「Spiral Up Games」はどんなパブリッシャー?
——Spiral Up Gamesさんの紹介をお願いします。
Spiral Up Gamesは、 2022年に設立したインディーゲームパブリッシャーです。 中国・ シンガポールにて計20人以上のベテランゲーム開発者とマーケテ ィング担当者で構成されたチームを編成し、 グローバルにゲームを届けています。
Spiral Up GamesのCEOである Aldric Chang氏
提供可能なサービスは、開発資金の調達、マーケティング、コミュニティ管理、ローカライズ、プレイテスト、ゲームデザインのフィードバック です。そうしたサービスの代わりに、ゲームの売上の一部を頂戴しています。
Spiral Up Gamesがパブリッシングした作品(画像は Spiral Up Games公式サイト より引用)
——サービスの一つである資金調達について、具体的な内容についてお伺いしたいです。
資金調達は、タイトルのパブリッシングに対し、強い関心を示す金銭的なコミットメントです。開発者さんにとっては開発費不足を補い、サンクコストを返済できるものだと理解しています。具体的な金額はプロジェクトに応じて交渉できます。
Spiral Up Gamesの場合、開発資金は無償提供ではなくリクープさせていただきます。弊社と開発者さんとのレベニューシェア(利益分配)がはじまる前に、ゲームの売上から回収させていただく形を採っています。
——Spiral Up Gamesさんがパブリッシング契約を結んだ作品のうち、資金調達をしつつリリースした作品はありますか。
『Wandering Sword』『Back to the Dawn ~ブレイク・ザ・アニマル・プリズン~』『アノマリーコラプス(Anomaly Collapse)』など、リリース済みのタイトルはすべてSpiral Up Gamesが資金を提供 しています。
また、未発表タイトルについても資金提供の準備をしているところです。
——Spiral Up Gamesさんの開発サポートについて質問です。パブリッシングした作品を拝見すると、開発チームごとにゲームエンジンだけでなく開発者さんが住んでいる国も違うように思います。サポートはどうしているでしょうか。
私たち自身もゲーム開発者であり、PC、モバイル、コンソール、VRなど、さまざまなプラットフォームやゲームエンジンで開発経験を積んでいます。
また、ゲームデザインに関するアドバイスを提供したり、大規模な国際プレイテストを実施したりできる協力的な環境も整っています。
英語、中国語、日本語でのサポートを行えることもあり、開発者さんへの支援体制は万全だと自負しています。
——Spiral Up Gamesさんは、パブリッシングする作品の内容に対して、どこまで関与していますか。
私たちは開発者のクリエイティブを理解し、尊重しています。開発者さんのアドバイザーとして動きますが、内容をどうするかといった最終決定は開発者に委ねています。
——パブリッシングする作品の開発者とのコミュニケーションで、大切にしていることはありますか。
まず、開発者さんたちが大切にしているゲームを、私たちに託してくださることを非常に光栄に思っています。それは、もうすぐ親になる人が医師に寄せる揺るぎない信頼に似ています。大切な赤ちゃんをこの世に送り出すという使命を共有するのです。
そのような関係と同じように、私たちと開発者さんの関係も信頼の上に成り立っています。 絶え間ないコミュニケーションはこのパートナーシップの活力源であり、私たちと開発者さんのビジョンが一致していることを保証します。
——Aldricさんが「パブリッシングしたい」と思える作品の基準は?
パブリッシングするゲームを選ぶ基準は以下の通りです。
魅力的なコンセプトとゲームプレイのループ: そのゲームには、プレイヤーを引きつけ、夢中にさせるユニークなフックがあるか
高いリプレイ性: ゲームを終えた後、プレイヤーはまたプレイしたくなるか
熱心な開発者: 開発チームがプロジェクトに対して強いコミットメントを示し、信頼できるか
幅広い訴求力: 多くのゲーマーの共感を得られる可能性があるか
——Spiral Up GamesがパブリッシングしているプラットフォームはPCが中心でしょうか。
PCファーストのアプローチ に従い、Steam、Humble Bundle、Green Man Gamingなどを活用し、幅広いプレイヤーさんにリーチします。 PCで並外れた成功を収めたタイトルについては、Nintendo Switch、Xbox、Playstationへの移植を検討し、そのリーチと可能性を最大限に引き出します。
——itch.ioはバーティカルスライスやデモを公開するプラットフォームとして適している、というSpiral Up Gamesさんの記事 を拝見しました。もう少し詳しく説明していただくことは可能でしょうか。
itch.ioには、革新的でクリエイティブなゲームに興味を持つコミュニティが存在します。そのため、インディーゲーム開発者さん、とくに開発中の作品に対するフィードバックを求めている開発者さんにとってItch.ioは有益なプラットフォーム だと考えています。
itch.ioトップページ( itch.io公式サイト より引用)
動画やデモなど、作品の見せ方に幅があるのも良い点です。また、itch.ioはプレイヤーが料金を上乗せして支払える方式「pay what you want」も提供しており、開発者さんを支援しやすいシステムが提供 されています。
しかし、プラットフォームの規模はSteamより小さく、ユーザーは絞られています。多くのユーザーにリーチしたいと考えている場合は、活用に向いていないかもしれません。
——プロモーションに向いた媒体(SNS、YouTubeなど)はありますか?
ゲームのプロモーションに最も効果的なプラットフォームを特定するのは難しいですね。
私たちは、TikTokやXのようなプラットフォームの口コミで人気が急上昇するタイトルを目撃してきましたし、インフルエンサーマーケティングキャンペーンによって成功を収めたタイトルもあります。
結局のところ重要なのは、プラットフォームに関係なくターゲットオーディエンスの共感を得られるようにメッセージとビジュアルを調整すること にあります。
パブリッシャーである私たちは、ソーシャルメディア、YouTube、Twitchなどさまざまなチャンネルの強みを生かした包括的なアプローチを信条としています。これにより、露出を最大化し、さまざまなコミュニティで潜在的なプレイヤーとつながることができるのです。
日本や海外のゲーム市場についても聞く
——日本のゲーム市場やインディーゲーム開発者さんについて、思うことはありますか。
私は『スーパーマリオ』『ストリートファイター』『三國志』『ロックマン』『ファイナルファンタジー』など、日本のゲームで育ちました。私がゲームを好きになったのは、日本のゲーム市場から大きな影響を受けていると言えます。
私自身がゲーム開発者やパブリッシャーとなった今、日本のインディーゲーム開発者さんと会話してみると、彼らはとても几帳面で才能があり、自分たちの技術に誇りを持っている印象を持ちました。
彼らの多くは一人で開発し、シナリオやゲームデザインのスキルを卓越したレベルまで磨いています。彼らは自分の限界を理解し、予算などの制約の中で魅力的な体験を作り出しています。これは、彼らの粘り強さと才能があることの証左だと言えます。
私はクオリティとクリエイティブなストーリーテリングへのこだわりに対して深く賞賛しており、パブリッシング活動を通じて積極的に支援しようと思っています。
——現状、Spiral Up Gamesさんは日本のインディーゲームを扱っていませんが、今後は取り扱う計画などはありますか。
もちろんです!実は、日本のインディーゲーム開発者数名と積極的に契約を進めています!この記事が掲載されるころには発表できているとうれしいですね。
中国は対戦ゲームが圧倒的な人気を誇る ——中国でのインディーゲームの立ち位置について教えてください。
インディーゲームは、中国のニッチな市場を開拓しているように思います。基本無料プレイのモバイルタイトルやAAAタイトルが人気な一方で、Steamの台頭とストリーマーの影響によってインディーゲームの成長が後押しされています。
Steamはインディーゲームを発見できるプラットフォームを提供し、ストリーマーはゲームのユニークな体験を強調することで、インディーゲームへの評価を高めていますね。
——中国ならではと思うゲームプレイヤーの動きや特徴があれば教えてください。
中国のゲーム市場は、開発者にとって興味深い嗜好性を持っています。まず、中国のゲームプレイヤーの多くは、アニメのようなアートスタイルのゲームを好みます。
ゲームジャンルとしては対戦型ジャンルが頂点に君臨 し、MOBA・FPS・アクションゲームが成功を収めるケースが多いです。あとはストラテジーゲームも、熱心なファンを獲得しています。
——中国で人気が出た日本のインディーゲームについても少しお聞かせください。『NEEDY GIRL OVERDOSE』は100万本以上売れたヒット作で、CEDECでの講演によれば、もっとも売れた地域は中国でした。講演では、bilibiliを活用するなどして中国語圏に注力していたとのことですが、Aldricさんからの視点でも要因を教えてください。
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【CEDEC2023】インディーゲームが100万本売れるまで :『NEEDY GIRL OVERDOSE』の販売データから
まず、このゲームのアートスタイルが大きな魅力です。中国のゲームプレイヤーはアニメの美学に強い親近感を持っており、『NEEDY GIRL OVERDOSE』はその点で優れています。
ダークでユニークなストーリーも魅力の一つですが、おそらく最も重要な要素はbilibiliへの露出 だと思います。bilibiliはニコニコ動画とYouTubeの要素を組み合わせたようなプラットフォームで、アニメとゲームのコンテンツとの親和性が高いです。bilibiliで人気を獲得する試みは、多くの若いゲームプレイヤーにリーチする確実な方法でもあります。
bilibiliはストリーマー文化が育っている場所 でもあるため、『NEEDY GIRL OVERDOSE』にとって完璧なプラットフォームとなり、中国での人気に拍車をかけたと言えます。
シンガポールのインディーシーンは課題を抱えつつも、熱意を持って開発している ——シンガポールには、複数の大手ゲーム会社の拠点が存在します。シンガポールのゲーム業界は活発にも思いますが、実際のところはいかがでしょう。
そうした外国の企業はシンガポールの地元住民を雇用する傾向があり、国内の中小インディースタジオが引き抜かれるといった状況も起きています。
シンガポール外の企業に人材が流出しているような状況は、間違いなく地元のインディーシーンに影響を与え、シンガポールから生まれる有名なインディータイトルが減ってしまう一因となっています。
このような課題にもかかわらず、個人や小規模スタジオの熱心なコミュニティは、情熱に燃えて積極的にゲームを開発しています。定期的に開催されるミートアップ・デモ・ショーケースは、コラボレーションや知識共有の機会を提供し、相互支援の環境を育んでいます。
——シンガポールにおける有名なインディーゲーム開発者さんやスタジオについて教えてください。
シンガポールにある世界的に有名なインディースタジオの数は比較的少ないかもしれませんが、地元のシーンにおける才能と可能性を示す注目すべき例がいくつかあります。
『Cuisineer 』を制作したBattlebrew Productionsもそのひとつです。また、The Gentlebros は『Cat Quest』シリーズで国際的な評価を得ていますし、Mixed Realmsは『Sairento VR 』『Gordian Quest 』『Hellsweeper VR 』といった好評のタイトルを開発しています。
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集英社ゲームズがグローバルパブリッシャーとして協業する『 UNYIELDER 』も、シンガポールのTrueWorld Studiosが作っている
インディーゲーム開発者さんに向けた6つのアドバイス
——最後に、インディーゲーム開発者さんに向けたアドバイス、Spiral Up Gamesさんの今後の展開を教えてください。
インディーゲーム開発者さんへのアドバイスは、以下の通りです。
強力なコアコンセプトを優先する: 革新性は素晴らしいが、ゲームの核となるゲームプレイのループや仕組みが魅力的で、よく練られていることを確認すること
適切なオーディエンスをターゲットにする: ターゲット層を理解することで、マーケティングやメッセージングを調整し、最大限のインパクトを与えることができます
まずPCでのリリースを検討し、コンソールへの移植も視野に入れましょう: PC市場はSpiral Up Gamesが行っているように、成功したタイトルのコンソール移植を検討するオプションを備えた、優れたエントリーポイントを提供しています
グローバルなマインドセットを受け入れる: ローカライゼーションと文化的な感性は、新たなユーザーへの扉を開く可能性があります
コミュニティの力を過小評価してはいけない: あなたのゲームのコミュニティを構築することで、とくに開発中のエンゲージメントと貴重なフィードバックが育まれます
パブリッシングとの提携を模索する: 適切なパブリッシャーは、リソース、指導、サポートを提供し、ゲームの知名度と成功を高めることができます
今後、Spiral Up Gamesでは、当社の中核となる強みに引き続き注力していきます。
高品質なインディータイトルを提供すること: 当社の品質へのこだわりは、前述した強力なコアメカニクスの強調とよく一致しています
グローバル展開: 日本市場への関心も含め、複数の地域での経験は、継続的な国際的成長にとって有利に働きます
進化するプラットフォームへの対応: 新たなプラットフォームや技術が登場する中、Spiral Up Gamesはつねに最前線に立ち、開発者に新たな視聴者を獲得する機会を提供します
今回は、開発者さんとの関係を大切にしながら世界で活動しているSpiral Up Gamesさんにお話を伺いました。 本連載では引き続き、インディーゲームパブリッシャーにフォーカスしたインタビューを行います。
「Spiral Up Games」公式サイト
編集プロダクション「浦辺制作所」に所属。ITやゲームにかかわる書籍・Webメディアにおいて、執筆と編集を担当している。ゲーム全般が下手だけど好き。
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