フラフープを回し、靴を飛ばし、マイクで叫ぶ。個性あふれる独創的なコントローラーを駆使したゲームが揃う「make.ctrl.Japan」ブースを紹介【BitSummit Drift】

2024.07.19
注目記事イベントレポートBitSummit2024
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2024年7月19日(金)から21日(日)の3日間、京都みやこめっせで開催されたBitSummit Drift。今回は、通常のゲームコントローラーではなく独自に制作したコントローラーを使用したゲームが集まった「make.ctrl.Japan」ブースについて、趣向の凝らされたコントローラーを用いたゲームを4タイトル紹介します。

TEXT / 浜井 智史、神谷 優斗

目次

make.ctrl.Japanとは

make.ctrl.Japan」は、通常のゲームコントローラーではなく独自に制作したコントローラーを使用したゲームを展示する企画です。アメリカ・サンフランシスコで開催されるGame Developers Conference(GDC)でのイベント「alt.ctrl.GDC」をモデルに、日本で開催されています。これまでに9回開催されており、アーカイブはこちらで見ることができます。

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今回の出展タイトルをいくつかご紹介します。

左右に傾く台や空気入れで楽しくスポーツ!『ネコリンピック』

ネコがさまざまなスポーツをするコンセプトの「ネコリンピック」シリーズ。micro:bitScratch Linkを組み合わせて開発されたゲームで、プレイヤーの身体の動きと画面内のネコの動きがリンクします。会場には「スケートボード」と「ボートレース」の2点が展示されていました。

「ネコリンピック」シリーズの1つ「スケートボード」

「ネコリンピック」シリーズの1つ「ボートレース」

スケートボードは、画面内のスケートボードを操作し、道端に落ちているリンゴや金貨、宝石などを回収して得点を稼ぎつつ道を進むゲームです。

加速度センサーを備えた台に両足で乗り、左右に重心を移動させると、スケートボードが左右に滑ります。コースに現れる自動車などの障害物に当たると即ゲームオーバーです。

両足で台に乗り、左右に体を傾けてスケートボードの移動方向を操作する

道路上には、リンゴやルビーなどの得点アイテムが配置されている

画面内のスケートボードは機敏に動くため、現実世界の台と動きをリンクさせるのは難度が高く、油断するとすぐに障害物に当たってしまいます。得点アイテムと障害物が隙間なく交互に並ぶ盤面では障害物の合間を縫ってアイテムを取りにいかなければならず、さながらスポーツ選手のような足さばきが求められます。

ボートレースでは、自転車などに使用する空気入れをコントローラーにします。空気入れを何度も押し込んでボートを漕ぎ、CPUと競いゴールを目指すゲームです。

空気入れに磁気センサーが付いており、ハンドルを押し込むことによる磁石とセンサーの接近を入力として扱います。速く漕ぐためにはハイペースで空気入れを押し引きする必要があります。奥までハンドルを押し込まないとセンサーが感知しないため、レースに勝つために体全体を使って息を切らしながら空気入れを何度も押し引きしました。

空気入れに固定された磁気センサーと磁石の距離変化が入力として機能する

「ネコリンピック」シリーズを開発する「ネコマ製作所」の下村 一郎氏は、普段は小学生用の学習教材を制作しています。今回使用したセンサーなども、小学校の理科でプログラムの動きを実験する教材としても使われているとのこと。

「ネコリンピック」シリーズを開発した下村 一郎氏

市町村の子ども向けプログラミング教室で教えた経験もある下村氏。子どもにゲームを遊んでもらう企画から始まり、現在は趣味でゲーム開発を行っているそうです。

背景のビルなど3DCGはBlenderで作成。アート面もすべてご自身で担当しています。

イタリアや中国などのイベントに参加経験がある一方で、BitSummitは今年が初出展。「ネコリンピック」シリーズはネコマ製作所の公式ホームページでも紹介されています。

『ネコリンピック』ネコマ製作所公式サイト

ダッシュ!キック!シャウト!靴を遥か遠くへ飛ばすゲーム『Kick And Loud』

2023年のBitSummitでは、コーラの瓶型のコントローラーを振って空に瓶を打ち上げるゲーム『Jet Cola』を出展していた「Tamakotronica」の千田 泰宏氏。今年のBitSummitでは、新作の『Kick And Loud』を出展していました。

翼の生えた靴をできるだけ遠くに飛ばし、記録を競い合うゲームシステム。飛距離の算出には「ダッシュ」「蹴り」「叫び」という3つの要素が用いられます。

ゲームがスタートすると、まず画面に「走れ!」という文字が表示されます。これに合わせてダッシュ用のマットの上で全力で足踏みし、メーターを溜めます。

まずはダッシュ。「走れ!」の表示に合わせて、専用のマットで全力疾走のごとく足踏みする

次に、用意されたスリッパに軽く足を入れ、目の前にある「Kick」と書かれた箱に向けて靴飛ばしの要領で蹴り飛ばし、スリッパをぶつけます。

「Kick」と書かれた場所に目掛けてスリッパを飛ばし、命中させる。当てた角度に従い、スリッパが飛ぶ方向が決まる

その後、画面に大きく赤字で表示された「叫べ!」の文字に合わせて、マイクに大声を流し込みます。

ダッシュで加速度を高め、キックで方向調整、そして声で靴にブーストをかけて遠くへ飛ばす。3種類の異なるアクションを掛け合わせて高得点を狙う、トライアスロンのような印象を受けるゲームです。

ブースの周囲には他の来場者も大勢おり、一人突然マイクに向かって叫ぶとやや人目が気になりますが、思い切って全力で叫んだ結果靴が空高く舞うのを見ると、とても爽快感がありました。

開発者の千田氏に今回のゲームの着想についてお聞きしました。前作がコーラモチーフだったため、「今回はレッドブル絡みでやってみよう!」→「なら翼を授けてみようか」と発想が膨らみ、翼の生えた靴を飛ばすゲームが誕生したとのこと。

『Kick And Loud』を開発した千田 泰宏氏

靴飛ばしの要素としてダッシュや声を導入した理由も伺いました。まず「靴飛ばし」における助走から連想してダッシュを導入。叫ぶギミックは、砲丸投げなどで飛距離を伸ばすために雄叫びを上げる様子をイメージしたそうです。

今回の出展を通して、どんな要素が楽しいのかプレイヤーの意見や反応を参考にしたいと千田氏は語りました。

筐体の耐久性については、靴を当てる「Kick」の部分は、強度の高いゲームセンター用のボタンを一面に張り付け、その上からスポンジで補強をしています。

靴をぶつける「Kick」の部分にはスポンジが敷き詰められている。その裏側には、耐久性の高いゲームセンター用のボタンが並べられ、靴がぶつかると入力が行われる

また、ダッシュ用のボードにはピエゾマイクを装着し、振動をデシベル数で計測しています。体重計のような計測器も検討したそうですが、分厚さによって地面との段差が生まれ事故の危険があるため、なるべく薄くできる機材を採用したそうです。

前作の『Jet Cola』から得られた知見として、前の人の試遊を見ることで並んでいる人がゲーム性を理解できるのがメリットだといいます。短い時間でプレイする都合上、すぐに遊び方がわかれば早いサイクルで試遊を回せるということです。

「Tamakotronica」公式X

フラフープを回してピザを焼く『HoooPizza』

『HoooPizza』は、エクササイズにも使えるゲーム。フラフープの内部に加速度センサーが仕込まれており、ピザ完成までの3つの工程を、回転や上下の揺れなどそれぞれ異なる動きを使ってこなします。

ピザを回す工程は、腰を使ったフラフープ回しに対応しています。制限時間内に回したぶん、出来上がるピザが大きくなります。

フラフープがうまく回せず落としてしまうと、そのぶんタイムロスになる。何度か落としながらも、なんとかピザを28cmまで大きくできた

その後は、フラフープを上下に振ってトッピングをのせます。焼き上がったピザを、フラフープを左右に転がすことでカットしたら、ピザの完成です。

フラフープを上下に振るごとにトッピングのチーズを振りかけられる。たくさん振るとチーズまみれのピザに

フラフープを左右に転がすと、画面上で回転している予測線でピザがカットされる

筆者もプレイしましたが、フラフープは十年以上ぶり。不安通り、最初はフラフープをすぐに落としてしまっていましたが、次第に慣れてきてより長く回せるようになりました。その上達に強い達成感を覚えるとともに、周囲も「おお!いいぞ!」と盛り上がります。本作は、プレイヤーだけでなく、ゲームプレイを見ている人も楽しめるゲームに仕上がっているように感じました。

本作の開発者 土井 伸洋氏

開発者の土井 伸洋氏にお話を伺いました。本作はご自身のみで開発を進めており、開発期間は開催時点で3か月。使用しているゲームエンジンはUnityです。

本作は、「プレイするだけでエクササイズになるゲームはないだろうか」というアイデアから生まれました。数多くあるエクササイズの中でも、フラフープは「子どもはたやすくできるのに大人には難しい」のが面白いと感じ、フラフープを使用したゲームの開発をスタートしたそう。実際、開発当初は土井氏自身もフラフープを回せず、テストプレイがままならなかったようです。

フラフープの中には、加速度センサーに加えArduinoが仕込まれています。

センサーは「Seeed Studio XIAO nRF52840」

センサーは遠心力など5つの動き(力)を検知し、それをArduinoが受信。Arduinoでは、受け取った信号をゲームパッドの入力信号に変換する処理を行っています。例えば、遠心力が一定以上になると「Aボタン押下」の信号が出力される、といった具合です。

信号のフローを表した図。「Game controller」と書かれた部分がフラフープ型コントローラーにあたり、ここからゲームパッドの入力信号が送られてくる

そのため、Unity上ではフラフープ型コントローラーを一般的なゲームパッドと同じように認識しており、内部的には「Aボタンが押されたら~~する」といった一般的なゲームと同様の入力処理になっています。これにより、フラフープ型コントローラーを使わずともテストやデバッグができる利点が生まれます。

土井氏の本業では、自動車の自動運転に関わっているそう。そのため、センサーや、センサーからの信号を加工するのに使う「Tensorflow」の扱いには慣れているとのこと。本作では、それよりもUnityの扱いに苦労したそうです。

そのほか、センサーの固定方法にも苦労したそう。センサーのカバーは3Dプリンターで自作しており、取り付けに適した形になるまで4回再設計されています

最初のバージョンでは、フラフープ内部で動いてしまったり回転してしまったりして、センサーの精度に影響が出ていました。現在のバージョンでは、友人から提案を受けた、ばねの機構を取り入れるアイデアを導入し、安定性が大幅に向上したそうです。

『HoooPizza』紹介ページ

本記事で紹介したタイトルのほかにも、個性あふれるさまざまな媒体を生かしたコントローラーがゲームに活用されていました。楽しく体を動かして遊べるゲームや、日常に潜む意外なアクションを盛り込んだゲームなど、「make.ctrl.Japan」の特徴を前面に発揮した独創的なアイデアに触れることができました。

「make.ctrl.Japan」公式サイトBitSummit Drift 公式サイト
浜井 智史

ゲームメーカーズで編集や諸業務に携わっています。『星のカービィ』シリーズと『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズが好きです。

神谷 優斗

コーヒーがゲームデザインと同じくらい好きです

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