「撮れ高」をテーマにしたワールドを投稿するコンテスト「clusterゲーム革命前夜」連動企画として、ゲームメーカーズ編集部が気になるワールドをピックアップ!
的当てが楽しめるライドアトラクション『いちこん・ザ・ライド「時空をかける団子デリバリー」V3.7』の制作者に、テーマを企画として落とし込むまでのプロセスや制作で苦労したポイントなどを聞きました。
「撮れ高」をテーマにしたワールドを投稿するコンテスト「clusterゲーム革命前夜」連動企画として、ゲームメーカーズ編集部が気になるワールドをピックアップ!
的当てが楽しめるライドアトラクション『いちこん・ザ・ライド「時空をかける団子デリバリー」V3.7』の制作者に、テーマを企画として落とし込むまでのプロセスや制作で苦労したポイントなどを聞きました。
INTERVIEW / 神谷 優斗, 神山 大輝
TEXT / 神谷 優斗
Ichitaroさん
音声収録・編集業のかたわら、3DCG制作を行う。現在は、cluster上で100回以上開催されている「5分で得意話をするエンタメプレゼン企画TTVR」を企画運営している
――自己紹介をお願いします。
Ichitaro(いちたろう)と申します。本業で音声収録・編集に携わっているほか、個人事業主としてデリバリーでバイクを運転したり、3DCG制作の依頼を受けたりしています。
――「clusterゲーム革命前夜」に参加した経緯を教えてください。
もともと、学生時代から創作活動は行っていました。当時流行していたウェブラジオに自前のPCで参入し、音声ボイスドラマの企画制作に没頭していましたね。
その後、2016年にHTC VIVEを購入し、2018年4月にリリースされたバーチャルキャスト上でアバターを使った配信にハマったのをきっかけに、Blenderで3Dの背景制作を始めました。当時は「師匠」とも呼べる人たちに直接3DCGを教えてもらっていましたね。
背景制作は精力的に続けており、2020年1月の「ドワンゴ×どっとライブ バーチャルカラオケ大会 ~れっつ・すぃんぐ・そぉんぐす~」の会場提供、2020年3月にNHKで放送された「沼にハマってきいてみた」への2つの会場提供を経て、2020年4月、NHKの「おはBiz」でclusterとともに全国放送デビューしました。
現在は、主にcluster上で「5分で得意話をするエンタメプレゼン企画TTVR」を企画運営しています。おかげさまで2024年に4年目を迎え、開催回数は100回を超えました。「clusterゲーム革命前夜」へは、cluster公式サイトやアプリ内のPR画像で知ったのをきっかけに応募しました。
――今回制作された『いちこん・ザ・ライド「時空をかける団子デリバリー」』について、簡単に紹介をお願いします。
本作は、ライドアトラクションとシューティングを楽しめるオリジナル3DCG作品です。アトラクションには1組4人までで参加でき、ソロはもちろん、イベントなどでたくさんの友達と楽しめます。アトラクションに至るまでの道のりである「キューライン(Qライン)」(※)もしっかり作り込んでいます。
※テーマパークなどの施設において、アトラクションに遊ぶ前の待機列のこと。待機列で待つ間は、周辺の景色や造形を楽しんだり、アトラクションの注意事項を聞いたりする
本作は「ClusterGAMEJAM」に応募するために制作しました。アトラクションの構想には2日程かかり、Blenderでのモデリング、clusterでのシステム実装だけでなく、シナリオやサウンドも制作しています。現在はピストルや的の使用感改善、個別スコアとグループスコアの計算、アトラクション体験中の瞬間を撮影する「ライドショットシステム」の追加など、多数のアップデートも実施しています。
――本作はUnity(Cluster Creator Kit ※1)とワールドクラフト(※2)、どちらを使用して作られているのでしょうか?
※1 clusterのワールドを製作できる、Unity用のテンプレートプロジェクト。制作したワールドは、Unityから直接clusterにアップロードできる
※2 cluster内でワールドを制作できるツール
UnityとCluster Creator Kitを使用しています。もともとBlenderで3DCG制作を行っていた背景から、「Blenderで3DCGを制作し、Unityで処理を実装する」一連の流れがスムーズに行えるUnityを選択しました。音声や動作の細かい調整にこだわることができることも理由のひとつです。
――そのほかに使用したツールはありますか?
Blenderは3Dモデルの制作だけでなく、負荷軽減のためのライティングのベイクにも使っています。ピンポイントの画像処理にはPhotoshopを、音声編集にはAbleton Liveを使用しています。また、ガイドなどに使用されているボイスの読み上げにはVOICEVOXの「ずんだもん」を採用しました。
――ワールド制作の流れについてお聞きします。本作のメインとなるアイデアはどのように考えたのでしょうか?
頭の中で考えたアイデアはすぐにBlenderでモデリングし、具体化します。ワールドの構成を考える際は、入場したプレイヤーが制作した空間をどのように進んでいくか、必ずキューラインを思い描くようにしました。
メタバースでは無制限に空間を利用できますが、私はあえて現実と同じように空間的制約があるシアター型のアトラクションにしました。とにかく現実と同じように作り、初見でも「見たことある」「これはこうなりそうだ」とイメージしやすい構成を目指しました。
――アイデアを具体的な仕様に落とし込んでいったプロセスを教えてください。
「妄想→想像→創作」という順に、思いついたアイデアはすぐに目に見える3DCGに落とし込んでいきます。私にとっては、Blenderがメモ帳の役割を果たしているのかもしれません。Unityで動きをつけていく実装工程では、実際にプレイして動かしつつイメージに近づけていく形をとりました。
――アトラクションのコースやアナウンス、乗り場までの通路などを考えるうえで、参考にしたものはありますか?
ディズニーランドの「スター・ツアーズ(リニューアル前)」と「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」が昔から大好きで、本作でも参考にしています。特にキューラインは共通点を強く感じるかと思います。
ゲーム内容は、最近主流になりつつあるピストルを使った的当てのスコアを競うアトラクションを参考にしています。
――clusterで実際にワールド制作を行った際、どのような手順で行いましたか?
「プレイヤーがワールドに入ったとき」を出発点に体験を考えていったため、最初に入場する部屋のモデルから作り始めました。
その後、アトラクションのコースとなる部屋の数と大まかな形を決め、色合いやテーマを基に各部屋を制作。最後に、各部屋をつなげる通路を作りました。
建物などの3Dモデルに対しては、見えない場所にある不要な頂点や面をリダクションし、ポリゴン数を削減します。最後にライトマップをベイクしたら、ワールドの3Dモデルは完成です。
完成した3DモデルをUnityに取り込んだ後は、シナリオを構想しました。出来上がったシナリオのイメージに沿ったセリフを考え、VOICEVOXで音声化しました。アトラクション前半で世界観を説明し、後半でシナリオの核心に入っていくようなセリフ作りを意識しています。
Ableton Liveを用いて行ったBGM制作では、有償音楽サイトから壮大かつテーマに合った楽曲をいくつか入手し、これらを編集して一周およそ3分程度の楽曲を作っています。この際、VOICEVOXで音声化したセリフも含めて1つのファイルとして出力します。
サウンドが完成したタイミングで、完成イメージに足りていないオブジェクトの制作、追加を行います。
ここまで完了したら、ライドの仮想レールをイメージしてプレイヤーが搭乗するバイクの移動ルートを決定します。最後に、サウンドやオブジェクトの動きなどがうまく同期するようTimelineを用意して、本作は完成に至りました。
――本ワールドの3Dモデルやエフェクト、サウンドなどのアセットは、どのようにして用意しましたか?
3Dモデルは基本的に自作しています。ワークフロー自体は一般的なもので、頂点から辺、面を構成していくポリゴンモデリングを行い、その次にマテリアルとシェーダーを割り当てます。最後にUV展開を行ってテクスチャをベイクして完成となります。
一部のロボットや建物は、CC0の3Dモデルを使用しています。ただ、そのままでは面の方向が正しくなかったり頂点が多すぎたりといった問題があったため、軽量化のための調整を施しました。音楽素材は年間契約しているArtlistから入手しています。契約料は高いですが、クオリティの高い音楽素材があると作品をイメージにより近づけられます。
ピストルや的のオブジェクトは、CCKゲームパックに同梱されているものを改造して使用しています。
――バイクが移動するコースや的の配置など、レベルデザインでこだわったポイントや試行錯誤のエピソードを教えてください。
レベルデザインでは、「音楽とアニメーションの同期がとれているか」「アトラクションの速度が適切であるか」の2点は特に重要視しました。
また、ライド中に倒れる角度が大きすぎるとVRでは気持ち悪くなってしまうため、コースとバイク角度の関係にも気を付けました。ゲーム感を増すために、デフォルトの的とは異なる挙動をする的を用意したり、的を連続して配置したりしてバリエーションを持たせる工夫をしています。
――ほかのプレイヤーが撃った弾は同期の頻度を下げるなど、ラグを抑えるための工夫が見受けられました。このような最適化は自前で行っているのでしょうか?
特にラグを低下させるための処理は実装していません。このような最適化はCCKのテンプレートにもともと設定されているか、cluster内で自動的に行われているのではないかと思います。アトラクションでは4人1組、4グループが同時に進行しています。それぞれのグループが常に違う空間に存在するようにして、クライアントでのアバター描写負荷を軽減するような工夫は行っていますね。
――実装面で工夫したポイントがあれば教えてください。
大きく苦労したのは、アトラクションにおいて最も重要な要素である的当ての点数処理です。プレイヤーが的を撃って獲得した点数はバイクに表示されますが、実際に弾を射出して的に当たったか判定するピストルと最初から対応しているわけではありません。そのため、アトラクション開始時にピストルとバイクを紐づける処理が必要でした。
具体的な実装としては、プレイヤーが乗るバイクそれぞれに対応したグローバル変数を用意し、アトラクションの最初でピストルを入手するときにバイクのグローバル変数の参照をピストルに設定しています。また、スタート地点の上空50mにコライダーを設置し、スタート地点に到達したバイクを検知して点数をゼロにリセットするようにしています。
以上のシステムを実装するにあたって、バイクのグローバル変数をどう制御すればよいのか、最初のうちは非常に混乱しました。「どういう順番、どういう仕組みでどう識別するか」を考えるのが苦手で、完成まで相当な時間がかかりました。
そのほかには、各グループに対するサウンド演出のタイミングがずれないよう、4グループの同時進行に合わせた音声やアニメーションの制御とその確認が大変でした。
――ボイスの使用や反響、音楽演出など、サウンド面でこだわったポイントを教えてください。
ライドしたバイク左右のスピーカーから音声を1chずつ再生することで、現実のアトラクションと似た聞こえ方を表現しています。
また、空間の大きさを表現するため、コースの各部屋で反響の強さを変えている点もこだわりです。反響はボイスチャットにも適用されるため、ぜひ反響音を体感してみてほしいです。また、BGMが場面に合わせて自然に切り替わるよう、楽曲の遷移タイミングや曲同士のつながりには注意しています。
――制作にあたり、最もこだわったポイントは何でしょうか?
clusterはスマートフォンでプレイできる点が大きな魅力だと感じています。VR・デスクトップ・スマートフォンのユーザーが同じ場所に立って交流できるのは、どのプラットフォームでも当たり前になってほしいと思っています。
ただ、クロスプラットフォームに対応する場合、見た目を重視すればするほど低スペック機での動作が不安定になってしまう点が懸念になります。例えば、負荷が高すぎると通信が安定しなくなったり、アバターがチカチカしたり、最終的に処理落ちしてオフラインになっていたり……。そういったシチュエーションに遭遇すると、当事者も周りの人もスポッと穴があくような虚無感があります。
対策として、3Dモデルなどのデータ容量削減や、常時実行する処理を減らすなどの負荷軽減がワールド制作においては必要だと考えています。Blenderを使った3Dモデルの自作やライトマップのベイクを行ったのも「負荷軽減が必要だ」という考えから来ています。ただ、負荷軽減処理によって失われてしまう表現もあるため、その分を演出や細かなサウンド表現などで補うことが重要です。
――制作で苦労したエピソードはありますか?
clusterは年齢や地域などが多様な人々が集まる場所ですから、マナーを守らない人も存在します。公開当初は、アトラクション終了後にピストルをほかの人に撃つプレイヤーが後を絶ちませんでした。そこで、アトラクション中の人と終了した人を判別し、アトラクション中でない人は無駄撃ちができないようにすることで環境を改善しました。
また、繰り返しになりますが、ピストルとバイク間で点数を共有するためのロジックや変数管理も大変でした。
――これからの作品も楽しみにしています。ありがとうございました。
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