空想企画会議――漫画家・真島ヒロ先生編。俺の考えた最強のゲームが“企画書”になる!

2023.07.13
注目記事ゲームづくりの知識しくみをつくるゲームの舞台裏インタビュー
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「一緒にアイデアを出し合って、架空のゲームの企画を考えてみませんか?」というぶっつけ本番なインタビューを持ちかけた相手は、『RAVE』や『FAIRYTAIL』、そして現在も連載中の『EDENS ZERO』を手掛ける漫画家・真島ヒロ氏!

週刊連載を持ちながら、RPGツクールで個人的に制作した『レベッカと機械ノ洋館』を公開するなど無類のゲーム好きとしても知られる同氏と、ゲームメーカーズのブランドマネージャーでありゲーム会社の代表を務める佐々木 瞬氏が約2時間を掛けて、「俺の考えた最強のゲーム」をペライチ企画書に落とし込みます。

TEXT&EDIT / 神山 大輝
PHOTO / 小林 侑

目次

真島ヒロ

漫画家。代表作に『RAVE』『FAIRY TAIL』『EDENS ZERO』。Twitter:@hiro_mashima

佐々木瞬

ゲーム会社ヒストリアの代表。 『ライブアライブ』ディレクター、『Caligula2』制作ディレクター。ゲームの企画仕事やテクニカルなことをやっている。Unreal Engineが好き。
Twitter: https://twitter.com/s_ssk13

「ゲームの企画書」はどういうもの?

今回の登場人物。写真左:佐々木瞬氏 写真右:真島ヒロ氏

突然始まった「架空のゲームの企画書を作る」という企画ですが、まずはゴールを設定しましょう!

アイデアから作っていくパターン、商業的な目線から入るパターン、いろいろありますが、今回は「作りたいものを作る!」ということで、シンプルなコンセプトシートを用意しました。

タイトル ゲームタイトル。
企画の段階で決まっていなくても良いが、
この時点でいい案が浮かぶとあとがラクになる
ジャンル名 この作品を一言で表すジャンル名。
「○○アクションRPG」など、
どのジャンルか分かりつつ独自性も表現できるとベスト
プレイ人数 作品のプレイ人数
プレイ時間 作品のプレイ時間。
今の時点ではざっくりでOK
ターゲット 一番遊んで欲しい人は誰か?
このゲームを遊んで、楽しめる人はどんな人か?
プラットフォーム PC向け?スマートフォン向け?
ハードによってユーザーと出来ることが変わってくる
テーマ 何を題材にしたゲームかを記載
システム 核となるゲームシステム(遊び)を記載
このフォーマットは<テーマ>ならではの<システム>
落とし込むことで独自性が生み出しやすいようにしてある
特徴 作品の特徴を書いていく。箇条書きで問題ない
イメージ画像 イメージ画像があると想像しやすい。
絵を描くか、画像を引用して利用しよう

これがゲームの企画書なんですね!

実際、これは仕事でも使うテンプレートなんですか?

今回使うテンプレートは、取材用に少し簡略化しています。

実際に仕事で使う企画書は、独自性や売り方、コンセプト、ゲームループをもう少し深掘りするような内容になっています。

なるほど!今回は「自分が作りたいゲームを作ってしまおう」という路線で、シンプルに行きましょう。

「どんなゲームを作ってみたい?」アイデアを出して、紙に書いていこう

昔から「スタイリッシュな3DアクションRPG」を作ってみたかったんですよ。最近はディアブロ IVをずっと遊んでいるんですけど……あ、もちろん『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダムも遊んでますけど。

とにかく、3Dで格好いいアクションが出来たら良いなと思っています。

スタイリッシュなアクションというと、どの辺りでしょう?例えば『デビルメイクライ』シリーズや『NieR:Automata』みたいな?

スピード感があって、操作に対するレスポンスが良いゲームが好きなのかもしれませんね。

ニーア大好きですよ!触っていて気持ちいいアクションが好きなのかな?逆に『ELDEN RING』も凄い作品だとは思うんですが、もう少しカジュアルな方が自分好みだと思います。

もしくは、無双系のような気持ちよさでも良いかもしれないですね。

戦国無双』シリーズは、局所的には3Dアクションゲームですが、全体像で見るとストラテジーの要素も強いんですよ。

その場でのアクションも気持ちいいですが、どこに援軍が来るか、自分はどこに向かえばいいかの戦略性もゲームの根幹にありますね。

その点はイメージとちょっと違いますよね?

じゃあ、やっぱりキャラクターをレスポンスよく操作する3DアクションRPGという軸にしましょう。キャラクターの成長要素も好きなので、スキルツリーで技の種類が増えるといいな。ちょっとこの線で考えてみます。

真島ヒロ先生流・世界観の考え方

僕は世界観から入るタイプなので、今考えていることをお伝えしてもいいですか?今回は「和」をテーマにした妖怪退治、美少女剣士が主人公!というイメージを持っています。例えばこんな感じに……。

「主人公は剣士!敵は妖怪。完全な和風ではなくて、例えば和装の柄だけは西洋風で、ユリの花などがあしらわれていて……パンクな和服を着た少女が妖怪をバサバサ倒していく感じの世界観を考えてます」

「武器は日本刀かな?」

……時間がないと意外とこんなラフしか描けないんですが、ざっくり伝わりました?女性主人公は少年漫画誌では難しい場合も多いので、一度ゲームでやってみたかったんですよね。

早すぎる……!!!

和風パンクというと少し荒々しい戦い方な印象もありますが、どういう戦い方をするんでしょうか?その辺りからコアとなるアクションが探れそうですね。

日本刀を使うゲームは『SEKIRO』や『Ghost of Tsushima』みたいに、いぶし銀的な格好良さのあるアクションが多いと思うんですよ。

そこを若者向けにして、例えば日本刀だけどエアトリックを決めるような動きというか、「和風な世界観なのに、こんな動きするの!?」って思うようなスピード感のあるアクションができたらな、って思うんですよね。

「敵が妖怪だと、遠慮なく倒せるじゃないですか。空中でアクションしながら、素早く斬っていくっていうの、どうですか?」

壁などを使って自由なアクションをするのは想像できますが、もうひとつネタが欲しいところですね。

プログラム的には難しそうなんですけど、空中制御とか、壁だけでなく天井も使ってアクションできると良いなあ、と思ってます。でもここは、まだ具体的なアイデアが出にくいですね。

「昔、和風ファンタジーの読み切り書いたことあるかも」と言いつつ、紹介された『星咬の皐月』。100本の魔剣を探して旅をする物語

星咬の皐月 - マガポケ

「お着替え」システムでキャラクター性能を変化させたい

世界観はバッチリなので、話を先に進めましょう。3DアクションRPGはステージクリア型か、ワールド探索型が多いですが、前者の方が作りやすいかなあ。うーん、どうかなあ……。

ちなみに、さっきから手を動かしてるのは、コントローラーをイメージしてるんですか?

3Dアクションは動かしてる絵を想像しながらやらないと破綻しやすいんですよ!頭ではすごく演出的なイメージが浮かんでも、イメージ通り動かないことも多いんです。

プレイしたときの絵と感覚を想像しながら手を動かしてる感じですね。

現実的な目線だ……。

うん、あとは1個でも独自性のあるシステムがあれば大丈夫そうですね。

先ほどから言っていた「成長要素」を深掘りしてみましょうか?

「お着替え要素、どうでしょう?」

!!!

実際の開発を考えると、仲間キャラクターを実装するのって大変だと思うんですよ。

必然的に1人での冒険になるんですが、そうなると衣装チェンジで戦い方が変わると良いと思いまして。どうですか?

良いですね!キャラクターを作るより衣装替えのほうが作業コストは小さいですし、アニメーションも流用できる。そしてなにより真島先生ならそれが魅力ある独自性につながります。

もう少し広げるとどうなりますか?

うーん。「ジョブ」でしょうか?侍やくノ一、鬼などの和風ジョブがあると良いかもしれません。

喋りながら次々にラフを描いていく真島ヒロ先生

というか、この路線だといくらでも思いつきますね!九尾狐とか化け猫とか。中にはバカっぽいジョブがあっても良いかも。

衣装が変わったら武器も変えたいな……デッキを組み替えるみたいな遊びができると嬉しいです。

バカっぽいジョブというのもユニークな要素かも!

武器セットは、例えばアニメーションのパターンを4,5種類用意して、あとは属性違いなどでパターンを作れば収まるかもしれません。

コレクション要素も入れたいんですが、さすがに工数が大変になるかな。色違いくらいは実装できるといいですけどね。

なんのために着替える?目的からゲームシステムを考える

「和風でポップな3DアクションRPG、衣装を着替えながらステージを攻略する」。

もう一歩だけ踏み込めれば、ただ単純に「衣装が変わるだけの、良くあるゲームだね」というところを越えたゲーム体験にできるかもしれません。

村などの拠点があったとして、衣装によってNPCのセリフが変わったらいいですよね。

村人たちのアイドル的な存在になるとか?攻略要素だけでなく、衣装によってファンの数値を増やしたり……?

「戦国アイドル……じゃないですか!?」

!!!

それはだいぶキャッチーですね!

ファンの数が力になったり、あるいは副次的なメリットになったりすると、「着替えながら攻略する3DアクションRPG」という要素に説得力が出ますね。

そういえば『戦国BASARA』シリーズに「いつき」というアイドル的なキャラがいて、ファンの百姓(一揆衆)がペンライトを振って応援するんですよ。あのギャグっぽい絵面が好きだったことを思い出しました。

ありましたね。今回ステージクリア型のアクションとすると、例えば攻略に必要な衣装は必ず入手できて、ステージを探索することによって隠し衣装が手に入るというのもアリですね。

こうすれば、同じステージを何度も遊んでもらう動機になります。

『ロックマン』シリーズや、『悪魔城ドラキュラ』シリーズみたいな?それならステージは順番ではなく、選べると面白いかもしれません。

きっと日本地図の上がステージになってるんでしょうね。関東や四国を舞台にすれば、続編で北海道編とか、九州編が作れますよ。

きっと「戦国SNS」があって、そこでフォロワー数を競ってるんですよ。普通にクリアしただけでは1万フォロワー止まりだけど、特殊な衣装でクリアすれば5万フォロワーまで伸びて、それが隠しステージの解放条件になっているとか。

すごく弱い衣装があって、それで魅せプレイするようなのも良いですね。一発で死んじゃうけど、なんとか耐えてクリアする姿を見たらフォロワー増えそうですしね。

やりこみ要素として良さそうですね。「○○の衣装だけでクリア」などの実績を作っても面白いかもしれません。

あとは衣装とステージの関連性で、例えばくノ一なら細い通路を通れるとか、河童なら水の中を進めるとか、特殊な能力があっても良いですね。

ここまで来れば、あとはアイデアがどんどん出てくる段階に。話題は「衣装のネタ」や、フォロワーを増やす手段などに展開

炎上もさせましょう。フォロワーが増えることでゲーム上のメリットがあるなら、減る仕組みもないとおかしいですよ。

「私は炎上しました」

茶屋で妖怪に襲われて、急いで倒しに出たら無銭飲食になっちゃったとか。これでちょっと落ち込んだら可愛いですね。

もはや敵キャラも妖怪である意味なくなってきたな……「バズりたいから妖怪を倒す!」って、たぶん超インフルエンサーを目指してるんでしょうね。

ここまでのアイデアをペライチ企画書に落としていこう!

最後に、情報をまとめていきましょう!タイトル名とジャンルは思い浮かびますか?

タイトル名は女の子の名前を入れるのも良いかもな。皐月や水無月みたいな、和風月名から取るか……もしくは5月でメイちゃんでも良いかもしれない。

うーん、タイトル名としてはパッと浮かばないので、一旦、「プロジェクト メイ(仮)」にしておきます。

ジャンルはなんでも良いんですか?

ジャンルは作品を端的に表しつつ、「聞いたことがない」と思われるものだと作る時も指標ができて楽になります。

ジャンルは「戦国バズりアクション」なんてどうですか?

いいですね!

テーマ欄にはゲームの題材を、そしてシステム欄にはゲームの遊び部分が想像できるものを書きましょう。

この二つがかみ合わさって、「この題材だからこのシステムが活きる」となっていると細部を考えるときも広げやすいです。

テーマ「戦国美少女インフルエンサー」 × システム「スタイリッシュお着替えアクション」にしてみましょうか。

この部分だけでも内容が想像できていいですね!

(めっちゃいい企画ができてしまったかもしれない……!)

それと、キービジュアルなんですが、ゲームってこういう構図が多いですよね?

あるある!それっぽい!

漫画だとキャラクターの顔を見せないのは珍しいですが、ゲームの場合は強大なものに挑むとか、広い世界でワクワクする冒険が待っているだとか、プレイイメージを想起させるからでしょうね。

一旦これで置いておきましょう。「特徴」欄ですが、ストーリーは自分でコミック風に描こうと思います。プリレンダーのムービーを作らなくても、これならヒキになるかな?って。『GRAVITY DAZE』シリーズみたいに。

あとは、衣装と武器によるデッキ構成と、それによるコンボみたいなイメージもあるので、特徴として書いちゃいますね。

漫画は強力ですね。では、あとはこれらの特徴を箇条書きにしていただいて……。

完成!

右上は今回は企画会議の中で話が及ばなかった。話の流れから、プレイ人数は1名、プラットフォームはコンソール・PC向けになりそうだ

やった!このゲーム、自分が遊びたい!骨太な3Dアクション、それでいてストーリーはバカで明るい!こんな感じで行きましょう。

このゲーム、自分も遊んでみたいです!この記事企画を提案しておいてなんですが、こんな面白いものが生まれるとは思ってませんでした。

いやあ、楽しかったですね!本当に作りたいなあ。

自社開発だったり企画持ち込んだりするときに提案してみます。パブリッシャーの皆様、ぜひよろしくお願いします!

この後は、この「企画シート」をもう少し細かい「企画書」「仕様書」に落とす仕事が待っていますが……今回はここまでです。真島ヒロ先生、ありがとうございました!

ありがとうございました!

後日、真島ヒロ先生から清書済のイラストが届いた!!!

あの真島ヒロ先生が、この企画のためにイラストを!?新しい連載も始まったのに、一体どこにそんな時間が……!?)

タイトル画面のイメージ画像

主人公「メイ」イメージ画像。初期のスタイリッシュなイメージを踏襲しながら、戦国でバズを狙うデザインに

敵となる「妖怪」のバリエーション。取材中に話題に挙がった鬼や化け猫、塗り壁のほか、新たに火車の姿も

………。

もうこれ、作っても良くない?

真島ヒロ氏 - 公式TwitterEDENS ZERO - 公式サイト

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