国内最大規模のゲーム業界カンファレンス「CEDEC2022」が、2022年8月23日(火)から8月25日(木)までの日程で開催されました。2日目となる8月24日には、中田朋成氏が登壇し、「この1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!?ゲーム実況の過去・現在・未来~【2022年版】ネットを通じた「居場所化」がゲーム業界を救う」と題した講演が行われました。ゲーム実況に関する基礎知識から最新情報、その可能性にまで言及した本講演をレポートします。
TEXT / じく
EDIT / 酒井 理恵、神山 大輝
目次
登壇した中田氏は長らくゲーム実況鑑賞を続けており、プロゲーム実況ユニットえどさん”&ふみいち(スタジオNGC)との出会いを機にビジネス的な視点でゲーム実況文化を独自研究するようになりました。CEDECには2018年の初採択後、今回が4回目の登壇となります。
ゲーム実況の歴史―書く実況から喋る実況、そしてVTuber参入まで
講演は、ゲーム実況の歴史を紐解くところから始まりました。今でこそ配信者がプレイしながら話すスタイルが一般的です。しかし、配信文化の黎明期は視聴者が実況コメントを書き込んでいました。
現在のような配信者側が話すゲーム実況の普及に大きく影響を与えたのがTV番組「ゲームセンターCX」です。決してゲームが上手いわけではない有野課長(有野晋哉氏)がゲームクリアに挑む姿は視聴者からも愛されやすく、「自分にもできそう」と思わせる要素があります。これがゲーム実況のひな型の一つとなっていったのは間違いないでしょう。
少しずつ人気が出てきたゲーム実況は法的にグレーな存在を脱し、公式的に活動する事例も増えてきました。そして、「スタジオえどふみ(現:スタジオNGC)」によるプロ活動の開始など、ゲーム実況を「仕事」とする時代が到来しました。
ゲーム実況の影響力が大きくなることによって、ソフトメーカーがガイドラインを発表したり、ゲームハードがシェア機能を導入したりするなど、ゲームメーカー側からの歩み寄りも見られるようになりました。これを中田氏は、ほぼ違法の時代から「適時適法」の時代へと変わってきたと述べています。
さらにゲーム実況の世界にも新たな参入者やスタイルが現れます。フィジカルスポーツ番組のように実況解説をする「eスポーツキャスター」、今までゲーム大会などでしか会えず対戦もできなかったプロゲーマーと視聴者も対戦できる「プロゲーマー配信」、そして現在の配信や動画業界で絶大な影響力を持つ「VTuber」です。
VTuberの特徴として、人気のある個人を「ファミリー化」して相乗効果を生み出すマネジメント会社の存在があります。そこで課題となったのが、今までゲーム実況に対してゲームメーカー側が示したガイドラインは、ゲーム実況者個人を対象としたものであるということでした。
マネジメントされているVTuberのゲーム実況は「企業として利益を上げている活動」となり、未許諾配信コンテンツの削除やそれに付随する問題が発生します。その結果、個人向けのガイドラインとは別に、マネジメント会社とゲームメーカーが個別に包括的使用許諾契約(※)を結ぶという動きが現れました。
こういった様々な歴史を経て、ゲーム実況というものが一般的なコンテンツとなってきたのです。
※本来なら複数かわす必要がある著作権や商標権などの使用許諾契約をまとめて契約すること。双方の負担減や契約漏れ防止につながるため、配信コンテンツのマネジメント会社で結ばれる事例が近年増えている
ゲームメーカーから見たゲーム実況
次に中田氏は、「ゲーム実況に価値はあるのか、ゲームメーカーにとって有益なのか」という命題を挙げ、やり方次第で「売上の増加」「ゲーム寿命の延長」に期待できるとして、メリット・デメリットを考察しています。
メリットの一つにゲームや実況者との「出会い」があります。他者のゲーム実況を観ることは想定外の出会いを生みやすく、面白いと思う関心がさらなる関心を引き寄せることに繋がります。そして「見ていて面白そうだからやってみよう」という動きにも繋がっていきます。
また、ゲーム実況はかつての「友達の家でいっしょにゲームを遊ぶ」という環境の再現にも近く、大人になってゲームから離れていく現象の抑止効果もあります。
もう一つのメリットは「コミュニティの形成」。実況配信内のゲームに視聴者が参加したり、視聴者同士で遊んだり交流を持ったりする中でコミュニティが形成されます。コミュニティは大きな影響力を持つこともあり、ときにはゲーム開発者を巻き込むほどの状況にも発展します。
コミュニティの良いところは「ハードルが下がる」点があります。ゲームや機材を購入してプレイしてみようかと考える時に、周りにアドバイスや相談に乗ってくれる人がいることによって敷居の高さが軽減されやすくなります。
例として、スタジオNGCによるVR関連の活動や『ファイナルファンタジーXIV』における独自組織・企画「NGCクラフト委員会」の活動が紹介されました。
一方、デメリットとしてゲーム実況を観て「よくわからない」「面白そうでない」と思われて購入意欲を削いでしまう危険性があります。原因として、コンテンツを面白く見せる工夫・リサーチ・事前準備の不足などがあります。
事例に挙がった3Dシューティングゲーム『Rez』は、音楽・映像・振動がもたらすトランス感覚が魅力のゲームであり、ゲーム実況にはそれを伝えられるプレイヤーや解説者が必要です。また、プロレスゲームを扱うならばコアなファンを納得させて喜ばせる、最低限の操作技術やプロレスに関する知識が必要です。
また、ゲーム実況が実況者という人間やVTuberによって行われるメリット・デメリットがあります。実況者の「素」の発言やリアクションといった魅力がゲームによって引き出され、それがコンテンツやゲームへの好感につながることもあります。一方、それが悪い方向に働いてしまい、実況者・配信コンテンツ・ゲームへの悪印象につながってしまう場合もあります。
以上のメリット・デメリットを総括すると、「ゲームの仕様把握や世界観の理解」「操作系の事前把握」「ゲームの魅力が端的に伝わる箇所の事前調査」が、ゲームの購入意欲を削がないようにする対策として挙げることができます。
「ファミリー化」する出演者/「コミュニティ化」する視聴者
ゲーム実況の新たなスタイルとして、中田氏は「ファミリー化」「コミュニティ化」をピックアップしています。
「ファミリー化」とは、出演者同士がコラボやマネジメント会社によってつながりを広げていくことです。それによってコンテンツの「チャンネルへの入り口」が増え、自分の好きな出演者から他の出演者への思い入れが広がっていきます。
「コミュニティ化」とは前述したゲーム実況を楽しむ視聴者同士のコミュニティ形成です。現在はDiscordなどコミュニティ運営を行う便利なツールも多く、そこがゲームを楽しむ人たちにとっての「居場所」となり、そのゲームの寿命が延びることにも繋がります。
芸能人・芸能界のゲーム界隈への進出
ゲーム実況業界の新たな動きとして、芸能人の進出があります。ゲーム実況配信は芸能人のセルフブランディングとして適しており、一人の芸能人がeスポーツ大会規模の視聴者数を叩き出すこともあります。
特にゲーム実況は「リアクション芸」「ツッコミ芸」が話術として求められることもあって芸人と相性が良く、芸能事務所ぐるみでの配信活動やeスポーツチームの結成などもあります。
こういった状況で考えるゲーム実況の「キャスティング」として、出演者の知名度の重要性があります。もちろん配信視聴者数の多さを考えるならば知名度の高さは有効ですが、そのコンテンツに面白さがなくネガティブな印象を与えてしまった場合のダメージも大きくなります。
こういったキャスティングを成功させるためには、出演者と綿密な打ち合わせを行い、そのゲームに詳しい開発者やプレイヤーなどの「サポート役」を用意することが大切です。
デベロッパーやパブリッシャーの「中の人」はゲーム実況に関わるべきか
ゲーム実況のサポート役として開発者を挙げましたが、デベロッパーやパブリッシャー、ディレクター、プロデューサーといった「中の人」はどう関わるべきなのでしょうか? 中田氏としては関わることを好意的に捉えており、「中の人」への愛着がさらなる興味やファンの拡大に繋がると考えています。
出演するのはディレクター・プロデューサーに限らず、広報やローカライズ担当者が出演してもいいとのこと。スタジオNGCの番組ではローカライズ担当者が数多く出演し、多くのファンを獲得した事例もあります。
ゲーム実況は「居場所」になる
中田氏は講演を通じて、ゲーム実況の現状とそこから生まれる「居場所」、コミュニティの価値を語りました。最後にご自身の例を挙げながら、人生を豊かにし、時には変える力を持つゲームコミュニティが増えれば、ゲームメーカーとユーザーはWIN-WINになれるとしています。
中田朋成氏のTwitterこの1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!?ゲーム実況の過去・現在・未来~【2022年版】ネットを通じた「居場所化」がゲーム業界を救う-CEDEC2022ゲーム会社で16年間、マニュアル・コピー・シナリオとライター職を続けて現在フリーライターとして活動中。 ゲーム以外ではパチスロ・アニメ・麻雀などが好きで、パチスロでは他媒体でも記事を執筆しています。 SEO検定1級(全日本SEO協会)、日本語検定 準1級&2級(日本語検定委員会)、DTPエキスパート・マイスター(JAGAT)など。
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