「撮れ高」をテーマにしたワールドを投稿するコンテスト「clusterゲーム革命前夜」連動企画として、ゲームメーカーズ編集部が気になるワールドをピックアップ!
公開前のclusterワールドに対する調査隊として無人島ワールドの謎に迫る『The World Echo Seekers』の制作者に、テーマを企画として落とし込むまでのプロセスや制作で苦労したポイントなどを聞きました。
「撮れ高」をテーマにしたワールドを投稿するコンテスト「clusterゲーム革命前夜」連動企画として、ゲームメーカーズ編集部が気になるワールドをピックアップ!
公開前のclusterワールドに対する調査隊として無人島ワールドの謎に迫る『The World Echo Seekers』の制作者に、テーマを企画として落とし込むまでのプロセスや制作で苦労したポイントなどを聞きました。
INTERVIEW / 神谷 優斗, 神山 大輝
TEXT / 神谷 優斗
みっつさん
主にclusterで活動。ワールド制作やライブ演出、イベントの運営や出演などを行う。
「clusterゲーム革命前夜」には、新たに作成したワールド『The World Echo Seekers』で参加した。
――まずは自己紹介をお願いします。
こんにちは。みっつと申します!2020年冬、Meta Quest 2の購入をきっかけにVRSNSを始め、現在は主にclusterでワールド制作やライブ演出、イベントの運営・出演などを行っています。clusterはスマホからでも簡単にアクセスできるので、ぜひ気軽に会いに来てください!
本業は国内消費財メーカーの研究開発職ですが、こうした業務外の制作活動で得たスキルセットをもっと生かした方がよいと社内の後押しもあり、最近は研究資産を活用した生活者向けのコンテンツ制作や体験開発といったクリエイティブな業務にも携わることが増えてきています。
――「clusterゲーム革命前夜」に参加した経緯を教えてください。
はじめは「過去作品の応募で企画の盛り上げに貢献できればいいかな……」程度に思っており、新しいワールドを制作する予定はありませんでした。
そんな中、友人とホラー映画のウォッチパーティをしている最中に、以前からホラーワールドを作りたいと考えていたことを思い出しました。そこから、「プレイヤーを驚かせる(≒ 感情を揺さぶる)ワールドを作れば、テーマ『撮れ高』に沿うのでは?」と考え始めたのが本作のきっかけです。結果的にホラーにはなりませんでしたけれど……。
――今回制作された『The World Echo Seekers』について、簡単に紹介をお願いします。
本作は、サーバーへのアップロードまで完了した、まだ誰も足を踏み入れていない公開前のclusterワールドを舞台とした探索ゲームです。
「実は公開申請後にワールドの現地調査が行われている」架空の世界で、プレイヤーたちは調査隊の新人隊員として無人島ワールドを調査します。
『The World Echo Seekers』PV
島の特徴的なオブジェクトに調査用のサーチアイテムを使うことで調査が進行し、少しずつ島の背景が明らかとなっていきます。制限時間の15分間で発見できた情報や無人島の謎を解くことができたかどうかなどに基づき、エンディングが分岐します。
エンディング後は、探索中の様子をキャプチャした写真を観覧できる展示コーナーでプレイを振り返ることができます。
プレイ時間は約20分。1回のプレイは以下の流れで進行します。
――本作はUnity(Cluster Creator Kit ※1)とワールドクラフト(※2)、どちらを使用して作られているのでしょうか?
※1 clusterのワールドを製作できる、Unity用のテンプレートプロジェクト。制作したワールドは、Unityから直接clusterにアップロードできる
※2 cluster内でワールドを制作できるツール
Cluster Creator Kit(CCK)を使用してUnityで制作しました。
時間進行にあわせた昼夜の切り替えやサウンドの同期、プレイヤー全員を同時にワープさせる処理、カメラを使ったギミックなど、Unityのタイムライン機能を用いるとシンプルかつ確実に実装できる仕様が多いのが採用の大きな理由です。
また、UnityとBlenderなどを連携させるワークフローが確立できている点、入手したアセットや自作のギミック・スクリプトを転用できる点も理由として挙げられます。
――そのほかに使用したツールはありますか?
モデリングはBlender、テクスチャリングはSubstance 3D Painterを使っています。また、敵キャラの鳴き声や一部の効果音はDAWソフトウェアを使って制作しました。チームメンバーはCLIP STUDIO PAINTなどのペイントソフトを利用して、ワールドに配置されている地図やメモのイラストなどを描いてくれました。
ムードボードの作成や雑多なメモ書きなどはMicrosoft PowerPointで行うことが多いです。UnityやBlenderなどのツールと同時に起動してもそこまで処理が重くならず、画像やテキスト、表、ペンタブを使ったメモなど多様な機能を網羅的に使えるPowerPointはかなり重宝しています。
そのほか、テキストベースでのアイデア出しやタスク管理にはNotionとTrelloを、リファレンスの収集にはPinterestを主に使用しています。
また、1年ほど前からChatGPTや画像生成AIをアイデア出しや素材制作に積極的に使っています。本作では、ダイアログUIで表示されるクジラとキツネのイラストは画像生成AIで作成したほか、世界観設定や探索要素のアイデア出しをGPT-4と相談しながら行いました。
――今回のテーマ「撮れ高」から、どのようにしてワールドのアイデアを生み出したのでしょうか。
「撮れ高」がテーマと聞いたとき、個人的に苦手なテーマで「とても難しい」と感じました。
布団ちゃんの配信のように“プレイヤーの反応から生まれる撮れ高”なのか、“プレイヤー自身にとっての撮れ高”なのかなど、幅広い解釈の余地があることも難しさの要因でした。
しばらく悩んだ末、今回の制作方針として以下の2つを定めました。
プレイヤー自身にとっても、プレイを見る人にとっても撮れ高となるような方針にしています。どっちつかずにならないよう、前提としてしっかりと感情が動くことに比重を置きました。
アイデア出しの工程では、全体の設定や進行、整合性のあるストーリーが見えてくるまではほとんど制作に着手せず、ひたすら体験の要素を挙げていきました。具体的には、想定している情景や設定に近い映画を見たり、参考になりそうな画像を集めたり、仮のアイデアについて知人に相談したり、AIと話したりしてアイデアを広く集めました。
アイデアが出揃ってきたら、出たものを眺めつつ「これらのアイデアを組み合わせれば、こういった流れができそう」といった具合にアイデアを深めるプロセスを繰り返し行いました。
「島に放り込まれる→島を歩き回る→島から帰ってくる」という体験の大枠が決まった後は、「島に放り込まれるストーリー上の理由」「島に配置されているオブジェクト」などを考えました。
実装したい機能や遊びの要素、プレイヤーに感じてほしいことを統合して一連の体験を紡ぐのはとても難しい作業だと感じています。
――アイデアを具体的な仕様に落とし込んでいったプロセスを教えてください。
仕様書はNotionを活用し、テキストベースで作成・管理しています。仕様書には、プレイ中に起こるイベントや付随するメッセージ、得られるスコア、分岐に関わるフラグなどが一覧になっているテーブルやリストなどもまとめます。
ストーリーのあるワールドやマルチエンディングのワールドは過去に制作したことがあったため、全体のワークフローや仕様書を作るために必要な内容はある程度イメージできていました。
――続いて、制作フローを詳しく教えてください。
本作は2人チームで制作しています。私は企画・ディレクション・レベルデザイン・実装・島などのモデリングを担当し、もうひとりのメンバーはプロップのモデリング・2Dデザインを担当しています。
舞台が無人島に確定したところで、島の大まかなモデリングから制作を始めました。
その後、作成した島をUnityにインポートしてプレイヤーが歩けるように設定した上で、ゲームシステムの実装を始めました。まずは探索パートの通しプレイに必要な「時間変化を伴うタイムラインの制作」「スキャンアイテムの実装」「プレイヤーに追従する敵キャラとカメラ撮影機能付きアイテムのプレハブ化」を優先して実装しました。この時点で「時間経過によって状態が変化する島を、スキャンアイテムを使いながら散策する」という遊び部分の核となる操作感やビジュアル、自由散策×撮影ギミックの組み合わせが面白く機能しそうだとイメージできました。
それらが出来上がったタイミングで、島の大きさや歩き回るのにかかる時間を計測して、探索パートのプレイ時間を決定しました。当初はゲーム内で3日間過ごす案や、プレイ時間を5分、10分とする案もありましたが、島を調べ尽くせるかどうかギリギリのラインとして「15分(ゲーム内時間で一晩)」が適切だと判断しました。
次に実装したのは、イントロダクションパートとエンディングパートです。セリフなどは仮の画像を用いて、ゲーム全体を通せるようになることを目指しました。ゲーム全体の進行をコントロールするタイムラインを作成し、その中に探索パートのタイムラインをネストして組み込む方法により、制作の手戻りや不要な微調整が減るよう設計しました。
この時点で、BGMや機内の環境音などのサウンド、ダイアログUIの表示イベントはすべてタイムラインに配置しました。設定や世界観を伝える掴みは重要だと考えているため、特にイントロ部のサウンドやビジュアルエフェクトはほぼfixするつもりで丁寧に作り込みました。
ゲーム全体を通しプレイできるようになってから、ダミー素材の差し替え、遺跡や建物のモデリングと配置、チームメンバーが作成したプロップの設置などを実施しました。
全体のレベルデザインが終わったところで、スキャン判定を行うコライダーの配置や、写真をキャプチャするカメラの配置、イベントやフラグ判定などの実装を行いました。
最後に全体を通してのデバッグや各種調整を経て、本作が完成しました。
――シナリオや世界観の構想について、アートやサウンドを含めて一体感を感じました。一体感を出すために意識していることはありますか?
全体の整合性を確認してから制作に入ることが多いため、一体感は出やすいのかもしれません。また、基本的に自分たちで3Dモデルを作る方針であることがビジュアル面での一体感につながっているのではないかと思います。
今回は、地図のようなイラストや小屋の中に配置するプロップの制作をメンバーにリクエストするにあたり、背景となる設定を言語化する必要がありました。その過程で構想がブラッシュアップされていったことも一体感を高める要因になりました。
――本作は時間と数字を使った謎解き要素も特徴的でした。普段から謎解きゲームを遊んでいるのでしょうか?
最近は遊ぶ頻度があまり高くありませんが、謎解きやパズルは昔から好きです。画面中をタップしてヒントを見つけるスマートフォン用脱出ゲームを片っ端からプレイしていた時期もありました。「どこを調べたらいいかよくわからないから、ひたすらタップしまくる」もどかしさを本作でも感じてほしかったため、単にオブジェクトにインタラクトするのではなくサーチアイテムを使う仕様にしています。
また、リアル脱出ゲームも好きでたまに遊んでいます。もう7~8年近く前に挑戦した、遊園地を舞台にした脱出ゲームで、あと1アクション・1つのひらめきが足りず真の脱出にたどり着けなかったことをいまだに悔しく思っています。そこから着想を得て、本作にも「ラストのもう1アクションが100%クリアのために重要」という要素を組み込みました。
――謎解きの難易度調整について意識した点があれば教えてください。
開発期間やチームの規模を加味すると多くの謎を用意するのは難しかったため、島全体の探索を通して大きな謎を1つ解く形としました。大きな謎を設計するにあたっては、簡単すぎず難しすぎないラインを考えるのがとても大変でした。
「手札はほとんど揃っているはずなのに、まだあと何かが足りない」状態にすぐにたどり着き、そこからたっぷり時間を使ってさらなる探索や試行錯誤をしてもらうように意識して設計しました。そのため、謎解きの基本となる情報は目を引くオブジェクトとして設置し、それらの情報をどう扱うのかを示唆する重要なヒントは見つけるのを少し難しくしました。
綿密にレベルデザインを行う余裕はありませんでしたが、謎解きやバーチャルワールドの散策に慣れている数名のフレンドにプレイしてもらったときの様子から「初見でおおよその解き方が分かり、もう一回遊べばクリアできそうだ」と確認できたため現在の難易度に落ち着きました。
――ダイアログシステムの仕組みと実装方法について教えてください。
イントロとエンディングで使っている自動でセリフが送られるダイアログと、アイテムやワールドのスキャン時に呼び出されるダイアログは別の仕組みで実装しています。
前者はタイムラインで制御しています。特にエンディングは分岐ごとに別のタイムラインを用意し、各エンディングに対応したものが再生されるようにしています。
後者は、CCKの標準機能であるシグナルとタイマーで制御しています。シグナルが発火すると「①現在表示中のセリフを非表示にする」「②呼び出されたメッセージを表示する」「③指定秒数後に、呼び出されたメッセージを非表示にする」処理が順に起こります。
UIは背景画像と動的に生成したテキストの2つを描画しているわけではなく、事前にテキストと背景を組み合わせた画像データを準備しておき、セリフに対応した画像が表示されるようになっています。
VRユーザーにとってはUIが横に長いと首を振って読む必要があるため、画面中央にコンパクトにセリフを表示するよう心がけました。
――昼夜が切り替わるシステムは独自に実装しているのでしょうか?
スカイボックス用のシェーダーを使用するマテリアルとワールドを覆うFog、環境光となるDirectional Light、地面や建物の一部のマテリアルの変化をタイムラインで制御しています。どの時間でも見栄えに違和感が出ないように調整しました。
スカイボックス用のシェーダーは、ワールド制作でよく使う「ObjectSkyboxシェーダー」を、3種類のテクスチャを任意の割合でブレンドできるよう改造したものを使っています。これによって、空模様が徐々に移り変わっていく様子を表現しています。
――プレイ中のスキャンの仕組みについて、なぜ撮影機能の実装を行ったのでしょうか?
「もし無人島で数日過ごすとしたら、帰る時にプレゼントとして何がほしい?」とリアル/バーチャル問わず多くの知人に質問しました。その中でいただいた、職場の先輩からの「その島で過ごした思い出のアルバムみたいなものかなぁ?」という答えが基になっています。
バーチャルであればお土産は何枚でも用意できますし、探索するたびに結果が変わるため再プレイにおけるマンネリ化を防げます。
空白があると全部埋めたくなるプレイヤーもいるだろうという狙いから、額縁が並んだ部屋に撮影された写真のみが展示される形にしました。
――どういった基準でキャプチャ(撮影)を行っているのでしょうか。
「この瞬間、あったよね~!」という気持ちになれそうな瞬間をピックアップするようにしました。
船内で集合している時や島に到着した瞬間など、一部の写真はゲームの進行にあわせて決まったタイミングで撮影されます。
そのほかの写真は、アイテムがプレイヤーにスキャンされた瞬間に撮影されるように設計しています。スキャン対象に対してプレイヤーが立つと想定される位置をうまく画角におさめられるよう、撮影位置は念入りに調整しました。
――そのほかにこだわったポイントがあれば教えてください。
空間やストーリーを作るときは「もしかしたらあんな場所って本当にあるのかも?」とか「どこかに本当にあんな過ごし方をしてる人がいるかもしれない」と感じられる、ギリギリありえそうなラインを見極めようと試行錯誤しています。今回は特に世界観や設定にこだわりました。「clusterのワールド公開」という言葉を見かけたときに「ちゃんと調査が行われて、申請が通ったんだな」というように妄想を膨らませる方がいるといいなと思っています。
また、本作ではエンディング後のNPCのセリフを使い、遊んでくれる方へメッセージを伝えるようにしました。本作をきっかけに、普段clusterで遊んでいる方が以前より空間を隅々まで観察するようになったり、積極的にフレンドさんと写真を撮影して(撮れ高を目指しながら)思い出を作るようになったりすると、本当にうれしいです。
ワールドの制作にあたっては「ここでしか過ごすことができないちょっとした時間が、遊んだ方のその後に影響を及ぼせたらいいな」と常々思っています。clusterにログインしていない日々のなかで、何かのきっかけでふと思い出してもらえたら幸せです。ゲームのプレイ時間など測定可能な数値には現れない「その人の心の中だけのリピート数」のようなものも重視したいですね。
――最後に、clusterをメインに作品制作を行う理由と、clusterならではのメリットや魅力を教えてください。
自分が思い描いた空間に他者と一緒に入れる点でVRSNSは魅力的ですね。今回、自分がモデリングした遺跡の中ではじめて夜明けを迎えたとき、非常に気持ちが高ぶったのを覚えています。
創作の場としてclusterをメインにする理由は、私にとって制作に必要な機能のほとんどが開発ツールとして提供されている点や、スクリプトによる高い拡張性を備えている点にあります。
また、難しいことを考えずともワールド内のイベントが全プレイヤー間で同期されるclusterの基本仕様はありがたく感じています。スマートフォンからスタンドアローンVRデバイスに至るまでの最適化と保守をプラットフォーム側で行っていることにも感謝しています。
もっとも大きな魅力は、clusterに住んでいる知人や友人が自分のワールドをプレイして楽しんでくれている様子を間近で見られることです。うれしい感想はモチベーションを高めてくれますし、フィードバックを得て反映させるまでのサイクルを早く回せて効率的にブラッシュアップできます。
――これからの作品も楽しみにしています。ありがとうございました。
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