFより引用)
——こういった部分に日野氏のエッセンスが反映されていると。「ビジネス」のアドバイスもある点も特徴とは思いますが、これは具体的にどのような支援を行うのですか?
原田:ビジネスアドバイザーには、どの育成対象者にとっても重要になる海外出展の知識や課題を講義形式で学んでいただきます。カリキュラムに応じた育成だけでなく、例えば実際に出展した際にパブリッシングの話題が出た時の対応など、ビジネス的な疑問や悩みにも個別に対応できればと考えています。
ブース出展で必要となるパブリッシングや契約などビジネス的な知識に対するバックアップも用意されている(画像は公式サイトより引用)
——出展イベントについて、例えばBitSummitなどインディーゲーム関連の展示会を目指す予定はありますか?
原田:現状では考えていませんが、育成対象者やメンターから声が上がれば検討に入るかと思います。「出たい」というイベントについては、それが育成対象者の経験や成長につながるのであれば、予算なども考慮しながら対応する方針です。
ちなみに、今回の公募に際して「インディーゲーム」という言葉は使用していません。その言葉の持つ定義が曖昧な部分もあり、CESAがこれを定義する立場にもないため、ミスリードを防ぎたいという意図があります。ただし、このクリエイター育成の行き着く先がインディーゲームの可能性もあるとは思います。
BitSummit 2024 記事一覧 | ゲームメーカーズ
“30歳以下、個人または個人からなるチームのみ”という応募条件が決まった理由
——育成対象者について、応募要件にも触れさせてください。すでに各方面から問い合わせなども入っていると思いますが、CESAとして人材育成にアプローチする今回のプログラムにおいて「30歳以下の個人」という制限を設定した理由を教えてください。
原田:詳細な条件は募集要項をご覧いただきたいのですが、TGCAは国のプログラムであり、若手のクリエイターやアーティストを育成、支援、強化するという一つの大きなテーマの意図を組む必要があります。
年齢制限については、文化庁が30歳以下と指定しているわけではありません。ただ、すでに経験を積んだ成熟したクリエイターを選出するのは趣旨と異なってしまいます。今回に関しては、尖ったクリエイティブを持ちながら、いまだ成熟していないクリエイターたちをターゲットにしたいと考え、その線引きとしてCESAが30歳以下と判断しました。
今後の課題として、異なるメニューの用意や年齢制限の変更などはあるかもしれませんが、今回については基金の趣旨も踏まえて、このような募集条件にしています。ちなみに、30歳以下であれば、企業に所属するクリエイターでも、企業側の承認を得られれば個人として応募は可能です。
——その意味では、TGCAが応募して欲しいと考えているターゲットはどこになるのでしょうか?
原田:最初の思想としては「ある程度自分でゲームを制作できて、やりたいことも決まっている人を支援する」と考えていました。例えば高校生や大学生、専門学校生で、すでにゲームを作ってコンテストなどに応募したことがあり、次作のアイデアがあるとします。このタイミングでTGCAの募集があり、「アドバイスを受けて海外に行けるかもしれない」「自分の作ったゲームをいろんな人に触ってもらって、プロの意見をもらえるかもしれない」とワクワクする人がいたら、ぜひ応募してほしいと思います。
一方、ゲーム開発経験がなくても、「自分の熱意はそれに留まらない、この熱意を聞いてほしい!」という人は応募前に事務局にお問い合わせください。私自身がメールを拝見して、真摯に回答をさせていただきます。TGCAを機に突出した才能を持つクリエイターが登場するのを、プリンシパルの日野氏をはじめCESAの我々も期待しています。誰もが人材育成に対して熱意があり、そういったクリエイターをゲーム業界に招きたいと考えていますので、どうか気軽にご連絡ください。
募集要項で公開している審査ポイント。「熱意」「オリジナリティ」「将来性」「技術力」「その他」という以下の5つの観点から審査が行われる。この中でも「将来性」は、2年間で海外イベントを目指せる企画の内容や本人の想いが含まれているかが審査の観点となる。「オリジナリティ」があり海外展開できる「将来性」もある応募者が残っていき、審査過程のヒアリングで「熱意」の部分をもう一度確認するとのこと
他の育成プログラムとの違いは?CESAが持つ公平性と安心感
——ゲーム制作者向けの支援プログラムとしては、TGCAのほかにも開発費支援を伴うものや、パブリッシャーと一体となって行う支援策もあります。応募を行うにあたって、TGCA固有のメリットがあれば教えてください。
原田:プロのメンターによる伴走支援は他のプログラムにもあるかもしれません。ただ、TGCAは一社に限った支援ではなく、育成対象の目線で、業界を横断した多角的な事例やノウハウをインプットできる強みがあります。
もう一つ大事なのは、作品の権利がクリエイターに完全に帰属することです。契約の不安やパブリッシングの不安が一切ないのは、一般社団法人という立場からも明確化できていると考えています。
——経済産業省による「創風」など、他にもデジタルコンテンツを創出する国の支援プロジェクトがありますが、関連性はありますか?
原田:もちろん他のプログラムについても認識しておりますが、具体的な連携はこれからの検討となります。
——メンターという意味では、プリンシパル(監修役)にレベルファイブ 日野氏が就任されたのも安心材料になるかもしれません。
原田:そうですね。文化庁の求める観点にも通じる、“ご自身でゲームを開発し、アニメやマンガなどクロスメディア展開でも成功した多角的な観点を持たれている方”である日野氏の助けを得られているのも大きいと思います。
日野氏には監修をお願いしている一方、プログラムの作成・運営や責任はCESAにあります。その上でTGCAが当初の目的や内容に合致しているか、良くするにはどうするべきかなど、日野氏からのアドバイスが大変参考になっています。
TGCAの目標となるクリエイターであり、プログラムの監修を務める「Principal of TGCA」として、
株式会社レベルファイブ・代表取締役社長/CEOである、「日野 晃博」氏が就任(画像は公式サイトより引用)
——先ほど、日野氏からの助言を受けながら伴走支援について検討しているという話が挙がりましたが、他にどのようなアドバイスがあったのでしょうか。
原田:応募要件のところで「ゲーム制作経験を持つ人がメインターゲットですが、そうではない人の相談もお待ちしてます」と言いましたが、そこにも日野氏の助言があります。設定した応募条件のハードルが高いため、できるだけ門戸も広げたいという考えをお持ちでした。
日野氏ご自身が伴走支援するわけではありませんが、大変熱意を持って取り組んでいただき、自分の気持ちを言葉で伝えたいともお話しされていたので、期間内に特別授業のような形式でのレクチャーも検討しています。
——ありがとうございます。最後に、TGCAに応募を検討されている方に、メッセージをお願いします。
原田:まずはTGCAに目を留めてくださって、ありがとうございます。人材育成は長い時間を必要とし、また「一人を育てればそれで産業すべてが盛り上がる」というわけではありません。私たちはCESAとして、特に海外イベント出展などを主軸にした支援活動を行っていきます。TGCA事務局やアドバイザーは育成対象者のみなさんをサポートしたいという気持ちを強く持っていて、それは文化庁の意志でもあります。公的機関やCESAのような団体がサポートする安定性も応募動機になればと思います。
今回応募していただく1期生が卒業した先でいつかプリンシパルのような存在になった時に、プロフィールに「TGCA1期生」と書いてくれたら、それだけでCESAとしては大成功です。エントリー前の事前相談など、問い合わせに関しては私原田が確実に目を通していますので、どうぞ安心してご相談ください。
「トップクリエイターズ・アカデミー(TGCA)」公式サイト「コンピュータエンターテインメント協会(CESA)」公式サイト「文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター等育成事業)」日本芸術文化振興会 公式サイト
ゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。