2024年9月26日(木)から29日(日)の4日間、幕張メッセで開催されている「東京ゲームショウ2024」。展示されたゲームの中から、アラ氏が開発するADV『Detective NEKKO – ディテクティブネッコ –(以下、ディテクティブネッコ)』を紹介します。
シネマティックミステリーADV『Detective NEKKO – ディテクティブネッコ -』開発者に聞く、個人制作を継続する秘訣や3Dゲームのドラマチックな演出方法【TGS2024】
TEXT / tyap
目は口ほどにものを言う。不思議な目の能力で相手の心を解き明かすシネマティックミステリーADV
『ディテクティブネッコ』は、デフォルメ調のキャラクターたちが繰り広げる3Dミステリーアドベンチャーゲームです。新米探偵である主人公の「ネッコ」と記憶喪失の相棒「ジケンボ」がタッグを組み、事件を解決していきます。
TGS会場でプレイできる序盤10分程度の試遊では、ネッコとジケンボの出会いに触れることができました。
椅子と扉だけの暗闇の中で目を覚ましたネッコ。目の前には「自分のことが何もわからない」と話す謎のキャラクター「ジケンボ」が。
なぜかネッコのことを知っているジケンボ。
選択肢を選ぶと、75%という数字が現れました。どうやらネッコへの期待度を示しているようです。
ジケンボは、ネッコに自身の正体についての調査を依頼し、暗闇から解放します。
不思議な暗闇から目覚めた先はとある家の前。どうやら何らかの事件解決のため依頼人のもとへ向かう途中だったようです。
鞄型となったジケンボとともに最初の事件に挑みます。
家の前にいたのは、「イッヌ」という新たな探偵。
ネッコはベテラン探偵であるイッヌの助手として、とある事件の解決をサポートすることに。
選択肢を選ぶと、ネッコがジケンボから授かった特殊能力「見えすぎる目の能力」が発動。相手からの信頼度を可視化できます。
選択肢によって「相手が自分のことをどう思っているか?」のパーセンテージが変動し、ストーリーに影響を与えるとのこと。
相手の信頼を得るために探偵としての正しい振る舞いとは?ノスタルジックで温かみのある作風と、カートゥーンライクなキャラクターたちが魅せる、どこか不穏な世界観に目が離せません。
こだわりと完成の狭間で揺れ動く、個人開発ならではの作業の取捨選択とは
開発者のアラ氏は、ゲームUIデザイナー・3Dキャラクターモデラーとして働く傍ら、個人で本作を開発しています。
開発のきっかけは、仕事のゲーム開発のスパンが長期化していく中で、自身のポートフォリオを充実させるためとのこと。「ゲームを作りたい気持ちは仕事で満たされていましたが、一方でポートフォリオに載せられる作品がなかなか増えないことに悩んでいました」とアラ氏は語ります。
UIデザインのポートフォリオは一般的に、一枚絵や素材単体として作られることが多いそう。
しかし、アラ氏は「UIデザインというのはゲームシステムありきで作られるものなので、ゲームシステムもしっかりと作り込みたい」とこだわった結果、バーティカルスライスとして2020年から本作の開発を開始。
4年にわたる個人開発ですが、「今日は15分だけ」「週末は1時間ほど作業をする」と無理のないことを第一としたスケジューリングのおかげで、モチベーション低下のないルーティンになっているとのこと。
また、2023年から始めたゲームイベントへの出展による他の開発者との交流も、モチベーションの向上に繋がっているそうです。
また、ゲームコンテストへの応募も実施。開発速度を上げるための締め切りとして活用しつつ、企画書といった応募用資料の作成とともにゲームのブラッシュアップを行ういい機会になったとのこと。
その結果、「ゲームクリエイターズCAMP」の「GAME BBQ vol.1」では優秀賞を、「indie Game incubator(iGi)」第3期では特別賞を受賞しています。
開発ツールは、仕事のきっかけで触れた「Unreal Engine 4」を採用しています。特にブループリント機能の視覚的かつ直観的に操作できる点が魅力だったとのこと。
また、『ジラフとアンニカ』の開発者 紙パレット氏が同作の99%をブループリントで開発していることを知り、「これなら自分の理想とする開発環境に近い」と勇気づけられたことも、採用理由の一つになっているそうです。
3Dモデルの制作にはMayaを使用しています。「今後の仕事に繋がれば」と本作で初めて使用したツールだそう。
その後、実際に仕事でもMayaの使用を開始したため、個人開発での経験が非常に役立ったとのことです。
UIデザインはPhotoshopで作成されています。
『やはりゲームUIデザイナーとしてこだわりたい部分はありますが、一つの要素にこだわり続けていると全体の進捗が進まず完成しません。そのため、「ある程度このポイントを押さえれば問題ない」というラインを意識しながらデザインを行っている』とアラ氏は語ります。
UIデザインの見やすさを担保するため、アラ氏は視線誘導や文字の大きさ、ラインの細さや薄さのバランスを必ず整えることを意識しているそうです。
また、開発の早い段階で画面遷移や表示・非表示、待機中のアニメーションを実装できた点、その際にアニメーションの緩急まで意識して制作できた点は、ゲームUIデザイナーとしての経験が生きていると感じるとのこと。
開発中に最も意識している点としては、ゲームシステムに対して、テーマや表現に整合性を持たせることが挙げられました。
例えば、目の能力を使用するゲームシステムを視覚的に伝えやすくなることから、目の大きいカートゥーンライクなデザインが採用されています。
開発で最も大変な要素は、ムービーシーンの作成であるとのこと。本作はゲームジャンルに「シネマティックミステリーアドベンチャー」を掲げていることもあり、映像表現に並々ならぬ情熱を注いでいます。
例えば、ネッコが能力を使用する瞬間は、画面のネガポジが反転するシーンになっています。
このシーンでは、タイムライン上でシェーダーの切り替えやSEの再生などを行っており、タイミングの調整に時間がかかるとのこと。
さらに、シーン内の環境によってはネガポジ反転の陰影にばらつきが生じるため、同じパラメーターを使いまわしてしまうと、3Dモデルの輪郭などが見えづらいシーンが出てきてしまいます。そのため、シーンごとにネガポジ反転の数値調整も必ず行っているそうです。
キャラクターの心情や意図を持たせられるよう、カメラワークにもこだわっているそう。カメラワークについては、アニメーターの若杉 遼氏が自身のWebサイト『わかすぎものがたり』で公開しているテクニックやコツなどが非常に勉強になったとのこと。
また、アラ氏の好きな『カートゥーン・サルーン』をはじめとするカートゥーン系の映画から、構図や演出などを参考にしているそうです。
カメラワークと関連して、キャラクターのモーションにも工夫が施されています。
目線や身振り手振りのモーションの実装はそれぞれ数種類ずつに留め、モーションの組み合わせやカメラワーク、目の瞬きのタイミングに合わせたパラメーターなどを調整しています。こうすることで、個人開発でまかなえる範囲の作業量で非常にリアリティあふれる映像表現を実現しています。
これらのゲームシステムと表現方法を試行錯誤する中で、アラ氏が気付いたことは「相手の心情を覗くゲームシステムのおかげで、キャラクターの感情表現の幅が広がっている」という点です。
相手の信頼度が可視化されるからこそ、表面上は何食わぬ表情をしていても内心では激怒していたり、そっけない態度を取っていても本当はとても好感を抱いている、といった感情のギャップを描写することができます。
「通常、信頼度といったゲームのパラメーターはプレイヤーだけが認知できるもので、作中のキャラクターは認知できません。しかし、本作ではプレイヤーはもちろんのこと、主人公にも信頼度が認知されているという構造は面白いのではないかなと感じています」と、アラ氏は本作の魅力を伝えてくれました。
『Detective NEKKO - ディテクティブネッコ -』紹介ページ|ゲームクリエイターズCAMP東京ゲームショウ2024公式サイトゲームを遊び、ゲームを作り、絵を描き、文章を書くエビです。
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