中国の業界団体が作った「中国最大のゲーム博物館」現地レポート。各国ハードウェアの歴史と中国ゲーム文化の隆盛を写真で振り返る

2024.10.21
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2024年9月、中国・上海市に中国最大級といわれるビデオゲーム専門博物館となる「中国音数協ゲーム博物館」(中国音数協遊戯博物館がオープンしました。今回、日本のゲームの中華圏展開・中国ゲームの日本展開の事業に携わる開発者、高橋 玲央奈氏にプレオープン時の観覧レポート記事を寄稿いただきました。

2024年11月16日-17日に上海で開催されるWePlay Expoを前に、中国の、そして世界のゲームの公式・非公式が入り混じった歴史と栄枯盛衰、そして熱が感じられる「中国音数協ゲーム博物館」のレポートを、館内展示の画像たっぷりでお送りします。

TEXT / 高橋 玲央奈
EDIT / 田端 秀輝

目次

高橋玲央奈

皆さん、こんにちは!高橋 玲央奈です。中国でゲーム開発・配信を行い、日本のゲームの中華圏展開や中国ゲームの日本展開をしています。

726日から729日まで上海で行われた中国最大のゲーム展示イベント「ChinaJoy」の翌日にオープンしたばかりの「中国音数協ゲーム博物館」に行ってきましたので、今回はそのレポートをお送りします。

博物館を運営する中国音像与数字出版協会(中国音数協)は、中国におけるデジタルコンテンツを制作する会社が所属する業界団体です。ちょうど日本のCESAのような団体と考えていいと思います。「中国音数協ゲーム博物館」はゲーム会社が多く集まる上海に作られ、実際の運営は大手ゲームメディア「游研社」が受託して行っています。

ゲームの起こりから家庭用ゲームの歴史を辿る

展示エリアに入ると、「ゲームは紀元前3100年頃から世界中の文明で登場していた」という内容から始まる説明が目に入ります。

デジタルゲームが生まれてから50年以上が経ち、毎日数十億のユーザーが遊んでいることを背景に、この博物館ではゲームの歴史や発展に関連したものや資料を保存・研究することで、テクノロジーのイノベーション、文化の継承と海外進出、教育・科学普及、公益などに役立て、業界のイノベーションの活力としたいと説明されています。

続いて、古代のゲームの紹介としてボードゲームが展示されています。

その先に展示されているのは、世界最初のコンソールゲーム機(家庭用ゲーム機)といわれているマグナボックスの「オデッセイ」の実機です。「触らないでください」と書かれていますが、特にケースにも入っておらず展示されています。

マグナボックス「オデッセイ」

この空間に入ってすぐに目に付いたのは、部屋の中央に置かれたATARI「ATARI2600」『ET』のカセットです。『ET』は、後年「アタリショック」と呼ばれる業界の大事件のきっかけとなったタイトルで、後年に世界中で話題を呼びました。このタイトルの実物が中国にあるというのは、少し不思議な感覚がします。

ATARIATARI2600

1975年の大ヒットゲーム機ATARI「Home Pong」の巨大な模型が当時のテレビCMと一緒に展示されています。

Home Pong」の巨大模型と映る筆者

これは80年前後に上海で作られたテレビゲーム機で、3種類のゲームが遊べます。

台湾のBit Corporation「賓果(Apple)」はATARI2600互換機で『OPEN, SESAME!』が刺さっています。背後にはゲーム音楽史/ゲーム史研究家の田中”hally”治久氏の書籍が並んでいます。

Bit Corporation「賓果(Apple)

エポック社の「テレビテニス」や、日本初のカセット交換式ゲーム機であるタカトクの「ビデオカセッティ・ロック」も展示されています。

エポック社「テレビテニス」

タカトク「ビデオカセッティ・ロック」

『ポン』が遊べるソ連製のゲーム機や、東ドイツで生産されたゲーム機も展示されています。

『ポン』が遊べるソ連製のゲーム機

東ドイツで生産されたゲーム機

中国産やアメリカ・西欧のゲーム機も展示されていますが、日本やソ連や東ドイツなど旧東側諸国で作られたゲーム機が多く目に付きました。

デジタルゲームの創世記にはたくさんのポケットゲーム(LSIゲーム)も生まれました。また、トミーが作った初期のVRゲームもあり、こちらは実機を触ることができました。

さまざまなポケットゲーム(LSIゲーム)

トミーによる初期のVRゲーム

1970年代から1990年代に発売されたマイコン・パソコン

80年代にはたくさんのマイコンが作られ、さまざまなゲーム表現が生まれました。多くの実機が展示されており、一部は実際に動作する動態展示が行われています。筆者は1984年生まれであり、生まれた時にはファミコンがあった世代ですが、この時同行してもらった一回り上の世代のゲーム開発者は大興奮していました。ここでも東側諸国のゲーム機や中国国産のゲーム機が展示されています。

シンクレアの「ZX81」は教育現場にも普及した「ホームコンピュータ」で、当時BBCの「Micro」とイギリスで激しい競争を繰り広げました。

シンクレア「ZX81」

コモドール「Amiga 500」はカラーのパソコンでゲームユーザーに受け入れられ、1枚のフロッピーでリッチなアニメーションを描画する「メガデモ」という文化を生み出し、音楽家やアーティストにも愛されました。コモドール「PET」も展示されています。

コモドール「Amiga 500

Apple Computerの「Apple II」は、あのAppleが創業期に作ったヒット商品です。後世に残る多くの名作ゲームがApple Ⅱで作られました。

Apple Computer「Apple II

こちらはApple ComputerのMacintosh Plus(または128K512K)」です。今日に続くMacの最初機のバージョンで、同じ筐体で3種類が作られています。白黒ですが、革新的なユーザーインターフェースGUIを採用したSystem(のちのmacOS)の基本機能は現行機にも受け継がれています。

Apple ComputerMacintosh Plus

NEC(日本電気)の「PC-8001」1979年に発売されたパーソナルコンピューターで、日本の多くのゲーム開発者はここからゲームを始めたと言われています。

NEC「PC-8001

米マイクロソフトと日本のアスキーが打ち出したパソコンの共通企画「MSX」に基づいて作られたソニーの「HB-F1XV」。ソニーが初代PlayStationでゲーム機に参入する5年前、1989年に発売された同機種は、カートリッジスロットが2つ、フロッピードライブ、連射機能などが入っており、ほぼゲーム機として活用されていました。

ソニーHB-F1XV

富士通の「FM TOWNS II UX」は、1991年に発売されたカラーのパソコンです。当時のパソコンはメーカー毎に互換性がないのが当たり前で、これもCPUこそIntel 80386(i386)シリーズでしたが、TOWNS専用ゲームしか遊べませんでした。中央下部にあるキーにシフト機能を割り当てた通称「親指シフト」は、後年も富士通製ワープロ「OASYSで採用され続けました。

富士通「FM TOWNS II UX

シャープの「X68000」は当時としては高スペックのパソコンで、多くの人気ゲームが移植されました。近年ミニバージョンが発売されたことでも話題になりました。

シャープ「X68000

80年代の中国では、ゲーム機はパソコンというより「学習機」として販売されていました。1986年に発売された中華学習機こと「CEC-Iはその中でも大ヒットした商品で、「Apple II」との互換性もあったことから多くのユーザーに愛されました。館内では、当時のパッケージや本体がそのまま展示されていました。

CEC-I」

任天堂、セガ、ソニー、マイクロソフトなどのハードや周辺機器も

展示の中盤になると、デジタルゲーム市場の主役となった任天堂の製品が数多く展示されています。

任天堂の歴代の携帯型ゲームハード

任天堂がファミコンの前に作っていたポケットゲームやおもちゃの展示もありました。トランプ、花札、麻雀、ディズニーのIPを使ったゲーム、大ヒットしたラブテスター、ウルトラスコープなど珍しいゲームが展示されており、興味深く拝見しました。

任天堂の祖業であるおもちゃメーカー時代に作られた花札、小倉百人一首、任天堂いろはかるた

トランプ、麻雀牌、N&Bブロックシリーズ

左から、1960年代に発売された運命ゲーム(すごろく)、ウルトラマシン(ピッチングマシーン)、ラブテスター(相性診断)、ウルトラハンド(遠くのものを取るおもちゃ)

70年代に開発されたレフティRX(レースゲーム)、魔法のトランプ(特殊なメガネをかけるとカードの種類が認識できる)、オートマチックウルトラスコープ(潜望鏡のように高い位置にあるものを見ることができるおもちゃ)

また、「ゲームボーイカラー」と接続し、自分のデザインした刺繍が縫えるミシンなど、2000年代以降のグッズも展示されていました。

「ゲームボーイカラー」と接続して縫えるミシン、「ヌエル」と「ヌオット」

中央にある金のマリオ像は、90年代に日本で展開された任天堂エンターテイメント特約加盟店に置かれていたもの

ここには、かつて任天堂の代理店をしていたiQueの「ゲームボーイポケット」や「ゲームボーイアドバンス」、「iQueプレイヤー」など中国国内でのみ販売・流通されていたゲーム機が数多く展示してあります。すぐ隣には、各国で作られたファミコン互換機も展示されていました。

iQue(神游科技)は、2002年に任天堂と中国系アメリカ人の科学者である顔維群氏によって設立された合弁会社です。2000年からコンソールゲームの流通が禁止された中国において、携帯デバイス型のゲームを展開していました。このことにより、中国のユーザーはマリオ、逆転裁判を含めた様々なゲームIPに触れることができました。現在は任天堂の完全子会社となっていますが、中国最大のゲーム展示会China Joyのチケットスポンサーになるなど今もなお一定の影響力を持っています。

iQueプレイヤー」(左)と「iQue DS」(右)

各国で作られたファミコン互換機

ファミコンのコントローラーの巨大なオブジェの前には、当時のCMが展示されています。

巨大なファミコンのコントローラー

このほかにも、あまり日本では見られない北米版の「Nintendo Entertainment System」(NES)が展示されているほか、「ツインファミコン」、「バーチャルボーイ」、「スーパースコープ」、「Wii、「Switchなど新旧さまざまな任天堂ハードが展示されています。

「ファミリーコンピュータ」と「ディスクシステム」

「Nintendo Entertainment System」(NES)とファミリーベーシック

左から、カラオケスタジオ、ファミリーコンピュータ ロボットとブラスター(光線銃)、PAXパワーグローブ、ニューファミコン、ツインファミコン。任天堂のおもちゃや周辺機器は近年でもしばしばゲームの中に登場する

セガの筐体も数多く展示されています。「マスターシステム」や「メガドライブ」だけでなく、ブラジルで発売されているテクトイ(Tectoy)のメガドライブなど、日本ではあまり見られない海外のみで展開されたゲーム機の展示もありました。

「SG-1000」と「SG-1000 II」。「SG-1000」はファミコンと同時期に発売された

「マスターシステム」はテレビの受像方式が異なることで、ファミコンの普及が遅れた欧州や南米で一定の成功を収めた

「メガドライブ」とその派生機種。北米では「GENESIS」として展開され、「スーパーファミコン」と競合となった

「セガサターン」

「ドリームキャスト」と関連商品

セガがハードの製造を終了したあとも南米ではTECTOYがセガのライセンスのハードを製造し続けていて、この「Master System Evolution」は現在でも販売されている“現行機”である

これは中国で発売された“メガCDが遊べる”ビデオCDプレーヤーです。

「メガCD」が遊べるビデオCDプレーヤー

ソニーの「PlayStation」シリーズも展示されています。

「PS one」から「PlayStation 5」までが一挙に展示されているエリア

「PlayStation 5」の筐体には、ソニー中国の江口董事長のサインが

「PlayStation Portable」(PSP)や「PlayStation Portable Go」(PSP Go)だけでなく、「PlayStation」に接続してゲームをダウンロードできた「ポケットステーション」やAndroidスマホの「Xperia PLAY SO-01D」も展示されている

「PlayStation Vita」。「PSP」シリーズ、「PS Vita」はコンソールゲーム規制のある中国で多くのユーザーを得ることができた

「PlayStation」の登場は、ゲーム開発コストとゲーム製造コストを下げ、新たな市場を作りました。また、ここには「PlayStation 2」のテスト機が飾られています。

「Xbox」シリーズも初代から現行機まで、全て展示されていました。

「Xbox」から最新の「Xbox Series X/S」まで4世代が展示されているエリア

ジェスチャーなどを認識するデバイス、Kinectがプレイできる状態で展示されている

さらに「PC Engine」、「NEOGEO」、「ワンダースワン」などといった懐かしいゲーム機、あるいは時代のあだ花となったハードも展示されています。

「PC Engine」と『プリンセスメーカー1』。中華圏では『プリンセスメーカー』が人気で、現在でも『ニキ』シリーズ、『火山の娘』など多くの中国産ゲームに影響を与え続けている

SNKのゲーム機「NEOGEO」なども展示。「NEOGEO」はそのカセットの大きさとアーケードさながらの再現性で一定のユーザーの支持を得た

その他のゲーム機も網羅的に展示されている

中央にある「Game.com」は現在はファービーなどの電子おもちゃで知られるTiger Electronics1997年に発売したタッチパネル付きゲーム機。最も売れなかった携帯ゲーム機ランキングにも載っているという。当時電子ゲーム最大手のメーカーであったがこの失敗により大手玩具メーカーハズブロに買収された

新旧ゲーム機のコントローラーも展示してあり、いずれも触れる状態になっていました。

中国のゲーム開発者の幼少期の部屋を再現したエリアもあり、そこではゲーム開発者が当時を懐かしみながらゲームをプレイしていました。

中国でのゲーム産業振興のきっかけとなったPCゲームの展示

中国ではPCゲームからゲーム産業が興ったと言っても過言ではないほど、初期はPCゲームが流行りました。当時のPCやブラウン管が動態展示されており、子供たちが『クエイク』などで遊んでいました。

これは現在のLenovoが当時製造していたPCです。PCゲームをはじめとした莫大なPC需要をバックに、ここからThinkPadや富士通、東芝のPC部門などを買収して事業を拡大していきました。

面白いのが、Voodooなど当時のグラフィックボードがそのまま展示されていたことです。チップにはTAIWANKOREAなどと書かれていて、現在のGPUの歴史が感じられます。台湾出身の創業者が立ち上げたNVIDIAは、大ヒットグラフィックボードVoodooにチップを供給して拡大しました。のちにVoodooを作っていた3Dfxは、NVIDIAに買収されました。

中国で販売されていたPCゲームもパッケージで展示されており、今回同行した先輩も自分が関わったゲームが展示されているのを見て喜んでいました。

大ヒットゲーム『仙剣奇侠伝』シリーズも展示されていました。

展示の最後には、現在販売されているゲームのレコードや昔販売されていたガイドブックなど、貴重な資料が展示されていました。また、一部の書籍はミュージアムショップで購入できるようになっています。

「中国音数協ゲーム博物館」に行こう

「中国音数協ゲーム博物館」は、新旧のゲーム、世界中のゲーム、さらに海賊版といった、企業が運営するゲーム博物館では展示されないような、いわゆるゲーム業界の暗部のようなものも歴史の一部として展示されています。私自身、世界中のゲーム博物館やコンピューター博物館に行きましたが、このレベルの展示は見たことがないほどでした。

営業日は祝日を除いた月曜日以外、10時から17時。

住所は上海市徐汇区桂箐路65号新研大厦B3层で、上海浦東空港のある浦東新区側ではなく、上海虹橋空港のある浦西地区にある。博物館は建物の3階にあるが、外階段から入場するので注意が必要。

入館チケットはWeChatミニプログラムで購入する形式。2024年10月現在大人が38元、未成年は半額

上海では毎年7月に中国最大のゲーム展示イベント「ChinaJoy」、11月には中国最大のインディーゲームイベント「WePlay」、廈門国際アニメフェスティバルゲームコンテストといった国際的に有名なゲームイベントが行われています。こういったイベントに参加した後には、ぜひ博物館に寄ってみることをおすすめします。

 

中国音像与数字出版協会 Webサイト高橋 玲央奈氏 Facebookページ
高橋 玲央奈

日本と中国でゲーム会社を経営している。ゲーム開発、配信のみならず日中間でのゲーム海外進出、ローカライズ、マーケティング、コンサルティングなどを行う。2019年9月2023年9月まで一度も帰国せずに中国に滞在し、日中ゲーム産業の架け橋として奮闘。過去の作品として「円谷プロ ウルトラマン 大決戦!ウルトラユニバース」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ炎のカスカベランナー」「マッピー 対決!ネオニャームコ団」などがある。廈門国際アニメフェスティバルゲームコンテスト審査員。2021ゲーム産業白書、2024ファミ通ゲーム白書中国担当ライター。iGi(indie Game incubator)メンター。

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